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運命に花束を②
運命の家探し②
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「過労と睡眠不足だ、この馬鹿が!」
目を覚ますと、瞳を赤くしたグノーに頭ごなしに怒られた。
「なんだよ睡眠不足って、俺じゃあるまいし! お前どんだけ働いてたんだよ、俺、全然知らなかったし!! 疲れてたんなら言えよ、この大馬鹿!!」
「あんまり馬鹿馬鹿言われると傷付きます……」
「っっっ! 心配、したんだからなっ!!」
「すみません、自分でもそんなに疲れていたなんて思ってなくて……」
謝りながら起き上がろうとしたら「まだ寝てろ!」と布団の中に押し戻された。
「まだ熱下がってないんだぞ、お前は本当、滅茶苦茶だ!」
「ふふ……たまには熱も出してみるものですねぇ、いつも心配させられてばかりですけど、心配してもらうのも嬉しいものです」
「まだこんなに熱高いのに、何笑ってるんだよ! 本当、ホントにっっ!」
彼の言動は乱暴で、水で絞ったタオルをべしっと乱暴に顔に向けて投げつけられたのだが、それが彼なりの心配の仕方なのは分かっているので、また笑ってしまった。
「あはは、乱暴な看病ですね。私は元々の体温が高いので、そこまで苦しくはないですよ。あぁ、でもあなたの手は気持ちいいなぁ」
「もう!」と振り上げられた腕を取って頬に当てると、とてもひんやりしていて気持ちがいい。グノーはその様子を見て溜息を吐き、もう一方の手もナダールの頬を冷すように当ててくれた。
「まだこんなに熱いのに、なんでそんなに元気なんだ?」
「心配されているのが嬉しくて」
「ホント馬鹿! 人の気も知らないでっ」
「私がいつもどんな気持ちで、あなたの看病をしているか分かってもらえました?」
にこやかにそう言うと、グノーはぐっと言葉に詰まった。
「……ごめん、いつもありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
なんだか本当に笑いが止まらない。
熱に浮かされているのか、それともやはり自分もどこか少しおかしくなってしまっているのだろうか?
「お前、今日は本当に機嫌がいいな。なんかいい事あった?」
そんな思いはグノーにまで伝わって、彼は小首を傾げる。
「なんでしょうねぇ。私もずいぶんあなたが足りていなかったようで、こうやって普通に話していられる事が無性に楽しくて、嬉しくて仕方がないです。最近はあなたと一緒に居ても、ずっと仕事に追われていましたからね」
「なんでそんなに仕事に追われてるんだ?」
「私が勉強不足で、色々分からない事が多いからですかね? 采配はすべてコリーさんに任せて、与えられた仕事をひたすらこなす感じで、自分のペースが分からなくなっていたので余計にですね」
「それって何の仕事?」
「この土地の発展を視野に入れての開墾、開発ですね。なんてのも分かったのは最近ですけど。私は『ちょっと行って土地ならしてこい』って言われただけなので」
「そういうの、すごくブラックらしい」
「そうか、ルーンか……」とグノーは少し考え込み「それって寄宿舎の東北方向からの川沿い?」と、また小首を傾げた。
「なんで分かるんですか? 私には理由も意味も分からないのに」
「だってあの辺、全然人の手入ってないけど、あそこに街ができたら凄く良いと思わないか?」
「何故ですか? ルーンの町だって充分いい町でしょう?」
「そうなんだけど、なんだかんだでここ少し内陸だから交通の便悪いだろう? 川近くならイリヤ近くの川沿いの商業の街サンガから直接荷物乗せて運べるから、陸路を来るより全然早い。あの辺からならここもそう離れてないし、ルーンももっと賑わうようになると思うぞ?」
言っても川が暴れ川だから大変だと思うけど、とグノーは言う。
「川の治水はそういえば最優先でと言われています」
「街が出来ても洪水のたびに流されてたら意味ないもんな。分かってんじゃん」
「前にあなたは商業施設の誘致がいいって言ってたんですけど、それは何故ですか?」
「俺、そんな事言ったっけ? ん~でもさ、ここにルーンだろ? 川があって、こっちに村、あっちにも村、この辺小さな集落幾つかあるじゃん? 今は小さな村だけど、ここの街ができたら人も物も増える。仕事も増えたら金が入る、そうしたら商売人は売りに来る。都会で当たり前に売ってる物でも、こっちでは貴重かもしれないだろう? ここにはその商機がある、分かってる奴ならここは狙い目だと思うだろうから、誘致さえすれば下地は勝手に商人が整えてくれる」
グノーの説明に目から鱗がぽろぽろ落ちる。
だから『道は必要』だったのだ。自分は本当に言われたその土地しか見ていなかったのだが、ブラックやグノーはもっと大きな視点で物事を見ているという事がよく分かった。
「そういえばこっちにも少し大きな街がありますね、川向こうにも……あ~納得です。これはすぐにコリーさんにお知らせしないと」
そう言って起き上がろうとするナダールを「駄目だって言ってんだろ!」とグノーはまた叱り飛ばし、ベッドに押し戻す。
「一週間休みだってお前言ってただろ! 仕事なんかさせないからな!!」
「でも、せっかく色々分かったのに……」
「駄目ったら、ダメ!!」
ぷんすか怒りながら、グノーはナダールの額の上に乗る濡れタオルを交換してくれる。
「熱が下がるまでここで大人しく寝とけ。仕事の事も考えるの禁止!」
日に一度は必ず顔を出せと言われているのだけどな……と心の内では思いつつも、その怒る姿が嬉しくて「じゃあ、仕事のこと忘れさせてください」とナダールはグノーの腕を引いた。
急に腕を引かれたグノーはバランスを崩してベッドの上に倒れこみ、ナダールの腕の中にすっぽり閉じ込められてしまう。
「本当にあなたは気持ちいい」
「なっ、ちょっ……どこ触って!」
グノーの体温は低い、腕の中に押さえ込み服の裾から手を忍び込ませて、その冷たさを堪能する。
「お前病人だろ!」と腕の中で暴れるグノーだったが、離す気はさらさらなく、含み笑って撫で擦っていると「もう、お前なんなの!」と胸を叩かれた。
「ふふふ、やっぱりあなたはこうでないと。この感じ久しぶりすぎて、箍が外れそうです」
「っ! 何言って……こら、駄目! 昨日もしただろ!? ってか、お前本当に病人か!?」
「だから大丈夫ですって。私の体温が元々高いの知っているでしょう? 睡眠不足も少し寝たらすっきりしました」
「すっきりって言う程の時間寝てねぇよ! ってか、やらねぇぞ、こんなよそ様の家でとかありえないからな!!」
「あぁ、そういえばそうでしたね。じゃあ今はこれだけで我慢します」
上に乗っていたグノーを下に敷くように体勢を入れ替えて、押し倒すようにして口づけた。
グノーの口の中もやはり少しひんやりしていて気持ちがいいので、そのまま思う存分その口内と舌を堪能する。
熱い舌に口内を犯され、グノーは涙目で抵抗するのだが、次第にその抵抗は弱まって、くったりと力が抜けた、そんな時……「そんなに元気が有り余っているなら、帰っていただいてもいいんですよ?」と声がかかった。
「あぁ、エディ君。すみません、ご迷惑おかけしました」
顔は上げたものの、体勢はそのままでにっこり笑うナダールにエドワードはひとつ溜息を零す。
「一応ノックはしたんですよ。体調を崩しているって聞いてましたし、よもやこんな事になってるとは思いもよらず、邪魔しましたかね?」
「いえいえ、さすがに私もこれ以上やろうとは思っていませんでしたので、大丈夫ですよ」
「だったらその体勢どうにかしてください、目のやり場に困ります」
自分の上で淡々と交わされる2人の会話に、グノーは羞恥のあまり顔にかぁっと血が上るのが分かり、ナダールを押し退けるように飛び起きて「ちょっと、頭冷してくる!」と逃げるように部屋を飛び出して行った。
「あぁ、逃げられてしまいましたねぇ……」
少し残念そうな顔を見せたナダールに、エドワードは「あんた何やってるんですか……」と呆れ顔を見せる。
「まぁ、でも逃げたという事はだいぶ戻っているという証拠なので、まずは一安心です」
「なんなんですか、その判断基準は」
「今までの経験則から導き出された判断基準ですよ。元に戻ってなかったら、今頃本番真っ最中です。まぁ、私はそれでも一向に構いませんが」
「俺が構うわ! そういう事は家でやれ!」
「あぁ、そうですよ。その家を探しに来たんですよ、1日無駄にしてしまいました」
「何? あんた達あそこ出るの? まぁ、あんた達にこんな風にひたすらいちゃつかれたら、あいつ等もたまらないでしょうからね、いいんじゃないですか?」
エドワードは「騎士団の奴等に同情するよ」と呆れたようにそう言った。
「どこかにいい家ないですか?」
「なくはないけど、今は住宅不足だからな」
「アジェ君も言ってましたけど、そんなに人増えてますか?」
「増えてますよ。この辺は本当に仕事が少ないので、農業をしたくない若いのが求人に飛び付いているんですよ。あわよくば騎士団に入りたいと思ってる奴らもいるだろうし」
「騎士団に? 別に特別資格が要るわけでなし、入りたかったら入ればいいのに」
「何言ってるんですか、農家の子がそう易々と騎士団になんか入れるわけないでしょう。親だって許さないし、剣もろくに扱った事のない人間が『イリヤに行って騎士団入る!』なんて、言った所でいい笑いものですよ。その点で言えば、この辺は典型的に封鎖的な田舎ですよ」
「そんなものなのですか?」
「そんなもんなんです。今は冬で農作業の閑散期だから親も大目に見てますけど、春の種付けや秋の収穫なんて幾ら人手があっても足りないくらいなんですから、むざむざ働き手を遠くに行かせたりはしないですよ。若者も若者で田舎者だって馬鹿にされたりしないかってどうしても及び腰になるんですから、なかなか言い出す事はできないのが現状だと思いますよ」
「そうなのですか……」とまた新たに目から鱗が落ちる。
自分は元々ランティス王国首都メルクードに住み、父親が騎士団員であった事もあり、その進路は当たり前の事のように受け止めていたが、そう言われてしまうと、確かにランティスの騎士団も地方から来て騎士団員として働いている者は稀だった気がする。
「なんだか勿体ないですね。やる気がある者がいるなら、やらせてあげればいいのに」
「そう思うならあんたが拾ってやればいい。あんたの今の身分なら、そういう奴等をいくらでも拾い上げてやれるでしょう?」
「私が、ですか? 確かにうちの騎士団に入れてあげる事はできるかもしれませんが、親御さんの説得まではできませんからねぇ」
「そこは本人に任せておけばいい、そういう事ではなく、田舎者でもやっていく事ができると思えるような土壌作りですよ。どうしたってこちらは気後れするんですから、そこを上手く拾っていけば、あの馬鹿みたいに人手不足に泣く事もない」
「あの馬鹿って、もしかして陛下の事ですか?」
エドワードの辛辣な言葉に少し苦笑してしまうのだが、エドワードの表情は変わらない。
「他に誰がいるよ、人手が足りない人手が足りないっていつも言ってるけど、増やす努力をしていないんだから増えるわけがない。あの人、自分の周りは優秀なので固めてるから何でもできる気になってるけど、結局一人一人の負担が大きいだけで苦労を分配するという事をしない。そんなの潰れる奴が出てくるの当たり前でしょう。で、一人抜けただけでも大打撃だ、そういう所が馬鹿だって言うんですよ」
「まぁ、今はそんな細かい所見てる余裕がないのも分かってるけどな……」とエドワードは零すようにそう言った。
「エディ君は陛下の事をよく分かっているのですねぇ」
「これでも10年以上親父としてあいつを見てきましたからね、あいつができる男だって事は分かっているんですよ、それでも手駒みたいに扱われるのは腹が立つというか、なんというか……」
「エディ君は陛下に自分は一人前だと認めてもらいたいのですねぇ」
「そう思われるのもなんか腹立つ、俺はあいつに勝ちたいんですよ。なんだかんだでいつも手の内で踊らされてるのが、どうにも我慢ならない。いつか、お前には敵わないと言わせるのが俺の目標です」
エドワードのその言葉に笑ってしまう。
「なんで笑うんですか。俺じゃあいつに敵わないとでも思ってるんですか!」
「いえいえ、そうではなく、微笑ましいなぁと思って」
口では悪態を吐きながらも父親であるブラックの事を認めている彼が、本当は父親のことが大好きなのだと分かってしまう。
「微笑ましいってなんですか、馬鹿にしてるんですか!」
「そんな事ないですよ、私も応援しますし、できる事ならお手伝いさせていただきますので、いつでも言ってください」
笑いながら言ったナダールのその言葉に、やはりエドワードは少し憮然とした表情を見せたのだが「その時には是非お願いしますよ」とそう言った。
目を覚ますと、瞳を赤くしたグノーに頭ごなしに怒られた。
「なんだよ睡眠不足って、俺じゃあるまいし! お前どんだけ働いてたんだよ、俺、全然知らなかったし!! 疲れてたんなら言えよ、この大馬鹿!!」
「あんまり馬鹿馬鹿言われると傷付きます……」
「っっっ! 心配、したんだからなっ!!」
「すみません、自分でもそんなに疲れていたなんて思ってなくて……」
謝りながら起き上がろうとしたら「まだ寝てろ!」と布団の中に押し戻された。
「まだ熱下がってないんだぞ、お前は本当、滅茶苦茶だ!」
「ふふ……たまには熱も出してみるものですねぇ、いつも心配させられてばかりですけど、心配してもらうのも嬉しいものです」
「まだこんなに熱高いのに、何笑ってるんだよ! 本当、ホントにっっ!」
彼の言動は乱暴で、水で絞ったタオルをべしっと乱暴に顔に向けて投げつけられたのだが、それが彼なりの心配の仕方なのは分かっているので、また笑ってしまった。
「あはは、乱暴な看病ですね。私は元々の体温が高いので、そこまで苦しくはないですよ。あぁ、でもあなたの手は気持ちいいなぁ」
「もう!」と振り上げられた腕を取って頬に当てると、とてもひんやりしていて気持ちがいい。グノーはその様子を見て溜息を吐き、もう一方の手もナダールの頬を冷すように当ててくれた。
「まだこんなに熱いのに、なんでそんなに元気なんだ?」
「心配されているのが嬉しくて」
「ホント馬鹿! 人の気も知らないでっ」
「私がいつもどんな気持ちで、あなたの看病をしているか分かってもらえました?」
にこやかにそう言うと、グノーはぐっと言葉に詰まった。
「……ごめん、いつもありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
なんだか本当に笑いが止まらない。
熱に浮かされているのか、それともやはり自分もどこか少しおかしくなってしまっているのだろうか?
「お前、今日は本当に機嫌がいいな。なんかいい事あった?」
そんな思いはグノーにまで伝わって、彼は小首を傾げる。
「なんでしょうねぇ。私もずいぶんあなたが足りていなかったようで、こうやって普通に話していられる事が無性に楽しくて、嬉しくて仕方がないです。最近はあなたと一緒に居ても、ずっと仕事に追われていましたからね」
「なんでそんなに仕事に追われてるんだ?」
「私が勉強不足で、色々分からない事が多いからですかね? 采配はすべてコリーさんに任せて、与えられた仕事をひたすらこなす感じで、自分のペースが分からなくなっていたので余計にですね」
「それって何の仕事?」
「この土地の発展を視野に入れての開墾、開発ですね。なんてのも分かったのは最近ですけど。私は『ちょっと行って土地ならしてこい』って言われただけなので」
「そういうの、すごくブラックらしい」
「そうか、ルーンか……」とグノーは少し考え込み「それって寄宿舎の東北方向からの川沿い?」と、また小首を傾げた。
「なんで分かるんですか? 私には理由も意味も分からないのに」
「だってあの辺、全然人の手入ってないけど、あそこに街ができたら凄く良いと思わないか?」
「何故ですか? ルーンの町だって充分いい町でしょう?」
「そうなんだけど、なんだかんだでここ少し内陸だから交通の便悪いだろう? 川近くならイリヤ近くの川沿いの商業の街サンガから直接荷物乗せて運べるから、陸路を来るより全然早い。あの辺からならここもそう離れてないし、ルーンももっと賑わうようになると思うぞ?」
言っても川が暴れ川だから大変だと思うけど、とグノーは言う。
「川の治水はそういえば最優先でと言われています」
「街が出来ても洪水のたびに流されてたら意味ないもんな。分かってんじゃん」
「前にあなたは商業施設の誘致がいいって言ってたんですけど、それは何故ですか?」
「俺、そんな事言ったっけ? ん~でもさ、ここにルーンだろ? 川があって、こっちに村、あっちにも村、この辺小さな集落幾つかあるじゃん? 今は小さな村だけど、ここの街ができたら人も物も増える。仕事も増えたら金が入る、そうしたら商売人は売りに来る。都会で当たり前に売ってる物でも、こっちでは貴重かもしれないだろう? ここにはその商機がある、分かってる奴ならここは狙い目だと思うだろうから、誘致さえすれば下地は勝手に商人が整えてくれる」
グノーの説明に目から鱗がぽろぽろ落ちる。
だから『道は必要』だったのだ。自分は本当に言われたその土地しか見ていなかったのだが、ブラックやグノーはもっと大きな視点で物事を見ているという事がよく分かった。
「そういえばこっちにも少し大きな街がありますね、川向こうにも……あ~納得です。これはすぐにコリーさんにお知らせしないと」
そう言って起き上がろうとするナダールを「駄目だって言ってんだろ!」とグノーはまた叱り飛ばし、ベッドに押し戻す。
「一週間休みだってお前言ってただろ! 仕事なんかさせないからな!!」
「でも、せっかく色々分かったのに……」
「駄目ったら、ダメ!!」
ぷんすか怒りながら、グノーはナダールの額の上に乗る濡れタオルを交換してくれる。
「熱が下がるまでここで大人しく寝とけ。仕事の事も考えるの禁止!」
日に一度は必ず顔を出せと言われているのだけどな……と心の内では思いつつも、その怒る姿が嬉しくて「じゃあ、仕事のこと忘れさせてください」とナダールはグノーの腕を引いた。
急に腕を引かれたグノーはバランスを崩してベッドの上に倒れこみ、ナダールの腕の中にすっぽり閉じ込められてしまう。
「本当にあなたは気持ちいい」
「なっ、ちょっ……どこ触って!」
グノーの体温は低い、腕の中に押さえ込み服の裾から手を忍び込ませて、その冷たさを堪能する。
「お前病人だろ!」と腕の中で暴れるグノーだったが、離す気はさらさらなく、含み笑って撫で擦っていると「もう、お前なんなの!」と胸を叩かれた。
「ふふふ、やっぱりあなたはこうでないと。この感じ久しぶりすぎて、箍が外れそうです」
「っ! 何言って……こら、駄目! 昨日もしただろ!? ってか、お前本当に病人か!?」
「だから大丈夫ですって。私の体温が元々高いの知っているでしょう? 睡眠不足も少し寝たらすっきりしました」
「すっきりって言う程の時間寝てねぇよ! ってか、やらねぇぞ、こんなよそ様の家でとかありえないからな!!」
「あぁ、そういえばそうでしたね。じゃあ今はこれだけで我慢します」
上に乗っていたグノーを下に敷くように体勢を入れ替えて、押し倒すようにして口づけた。
グノーの口の中もやはり少しひんやりしていて気持ちがいいので、そのまま思う存分その口内と舌を堪能する。
熱い舌に口内を犯され、グノーは涙目で抵抗するのだが、次第にその抵抗は弱まって、くったりと力が抜けた、そんな時……「そんなに元気が有り余っているなら、帰っていただいてもいいんですよ?」と声がかかった。
「あぁ、エディ君。すみません、ご迷惑おかけしました」
顔は上げたものの、体勢はそのままでにっこり笑うナダールにエドワードはひとつ溜息を零す。
「一応ノックはしたんですよ。体調を崩しているって聞いてましたし、よもやこんな事になってるとは思いもよらず、邪魔しましたかね?」
「いえいえ、さすがに私もこれ以上やろうとは思っていませんでしたので、大丈夫ですよ」
「だったらその体勢どうにかしてください、目のやり場に困ります」
自分の上で淡々と交わされる2人の会話に、グノーは羞恥のあまり顔にかぁっと血が上るのが分かり、ナダールを押し退けるように飛び起きて「ちょっと、頭冷してくる!」と逃げるように部屋を飛び出して行った。
「あぁ、逃げられてしまいましたねぇ……」
少し残念そうな顔を見せたナダールに、エドワードは「あんた何やってるんですか……」と呆れ顔を見せる。
「まぁ、でも逃げたという事はだいぶ戻っているという証拠なので、まずは一安心です」
「なんなんですか、その判断基準は」
「今までの経験則から導き出された判断基準ですよ。元に戻ってなかったら、今頃本番真っ最中です。まぁ、私はそれでも一向に構いませんが」
「俺が構うわ! そういう事は家でやれ!」
「あぁ、そうですよ。その家を探しに来たんですよ、1日無駄にしてしまいました」
「何? あんた達あそこ出るの? まぁ、あんた達にこんな風にひたすらいちゃつかれたら、あいつ等もたまらないでしょうからね、いいんじゃないですか?」
エドワードは「騎士団の奴等に同情するよ」と呆れたようにそう言った。
「どこかにいい家ないですか?」
「なくはないけど、今は住宅不足だからな」
「アジェ君も言ってましたけど、そんなに人増えてますか?」
「増えてますよ。この辺は本当に仕事が少ないので、農業をしたくない若いのが求人に飛び付いているんですよ。あわよくば騎士団に入りたいと思ってる奴らもいるだろうし」
「騎士団に? 別に特別資格が要るわけでなし、入りたかったら入ればいいのに」
「何言ってるんですか、農家の子がそう易々と騎士団になんか入れるわけないでしょう。親だって許さないし、剣もろくに扱った事のない人間が『イリヤに行って騎士団入る!』なんて、言った所でいい笑いものですよ。その点で言えば、この辺は典型的に封鎖的な田舎ですよ」
「そんなものなのですか?」
「そんなもんなんです。今は冬で農作業の閑散期だから親も大目に見てますけど、春の種付けや秋の収穫なんて幾ら人手があっても足りないくらいなんですから、むざむざ働き手を遠くに行かせたりはしないですよ。若者も若者で田舎者だって馬鹿にされたりしないかってどうしても及び腰になるんですから、なかなか言い出す事はできないのが現状だと思いますよ」
「そうなのですか……」とまた新たに目から鱗が落ちる。
自分は元々ランティス王国首都メルクードに住み、父親が騎士団員であった事もあり、その進路は当たり前の事のように受け止めていたが、そう言われてしまうと、確かにランティスの騎士団も地方から来て騎士団員として働いている者は稀だった気がする。
「なんだか勿体ないですね。やる気がある者がいるなら、やらせてあげればいいのに」
「そう思うならあんたが拾ってやればいい。あんたの今の身分なら、そういう奴等をいくらでも拾い上げてやれるでしょう?」
「私が、ですか? 確かにうちの騎士団に入れてあげる事はできるかもしれませんが、親御さんの説得まではできませんからねぇ」
「そこは本人に任せておけばいい、そういう事ではなく、田舎者でもやっていく事ができると思えるような土壌作りですよ。どうしたってこちらは気後れするんですから、そこを上手く拾っていけば、あの馬鹿みたいに人手不足に泣く事もない」
「あの馬鹿って、もしかして陛下の事ですか?」
エドワードの辛辣な言葉に少し苦笑してしまうのだが、エドワードの表情は変わらない。
「他に誰がいるよ、人手が足りない人手が足りないっていつも言ってるけど、増やす努力をしていないんだから増えるわけがない。あの人、自分の周りは優秀なので固めてるから何でもできる気になってるけど、結局一人一人の負担が大きいだけで苦労を分配するという事をしない。そんなの潰れる奴が出てくるの当たり前でしょう。で、一人抜けただけでも大打撃だ、そういう所が馬鹿だって言うんですよ」
「まぁ、今はそんな細かい所見てる余裕がないのも分かってるけどな……」とエドワードは零すようにそう言った。
「エディ君は陛下の事をよく分かっているのですねぇ」
「これでも10年以上親父としてあいつを見てきましたからね、あいつができる男だって事は分かっているんですよ、それでも手駒みたいに扱われるのは腹が立つというか、なんというか……」
「エディ君は陛下に自分は一人前だと認めてもらいたいのですねぇ」
「そう思われるのもなんか腹立つ、俺はあいつに勝ちたいんですよ。なんだかんだでいつも手の内で踊らされてるのが、どうにも我慢ならない。いつか、お前には敵わないと言わせるのが俺の目標です」
エドワードのその言葉に笑ってしまう。
「なんで笑うんですか。俺じゃあいつに敵わないとでも思ってるんですか!」
「いえいえ、そうではなく、微笑ましいなぁと思って」
口では悪態を吐きながらも父親であるブラックの事を認めている彼が、本当は父親のことが大好きなのだと分かってしまう。
「微笑ましいってなんですか、馬鹿にしてるんですか!」
「そんな事ないですよ、私も応援しますし、できる事ならお手伝いさせていただきますので、いつでも言ってください」
笑いながら言ったナダールのその言葉に、やはりエドワードは少し憮然とした表情を見せたのだが「その時には是非お願いしますよ」とそう言った。
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