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運命に花束を②
運命とそしてたくさんの花束③
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まだ陽も昇るか昇らないかという早朝、室内が少しだけ白みだした頃、グノーはまた自分の身体をさわさわと触る感触に目を覚ました。
「またお前は……本当、好きだな」
呆れたようにそう言うのだが、ナダールの手はするすると服の中を泳いでいく。
「あなたの事なら大好きですよ。おはようございます」
「おはよ……ってか止めろ。今日は隣にスタールいんの分かってるだろ、少しくらい自重しろ、馬鹿」
昨晩、スタールの来店した時間が遅かった為、食事を終えた頃にはもうずいぶん遅い時間になっていた。
彼は怪我人でもあるし、外は春が近付いているとはいえまだ冷える。二人が「泊まっていけ」と引き止めると、彼は「それならまぁ……」としぶしぶ頷いた。
店舗の方も勿論寝られるようになっていたが、広い店内に一人で寝るのは寂しかろうと自宅の方へと引っ張り込んだ。現在自宅の方も部屋は余っている、人一人泊めるのに何の問題もない。
そうして彼を休ませたのは子供部屋として準備を進めている隣室だ。その壁はさほど厚くもなく、こんな事をしていたら声が筒抜けなのは分かりきっている。
「まだこんな時間ですよ、起きやしませんよ。それに、今を逃したらまたしばらくできなくなるでしょう?」
「んっ、ふ……こらっ、それどういう……」
「言ったでしょう? 子供達が帰ってきたらきっとあなたを離さない、って。今夜はきっとまた遅くまで宴会をするのでしょうし、もう二人を連れにいく日は明後日です。私があなたを独り占めできる時間なんてもうあまり残されていないのですから、少しくらいいいじゃないですか」
そういえばナダールは記憶が戻った時にもそんな事を言っていたなと思い出す。
ここ最近の彼の夜の営みへの誘いは執拗だった、そういう事か……と呆れ半分、なんとなく納得してしまう。
彼と暮らし始めた当初、自分の腹の中には既にルイがいた。
その前は散々彼を拒絶して、その後も子供ができてしまった為二人だけの甘い生活というのを自分達は経験していないのだ。
甘い恋人期間は妊娠中のみで、そういえばここまで何の憚りもなく二人きりというのは今回が初めてなのだと、今更ながらに気が付いた。
ナダールがいちゃいちゃしたいと喚いていたのはその辺も関係していたのかと、苦笑する。
「分かった……っふ、分かったからっ、あんまり激しくするな……声が隣にっっ、んっ」
「あなたの声も聞きたいのですけどねぇ……それに、スタールは聞いても気にしませんよ」
何と言っても今まで散々聞かされてきている。グノーの警護にあたっていて彼の喘ぎ声を聞いていない者など恐らく一人もいないはずだ。
「馬鹿っ……あっ、俺が、気にする……んっ」
そんな事にまで頭が回っていないのであろう彼は自分の指を噛んで、声を噛み殺す。
「指は駄目ですよ。ほら、跡になってる」
「そんな事、言われても……」
噛んだ指を一本一本丁寧に舐められて、ついでに弱い指の間まで丁寧に刺激されて、グノーはどうしていいか分からず涙目だ。
「あなたは私の物ですよ。例え指一本、髪一筋でさえ傷付ける者は許しません。それがあなた自身であってもです。もうこの身体に傷を増やすような事はさせません、それは私が私自身に立てた誓いです。その誓いを守る為なら、私は何を捨てても構わない」
グノーはぐっと言葉に詰まる。
ナダールのその瞳は真剣で、本気で言っているのだろう事は読み取れる。その真っ直ぐな瞳がグノーは時々怖いのだ。
「私が、怖いですか?」
その表情を読んだかのように彼は静かにそう言った。
グノーは否定も肯定もできない。
「何度か言われているので分かっていますよ。あなたは私を恐れている、それ以上に愛してくれている事もね」
「ちっ、違う、そうじゃない! 怖くなんかっ……」
「ん?」とナダールはグノーの紡ぐ言葉を待っている。
静かで穏やかな眼差しだ、だがその瞳に心は迷う。
「怖いのは、違うっ……俺は、お前が俺の狂気に染まるのが……たぶん、怖いんだ」
「狂気に染まる?」
「お前は元々そんな性格の男じゃないだろう? 俺がそうさせた、俺がおかしいから、皆を巻き込んで狂ってく……」
「あなたは、そんな事を考えていたのですか……私はてっきりあの人に似てくる私があなたは怖いのだと思っていましたよ」
かつて彼を束縛し閉じ込めた兄レリック。
やはり彼も激しい執着で彼を求めた。そんな彼に似てきている自覚のあったナダールは苦笑する。
「レリックもお前も、俺がいなければそんな風にはならなかった……」
「それはあくまでも『かもしれない』という仮定の話でしょう。狂気なんて誰しも大なり小なり抱えているものですよ、決してあなたのせいではない。あなたは私をそんな人間ではなかったと思うのかもしれませんが、そんな事はないです。私は元々こんな性格です。独占欲は強いのですよ」
「そんな事……ないだろ」
「ありますよ。今まで言わずにきましたけど、過去に付き合った女性との別れ際の言葉なんて『ウザイ・面倒臭い・鬱陶しい』ですよ。しかも全員に振られてきています。だから今回はそうならないように、これでも気を付けているのですよ」
「……これで?」
「やはり鬱陶しいと思っているのですね……」
「うっ、いや……少しだけ?」
「そう思ったら言ってください。譲れない時もありますが、直せる部分は直します。因みにあなたが自分を傷付けてはいけないという部分は譲れませんのであしからず」
「んっ……」とグノーが俯いたのを、ナダールは泣かせたかと思い、慌ててその瞳を覗き込むと、彼は腹を抱えて小刻みに震えて笑っていた。
「なんで笑うんですか」
「なんでかな……なんでかお前にはいつも救われる。続きしよ、早くしないと隣、起きちまう」
そう言ってグノーは両腕を差し出す。
その腕を取って抱き寄せると、彼はまた嬉しそうに笑みを見せた。
微かな物音に目を覚ますと、隣室から微かに零れるような嬌声が聞こえた。
『あぁ、あいつ等またやってんだな……』とスタールは何の感慨もなく寝返りを打った。女の嬌声など子守唄代わりに聞いて育った身としては、別段どうという事もないのだが、少しくらい控えたらどうなのだろう、と思わないでもない。
まだ夜は明けきらないが、東向きの隣室には陽が差してきているのだろう、壁の隙間から僅かな光が差し込んでくる。その揺らぐ光を見詰めて、スタールは少しばかりの興味が湧いた。
幼い頃、母が恋しくて覗いた隣室で男と睦み合う母の姿をたびたび眺めていたのだが、ふいにその時の光景が脳裏に浮かんだのだ。
そっとベッドから起きだして壁の隙間を伺うと、どうやら覗けそうな大きさの隙間があった。
自分は一体何をやっているんだろうな……という気持ちは勿論あったのだが、つい興味に負けてしまい、その隙間から室内を覗き込む。嬌声は止めどなく零れ続けており、見ると白い肢体が揺れているのが見えた。
見覚えのある光景と激しい違和感。
そこに見えるのが母であるわけがないのだ。想い描いたような揺れる胸もなければ、柔らかそうな身体でもない、そして身体中にはおびただしい量の傷痕。遠目に見ても無数にあると分かるのだ、恐らく間近で見れば更に細かい傷はあるのだろう、その傷をひとつひとつ愛(いつく)しむように男はキスを落としていく。
そして彼が抱え上げたグノーの足の先はどこにも見えない。更なる違和感に目を凝らし、スタールは初めてグノーには片足がないのだと気が付いた。
今までそんな事は知りもしなかった。
二人が繋がる部位に目をやれば、女には絶対付いていないイチモツに『あぁ、本当に男なんだな……』と改めて実感する。
だが、そのそそり勃つモノから零れ落ちる雫に、そんな事はどうでもいいのだとそう思った。
母とは違う、女ですらない、商売女は幾らでも見てきた、男女の交わりもだ。しかし、この二人ほど幸せそうに睦み合っている人間を自分は見た事がない。
『愛し合う』というのはこういう事か……とそう思った。
きっと普通の夫婦の愛の営みはこうなのだろう、だが『自分は何も知らないのだな……』とスタールはそう思った。
欲しいと思う。
それは愛情なのか、それともグノー自身をなのかスタールにはよく分からなくなっていた。だが、自分がグノーを抱いたとしても、彼はナダールに見せるような幸せそうな顔を自分に向ける事はないという事も分かっている。どのみち自分は抱く事もできはしない。
それでも二人の睦事はスタール自身を大いに刺激し、久しぶりに元気よく勃ち上がった息子にスタールは苦笑うしか術がない。
嬌声はもう憚る事もなく大きく響いていて、お互いにお互いしか見えていないのであろう二人の動きは激しくなり、それに合わせるように自身も己を慰める。
こんな事をするのは一体何年ぶりだろう、ナダールの下で歓喜の声を上げ、身を震わせ涙を零すグノーにスタールは激しく欲情していた。瞳を閉じて、声だけで、己が彼の内に欲望を突き入れる妄想をする。
だが、最後の瞬間、耳に響いたのは愛しい男の名を呼ぶ甘い彼の嬌声で、己の手の中に残る白濁した残滓に溜息しか出てこない。
『俺は一体何をしている……』虚しさばかりが心の中に広がった。
隣室からは、穏やかな甘い睦言が聞こえてきて、更に虚しさは広がるばかりだ。そんな睦言を壁を背に何とはなしに聞いていたら、なんだか色々な事がどうでもよくなってきた。
そして、ふと『あぁ、きっと自分はあいつにではなく、あいつ等二人に魅せられてしまったのだな……』とそう思った。
漠然と、二人と自分の付き合いは長くなるのではないかと、そんな予感がスタールの脳裏には浮かんでいた。
「またお前は……本当、好きだな」
呆れたようにそう言うのだが、ナダールの手はするすると服の中を泳いでいく。
「あなたの事なら大好きですよ。おはようございます」
「おはよ……ってか止めろ。今日は隣にスタールいんの分かってるだろ、少しくらい自重しろ、馬鹿」
昨晩、スタールの来店した時間が遅かった為、食事を終えた頃にはもうずいぶん遅い時間になっていた。
彼は怪我人でもあるし、外は春が近付いているとはいえまだ冷える。二人が「泊まっていけ」と引き止めると、彼は「それならまぁ……」としぶしぶ頷いた。
店舗の方も勿論寝られるようになっていたが、広い店内に一人で寝るのは寂しかろうと自宅の方へと引っ張り込んだ。現在自宅の方も部屋は余っている、人一人泊めるのに何の問題もない。
そうして彼を休ませたのは子供部屋として準備を進めている隣室だ。その壁はさほど厚くもなく、こんな事をしていたら声が筒抜けなのは分かりきっている。
「まだこんな時間ですよ、起きやしませんよ。それに、今を逃したらまたしばらくできなくなるでしょう?」
「んっ、ふ……こらっ、それどういう……」
「言ったでしょう? 子供達が帰ってきたらきっとあなたを離さない、って。今夜はきっとまた遅くまで宴会をするのでしょうし、もう二人を連れにいく日は明後日です。私があなたを独り占めできる時間なんてもうあまり残されていないのですから、少しくらいいいじゃないですか」
そういえばナダールは記憶が戻った時にもそんな事を言っていたなと思い出す。
ここ最近の彼の夜の営みへの誘いは執拗だった、そういう事か……と呆れ半分、なんとなく納得してしまう。
彼と暮らし始めた当初、自分の腹の中には既にルイがいた。
その前は散々彼を拒絶して、その後も子供ができてしまった為二人だけの甘い生活というのを自分達は経験していないのだ。
甘い恋人期間は妊娠中のみで、そういえばここまで何の憚りもなく二人きりというのは今回が初めてなのだと、今更ながらに気が付いた。
ナダールがいちゃいちゃしたいと喚いていたのはその辺も関係していたのかと、苦笑する。
「分かった……っふ、分かったからっ、あんまり激しくするな……声が隣にっっ、んっ」
「あなたの声も聞きたいのですけどねぇ……それに、スタールは聞いても気にしませんよ」
何と言っても今まで散々聞かされてきている。グノーの警護にあたっていて彼の喘ぎ声を聞いていない者など恐らく一人もいないはずだ。
「馬鹿っ……あっ、俺が、気にする……んっ」
そんな事にまで頭が回っていないのであろう彼は自分の指を噛んで、声を噛み殺す。
「指は駄目ですよ。ほら、跡になってる」
「そんな事、言われても……」
噛んだ指を一本一本丁寧に舐められて、ついでに弱い指の間まで丁寧に刺激されて、グノーはどうしていいか分からず涙目だ。
「あなたは私の物ですよ。例え指一本、髪一筋でさえ傷付ける者は許しません。それがあなた自身であってもです。もうこの身体に傷を増やすような事はさせません、それは私が私自身に立てた誓いです。その誓いを守る為なら、私は何を捨てても構わない」
グノーはぐっと言葉に詰まる。
ナダールのその瞳は真剣で、本気で言っているのだろう事は読み取れる。その真っ直ぐな瞳がグノーは時々怖いのだ。
「私が、怖いですか?」
その表情を読んだかのように彼は静かにそう言った。
グノーは否定も肯定もできない。
「何度か言われているので分かっていますよ。あなたは私を恐れている、それ以上に愛してくれている事もね」
「ちっ、違う、そうじゃない! 怖くなんかっ……」
「ん?」とナダールはグノーの紡ぐ言葉を待っている。
静かで穏やかな眼差しだ、だがその瞳に心は迷う。
「怖いのは、違うっ……俺は、お前が俺の狂気に染まるのが……たぶん、怖いんだ」
「狂気に染まる?」
「お前は元々そんな性格の男じゃないだろう? 俺がそうさせた、俺がおかしいから、皆を巻き込んで狂ってく……」
「あなたは、そんな事を考えていたのですか……私はてっきりあの人に似てくる私があなたは怖いのだと思っていましたよ」
かつて彼を束縛し閉じ込めた兄レリック。
やはり彼も激しい執着で彼を求めた。そんな彼に似てきている自覚のあったナダールは苦笑する。
「レリックもお前も、俺がいなければそんな風にはならなかった……」
「それはあくまでも『かもしれない』という仮定の話でしょう。狂気なんて誰しも大なり小なり抱えているものですよ、決してあなたのせいではない。あなたは私をそんな人間ではなかったと思うのかもしれませんが、そんな事はないです。私は元々こんな性格です。独占欲は強いのですよ」
「そんな事……ないだろ」
「ありますよ。今まで言わずにきましたけど、過去に付き合った女性との別れ際の言葉なんて『ウザイ・面倒臭い・鬱陶しい』ですよ。しかも全員に振られてきています。だから今回はそうならないように、これでも気を付けているのですよ」
「……これで?」
「やはり鬱陶しいと思っているのですね……」
「うっ、いや……少しだけ?」
「そう思ったら言ってください。譲れない時もありますが、直せる部分は直します。因みにあなたが自分を傷付けてはいけないという部分は譲れませんのであしからず」
「んっ……」とグノーが俯いたのを、ナダールは泣かせたかと思い、慌ててその瞳を覗き込むと、彼は腹を抱えて小刻みに震えて笑っていた。
「なんで笑うんですか」
「なんでかな……なんでかお前にはいつも救われる。続きしよ、早くしないと隣、起きちまう」
そう言ってグノーは両腕を差し出す。
その腕を取って抱き寄せると、彼はまた嬉しそうに笑みを見せた。
微かな物音に目を覚ますと、隣室から微かに零れるような嬌声が聞こえた。
『あぁ、あいつ等またやってんだな……』とスタールは何の感慨もなく寝返りを打った。女の嬌声など子守唄代わりに聞いて育った身としては、別段どうという事もないのだが、少しくらい控えたらどうなのだろう、と思わないでもない。
まだ夜は明けきらないが、東向きの隣室には陽が差してきているのだろう、壁の隙間から僅かな光が差し込んでくる。その揺らぐ光を見詰めて、スタールは少しばかりの興味が湧いた。
幼い頃、母が恋しくて覗いた隣室で男と睦み合う母の姿をたびたび眺めていたのだが、ふいにその時の光景が脳裏に浮かんだのだ。
そっとベッドから起きだして壁の隙間を伺うと、どうやら覗けそうな大きさの隙間があった。
自分は一体何をやっているんだろうな……という気持ちは勿論あったのだが、つい興味に負けてしまい、その隙間から室内を覗き込む。嬌声は止めどなく零れ続けており、見ると白い肢体が揺れているのが見えた。
見覚えのある光景と激しい違和感。
そこに見えるのが母であるわけがないのだ。想い描いたような揺れる胸もなければ、柔らかそうな身体でもない、そして身体中にはおびただしい量の傷痕。遠目に見ても無数にあると分かるのだ、恐らく間近で見れば更に細かい傷はあるのだろう、その傷をひとつひとつ愛(いつく)しむように男はキスを落としていく。
そして彼が抱え上げたグノーの足の先はどこにも見えない。更なる違和感に目を凝らし、スタールは初めてグノーには片足がないのだと気が付いた。
今までそんな事は知りもしなかった。
二人が繋がる部位に目をやれば、女には絶対付いていないイチモツに『あぁ、本当に男なんだな……』と改めて実感する。
だが、そのそそり勃つモノから零れ落ちる雫に、そんな事はどうでもいいのだとそう思った。
母とは違う、女ですらない、商売女は幾らでも見てきた、男女の交わりもだ。しかし、この二人ほど幸せそうに睦み合っている人間を自分は見た事がない。
『愛し合う』というのはこういう事か……とそう思った。
きっと普通の夫婦の愛の営みはこうなのだろう、だが『自分は何も知らないのだな……』とスタールはそう思った。
欲しいと思う。
それは愛情なのか、それともグノー自身をなのかスタールにはよく分からなくなっていた。だが、自分がグノーを抱いたとしても、彼はナダールに見せるような幸せそうな顔を自分に向ける事はないという事も分かっている。どのみち自分は抱く事もできはしない。
それでも二人の睦事はスタール自身を大いに刺激し、久しぶりに元気よく勃ち上がった息子にスタールは苦笑うしか術がない。
嬌声はもう憚る事もなく大きく響いていて、お互いにお互いしか見えていないのであろう二人の動きは激しくなり、それに合わせるように自身も己を慰める。
こんな事をするのは一体何年ぶりだろう、ナダールの下で歓喜の声を上げ、身を震わせ涙を零すグノーにスタールは激しく欲情していた。瞳を閉じて、声だけで、己が彼の内に欲望を突き入れる妄想をする。
だが、最後の瞬間、耳に響いたのは愛しい男の名を呼ぶ甘い彼の嬌声で、己の手の中に残る白濁した残滓に溜息しか出てこない。
『俺は一体何をしている……』虚しさばかりが心の中に広がった。
隣室からは、穏やかな甘い睦言が聞こえてきて、更に虚しさは広がるばかりだ。そんな睦言を壁を背に何とはなしに聞いていたら、なんだか色々な事がどうでもよくなってきた。
そして、ふと『あぁ、きっと自分はあいつにではなく、あいつ等二人に魅せられてしまったのだな……』とそう思った。
漠然と、二人と自分の付き合いは長くなるのではないかと、そんな予感がスタールの脳裏には浮かんでいた。
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