運命に花束を

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運命に花束を②

運命の二回戦③

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 ナダール率いる25名は数百人が入り乱れる大乱戦の中に脇から突っ込んでいった。
 ただでさえ状況がよく分からなくなっている多数は、ともかく大将を前に進ませないようにナダールの前に立ち塞がった。

「もう誰がどこの兵隊だかさっぱり分からないな、これ同士討ちとかもあんじゃねぇの?」
「この人数だからな、さすがにあちらの大将も全員は把握しきれていないんじゃないか?」

 百人規模で配下を動かしているその男は、もう目と鼻の先に近付いていた。

「これ、上手く紛れて流れに乗っちまえば、一緒に城門まで行けるんじゃねぇ?」

 グノーのその言葉は一見上手い作戦のように思われたが「さすがにお前等みたいな覆面野郎共を自分の配下だとは思わないだろうよ」と、スタールに一蹴された。

「確かにそれもそうか」

 彼等の覆面はやはり良くも悪くも目立っていた。そして人一倍背の高い大将であるナダールもこれまたとても目立っていた。

「このままじゃ隊列も持たないかも……っと!」
「スタールさん! すみません、この三人とあなたのお友達連れて先に行っててもらっていいですか?」

 突然背後から襟を掴まれ言われたスタールは「は!?」と声を荒げる。

「あなた達だけならこの流れ、乗れますよね? 私、ちょっとあの人足止めしてきます」
「な! そんなのお前が行ってどうすんだ! そういう事こそ俺等に任せろよ!!」
「この人数じゃ焼け石に水ですよ、それよりも……」

 ナダールはスタールに小さく耳打ちをする。

「ちょっと! はぁ!?」
「任せましたよ!」

 言うだけ言って、ナダールは覆面7人を連れてその場を離脱していく。

「あいつの考えている事は本当に全く分からんわ! おい、お前等、あとガキ共は俺に付いて来い! はぐれんじゃねぇぞ!!」

 少年三人は戸惑いを隠せない。特にハリーは一回戦の時からスタールが怖くて仕方がないのだ、彼は明らかな恐怖の色を隠せない。

「ちっ、全く面倒くせぇ。大丈夫だよ、ちゃんとあん中まで連れてくから。まさか俺達が大将放っぽって城門目指してるなんて誰も気付きゃしねぇよ」

 そう言ってスタールはハリーの頭を乱暴に掻き回した。



「なんであいつら切り離したんだ?」

 ナダール目がけて押し寄せる敵兵をなぎ払いながら、グノーはナダールにそう聞いた。

「封書を確実に城へと届けるためですよ……っと、すみません、通りますよ」

 ナダールは揉みくちゃにされながらも相手の大将に突進していく。
 奪われる封書も持っていないのだ、後はひょいひょいと攻撃をかわして飄々としたものだ。

「そもそもあなた達目立ちすぎなんですよ、私も含めてね。だから私達は囮です。カズイ達はある程度こちらに敵を引きつけたら離脱して向こうと合流してください。グノーとエディ君とクロードさんは、すみませんが私と一緒に足止めをお願いします」
「あんたがやられたら元も子もない事分かってんのか?」

 エディがそう怒鳴ると「でもあなた達が守ってくれるんでしょ?」と彼はしれっとそう応えた。

「私、今まで生きてきてあなた達ほど強い人達にお会いした事ないですから、それが三人も護衛に付いているんですよ? 負ける気がしません」
「万が一の事を考えろよ……」

 エディは呆れ、グノーはお前らしいと笑う。

「さてと……この先は通しませんよ」

 そう言ってナダールは相手方大将の前に飛び出していく。

「なんだお前達、邪魔をするな! ……ん? お前大将か?」
「はい、謹んで勝負を挑みに参りました」
「馬鹿な、配下も連れずに勝負だと?」

 男は気色ばむ。

「配下は連れておりますよ、あなたの所ほど人数は多くないですけどね」
「たかが数人で何ができる! 私を止められると思うな」
「我々を甘く見ると痛い目に合いますよ」

 ナダール達の周りを取り囲むように人の輪ができた。

「旦那、これ挑発しすぎっすよ」

 そもそも戦闘が得意ではないルーク達ムソンの民4人は冷や汗ものだ。そんな彼等に「行ってください」と呟いて、ナダールはぶん! と剣を振り回した。

「なんだ、ただでさえ少ない配下が逃げて行くではないか。お前はずいぶん人望がないようだな。そんな事で人の上に立とうとは片腹痛いわ!」
「人数を揃えればいいという物でもないでしょう、『量より質』という言葉を教えて差し上げますよ」
「弱い者ほどよく吠える。さっさと片付けて先を急ぐぞ、行け!」

 男の配下が次々と4人に向かって襲いかかってくる、だが……

「行かせねぇよ」

 グノーとエディが同時に跳躍して数人をなぎ払った。

「あんた足が悪いなんて嘘だろ、前と動き変わんねぇじゃねぇか!」
「腕が良すぎるのも罪だよなぁ、今日は本当絶好調だわ」

 そんな軽口を叩いて二人は次々と敵をなぎ払っていく。同時にナダールとクロードは背中合わせで剣を振るっていた。
 ナダールは力技で、クロードは素早い動きで敵を翻弄していく。その緩急のある二人の動きは敵を混乱させるのに充分だった。

「何をやっている! さっさと片付けろ!」

 そう喚く男の脇を別の大将が走り抜けた。先頭集団の混乱に乗じて、別のチームが抜けて行ったのだ。

「なっ! お前達奴を追え! いや、私は行くぞ! こんな所でもたもたしてなどおれん」
「行かせねぇって言ってんだろ」

 グノーは男の前に立ち塞がった。

「お前達も見ただろう、今別の者が城門に向かって行ったのだ、私ばかりを何故止める!」
「それは確実に勝つためですよ。あなただけは通しません!」

 男は「何故だ!!」と喚きながらも、右にも左にも抜けられず地団太を踏んだ。



 同じ頃、スタール達18人はゴールを目前にしていた。

「ひゃっほい、俺達一番乗りだ!」
「馬鹿、大将いなきゃ意味ねぇだろう!」

 そんな事をわいわい言いながらゴールへ駆けて来る者達に、待ち受けていた観客達も戸惑い顔だ。

「お前等ちょっと待った、お前達は一体何処へ行こうとしているのだ!」

 誘導係を務める兵士が一人、戸惑い顔で皆を制止してそう問いかけたとしても誰も不思議には思わない。

「何処って、行く先はひとつしかないだろう? 試合なんだし」
「大将もいないのにゴールできる訳がないだろう!」
「まぁ、そりゃそうか。それじゃこの辺で待ってるか」

 その場で「あ~疲れた」と座り込む彼等を兵士は更に戸惑い顔で見やる。

「大将を置いてきたのか? 助けに行くとか、しなくて大丈夫なのか?」
「だってしょうがねぇじゃねぇか、先に行けってのが大将の命令だったんだから。お~誰か来たぞ……んん? でもあれうちの大将じゃねぇや」

 「それじゃあもう少し休憩だな」と笑う彼等に

「せっかくここにいるのに邪魔をするとか、封書を奪うとか、そんな事もしないのか?」

 兵士は困惑してそう言った。

「あぁ、そう言えばそうだな、やっとくか?」

 一人がそう言うが「無駄な体力使う必要もねぇべや」と一人が言うと「それもそうだな」とまた皆で笑った。

「あの男、ゴールしてしまうぞ!? 本当にいいのか!?」
「大将が良いって言ってんだから、大丈夫だろ? なぁ?」

 うんうんと皆一様に頷くので、この者達は一体何なのだと兵士は更に困惑した。

「あ、ゴールした。歓声凄いな。ねぇ、あの封書って王様に渡すんだろ? 王様ってどれ? オレ見た事ないんだけど」

 数年前に代替わりした国王陛下はあまり国民の前に姿を現さない、国王の傍近くに仕えている者はその姿を見知っているが、騎士団に入ったばかりのキースはまだその姿を近くで見た事がなかったのだ。
だが問われたスタールも「俺も知らねぇ」と空を仰いだ。風は気持ちいいし天気はいいし、眠くなる。

「王はあれだ、あそこの黒髪の……」

 兵士が指差す方を見やると、何やら優勝者と封書を開封し確認した兵士が揉めている。

「お~やってんなぁ」

 スタールはにやにやとその様子を眺める。

「どういう事だ?」
「あいつの持っていた封書、偽者だったのさ。本物は俺等の仲間が持ってる」
「あ~なるほど、それでお前達は何もしない訳か」
「そういう事」
「お前達の大将って誰なんだ?」

 兵士は少し興味深げにそう聞いた。

「ナダール・デルクマンって、新人さ」




 遠くで歓声が聞こえた。

「そろそろ行きましょうか」

 揉み合っていた両者の脇をもう既に数人の大将がすり抜けて行っていた。

「何を今更、もう間に合う訳もなかろう」

 男は肩を落とし、もう完全に戦意を失っている。

「そんなに簡単に諦めてどうするんですか、勝負はまだ最後まで分かりませんよ。一緒に行きましょうとは言いませんが、ここで諦めたらあなたを信じて付いて来た配下の方々が可哀相です」
「散々邪魔をしておいて何を言うか! 不愉快だ!」
「例え途中でどんな妨害があろうと、任務は遂行するものです。諦めたらそこで何もかもすべて終わりですよ」

 そんな事を言われても、すでに勝負は目に見えているのに一体何を言っているのかと男は不審顔だ。

「まだ勝負は終わっていません、諦めたのならあなたはそこで立ち尽くしていればいい、私は行きます」

 言ってナダールは踵を返すのだが、その物言いに散々行く手を阻まれた男は腹が立って仕方がない。

「あいつにだけは負けるものか! 追うぞ!!」

 男はそう言って兵を率いて駆け出した。

「せっかく戦意喪失してたのに、お前は馬鹿か!」
「だって、こんな所で諦めて欲しくなかったんですよぉ」

 怒鳴るエディに苦笑で答えて、もの凄い勢いで追ってくる男からナダールは逃げる。

「おぉ、来た来た……って、お前、何引き連れて来てんだよ!」
「すみません、全員揃ってますか?!」
「当然、誰一人欠けてないぜ!」

 カズイ達ムソンの民も当然合流済みで、親指を立てる。

「走って! もうすぐそこです!!」

 背後から怒涛の勢いで追いかけて来る先ほどの男に驚いて、立ち尽くす少年達の手を引いてナダールは走った。
 本来大将のみが到着すればいいその場所で、配下を引っ張って走って行くその姿は観客の興味を引いた。ただでさえ配下が先に到着して休憩していた事自体が前代未聞だったのだから当然だ。

「全く分からん男だな……」

 先程までスタール達と話していた兵士はそう呟いて、彼等のゴールを見守っていた。


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