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運命に花束を②
運命と母親①
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グノーからの手紙を読んで、改めて一緒に置かれたノートを手に取った。
その最初のページを開くと、その日付は2カ月半程前、自分がルーンに赴任して半月程の日付から始まっていた。
その内容はとても他愛のない物だ、子供達と買い物に行った、誰それが遊びに来た、今日はこれが無くなったから、明日はこれを買いに行かなければ……とそんな日常の様子で最初の頃は埋め尽くされている。
「ん?」
だが、日記を付け始めて一週間目辺りだろうか『寝付きが悪くなっている』『食欲がない』そんな言葉が並び始め、そしてその週の最後……
「鏡が怖い?」
今までグノーと暮らしてきて、彼がそんな事を言った事は一度もなかったし、そんな素振りを見せた事もない、なのにそこにははっきり『鏡が怖い』とそう記されていた。
『鏡が怖い。また髪を伸ばそうか……でも、迷う。こんな事でいちいち動揺していたら駄目だ、強くならなきゃ』
『あの人に似たこの顔、本当に嫌だ。怖い』
『ルイが大事だ、子供達が一番大事。こんな事じゃ駄目だ、もう忘れろ……』
二週目辺りではそんな言葉が次々並び始め『鏡を割ってしまった……もう無理かな、ナダールに相談しようか。でもまだ一ヵ月しか経ってない、こんなんじゃこの先駄目になる。もう少し頑張る』これが隣家の女性が言っていた鏡の事件だと理解した。
『色々な事を忘れる事が増えてきた。ルイとユリに気付かれてないか心配だ』
『寝るのが怖い。あの人の顔がちらつく』
『食欲がない。でも2人にはちゃんと食べさせなきゃ、忘れちゃ駄目!』
二か月目から『あの人』という言葉が増えてきた。自分に似た顔と言っているので、これは恐らく母親の事で間違いないだろう。グノーは自分の顔を嫌っていた。自分を捨てた母親にそっくりなその顔をグノーが嫌悪している事はナダールも何度も聞いていた。
彼の母親はメリア王の王妃だった。3人の子を産み、最後の1人だけを溺愛した。
グノーは2番目の子供だったが、母親の愛情を恐らくほとんど知らないのだと思う。愛されていた時分もあったようだが、その頃の彼は幼く、彼は母の愛を覚えてはいない、向けられたのは憎悪の言葉と拒絶だった。
グノーは彼女の事を多くは語らない、思い出したくもないし、そもそもそれほど覚えてもいないとそう言っていた。
『指輪を無くしたと思ったら、ここにあった。もうしまってる事も忘れてる、駄目だな。指に嵌めてみたらスカスカで、これじゃあナダールに怒られる、今日はちゃんと食べないと、こんな姿見せられないな。それにしても、俺、だんだんあの人に似てきたみたいだ、嫌だ……怖い』
『寝られない、怖い。ナダールに会いたい』
その頃の日記は『怖い』と『会いたい』の繰り返しだった。
そんな事一言も言いやしなかったのに、言ってくれたら飛んで帰ってきたのに……何に怯えているのかもその文章からは読み解けなくて頭を抱える。ただ、この日記を読む限りキーワードは『母親』なのだとなんとなく理解した。
『ルイに自分が重なる。ルイは俺じゃない。分かっているのに、怖い』
『あの人の事なんて分かりたくもないのに、どんどん自分の中に入ってくるみたいだ、もう嫌だ……』
終わりに近付くにつれ日常風景の描写はなくなり、グノーの心の闇が広がっているのが分かる。その後はずっと『会いたい、会いたい』という言葉が続いており、心が締め付けられるようだった。
『明日、城に子供達を連れて行く。少しの間子供達を王妃様に預けようと思う。このままじゃ自分が何をするか分からない。もう無理だ……』
そして、そこで日記は終わっていた。
零れるように息を吐いて、そのノートと手紙を持っていく荷物と纏めて鞄に詰め込んだ。
やはり無理矢理にでも連れて行けば良かったのだ。ルイに反対されても、諭す方法は幾らでもあったはずだ、だがあの時は自分自身もいっぱいいっぱいでそこまで気が回らなかった。
それにしてもグノーは何故ここまで追い詰められていて、一言の相談も私にしてくれなかったのだろう。せめてもう少し早くブラックにでも泣きついていてくれれば……そう思った瞬間、彼がそんな事をできない人間だという事を誰よりも知っているのは自分ではないかと首を振った。だから目も離せず、ずっと傍にいると誓ったはずだったのに……
ムソンまでの道程を皆で一緒にと思っていたのだが、日記を読んで別行動を取る事に決めた。
カズイとカズサに子供達をお願いして、ルイとユリウスには「ちゃんと言う事を聞くように」と頭を撫でたのだが、ユリウスは、あまり理解はしていないようで「パパとママは?」と不安気な表情を見せる。
だが、自分達は後から行く事を告げると素直な彼は納得したのか笑みを見せた。その一方、娘のルイは何やらずっと神妙な顔をしている。
「ママあんななのに、本当に大丈夫?」
ルイはグノーがああなってしまったのは自分のせいだと己を責めているようで、泣きたいのを堪えるような表情でこちらを見上げていた。
「大丈夫ですよ。ちゃんとパパが連れて行きます。ルイはお姉ちゃんだから、ユリの事、見ていてあげてくださいね」
やはり泣きそうな表情のままなのだが、ルイはこっくり頷いた。
彼女は聡い子だ、恐らく何かが起こっている事を察している、けれどその責任は彼女にはないのだという事をまだ理解はしていない。
ナダールは膝を折ってルイの瞳を覗き込む、自分によく似た碧い瞳が潤んでいる。
「ルイ、自分を責めてはいけません。今回の事はあなたの責任ではありません、誰のせいでもないのです。ママは頑張り屋で少し頑張りすぎて疲れてしまっただけ、だからルイのせいだと思うのだけは止めてください。これがルイのせいだと言うのなら、大元の原因を作ったのはこの私、パパの責任です。ルイやユリには申し訳ないですが、少しだけ我慢をお願いします」
「我慢……?」
「はい、辛いかもしれませんがしばらくママをそっとしておいて欲しいのです。出来ますか?」
「ルイが我慢したら、ママ良くなる?」
「えぇ、きっとすぐに良くなりますよ」
「……ルイ、我慢する。我慢できる」
娘はそう言って弟の手を握った。
「ルイ、ユリと一緒にいい子にしてる」
「う?」
ユリウスはやはりよく分かっていない顔できょとんとするのだが、ルイは更にその手をぎゅっと握って頷いた。
私はそんな2人の頭を撫でる。幼い我が子に無理を強いている、それは分かっているが今はどうする事もできない。
「行ってください、すぐに追いかけます」
カズイとカズサに子供達を預けて踵を返しグノーの元へと足を運ぶ。彼を迎えに行くと、出かける準備は整っているようだったが、彼はベッドに腰掛けぼんやりしていた。
ナダールが部屋に入って来た事に気が付くと、彼は嬉しそうに笑顔を見せた。
「あれ? カズイとカズサは?」
「荷物を持って先行してくれていますよ、行けますか?」
その言葉にグノーは頷く。
カズイとカズサの2人の事は覚えているようだが、子供達に関する言及がない。
あえて聞かないのか、忘れてしまっているのか分からなかったが、そこを尋ねる事はしなかった。
「あなたとこうやって2人きりで出掛けるのは久しぶりですね」
「……そうだっけ?」
グノーはそう言って首を傾げた。
カサバラ渓谷までの道程を馬車か馬かで迷ったが、二人だけで話がしたかったので馬を選んだ。
グノーを抱えるようにして、ゆっくり馬を走らせていると、彼も安心したようにこちらに身を預けてきたので、少しほっとした。
「何か思い出した事はありますか?」
「ん~断片的に少しだけ。なんか俺達イリヤで一緒に戦ったりした?」
「武闘会の事ですかね。エディ君やクロードさんも一緒でしたね、2回戦はとても楽しかったです。他に誰がいたか覚えていますか?」
「カズイとカズサ、あとルークとサクヤ君かな? 変なメンバーだよな、なんでこんなメンツで戦ってたんだっけ? 他にもいた気がするけど、よく覚えてないや」
「騎士団の交流試合ですよ。あなたは飛び入り参加、カズイ達も一応騎士団員ですからね」
「そっか……うん、あれは楽しかった」
「他には? 何か思い出したりはしていませんか?」
「夢っぽいのを、薄ぼんやり……」
そう言って彼は瞳を細めた。
「夢っぽい?」
「なんか俺、変な衣装着せられて、お前に持ち上げられてた」
「変な衣装? 鈴の付いたベールですか?」
「そう、それ! 夢じゃねぇの?」
「それなら夢ではありませんよ。それはあなたと私の結婚式です」
「結婚式!? えっ、どこで? いつ?」
「ムソンの広場で、一年くらい前ですよ。覚えていてくれて嬉しいです」
笑ってそう言うと「これは本気で夢だと思ってたのに……」と彼は顔を真っ赤に染めて俯いた。
「でも、これが現実となると、もうひとつはどうなんだろ? さすがにこれは本当に夢だと思うんだけど」
「なんですか?」
「俺、なんか小さな子供に『ママ』って呼ばれてた」
「産めるわけないのにな……」と自嘲するように笑うグノーに、どんな表情を見せていいか分からない。
「その子達、髪の色も俺とお前にそっくりでさ。俺だって男なんだから呼ばれるなら『パパ』だろうに、なんでか『ママ』なんだよな。お前の子供欲しすぎて、変な妄想が夢になって現れたのかな……」
「その子供達の名前を、覚えていますか?」
「名前? ……えっと、なんだっけ? ちょっとそこまで覚えてないかな」
「でも夢だろ?」と首を傾げる彼に、子供達の名前を告げる。
「俺達、そんな話した事あったっけ? 子供の名前まで決めてるって、夢見すぎだよな、はは」
「夢ではありませんよ。彼等は本当に私達2人の子供です」
「え……?」
「完全に忘れてしまっている訳ではないのですね、安心しました」
「え? 何? なんの冗談?」
馬を止めて、本気で戸惑っている風のグノーの頭を撫でる。
「2人の子供は私達の実の子です。あなたがお腹を痛めて産んだんですよ」
「馬鹿言え、俺が産めるわけないだろ。俺、男だぞ」
「あなたは『男性Ω』です。Ωという性は男女の性差は関係なく、子供を産めます。そして、あなたは私の子供を産んでくれたのですよ」
「男性Ω……?」
彼が戸惑っているのがありありとその表情から見てとれる。
「今、あなたは私の匂いを感じてはいませんか?」
「……匂い?」
「そうです、私にはあなたの匂いが分かりますよ。不思議と少し匂いが薄くなっている気がしますが、あなたからはいつでもいい匂いがする」
項に鼻を寄せるようにしてその匂いを嗅ぐと、彼は少し擽ったそうに身を捻った。
「あなたの匂いが薄いのは薬のせいかと思っていたのですけど、何か記憶と一緒に封じてしまっているのでしょうかね?」
「お前が何を言ってるのか、分からない」
「分からない事、ないでしょう?」
言って、α特有のフェロモンを浴びせるように解放した。
途端にグノーの身体が硬直するようにびくりと震え、頬が紅潮する。
自分もずいぶんフェロモンのコントロールが上達したと思う。それは人より過剰なフェロモン量を有するグノーの薫りを隠すため、試行錯誤を繰り返した結果でもある。
最近はこうやってフェロモンの解放をするのは夜の睦言の間、彼を酔わせる時だけだ、彼の身体は無意識でそれに反応しているのだろう。
「なに? これ? やめ……んん……」
条件反射のように身体を震わせる彼に、これ以上は体力が落ちている現状では無理だと判断して、そのフェロモンを抑えると、その匂いの収束と共に彼はひとつ吐息を零した。
「ビックリした……」
「あなたと私は『運命の番』です。そんな2人の間では不可能だって可能になる、男性であるあなたは私と番って子を産んだ。奇跡のようですが、現実です」
私のその言葉にグノーはまた頬を染めて「そっか……」と呟き、自身の腹を撫でた。
「全然実感湧かないけど、なんか嬉しい。ふふ、子供、いるんだぁ……」
「あなたは2人をとても愛しているのに、何故忘れてしまうのでしょうね。誰よりも大事、宝物だとあなたはいつも言っていたのですよ」
「そうなんだ……? うん、でも分かる気がする。だって俺、お前の子供、産めるもんなら産みたいってそう思う」
話は話として受け入れはしたが、まだ、実感として子供がいるという事は理解していないのであろうグノーはそんな事を言う。
でも、例え子供を産めない体であったとしても、ナダールの子供を産みたいと思ってくれているその言葉が、なんだかとても嬉しくて、片手で彼を抱きしめた。
「一昨日まではちゃんとあなたも覚えていたのに、何でなのでしょうねぇ。一瞬記憶が抜け落ちたとは言っていましたが、ここまで綺麗に忘れてしまう程ではなかったのに……」
「そうなんだ……全然、思い出せない。なんでだろう?」
「それは私が聞きたいくらいですよ。何か心当たりはありませんか?」
腕の中で彼は力なく首を振る。
ナダールは意を決したようにグノーを抱えなおし、その瞳を覗き込んだ。
「あなたにひとつ聞きたい事があるのです」
「ん? なに?」
「これは本当にあなたはあまり思い出したくない事なのかもしれません。これを聞いて、もしかしたら嫌な気持ちになる事もあるのかもしれません、けれど私はあなたにお聞きしたい事があるのです。もし答えたくないようでしたら、答えなくても結構です、ですからひとつ聞いてもいいですか?」
「う~ん? 聞いてみないと、嫌な事なのかそうじゃないのかも分からない。勿体付けた話し方するな、何でも言え」
グノーの言葉に一度、呼吸を整える。何かを思い出すことで、錯乱しても対応できるようにだ。
「あなたの母親はどういう方だったのですか?」
「……母さま?」
彼は驚いたようにこちらを見上げ、きょとんとした表情はしても、それほど取り乱す様子もない。
「なんで今、あの人なんだ? 今のこの俺の状態となんか関係あるの?」
「たぶん、恐らく」
「そうなんだ……」と首を傾げるグノーだったが、その姿は拍子抜けするほど普通で、母親を怖がっている素振りも見えず、それが逆にとても不可解なくらいだ。
「母親とか言われても、俺、全然覚えてないからなぁ……」
少し考え込むようにして、グノーは首を振る。
「昨日、あなたの部屋でこれを見付けました」
ポケットから取り出した鎖の付いた指輪を手渡すと、彼の表情はぱっと輝く。
「俺の指輪! 良かった、あった」
「その指輪と一緒にあなたからの手紙と日記を見付けました。心当たりはありますか?」
「覚えてない、日記なんて今まで付けた事もないと思うけど」
受け取った指輪を大事そうに首から提げて、彼は首を傾げる。
「何が書いてあった?」
「自分はルイの事、子供達の事を忘れてしまうかもしれない。けれど、それは自分が弱いからだと書かれていました。そして『あの人が怖い』と何度も書かれていて、その『あの人』というのがたぶん恐らくあなたの母親の事だと思うのですよ」
「母さまを怖いって? そんな事……」
「思った事はないですか? 彼女が一体どんな方だったのか教えて貰ってもいいですか?」
「教えるも何も、ほとんど覚えてないのに……」
グノーは戸惑った様子でそう言った。
「前にも言った事あると思うけど、俺が物心付くか付かないかの頃、あの人城を出てるんだ。喋った記憶もほとんど無いし、話せるような思い出なんて何も……」
「その中でも覚えてる事とか……」
「ん~『汚らわしい血の子供は死ね』って言われた事はあったかな」
「なっ!」
驚いて、思わず彼の顔をまじまじと見詰めてしまった。だが、言った本人は別に動揺した様子もない。
「別に大した事じゃない。あの頃の俺の扱いなんて、誰も彼もそんな感じだった。言われた時は辛かった気もするけど、今はもう別に何も思わない。お前は絶対そんな事言わないしな」
「そんな事、言う訳ないでしょう!」
何事も無いような穏やかな笑みを見せて彼が笑うので、その身体を力一杯抱きしめた。
「痛いよ、ナダール手加減してくれ、骨折れる……泣いてるのか?」
「なんで私はその時あなたに出会っていなかったのでしょうね。本当に悔しくて仕方がないです!」
「お前だけだよ、そんな風に泣いてくれるの。ありがとな」
彼は伸び上がるようにしてキスをくれる。
今慰められる立場は自分の方ではないはずなのに、その瞳は穏やかでそれがまたとても悲しいのだ。
「私だけじゃないです! あなたを大事に想ってくれている人はたくさんいます、きっと彼等だって私と同じように思うはずです」
「そうかな? そうだといいなぁ……」と彼が綺麗に笑うので、また涙が零れた。
「泣くなよ、お前が泣くと俺まで泣けてくる。本当もう、大好きだよ」
そう言ってグノーは私の涙を拭ってくれる。
その後、もう私は彼にそれ以上母親の事を聞く事はできなかった。どのみち聞いた所で碌でもないエピソードしか出てこないとそう思ったからだ。
彼はとてもあっけらかんとしていたが、それがなんだか余計に悲しかった。
その最初のページを開くと、その日付は2カ月半程前、自分がルーンに赴任して半月程の日付から始まっていた。
その内容はとても他愛のない物だ、子供達と買い物に行った、誰それが遊びに来た、今日はこれが無くなったから、明日はこれを買いに行かなければ……とそんな日常の様子で最初の頃は埋め尽くされている。
「ん?」
だが、日記を付け始めて一週間目辺りだろうか『寝付きが悪くなっている』『食欲がない』そんな言葉が並び始め、そしてその週の最後……
「鏡が怖い?」
今までグノーと暮らしてきて、彼がそんな事を言った事は一度もなかったし、そんな素振りを見せた事もない、なのにそこにははっきり『鏡が怖い』とそう記されていた。
『鏡が怖い。また髪を伸ばそうか……でも、迷う。こんな事でいちいち動揺していたら駄目だ、強くならなきゃ』
『あの人に似たこの顔、本当に嫌だ。怖い』
『ルイが大事だ、子供達が一番大事。こんな事じゃ駄目だ、もう忘れろ……』
二週目辺りではそんな言葉が次々並び始め『鏡を割ってしまった……もう無理かな、ナダールに相談しようか。でもまだ一ヵ月しか経ってない、こんなんじゃこの先駄目になる。もう少し頑張る』これが隣家の女性が言っていた鏡の事件だと理解した。
『色々な事を忘れる事が増えてきた。ルイとユリに気付かれてないか心配だ』
『寝るのが怖い。あの人の顔がちらつく』
『食欲がない。でも2人にはちゃんと食べさせなきゃ、忘れちゃ駄目!』
二か月目から『あの人』という言葉が増えてきた。自分に似た顔と言っているので、これは恐らく母親の事で間違いないだろう。グノーは自分の顔を嫌っていた。自分を捨てた母親にそっくりなその顔をグノーが嫌悪している事はナダールも何度も聞いていた。
彼の母親はメリア王の王妃だった。3人の子を産み、最後の1人だけを溺愛した。
グノーは2番目の子供だったが、母親の愛情を恐らくほとんど知らないのだと思う。愛されていた時分もあったようだが、その頃の彼は幼く、彼は母の愛を覚えてはいない、向けられたのは憎悪の言葉と拒絶だった。
グノーは彼女の事を多くは語らない、思い出したくもないし、そもそもそれほど覚えてもいないとそう言っていた。
『指輪を無くしたと思ったら、ここにあった。もうしまってる事も忘れてる、駄目だな。指に嵌めてみたらスカスカで、これじゃあナダールに怒られる、今日はちゃんと食べないと、こんな姿見せられないな。それにしても、俺、だんだんあの人に似てきたみたいだ、嫌だ……怖い』
『寝られない、怖い。ナダールに会いたい』
その頃の日記は『怖い』と『会いたい』の繰り返しだった。
そんな事一言も言いやしなかったのに、言ってくれたら飛んで帰ってきたのに……何に怯えているのかもその文章からは読み解けなくて頭を抱える。ただ、この日記を読む限りキーワードは『母親』なのだとなんとなく理解した。
『ルイに自分が重なる。ルイは俺じゃない。分かっているのに、怖い』
『あの人の事なんて分かりたくもないのに、どんどん自分の中に入ってくるみたいだ、もう嫌だ……』
終わりに近付くにつれ日常風景の描写はなくなり、グノーの心の闇が広がっているのが分かる。その後はずっと『会いたい、会いたい』という言葉が続いており、心が締め付けられるようだった。
『明日、城に子供達を連れて行く。少しの間子供達を王妃様に預けようと思う。このままじゃ自分が何をするか分からない。もう無理だ……』
そして、そこで日記は終わっていた。
零れるように息を吐いて、そのノートと手紙を持っていく荷物と纏めて鞄に詰め込んだ。
やはり無理矢理にでも連れて行けば良かったのだ。ルイに反対されても、諭す方法は幾らでもあったはずだ、だがあの時は自分自身もいっぱいいっぱいでそこまで気が回らなかった。
それにしてもグノーは何故ここまで追い詰められていて、一言の相談も私にしてくれなかったのだろう。せめてもう少し早くブラックにでも泣きついていてくれれば……そう思った瞬間、彼がそんな事をできない人間だという事を誰よりも知っているのは自分ではないかと首を振った。だから目も離せず、ずっと傍にいると誓ったはずだったのに……
ムソンまでの道程を皆で一緒にと思っていたのだが、日記を読んで別行動を取る事に決めた。
カズイとカズサに子供達をお願いして、ルイとユリウスには「ちゃんと言う事を聞くように」と頭を撫でたのだが、ユリウスは、あまり理解はしていないようで「パパとママは?」と不安気な表情を見せる。
だが、自分達は後から行く事を告げると素直な彼は納得したのか笑みを見せた。その一方、娘のルイは何やらずっと神妙な顔をしている。
「ママあんななのに、本当に大丈夫?」
ルイはグノーがああなってしまったのは自分のせいだと己を責めているようで、泣きたいのを堪えるような表情でこちらを見上げていた。
「大丈夫ですよ。ちゃんとパパが連れて行きます。ルイはお姉ちゃんだから、ユリの事、見ていてあげてくださいね」
やはり泣きそうな表情のままなのだが、ルイはこっくり頷いた。
彼女は聡い子だ、恐らく何かが起こっている事を察している、けれどその責任は彼女にはないのだという事をまだ理解はしていない。
ナダールは膝を折ってルイの瞳を覗き込む、自分によく似た碧い瞳が潤んでいる。
「ルイ、自分を責めてはいけません。今回の事はあなたの責任ではありません、誰のせいでもないのです。ママは頑張り屋で少し頑張りすぎて疲れてしまっただけ、だからルイのせいだと思うのだけは止めてください。これがルイのせいだと言うのなら、大元の原因を作ったのはこの私、パパの責任です。ルイやユリには申し訳ないですが、少しだけ我慢をお願いします」
「我慢……?」
「はい、辛いかもしれませんがしばらくママをそっとしておいて欲しいのです。出来ますか?」
「ルイが我慢したら、ママ良くなる?」
「えぇ、きっとすぐに良くなりますよ」
「……ルイ、我慢する。我慢できる」
娘はそう言って弟の手を握った。
「ルイ、ユリと一緒にいい子にしてる」
「う?」
ユリウスはやはりよく分かっていない顔できょとんとするのだが、ルイは更にその手をぎゅっと握って頷いた。
私はそんな2人の頭を撫でる。幼い我が子に無理を強いている、それは分かっているが今はどうする事もできない。
「行ってください、すぐに追いかけます」
カズイとカズサに子供達を預けて踵を返しグノーの元へと足を運ぶ。彼を迎えに行くと、出かける準備は整っているようだったが、彼はベッドに腰掛けぼんやりしていた。
ナダールが部屋に入って来た事に気が付くと、彼は嬉しそうに笑顔を見せた。
「あれ? カズイとカズサは?」
「荷物を持って先行してくれていますよ、行けますか?」
その言葉にグノーは頷く。
カズイとカズサの2人の事は覚えているようだが、子供達に関する言及がない。
あえて聞かないのか、忘れてしまっているのか分からなかったが、そこを尋ねる事はしなかった。
「あなたとこうやって2人きりで出掛けるのは久しぶりですね」
「……そうだっけ?」
グノーはそう言って首を傾げた。
カサバラ渓谷までの道程を馬車か馬かで迷ったが、二人だけで話がしたかったので馬を選んだ。
グノーを抱えるようにして、ゆっくり馬を走らせていると、彼も安心したようにこちらに身を預けてきたので、少しほっとした。
「何か思い出した事はありますか?」
「ん~断片的に少しだけ。なんか俺達イリヤで一緒に戦ったりした?」
「武闘会の事ですかね。エディ君やクロードさんも一緒でしたね、2回戦はとても楽しかったです。他に誰がいたか覚えていますか?」
「カズイとカズサ、あとルークとサクヤ君かな? 変なメンバーだよな、なんでこんなメンツで戦ってたんだっけ? 他にもいた気がするけど、よく覚えてないや」
「騎士団の交流試合ですよ。あなたは飛び入り参加、カズイ達も一応騎士団員ですからね」
「そっか……うん、あれは楽しかった」
「他には? 何か思い出したりはしていませんか?」
「夢っぽいのを、薄ぼんやり……」
そう言って彼は瞳を細めた。
「夢っぽい?」
「なんか俺、変な衣装着せられて、お前に持ち上げられてた」
「変な衣装? 鈴の付いたベールですか?」
「そう、それ! 夢じゃねぇの?」
「それなら夢ではありませんよ。それはあなたと私の結婚式です」
「結婚式!? えっ、どこで? いつ?」
「ムソンの広場で、一年くらい前ですよ。覚えていてくれて嬉しいです」
笑ってそう言うと「これは本気で夢だと思ってたのに……」と彼は顔を真っ赤に染めて俯いた。
「でも、これが現実となると、もうひとつはどうなんだろ? さすがにこれは本当に夢だと思うんだけど」
「なんですか?」
「俺、なんか小さな子供に『ママ』って呼ばれてた」
「産めるわけないのにな……」と自嘲するように笑うグノーに、どんな表情を見せていいか分からない。
「その子達、髪の色も俺とお前にそっくりでさ。俺だって男なんだから呼ばれるなら『パパ』だろうに、なんでか『ママ』なんだよな。お前の子供欲しすぎて、変な妄想が夢になって現れたのかな……」
「その子供達の名前を、覚えていますか?」
「名前? ……えっと、なんだっけ? ちょっとそこまで覚えてないかな」
「でも夢だろ?」と首を傾げる彼に、子供達の名前を告げる。
「俺達、そんな話した事あったっけ? 子供の名前まで決めてるって、夢見すぎだよな、はは」
「夢ではありませんよ。彼等は本当に私達2人の子供です」
「え……?」
「完全に忘れてしまっている訳ではないのですね、安心しました」
「え? 何? なんの冗談?」
馬を止めて、本気で戸惑っている風のグノーの頭を撫でる。
「2人の子供は私達の実の子です。あなたがお腹を痛めて産んだんですよ」
「馬鹿言え、俺が産めるわけないだろ。俺、男だぞ」
「あなたは『男性Ω』です。Ωという性は男女の性差は関係なく、子供を産めます。そして、あなたは私の子供を産んでくれたのですよ」
「男性Ω……?」
彼が戸惑っているのがありありとその表情から見てとれる。
「今、あなたは私の匂いを感じてはいませんか?」
「……匂い?」
「そうです、私にはあなたの匂いが分かりますよ。不思議と少し匂いが薄くなっている気がしますが、あなたからはいつでもいい匂いがする」
項に鼻を寄せるようにしてその匂いを嗅ぐと、彼は少し擽ったそうに身を捻った。
「あなたの匂いが薄いのは薬のせいかと思っていたのですけど、何か記憶と一緒に封じてしまっているのでしょうかね?」
「お前が何を言ってるのか、分からない」
「分からない事、ないでしょう?」
言って、α特有のフェロモンを浴びせるように解放した。
途端にグノーの身体が硬直するようにびくりと震え、頬が紅潮する。
自分もずいぶんフェロモンのコントロールが上達したと思う。それは人より過剰なフェロモン量を有するグノーの薫りを隠すため、試行錯誤を繰り返した結果でもある。
最近はこうやってフェロモンの解放をするのは夜の睦言の間、彼を酔わせる時だけだ、彼の身体は無意識でそれに反応しているのだろう。
「なに? これ? やめ……んん……」
条件反射のように身体を震わせる彼に、これ以上は体力が落ちている現状では無理だと判断して、そのフェロモンを抑えると、その匂いの収束と共に彼はひとつ吐息を零した。
「ビックリした……」
「あなたと私は『運命の番』です。そんな2人の間では不可能だって可能になる、男性であるあなたは私と番って子を産んだ。奇跡のようですが、現実です」
私のその言葉にグノーはまた頬を染めて「そっか……」と呟き、自身の腹を撫でた。
「全然実感湧かないけど、なんか嬉しい。ふふ、子供、いるんだぁ……」
「あなたは2人をとても愛しているのに、何故忘れてしまうのでしょうね。誰よりも大事、宝物だとあなたはいつも言っていたのですよ」
「そうなんだ……? うん、でも分かる気がする。だって俺、お前の子供、産めるもんなら産みたいってそう思う」
話は話として受け入れはしたが、まだ、実感として子供がいるという事は理解していないのであろうグノーはそんな事を言う。
でも、例え子供を産めない体であったとしても、ナダールの子供を産みたいと思ってくれているその言葉が、なんだかとても嬉しくて、片手で彼を抱きしめた。
「一昨日まではちゃんとあなたも覚えていたのに、何でなのでしょうねぇ。一瞬記憶が抜け落ちたとは言っていましたが、ここまで綺麗に忘れてしまう程ではなかったのに……」
「そうなんだ……全然、思い出せない。なんでだろう?」
「それは私が聞きたいくらいですよ。何か心当たりはありませんか?」
腕の中で彼は力なく首を振る。
ナダールは意を決したようにグノーを抱えなおし、その瞳を覗き込んだ。
「あなたにひとつ聞きたい事があるのです」
「ん? なに?」
「これは本当にあなたはあまり思い出したくない事なのかもしれません。これを聞いて、もしかしたら嫌な気持ちになる事もあるのかもしれません、けれど私はあなたにお聞きしたい事があるのです。もし答えたくないようでしたら、答えなくても結構です、ですからひとつ聞いてもいいですか?」
「う~ん? 聞いてみないと、嫌な事なのかそうじゃないのかも分からない。勿体付けた話し方するな、何でも言え」
グノーの言葉に一度、呼吸を整える。何かを思い出すことで、錯乱しても対応できるようにだ。
「あなたの母親はどういう方だったのですか?」
「……母さま?」
彼は驚いたようにこちらを見上げ、きょとんとした表情はしても、それほど取り乱す様子もない。
「なんで今、あの人なんだ? 今のこの俺の状態となんか関係あるの?」
「たぶん、恐らく」
「そうなんだ……」と首を傾げるグノーだったが、その姿は拍子抜けするほど普通で、母親を怖がっている素振りも見えず、それが逆にとても不可解なくらいだ。
「母親とか言われても、俺、全然覚えてないからなぁ……」
少し考え込むようにして、グノーは首を振る。
「昨日、あなたの部屋でこれを見付けました」
ポケットから取り出した鎖の付いた指輪を手渡すと、彼の表情はぱっと輝く。
「俺の指輪! 良かった、あった」
「その指輪と一緒にあなたからの手紙と日記を見付けました。心当たりはありますか?」
「覚えてない、日記なんて今まで付けた事もないと思うけど」
受け取った指輪を大事そうに首から提げて、彼は首を傾げる。
「何が書いてあった?」
「自分はルイの事、子供達の事を忘れてしまうかもしれない。けれど、それは自分が弱いからだと書かれていました。そして『あの人が怖い』と何度も書かれていて、その『あの人』というのがたぶん恐らくあなたの母親の事だと思うのですよ」
「母さまを怖いって? そんな事……」
「思った事はないですか? 彼女が一体どんな方だったのか教えて貰ってもいいですか?」
「教えるも何も、ほとんど覚えてないのに……」
グノーは戸惑った様子でそう言った。
「前にも言った事あると思うけど、俺が物心付くか付かないかの頃、あの人城を出てるんだ。喋った記憶もほとんど無いし、話せるような思い出なんて何も……」
「その中でも覚えてる事とか……」
「ん~『汚らわしい血の子供は死ね』って言われた事はあったかな」
「なっ!」
驚いて、思わず彼の顔をまじまじと見詰めてしまった。だが、言った本人は別に動揺した様子もない。
「別に大した事じゃない。あの頃の俺の扱いなんて、誰も彼もそんな感じだった。言われた時は辛かった気もするけど、今はもう別に何も思わない。お前は絶対そんな事言わないしな」
「そんな事、言う訳ないでしょう!」
何事も無いような穏やかな笑みを見せて彼が笑うので、その身体を力一杯抱きしめた。
「痛いよ、ナダール手加減してくれ、骨折れる……泣いてるのか?」
「なんで私はその時あなたに出会っていなかったのでしょうね。本当に悔しくて仕方がないです!」
「お前だけだよ、そんな風に泣いてくれるの。ありがとな」
彼は伸び上がるようにしてキスをくれる。
今慰められる立場は自分の方ではないはずなのに、その瞳は穏やかでそれがまたとても悲しいのだ。
「私だけじゃないです! あなたを大事に想ってくれている人はたくさんいます、きっと彼等だって私と同じように思うはずです」
「そうかな? そうだといいなぁ……」と彼が綺麗に笑うので、また涙が零れた。
「泣くなよ、お前が泣くと俺まで泣けてくる。本当もう、大好きだよ」
そう言ってグノーは私の涙を拭ってくれる。
その後、もう私は彼にそれ以上母親の事を聞く事はできなかった。どのみち聞いた所で碌でもないエピソードしか出てこないとそう思ったからだ。
彼はとてもあっけらかんとしていたが、それがなんだか余計に悲しかった。
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