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運命に花束を②
運命の武闘会その後①
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武闘会という名の盛大な祭りが終わり三日、ナダールはぼんやりと呆けていた。
武闘会直後の一週間は、本来部署の変更や引継ぎに当てられている一週間なのだが、元々どこにも所属していなかった新入りのナダールは何もする事がなかったのだ。
「騎士団長の仕事って一体何をするのでしょうかね?」
「俺が知るかよ、第三騎士団長にでも聞け。仲良くなったんだろ?」
自宅に帰宅しグノー相手に、そんな話題ををふったところで当然騎士団長の仕事がどんなものなのかなど分かるはずもなく、返答はけんもほろろだ。
「まぁ、多少は仲良くなりましたけど、そうは言っても皆忙しそうで話しかけられる雰囲気ではないんですよねぇ」
それでも毎日騎士団の詰所には顔を出しているのだ、騎士団長として部屋も準備されはしたのだが、未だ誰が自分の下に付くのかも分からず、特に何の指令も下りてはこない。
どうにも手持ち無沙汰のナダールは、足を怪我しているにも関わらずうろうろしては「大人しくしていてください」と道行く兵卒にたしなめられていた。
「こんな何もしないで賃金なんて貰っていたら給料泥棒ですよ」
「まぁ、団長なんてのはどっしり構えてるのも仕事のうちなんじゃないのか?」
「それは何だかいたたまれません」
少々ワーカホリックの気のあるナダールは仕事が無いという状況がどうにも落ち着かない様子で、溜息を零す。
出勤しても仕事はないし、日がな一日ぼんやりしているので家に帰っても落ち着かない。
先日まで朝から晩まで働き通し働いていたのだから、休暇だと思ってのんびりすればいいのにとグノーは思うのだが、ナダール的にはそうはいかないらしい。
そんな時に家の扉がどんどんと乱暴に叩かれて、何事かとその扉を開けると、そこには不機嫌そうな一人の大男が立っていた。
「あれ? スタールじゃん。どうした、こんな時間に」
グノーが小首を傾げてそう言うと、彼は不機嫌丸出しの顔を隠そうともせず「旦那はいるか?」とこちらを睨んだ。
「いるけど……何?」
どうにも様子がおかしいので、グノーが躊躇っていると「どうしました?」とナダールもひょこひょこと足を引き摺るように玄関に顔を出す。
スタールの顔を見て些か驚いた様子のナダールだったが、それでも笑みを見せて「いらっしゃい」と彼を家へと招きいれた。
「私に何か御用でしたか? 何かありましたか?」
「用も何も、お前なんで俺を第三騎士団から引き抜いた!」
「え?」
家に上がると同時にそう喚かれて、何の事やらと首を傾げてしまう。
「今日、希望も出してないのに急に辞令が下りた。納得がいかなくて団長に詰め寄ったら、お前がそう言ったからって言われたぞ!」
「え……あ? あぁ、あれそういう意味だったんですか?」
「何か言われたのか?」
スタールの剣幕にグノーも戸惑う。
「大会の後の宴の席で『仲が良い人間はいるのか?』と聞かれたので『スタールとは仲良くやれそうな気がする』とは答えましたね」
「俺は第三騎士団が気に入ってんだ! さっさと取り下げて来い!」
「えぇ~そんな事を言われても、それは一体誰に決定権があって、誰に言えばいいんでしょう?」
「俺が知るかっ!」
スタールはどうにも納得がいかない! と怒り心頭だ。
「そんなに怒らないで、いっそ私の下で働いてみるっていうのはどうですか? 私、あなたが居ると心強いんですけどねぇ」
「あぁ? 第三騎士団の奴等以上に強い奴が居るっていうなら考えてやらんでもないが、どうせお前が団長の騎士団なんて太平楽な人間の集まりになるのが関の山だ」
「……酷い言われようです……」
ナダールがその言葉に苦笑しているその時、また家の扉が叩かれる。
「今日は千客万来だな。はいは~い、開いてるよぉ」
グノーがそう言って扉を開けると「お邪魔するよ」と入って来たのはムソンの民、ナダールの友人でもあるカズイだった。
「あぁ、カズイでしたか、こんばんは」
「すまんな遅い時間に、少し話しがあってな。スタールもいるなら丁度いい、ちょっといいか?」
そう言ってカズイも話の輪の中に加わってくる。
「俺が居て丁度いいってのは何の話だ? 俺はあんた等と一切関わり合いはないはずだが?」
「辞令が下りただろう? まだ聞いていないか?」
「聞いてるよ、俺はそれでこいつに文句をつけに来てんだ!」
「なんだ、そうなのか?」
「えぇ、そうなんです。私の下で働くのは嫌なんだそうですよ」
「そうか……悪い話ではないと思ったんだがな」
「あぁ!?」
「詳細はすべて聞いているんだろう?」
「詳細? 何の事だ?」
喧嘩腰のスタールにカズイは淡々と話し続ける。
「聞いてないのか……スタール・ダントン、あんたは今回ナダールに一回戦で負けただろう、だから本来ならば一番下、兵卒に落ちるはずだったんだ。だが、ナダールがあんたを欲しいと言ったから急遽、班長扱いに格上げされたんだよ。戦った相手も悪かった上に、二回戦は目に見えて活躍していたからな。班長とは言っても扱い的には分団長扱いで、お前が第二騎士団に来るのであれば、お前の配下はそっくり全員第二騎士団に転属の予定だったんだが、本人が嫌がっているのなら仕方がないな……」
「聞いてねぇぞ……」
「どうせあなたの事ですから、そこまで聞かずにアインさんに詰め寄ったんじゃないですか?」
スタールはぐっと言葉に詰まる。
「まぁ、ならば仕方がない。最初の予定通り、勤務希望のあった者だけ第二騎士団へ転属させるか。ちなみにスタール、あんたが二回戦にこちらへ連れてきた者達は半数程こちらに転属願いを出しているぞ。残りはお前に付いて行くと言っていたから丁度いいと思っていたのだがな。あと、第三騎士団に残るのなら兵卒落ちはそのままだ、他の者に示しがつかないからな」
「……っ、なんであんたがそんな上から目線で配属に口出してんだよっ!」
「仕方あるまい、それが俺達の仕事なのだから」
「黒の騎士団ってのは、そんな仕事までやんのかよっ」
「基本的には何でもやると言っただろう? ボス一人ではどうしても全員分は配しきれない、細かい分配作業は俺達の仕事だ」
ぐぐぅ……とスタールは更に言葉に詰まり、考え込むように腕を組んだ。
「あとな、ナダール。黒の騎士団はお前の管轄に入る事になった」
「え?」
「王直属なのに変わりはないんだが、ボス自身が動きにくくなった分をお前が俺達を使って補えという事らしい。ボスの命令で俺達は動くが、その細かい指示はお前が出せという形だな。基本的には有事のみの事となると思うが、そんな話が進んでいるというのも耳に入れておきたくてな」
「はぁ……」とナダールは分かったのか分からないのかよく分からない返事をして、首を傾げた。
「それはあれだな、黒の騎士団がナダールの下に付いたと言うよりは、ナダールが黒の騎士団に組み込まれたって言うのが正しそうだな」
グノーは「また面倒くさい事に……」と溜息を零す。
「どういう事ですか?」
「黒の騎士団は基本的に表には出てこないだろ? その表部分をお前がやれって事だよ。その為に必要ならカズイ達を自由に使っていいけど、あくまで主命令はブラックが出すってこと。だから言ってしまえばお前はブラック直属の騎士団長って事だ。あいつの無茶振りの嵐が今から目に見えるようだな」
「それはまた、ずいぶんな重責ですねぇ……」
ナダールが困ったように苦笑している傍らで「分かった……」と腕を組んで考え込んでいたスタールがぼそりと呟いた。
「ん?」とナダールがそちらを見やると、スタールは苦虫を噛み潰したような顔をしているのだが、もう一度はっきりと「分かったよ」とそう言った。
「何が分かったんです?」
「了承したって意味だよ。入ってやろうじゃねぇか、第二騎士団に! だがな、俺が入ったからにはお前みたいな太平楽な騎士団になんてしねぇからな、配下はビシバシ指導するから、後で後悔するなよ!」
「私、そういうの苦手なので助かります」
ナダールはへらっと笑い、スタールはがくっと肩を落とす。
「お前のその気の抜けた顔がだなぁ……いや、もういい。俺は俺でやるだけだ。そうと決まったら、俺、団長に挨拶に行ってくるわ、邪魔したな」
そう言ってスタールは踵を返し、来た時同様嵐のように去って行った。
なんというかちぐはぐした二人だが、感触的には悪くない。これでいて上手くいくかも知れないな、とカズイは二人のやりとりを見てそう思った。
「二・三日中にはお前の所に配属が決まった者達が挨拶に来るだろうから楽しみに待っていろ。言っても副団長も今回昇進した者ばかりだし、まだどんな騎士団になるのか全く分からんがな。そこはお前が纏め上げるんだぞ」
「怖いですねぇ……」
「お前ならできるさ」
笑って「今日の話しはそれだけだ」とカズイも家を去って行き、残されたナダールとグノーは顔を見合わせる。
「緊張して胃が痛くなってきました……」
「……別に辞めてもいいんだからな?」
「一度は中途半端に放り出して反省しているんです、今回はそんな事はしたくないですね」
「そっか、それなら弱音なんか吐かずに頑張れよ」
そうは言っても程々にな、とグノーは笑みを見せ、それに笑顔で返してナダールも頑張りますと小さく拳を握った。
「あ……そういえば言ってた約束の剣だけどな、来月には出来るから」
「出来る?」
グノーのその突然の言葉にナダールは首を傾げる。
「今日、第三騎士団長の所行って、約束通り手合わせしてきたんだけどさ、そのついでにどっかいい店教えてくれよって言ったら、腕の良い職人教えてくれてなぁ」
「職人?」
「そう、刀鍛冶って奴さ。やっぱり最初は女に作ってやる剣なんぞねぇ! って追い払われそうになったんだけど、どうにか説得して了承させた」
「説得って……あなたまた何か手荒な真似をしたんじゃないでしょうねぇ?」
「ん~? してない、してない。最終的にはお前にやるもんだって言ったら一も二もなく快諾したよ。刀鍛冶の親父もお前の試合見てたみたいで、そういう事なら先に言えってさ、聞く耳持たなかったのどっちだよって話だよなぁ」
呆れたように溜息を吐くグノーだが、その職人とグノーとのやり取りが目に浮かぶようで苦笑した。
「冗談抜きで親父腕は良さそうだったから、俺も一振り欲しかったんだけど、そこだけは頑固に譲らなくってなぁ……お前からも言ってやってくれよ、あの親父お前の言う事なら聞きそうな雰囲気だったし」
「そうなんですか? だったら一緒に取りに行って、その時にお願いしてみましょうかね。あなたへのご褒美も保留になったままですし、ちょうどいい。楽しみですね」
そう言ってナダールは笑顔を見せ「あれ? そう言えば……」と首を傾げる。
「アインさんと手合わせしたんですよね? どうでしたか?」
「ふふん、俺の圧勝に決まってんじゃん。舐めてかかるから痛い目見るんだ、力任せの武闘馬鹿はどいつもこいつも一緒だな」
グノーは、それは楽しそうに笑い「それは参考までに見てみたかったですねぇ」とナダールも笑みを零す。
実際ナダールはアインを負かす打開策は見いだせなかったのだ、あなたは本当に強いですねぇとナダールは改めてグノーを尊敬した。
武闘会直後の一週間は、本来部署の変更や引継ぎに当てられている一週間なのだが、元々どこにも所属していなかった新入りのナダールは何もする事がなかったのだ。
「騎士団長の仕事って一体何をするのでしょうかね?」
「俺が知るかよ、第三騎士団長にでも聞け。仲良くなったんだろ?」
自宅に帰宅しグノー相手に、そんな話題ををふったところで当然騎士団長の仕事がどんなものなのかなど分かるはずもなく、返答はけんもほろろだ。
「まぁ、多少は仲良くなりましたけど、そうは言っても皆忙しそうで話しかけられる雰囲気ではないんですよねぇ」
それでも毎日騎士団の詰所には顔を出しているのだ、騎士団長として部屋も準備されはしたのだが、未だ誰が自分の下に付くのかも分からず、特に何の指令も下りてはこない。
どうにも手持ち無沙汰のナダールは、足を怪我しているにも関わらずうろうろしては「大人しくしていてください」と道行く兵卒にたしなめられていた。
「こんな何もしないで賃金なんて貰っていたら給料泥棒ですよ」
「まぁ、団長なんてのはどっしり構えてるのも仕事のうちなんじゃないのか?」
「それは何だかいたたまれません」
少々ワーカホリックの気のあるナダールは仕事が無いという状況がどうにも落ち着かない様子で、溜息を零す。
出勤しても仕事はないし、日がな一日ぼんやりしているので家に帰っても落ち着かない。
先日まで朝から晩まで働き通し働いていたのだから、休暇だと思ってのんびりすればいいのにとグノーは思うのだが、ナダール的にはそうはいかないらしい。
そんな時に家の扉がどんどんと乱暴に叩かれて、何事かとその扉を開けると、そこには不機嫌そうな一人の大男が立っていた。
「あれ? スタールじゃん。どうした、こんな時間に」
グノーが小首を傾げてそう言うと、彼は不機嫌丸出しの顔を隠そうともせず「旦那はいるか?」とこちらを睨んだ。
「いるけど……何?」
どうにも様子がおかしいので、グノーが躊躇っていると「どうしました?」とナダールもひょこひょこと足を引き摺るように玄関に顔を出す。
スタールの顔を見て些か驚いた様子のナダールだったが、それでも笑みを見せて「いらっしゃい」と彼を家へと招きいれた。
「私に何か御用でしたか? 何かありましたか?」
「用も何も、お前なんで俺を第三騎士団から引き抜いた!」
「え?」
家に上がると同時にそう喚かれて、何の事やらと首を傾げてしまう。
「今日、希望も出してないのに急に辞令が下りた。納得がいかなくて団長に詰め寄ったら、お前がそう言ったからって言われたぞ!」
「え……あ? あぁ、あれそういう意味だったんですか?」
「何か言われたのか?」
スタールの剣幕にグノーも戸惑う。
「大会の後の宴の席で『仲が良い人間はいるのか?』と聞かれたので『スタールとは仲良くやれそうな気がする』とは答えましたね」
「俺は第三騎士団が気に入ってんだ! さっさと取り下げて来い!」
「えぇ~そんな事を言われても、それは一体誰に決定権があって、誰に言えばいいんでしょう?」
「俺が知るかっ!」
スタールはどうにも納得がいかない! と怒り心頭だ。
「そんなに怒らないで、いっそ私の下で働いてみるっていうのはどうですか? 私、あなたが居ると心強いんですけどねぇ」
「あぁ? 第三騎士団の奴等以上に強い奴が居るっていうなら考えてやらんでもないが、どうせお前が団長の騎士団なんて太平楽な人間の集まりになるのが関の山だ」
「……酷い言われようです……」
ナダールがその言葉に苦笑しているその時、また家の扉が叩かれる。
「今日は千客万来だな。はいは~い、開いてるよぉ」
グノーがそう言って扉を開けると「お邪魔するよ」と入って来たのはムソンの民、ナダールの友人でもあるカズイだった。
「あぁ、カズイでしたか、こんばんは」
「すまんな遅い時間に、少し話しがあってな。スタールもいるなら丁度いい、ちょっといいか?」
そう言ってカズイも話の輪の中に加わってくる。
「俺が居て丁度いいってのは何の話だ? 俺はあんた等と一切関わり合いはないはずだが?」
「辞令が下りただろう? まだ聞いていないか?」
「聞いてるよ、俺はそれでこいつに文句をつけに来てんだ!」
「なんだ、そうなのか?」
「えぇ、そうなんです。私の下で働くのは嫌なんだそうですよ」
「そうか……悪い話ではないと思ったんだがな」
「あぁ!?」
「詳細はすべて聞いているんだろう?」
「詳細? 何の事だ?」
喧嘩腰のスタールにカズイは淡々と話し続ける。
「聞いてないのか……スタール・ダントン、あんたは今回ナダールに一回戦で負けただろう、だから本来ならば一番下、兵卒に落ちるはずだったんだ。だが、ナダールがあんたを欲しいと言ったから急遽、班長扱いに格上げされたんだよ。戦った相手も悪かった上に、二回戦は目に見えて活躍していたからな。班長とは言っても扱い的には分団長扱いで、お前が第二騎士団に来るのであれば、お前の配下はそっくり全員第二騎士団に転属の予定だったんだが、本人が嫌がっているのなら仕方がないな……」
「聞いてねぇぞ……」
「どうせあなたの事ですから、そこまで聞かずにアインさんに詰め寄ったんじゃないですか?」
スタールはぐっと言葉に詰まる。
「まぁ、ならば仕方がない。最初の予定通り、勤務希望のあった者だけ第二騎士団へ転属させるか。ちなみにスタール、あんたが二回戦にこちらへ連れてきた者達は半数程こちらに転属願いを出しているぞ。残りはお前に付いて行くと言っていたから丁度いいと思っていたのだがな。あと、第三騎士団に残るのなら兵卒落ちはそのままだ、他の者に示しがつかないからな」
「……っ、なんであんたがそんな上から目線で配属に口出してんだよっ!」
「仕方あるまい、それが俺達の仕事なのだから」
「黒の騎士団ってのは、そんな仕事までやんのかよっ」
「基本的には何でもやると言っただろう? ボス一人ではどうしても全員分は配しきれない、細かい分配作業は俺達の仕事だ」
ぐぐぅ……とスタールは更に言葉に詰まり、考え込むように腕を組んだ。
「あとな、ナダール。黒の騎士団はお前の管轄に入る事になった」
「え?」
「王直属なのに変わりはないんだが、ボス自身が動きにくくなった分をお前が俺達を使って補えという事らしい。ボスの命令で俺達は動くが、その細かい指示はお前が出せという形だな。基本的には有事のみの事となると思うが、そんな話が進んでいるというのも耳に入れておきたくてな」
「はぁ……」とナダールは分かったのか分からないのかよく分からない返事をして、首を傾げた。
「それはあれだな、黒の騎士団がナダールの下に付いたと言うよりは、ナダールが黒の騎士団に組み込まれたって言うのが正しそうだな」
グノーは「また面倒くさい事に……」と溜息を零す。
「どういう事ですか?」
「黒の騎士団は基本的に表には出てこないだろ? その表部分をお前がやれって事だよ。その為に必要ならカズイ達を自由に使っていいけど、あくまで主命令はブラックが出すってこと。だから言ってしまえばお前はブラック直属の騎士団長って事だ。あいつの無茶振りの嵐が今から目に見えるようだな」
「それはまた、ずいぶんな重責ですねぇ……」
ナダールが困ったように苦笑している傍らで「分かった……」と腕を組んで考え込んでいたスタールがぼそりと呟いた。
「ん?」とナダールがそちらを見やると、スタールは苦虫を噛み潰したような顔をしているのだが、もう一度はっきりと「分かったよ」とそう言った。
「何が分かったんです?」
「了承したって意味だよ。入ってやろうじゃねぇか、第二騎士団に! だがな、俺が入ったからにはお前みたいな太平楽な騎士団になんてしねぇからな、配下はビシバシ指導するから、後で後悔するなよ!」
「私、そういうの苦手なので助かります」
ナダールはへらっと笑い、スタールはがくっと肩を落とす。
「お前のその気の抜けた顔がだなぁ……いや、もういい。俺は俺でやるだけだ。そうと決まったら、俺、団長に挨拶に行ってくるわ、邪魔したな」
そう言ってスタールは踵を返し、来た時同様嵐のように去って行った。
なんというかちぐはぐした二人だが、感触的には悪くない。これでいて上手くいくかも知れないな、とカズイは二人のやりとりを見てそう思った。
「二・三日中にはお前の所に配属が決まった者達が挨拶に来るだろうから楽しみに待っていろ。言っても副団長も今回昇進した者ばかりだし、まだどんな騎士団になるのか全く分からんがな。そこはお前が纏め上げるんだぞ」
「怖いですねぇ……」
「お前ならできるさ」
笑って「今日の話しはそれだけだ」とカズイも家を去って行き、残されたナダールとグノーは顔を見合わせる。
「緊張して胃が痛くなってきました……」
「……別に辞めてもいいんだからな?」
「一度は中途半端に放り出して反省しているんです、今回はそんな事はしたくないですね」
「そっか、それなら弱音なんか吐かずに頑張れよ」
そうは言っても程々にな、とグノーは笑みを見せ、それに笑顔で返してナダールも頑張りますと小さく拳を握った。
「あ……そういえば言ってた約束の剣だけどな、来月には出来るから」
「出来る?」
グノーのその突然の言葉にナダールは首を傾げる。
「今日、第三騎士団長の所行って、約束通り手合わせしてきたんだけどさ、そのついでにどっかいい店教えてくれよって言ったら、腕の良い職人教えてくれてなぁ」
「職人?」
「そう、刀鍛冶って奴さ。やっぱり最初は女に作ってやる剣なんぞねぇ! って追い払われそうになったんだけど、どうにか説得して了承させた」
「説得って……あなたまた何か手荒な真似をしたんじゃないでしょうねぇ?」
「ん~? してない、してない。最終的にはお前にやるもんだって言ったら一も二もなく快諾したよ。刀鍛冶の親父もお前の試合見てたみたいで、そういう事なら先に言えってさ、聞く耳持たなかったのどっちだよって話だよなぁ」
呆れたように溜息を吐くグノーだが、その職人とグノーとのやり取りが目に浮かぶようで苦笑した。
「冗談抜きで親父腕は良さそうだったから、俺も一振り欲しかったんだけど、そこだけは頑固に譲らなくってなぁ……お前からも言ってやってくれよ、あの親父お前の言う事なら聞きそうな雰囲気だったし」
「そうなんですか? だったら一緒に取りに行って、その時にお願いしてみましょうかね。あなたへのご褒美も保留になったままですし、ちょうどいい。楽しみですね」
そう言ってナダールは笑顔を見せ「あれ? そう言えば……」と首を傾げる。
「アインさんと手合わせしたんですよね? どうでしたか?」
「ふふん、俺の圧勝に決まってんじゃん。舐めてかかるから痛い目見るんだ、力任せの武闘馬鹿はどいつもこいつも一緒だな」
グノーは、それは楽しそうに笑い「それは参考までに見てみたかったですねぇ」とナダールも笑みを零す。
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