運命に花束を

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運命に花束を②

運命の武闘会④

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「おかえりナダール、今日は割と早かったな」
「えぇ、比較的スムーズに探し物が見付かりましたのでね」
「探し物? またお前はそんな仕事なのか……ったくホントどうなんだ」
「仕事に貴賎はありませんよ、それでお給料が貰えるのですから、いいじゃないですか」

 笑いながらそう言うのだがグノーはどうにも不満顔だ。

「そうは言ってもな……ん? これなんだ?」

 ナダールの上着を受け取ったグノーが上着のポケットに入ったルールブックに気が付いた。

「あぁ、それ今度のお祭り『武闘会』のルールブックだそうですよ。私もまだちゃんと読んではないですけど、結構細かくルールが決まっているみたいで驚きました」
「へぇ、おもしろいな。なになに一回戦は乱闘戦? へぇ、いいじゃん、楽しそう」
「あなたならそう言うと思っていましたよ、一回戦は一般参加もあるらしいので参加してみたら如何ですか?」
「え? マジで?」
「はい、一応お祭りなので一般の方にも楽しんで貰おうっていうのが建前で、優秀な人は勧誘されるらしいですよ」
「へぇ、勧誘はどうでもいいけど、出てみたいな。あぁ、でも子供等放っておくのもな……」
「私の試合初日なんですよ、2日目が仕事で、一般参加のある3日目は休みなので大丈夫です」
「マ・ジ・で! じゃあ出る! うわぁ、楽しみ」

 戦う事も剣を振るう事も元々大好きなグノーは目を輝かせる。
 子供を生んでからは本当に家庭に入って貰っている感じで、そんな風に剣をふるう事もなくなっていたのだが、彼の本質は変わらない。子供のように目を輝かせる彼が微笑ましくてまた瞳を細めてしまう。

「でも無理は禁物ですよ、自分の足が不自由だって事忘れないでくださいね」
「分かってるって」

 そう言って彼はルールブックに目を通し始めた。
 子供達はもう先に夕飯を済ませてうつらうつらと2人揃って船を漕ぎ始めている。
 そんな2人をベッドに運んで、夕飯を食べ始めるとグノーはその向かいに座って熱心にルールブックを眺めていた。

「何か気になる事でもありましたか?」
「これ、本当に面白いな。一回戦って乱闘戦だけど武器の使用は不可なんだってさ、ようは身体一つで戦えって事だ。だけど相手に大怪我負わせても負け、転がせばOKって、簡単に書いてあるけどめっちゃ難しい。お前みたいなでかいのは転がすの大変だから徒党組まれる可能性もあるから気をつけた方がいいかもな、足元掬われたらすぐ負ける」

 「負けたら三年下っ端仕事」というキースの言葉が頭を過ぎる。

「でも考えようによればお前は有利だよ、でかい分だけ当たりに強い、そう簡単に転がらないだろ」
「まぁ、力比べならそこそこ自信はありますよ」
「だろ、変に一対一よりお前には向いてる。ここに書いてあるけど武器の使用は不可だけど、その場にある物は使用可なんだってさ。って事はその場に『何か』はあるんだよ、そう思った時によく見てみれば、この会場使えそうな足場は揃ってる、何もない砂地、荒れ放題の草地、あとは足場の悪い川沿いの岩地、臨機応変にその場にある物で戦えって、野戦みたいで面白いよな」

 グノーに言われてその地図を覗き込めば確かにその通りの立地で驚いた。
 自分の試合会場以外にも幾つか会場があって、それは観客が見やすいようにばらけてあるのかと思っていたのだが、どうやらそれだけではなさそうで唸ってしまう。

「これはちゃんと会場の下見に行っておいた方が良さそうですね」
「だな、二回戦も楽しそうだし、お前絶対勝てよ」
「う~……善処します」
「なんだよ、そこは頑張ります、だろ」
「私が戦闘得意じゃない事知ってるでしょう、正直自信ないですよ……」
「俺が大丈夫だって言ってるのに、お前は俺を信じないのか?」
「あなたの事は全面的に信じていますよ、私が信じてないのは自分自身です」
「それは俺を信じてないって事だろ。お前の謙虚さは美徳でもあるけど欠点でもあるよな、俺はお前を信じてる、大丈夫、お前ならその辺の男には絶対負けない。俺を信じろ」

 きっぱり言い切られて伸びてきた手に頬を撫でられた。そして女神のような極上の笑みを見せられたらもう逆らえない。
 あぁ、私の伴侶は本当に綺麗で聡明な人だ。
 こんな素晴らしい伴侶を迎える事ができた自分はなんて幸福な男なのだろう。

「精一杯頑張ります」

 ナダールの言葉に笑みを零したグノーは立ち上がってその額にキスをくれた。
 彼からのキスはとても珍しい、けれどそんな子供だましのキスでは納得いかない。

「どうせなら口がいいです」
「ご褒美は何かいい事した時だろ? 勝ったらしてやる、って言ったら少しはやる気になるか?」
「勿論です、約束ですよ、絶対ですからね!」

 拳を握ったナダールにグノーは呆れたように笑みを零した。
 単純だと思われただろうか? でもそのくらい自分にとって彼からのキスはご褒美なのだから仕方がない。
 こちらからするのに抵抗される事はないけれど、彼からのキスなんて本当に本当に貴重なのだ。照れ屋なグノーは愛情表現が控え目でもどかしくて仕方がない。

「んふふ、約束な。さぁ、さっさと飯喰っちまえよ、お前が食べなきゃ片付かない」

 言ってグノーはキッチンに立って洗い物を始めた。
 出会った当初の事を思い出すと、こんな彼の姿など想像も出来なくて自然と笑みが零れる。
 毎日家に帰ってきて、彼と共に過せるのは幸せで仕方がない。
 少し前までは長期の出張の多い仕事をしていて、こんな姿はなかなか拝めなかったのだ、今はまだ雑務ばかりの仕事だが、転職して良かった、としみじみ思うナダールだった。
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