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運命に花束を②
運命と晩餐会⑤
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「それでキース君、何の話をいたしましょうか?」
「オレねぇ、気になってたんすよ。クロードさん、そんなんで、どうやって子供作ったんれすか?」
そこは誰もが知りたくて突っ込めなかった所だ、酔っ払いは強い。
「どうやってと言われましても、それは普通に……」
「ある日突然らったって聞いてますよ、それらしい素振りもなかったのに、ある日突然奥さんと子供連れ帰ってきたってぇ……」
「傍からはそう見えたかもしれませんね。私も彼女とそんなに頻繁に会っていた訳ではありませんから」
「どこで知り合ったんすか? ってか、そもそも親衛隊に見守られた孤高の騎士様が、誰にも気付かれないって、おかしくないっすか?」
「娘さん本当にクロードさんの子?」とキースはケラケラと笑い続ける。
「さすがにそれは失礼ですね」
クロードもその一言にはさすがにカチンときたのか、怒りの表情を浮かべ、キースを見やる。
「らって、おかしいじゃないっすか。兄ちゃんに聞きましたよ、計算が合わないって。奥さん、えっと、王女様と一緒にメリアに行ってたんでしょう?」
「そうですよ、計算なら合っています。彼女がメリアに渡る少し前ですから。まさか子供ができているとは思いませんでしたけどね」
ナダールはハラハラと二人の会話を見守る。
そこは触れていいのか悪いのかナダールにも判断が付かなかった内容だ。実際、どうやって、いつ二人は子供をもうけたのか、それは誰もが聞きたかった事だろう。
「分かりました、そこまでおっしゃるのであれば、お話しいたしましょう」
「やった、みんなもおいで、おいで~クロードさんが奥さんとの馴れ初め教えてくれるって~」
キースは陽気にスタール班の面々や少年達を手招きする。
その言葉に戸惑いつつも、興味を引かれた何人かがこちらへやって来て、クロードを囲むようにして座り込んだ。
「こんな話で人は集まってくるものなのですねぇ」
「まぁ、人の恋愛事情は古今東西、物語になるほど人の興味を引くものですよ」
だが、クロードの場合はそれだけではない気もする。
本当に突然の結婚で戸惑った人間が大勢いたと聞いている。その真相を聞きたいと思っている者はたぶんたくさんいるのではないだろうか。
「では、どこからお話ししましょうね。妻とどこで出会ったか、でしたか。妻と出会ったのは王宮です、妻は第一王女ルネーシャ姫専属の侍女でした。エディが家族に会いにちょくちょく王宮へ赴いていたので、それに付き合っているうちに顔見知りになりました」
「それで、それで? なんでお付き合いするようになったんれす?」
「付き合う……というのが私にはよく分からないのですが、黙っていても一緒にいて落ち着くので、この娘はいいなと思いました」
「それで?」
「? それだけですが、何か?」
「え?」
皆の顔に訳が分からないという表情が浮かぶ。
「ちょっと待ってくださいクロードさん、それだけってどういう事ですか?」
「本当にそれだけですよ。キスをしたら応えてくれましたし、それ以上の事も何も言わずともさせてくれました」
「好きとか、愛してるとか……」
「その頃は言った事ありませんね。そもそも会話もほぼなかったです」
「そんなんでどうして事に及ぼうと思ったんですか!? 相手の気持ちとか考えなかったんですか!?」
バース性の人間はフェロモンで見合う相手を探しているというのはよく言われる事だが、さすがにこれは酷い……とナダールは思わずにはいられない。
「何も抵抗されなかったので、妻も私を好いていてくれる事は分かりましたよ?」
「そういう問題ですか!?」
ナダールの慌てようにキースは「やっぱりクロードさんは面白いや」とケラケラと笑い出し、それにつられるようにして周りの者も笑い出す。
「おぁ、初めて笑っていただけましたよ」
クロードはなんだか嬉しそうだが、こんな笑いの取り方でいいのかとナダールは頭を抱えた。別に馬鹿にされている訳ではないのだろうが、その突飛な行動が笑いを誘っているのは間違いない。
「そんな感じで、よくクロードさん子供の作り方なんて知ってましたね。凄く世間からずれてそう」
「私だって成人男性です、そのくらいの知識はありますよ。そうは言っても、すべて本から得た知識だけでしたけれどね」
「本? 医学書とかそういう?」
「いえ、我が家の書棚は家人の者が定期的に入れ替えてくれるのですが、一時、なんですかね、そういう恋愛もの? と呼ばれる本が増えた時期がありまして、知識はそこから」
「え~どういう本だったのか気になる」
「タイトルですか? 確か『愛の行方』とか『蒼の夕暮れ』とかそんな感じだったと思いますけど」
クロードの言ったその本のタイトルを聞いた瞬間、何人かの男がぶっと酒を吹き出した。
「えっ、なんですか? 何か有名な本なんですか?」
いつの間にかクロードの周りには人が増えていて、その中にいたスタールが言いづらそうに頭を掻いた。
「そりゃあアレだ、官能ポルノってやつだな、文学作品と言えなくもないのかもしれないが、内容はエグイぞ」
「官能小説ですか、それはまた……」
ナダールは言葉を失う。
それはマイラー家の使用人の茶目っ気だったのか、それともそういう知識を持たせるために意図して置かれた物だったのか判断に苦しむ所だ。
「それでぇ~奥さんとはどこで致したんですか?」
「にゃはは」と笑ってキースは更に突っ込んで話を聞いてくるのだが、さすがにプライベートに首を突っ込み過ぎだ。
「キース君、さすがにもうその辺でよした方が……」
「そうだよ、もう止めようよ。人のプライベート詮索するのよくないよ」
「お前等だって聞きたいくせに」
全く聞く耳を持たない酔っ払いは「ね? ね?」とクロードへと詰め寄っていく。
「そんなに聞きたいものですか? 王宮ですよ。妻は住み込み、しかも王女付きだったので常に王宮内にいましたからね。王女も妻を余程気に入っていたのか姉妹のように仲良く暮らしていたので、その目を盗んでこっそりと。本当に王女のプライベート空間だったので、誰にも知られる事はありませんでしたね、エディにすら気付かれませんでした」
おぉ……と男達から感嘆の声が上がる。
「そんな小綺麗な顔してても、やっぱり男なんだな。しかも王女の部屋って、大胆にも程があるだろう」
「一回だけですけどね」
「え?」
「結婚する前はその時一回だけです。その後すぐに彼女はメリアに連れて行かれてしまいましたからね。エディはアジェと妹さんを助け出すのに必死になっていましたが、私は妻の事しか考えていませんでしたよ。まさか助けに行ったら子供ができているとは思いませんでしたが、妻は誰にも何も言わず産む決意をしていたそうです」
「それは……本当にあんたの子なのか?」
今度はスタールから投げられた二度目の同じ質問に、クロードはムッとする。
「間違いなく私の子ですよ。妻が浮気などする訳ないでしょう!」
それにしてもなぁ……と皆がクロードを見やる。
たった一回の事で、しかもその後会ってすらいないのだから疑念が湧くのも仕方がない。
「なんだか楽しそうな話してんなぁ、誰が浮気してるって?」
「皆が私の娘を私の子ではないのではないかと疑うのですよ、失礼な話です」
仕事の話にケリがついたのか、ブラックが会話に加わってくる。
「あっはっはっ、まぁ、疑うのは分かるわ。俺も最初は疑ったからな」
「陛下までそんな事を言うのですか!」
「そりゃあそうだろ、俺はお前が子供の作り方を知ってたって事にビックリしたぞ。そりゃあ、あり得ねぇわと思ったよ」
「失礼ですね! 私だってれっきとした成人男性ですよ!」
「中身は子供のまんまじゃねぇか。この箱入り坊ちゃん育ちが」
「けっけっ」とブラックは笑い、クロードは言葉に詰まる。
「ですが! 娘は百%私の子供です、間違いようがありません、なんせ私にそっくりですから!」
「そうなんだよなぁ、本当にビックリするくらい可愛い子でなぁ、ありゃあ将来が楽しみだ。別嬪さんに育つぞ」
クロードの女版……あぁ、そりゃあ美人だわ、と皆一様に納得する。
「妻も常々私に似て良かったと言っています。私は妻に似ても可愛いと思うのですけどねぇ」
確かにクロードの幼な妻はお世辞にも美人とは言い難い。どちらかといえば可愛らしい印象、容姿的にはあくまで普通だった。
「親御さんも驚いただろうな、メリアに連れて行かれたと思ったら子供を連れて帰ってきたんだからな。それも嫁入り前の娘がだぞ、あぁ、嫌だ嫌だ」
「うちの娘が、と思ったら想像したくもねぇな……」とブラックは言い「そもそも敵地に娘を送り出すなんてありえませんよ」とコリーは言った。
「ルネーシャ姫はお嫁入りしたのですよね?」
「あぁ、まぁな。だけども、婚前交渉はきっちり控えさせたわ。お前が子供なんか作っちまうから、じゃあ! ってルネの奴もやる気満々だったけどな、そこは父親としては許さんと婿に釘は刺したさ、当然な! ってか、あの時まだルネ十五だぞ、あり得んわ。それできっちり約束を守った婿さんは……まぁ、認めてやらん事もない」
「俺がじいちゃんになるのも時間の問題だわ……」と零すブラックに「好きな相手に嫁いだんだからいいじゃねぇか」とグノーは肩を叩く。
「お前他人事みたいに言ってるけど、嫁入り先お前の弟の所だからな! お前、自分の弟の所がどんだけごたごたしてるか知ってんだろっ、はっきり言って嫁にいって安心できる要素がひとつもねぇ!」
「えっ? あぁ、そういえばそうか……そう思うとなんか複雑」
ブラックの娘が義理の妹、偶然出会ったブラックと気付いたら妙な縁で結ばれている、これも巡り合わせなのだろうかとグノーは思う。
「でも、レオンは俺と違ってしっかり者だから大丈夫だよ、たぶん……」
結局兄弟らしい事は何もしないまま、連絡も取ってはいない弟だが、きっと彼は父のようにも兄のようにもなりはしないだろう。
「だといいけどな……」
ブラックは大きく溜息を吐きつつ「さぁ、今日はもうこれでお開きだ」とそう言った。
「あれ? 泊まっていかれないんですか?」
「ん? お前の所は宿もやってるのか?」
「やってはいませんが、彼等のように寝てしまう人達もいるので、一応寝具の準備はしていますよ」
そう言ってナダールはキースをはじめ、酔い潰れた数人の男達を見やる。
ブラックは「そうか」と呟くとにやりと笑った。
「なんだ、そういう事なら話しは別だ。今日は朝まで飲み明かすぞ、野郎共!」
「え!? ちょっと待て、そんなに酒の在庫なんて置いてねぇよ!」
「ないなら買ってこい、俺が出してやる。なんてったって俺、王様だからな」
ブラックは豪快に笑い、その豪快さに周りの男達は歓喜の声をあげた。。
「ボス! オレ、そんなに親父から金預かってきてないですよっ!」
ルークがその言葉に慌てて飛んでくる。
どうやら今回もブラックの身代わりをさせられて城にいるのであろう父親リンから預かっている金は必要最低限だとルークは慌てた様子でブラックに言うのだが、ブラックはまるで意に介さない。
「だったらツケだ、ツケ。商売人なら酒持ってこい!」
「ちっ、こっからの酒は全部お前のツケだからな、絶対払えよっ! こちとらは生活ギリギリでやってんだ、踏み倒す気なら王宮まで取り立てに行くぞ!」
「一国の王子がみみっちい事を……」
「今はただの一般人だよ! お前と一緒にすんなっ!!」
「分かった、分かった」とブラックは笑い、ちっと舌打ちしてグノーは踵を返した。
「お酒買いに行くのなら私も付き合いますよ」
「あぁ、悪いな。全く、本当にあいつは変わらねぇ……」
いつもいつも自由気ままだ、とグノーは苦笑う。
「そんな陛下があなたは好きなのでしょう?」
「まぁな……」
王になって変わってしまうようだったら、今こんな風に話をする事もできていなかっただろう、ブラックは最初に会った時から少しも変わらない。それが羨ましくもあり、嬉しいのだ。
何軒かの酒屋と飲み屋を回り、頭を下げて酒を分けてもらう。
もう時間はずいぶん遅い時間で、田舎であるルーンに元々ある店はほとんどが閉まっていたのだが、事情を説明したら店の店主達は皆快く酒を分けてくれた。
それでも門前払いをされても不思議ではなかっただろうに、皆グノーにはやたらと優しかった。
「あの噂の効果なのですかね?」
「それもあるだろうけど、俺、ちゃんと一軒一軒挨拶に回ったからな。商売は横の繋がりも大事だから、その辺抜かりねぇよ。その土地の商売人敵に回したら商売にならねぇもん」
「いつの間に……」
「この顔もなぁ、めっちゃ役に立つわ」とグノーは笑う。
「やっぱり見た目は大事なんだって最近しみじみ思ってる。たぶん前の小汚いままの俺だったら、皆ここまで優しくしてくれなかったと思う。女の人が見た目を気にして努力する理由が分かるよ」
「そんなものですかね? 私にはよく分かりませんが……」
「お前は誰に対しても扱い同じだもんな。お前みたいなのは珍しいんだぞ」
「そうなんですか?」とナダールが不思議そうな顔をしていると「そうなんだよ」とグノーはナダールに軽く体当たりをするようにして「お前のそういう所、好きだよ」と呟いた。
「さぁてと、早く帰って酒のアテも作らないと。せいぜいブラックに吹っかけてやらないとな。深夜の割増し料金だ」
グノーはにやりと悪い笑みでほくそ笑む。
「ほどほどにしてくださいね」
「あいつの金なんて俺等の税金なんだからいいんだよ。せいぜい飲み食いして景気を回すのがあいつの仕事だ」
グノーは笑い、二人は家路を急ぐ。
「ただいま」と店に戻れば「おかえり」やら「遅ぇぞ」やら色々な声があちこちから飛んでくる。
それを聞いてグノーはそれはそれは嬉しそうに笑うので、ナダールは少し無理をしてでもこの家に決めて良かったなと改めて感じていた。
帰る場所がある、待っていて迎えてくれる人がいる、それはグノーがずっと望んでも得られなかった生活だ。
「うっせっ、今準備するから大人しく待ってろ、ガキかっ」
「俺等がガキならお前はお袋だな。かーちゃん、早くっ」
「誰がかーちゃんだよ、お前等みたいなむさ苦しい子供持った覚えねぇよ」
憎まれ口を叩きながらもグノーはテキパキと料理と酒の準備を整えていく。
「私も手伝いますね」
腕まくりをして彼の元へ行くと「悪いな」と言いながらも彼はとても楽しそうに笑っていた。
「オレねぇ、気になってたんすよ。クロードさん、そんなんで、どうやって子供作ったんれすか?」
そこは誰もが知りたくて突っ込めなかった所だ、酔っ払いは強い。
「どうやってと言われましても、それは普通に……」
「ある日突然らったって聞いてますよ、それらしい素振りもなかったのに、ある日突然奥さんと子供連れ帰ってきたってぇ……」
「傍からはそう見えたかもしれませんね。私も彼女とそんなに頻繁に会っていた訳ではありませんから」
「どこで知り合ったんすか? ってか、そもそも親衛隊に見守られた孤高の騎士様が、誰にも気付かれないって、おかしくないっすか?」
「娘さん本当にクロードさんの子?」とキースはケラケラと笑い続ける。
「さすがにそれは失礼ですね」
クロードもその一言にはさすがにカチンときたのか、怒りの表情を浮かべ、キースを見やる。
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「分かりました、そこまでおっしゃるのであれば、お話しいたしましょう」
「やった、みんなもおいで、おいで~クロードさんが奥さんとの馴れ初め教えてくれるって~」
キースは陽気にスタール班の面々や少年達を手招きする。
その言葉に戸惑いつつも、興味を引かれた何人かがこちらへやって来て、クロードを囲むようにして座り込んだ。
「こんな話で人は集まってくるものなのですねぇ」
「まぁ、人の恋愛事情は古今東西、物語になるほど人の興味を引くものですよ」
だが、クロードの場合はそれだけではない気もする。
本当に突然の結婚で戸惑った人間が大勢いたと聞いている。その真相を聞きたいと思っている者はたぶんたくさんいるのではないだろうか。
「では、どこからお話ししましょうね。妻とどこで出会ったか、でしたか。妻と出会ったのは王宮です、妻は第一王女ルネーシャ姫専属の侍女でした。エディが家族に会いにちょくちょく王宮へ赴いていたので、それに付き合っているうちに顔見知りになりました」
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「それで?」
「? それだけですが、何か?」
「え?」
皆の顔に訳が分からないという表情が浮かぶ。
「ちょっと待ってくださいクロードさん、それだけってどういう事ですか?」
「本当にそれだけですよ。キスをしたら応えてくれましたし、それ以上の事も何も言わずともさせてくれました」
「好きとか、愛してるとか……」
「その頃は言った事ありませんね。そもそも会話もほぼなかったです」
「そんなんでどうして事に及ぼうと思ったんですか!? 相手の気持ちとか考えなかったんですか!?」
バース性の人間はフェロモンで見合う相手を探しているというのはよく言われる事だが、さすがにこれは酷い……とナダールは思わずにはいられない。
「何も抵抗されなかったので、妻も私を好いていてくれる事は分かりましたよ?」
「そういう問題ですか!?」
ナダールの慌てようにキースは「やっぱりクロードさんは面白いや」とケラケラと笑い出し、それにつられるようにして周りの者も笑い出す。
「おぁ、初めて笑っていただけましたよ」
クロードはなんだか嬉しそうだが、こんな笑いの取り方でいいのかとナダールは頭を抱えた。別に馬鹿にされている訳ではないのだろうが、その突飛な行動が笑いを誘っているのは間違いない。
「そんな感じで、よくクロードさん子供の作り方なんて知ってましたね。凄く世間からずれてそう」
「私だって成人男性です、そのくらいの知識はありますよ。そうは言っても、すべて本から得た知識だけでしたけれどね」
「本? 医学書とかそういう?」
「いえ、我が家の書棚は家人の者が定期的に入れ替えてくれるのですが、一時、なんですかね、そういう恋愛もの? と呼ばれる本が増えた時期がありまして、知識はそこから」
「え~どういう本だったのか気になる」
「タイトルですか? 確か『愛の行方』とか『蒼の夕暮れ』とかそんな感じだったと思いますけど」
クロードの言ったその本のタイトルを聞いた瞬間、何人かの男がぶっと酒を吹き出した。
「えっ、なんですか? 何か有名な本なんですか?」
いつの間にかクロードの周りには人が増えていて、その中にいたスタールが言いづらそうに頭を掻いた。
「そりゃあアレだ、官能ポルノってやつだな、文学作品と言えなくもないのかもしれないが、内容はエグイぞ」
「官能小説ですか、それはまた……」
ナダールは言葉を失う。
それはマイラー家の使用人の茶目っ気だったのか、それともそういう知識を持たせるために意図して置かれた物だったのか判断に苦しむ所だ。
「それでぇ~奥さんとはどこで致したんですか?」
「にゃはは」と笑ってキースは更に突っ込んで話を聞いてくるのだが、さすがにプライベートに首を突っ込み過ぎだ。
「キース君、さすがにもうその辺でよした方が……」
「そうだよ、もう止めようよ。人のプライベート詮索するのよくないよ」
「お前等だって聞きたいくせに」
全く聞く耳を持たない酔っ払いは「ね? ね?」とクロードへと詰め寄っていく。
「そんなに聞きたいものですか? 王宮ですよ。妻は住み込み、しかも王女付きだったので常に王宮内にいましたからね。王女も妻を余程気に入っていたのか姉妹のように仲良く暮らしていたので、その目を盗んでこっそりと。本当に王女のプライベート空間だったので、誰にも知られる事はありませんでしたね、エディにすら気付かれませんでした」
おぉ……と男達から感嘆の声が上がる。
「そんな小綺麗な顔してても、やっぱり男なんだな。しかも王女の部屋って、大胆にも程があるだろう」
「一回だけですけどね」
「え?」
「結婚する前はその時一回だけです。その後すぐに彼女はメリアに連れて行かれてしまいましたからね。エディはアジェと妹さんを助け出すのに必死になっていましたが、私は妻の事しか考えていませんでしたよ。まさか助けに行ったら子供ができているとは思いませんでしたが、妻は誰にも何も言わず産む決意をしていたそうです」
「それは……本当にあんたの子なのか?」
今度はスタールから投げられた二度目の同じ質問に、クロードはムッとする。
「間違いなく私の子ですよ。妻が浮気などする訳ないでしょう!」
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「そうなんだよなぁ、本当にビックリするくらい可愛い子でなぁ、ありゃあ将来が楽しみだ。別嬪さんに育つぞ」
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確かにクロードの幼な妻はお世辞にも美人とは言い難い。どちらかといえば可愛らしい印象、容姿的にはあくまで普通だった。
「親御さんも驚いただろうな、メリアに連れて行かれたと思ったら子供を連れて帰ってきたんだからな。それも嫁入り前の娘がだぞ、あぁ、嫌だ嫌だ」
「うちの娘が、と思ったら想像したくもねぇな……」とブラックは言い「そもそも敵地に娘を送り出すなんてありえませんよ」とコリーは言った。
「ルネーシャ姫はお嫁入りしたのですよね?」
「あぁ、まぁな。だけども、婚前交渉はきっちり控えさせたわ。お前が子供なんか作っちまうから、じゃあ! ってルネの奴もやる気満々だったけどな、そこは父親としては許さんと婿に釘は刺したさ、当然な! ってか、あの時まだルネ十五だぞ、あり得んわ。それできっちり約束を守った婿さんは……まぁ、認めてやらん事もない」
「俺がじいちゃんになるのも時間の問題だわ……」と零すブラックに「好きな相手に嫁いだんだからいいじゃねぇか」とグノーは肩を叩く。
「お前他人事みたいに言ってるけど、嫁入り先お前の弟の所だからな! お前、自分の弟の所がどんだけごたごたしてるか知ってんだろっ、はっきり言って嫁にいって安心できる要素がひとつもねぇ!」
「えっ? あぁ、そういえばそうか……そう思うとなんか複雑」
ブラックの娘が義理の妹、偶然出会ったブラックと気付いたら妙な縁で結ばれている、これも巡り合わせなのだろうかとグノーは思う。
「でも、レオンは俺と違ってしっかり者だから大丈夫だよ、たぶん……」
結局兄弟らしい事は何もしないまま、連絡も取ってはいない弟だが、きっと彼は父のようにも兄のようにもなりはしないだろう。
「だといいけどな……」
ブラックは大きく溜息を吐きつつ「さぁ、今日はもうこれでお開きだ」とそう言った。
「あれ? 泊まっていかれないんですか?」
「ん? お前の所は宿もやってるのか?」
「やってはいませんが、彼等のように寝てしまう人達もいるので、一応寝具の準備はしていますよ」
そう言ってナダールはキースをはじめ、酔い潰れた数人の男達を見やる。
ブラックは「そうか」と呟くとにやりと笑った。
「なんだ、そういう事なら話しは別だ。今日は朝まで飲み明かすぞ、野郎共!」
「え!? ちょっと待て、そんなに酒の在庫なんて置いてねぇよ!」
「ないなら買ってこい、俺が出してやる。なんてったって俺、王様だからな」
ブラックは豪快に笑い、その豪快さに周りの男達は歓喜の声をあげた。。
「ボス! オレ、そんなに親父から金預かってきてないですよっ!」
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どうやら今回もブラックの身代わりをさせられて城にいるのであろう父親リンから預かっている金は必要最低限だとルークは慌てた様子でブラックに言うのだが、ブラックはまるで意に介さない。
「だったらツケだ、ツケ。商売人なら酒持ってこい!」
「ちっ、こっからの酒は全部お前のツケだからな、絶対払えよっ! こちとらは生活ギリギリでやってんだ、踏み倒す気なら王宮まで取り立てに行くぞ!」
「一国の王子がみみっちい事を……」
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いつもいつも自由気ままだ、とグノーは苦笑う。
「そんな陛下があなたは好きなのでしょう?」
「まぁな……」
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それでも門前払いをされても不思議ではなかっただろうに、皆グノーにはやたらと優しかった。
「あの噂の効果なのですかね?」
「それもあるだろうけど、俺、ちゃんと一軒一軒挨拶に回ったからな。商売は横の繋がりも大事だから、その辺抜かりねぇよ。その土地の商売人敵に回したら商売にならねぇもん」
「いつの間に……」
「この顔もなぁ、めっちゃ役に立つわ」とグノーは笑う。
「やっぱり見た目は大事なんだって最近しみじみ思ってる。たぶん前の小汚いままの俺だったら、皆ここまで優しくしてくれなかったと思う。女の人が見た目を気にして努力する理由が分かるよ」
「そんなものですかね? 私にはよく分かりませんが……」
「お前は誰に対しても扱い同じだもんな。お前みたいなのは珍しいんだぞ」
「そうなんですか?」とナダールが不思議そうな顔をしていると「そうなんだよ」とグノーはナダールに軽く体当たりをするようにして「お前のそういう所、好きだよ」と呟いた。
「さぁてと、早く帰って酒のアテも作らないと。せいぜいブラックに吹っかけてやらないとな。深夜の割増し料金だ」
グノーはにやりと悪い笑みでほくそ笑む。
「ほどほどにしてくださいね」
「あいつの金なんて俺等の税金なんだからいいんだよ。せいぜい飲み食いして景気を回すのがあいつの仕事だ」
グノーは笑い、二人は家路を急ぐ。
「ただいま」と店に戻れば「おかえり」やら「遅ぇぞ」やら色々な声があちこちから飛んでくる。
それを聞いてグノーはそれはそれは嬉しそうに笑うので、ナダールは少し無理をしてでもこの家に決めて良かったなと改めて感じていた。
帰る場所がある、待っていて迎えてくれる人がいる、それはグノーがずっと望んでも得られなかった生活だ。
「うっせっ、今準備するから大人しく待ってろ、ガキかっ」
「俺等がガキならお前はお袋だな。かーちゃん、早くっ」
「誰がかーちゃんだよ、お前等みたいなむさ苦しい子供持った覚えねぇよ」
憎まれ口を叩きながらもグノーはテキパキと料理と酒の準備を整えていく。
「私も手伝いますね」
腕まくりをして彼の元へ行くと「悪いな」と言いながらも彼はとても楽しそうに笑っていた。
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束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。
愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
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ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
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名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
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