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番外編:お嫁においでよ
③
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遊び疲れた子供達が部屋の隅で団子になって寝てしまっている。
ちゃんとベッドに寝かせようかと抱き上げたら、服をぎゅっと握りこまれてしまって身動きが取れなくなった。
仕方ないので膝の上に乗せ、その可愛らしい寝姿を眺めてぼんやりしているとなんだか自分も眠たくなってくる。
腕の中の小さな体、少し前まで自分もよくこうやってナダールの膝の上に抱えられ寝入ってしまっていたものだが、今思えばそれは完全に子ども扱いだったことがよく分かる。だが、温かい人の体温と鼓動が心の中に安堵を呼ぶ事を自分はよく知っていた。
頭を撫でると柔らかい猫っ毛で、うっとりする。
可愛い……とそう思った、人と付き合うことを極力避けて生きてきた自分にとって、子供との付き合いなど子守か、遊び相手としてだけで、それもいつでも期間限定の短い付き合いだった。だがこの子達は違う、正真正銘自分とナダール二人の子供だ。こんな奇跡、本当にあっていいものだろうか?
メリアに暮らしていた時も子供が欲しいとは確かに思ったけれど、実際に子供を腕に抱けるなど考えていなかった。
自分は子供の産めない出来損ないのΩ、そう思っていたのに、今自分の膝の上には可愛い我が子が二人も眠っている。
幸せ過ぎて涙が出そうだ、自分はもうこれ以上に望むことはないというのに、何故ナダールは突然あんな事を言い出したのだろう。
サリサの言うとおり自分はナダールに何か不安を与えるような事をしているのだろうか? 確かに誘いは多いが、それはすべて丁重にお断りしている。ナダールが不安に思う理由がグノーには分からないのだ。
「パパは心配性過ぎだよなぁ……」
二人の髪をかわるがわる撫でる。自分によく似た紅の赤髪、そしてナダールによく似た黄金の金髪。よくも見事に分かれたものだ。
ルイはどちらかというと自分似だと思う。気が強い所はあまり似て欲しくなかったのだが、持って生まれた物は仕方がない。
二人目のユリウスはおっとりとした性格の笑顔の可愛い男の子だった。二人共バース性はαである。Ωという性が生きづらい事は分かっていたので正直その性を知ってほっとした。
この子達の未来が自分のせいで影を落とすような事はもう無い筈だ、だから今は健やかに育ってくれたらそれでいいと思っている。
いつしかグノーは二人の放つ睡魔にやられて一緒にうつらうつらと船を漕ぎ出す。あぁ、まだやらなければいけない事がたくさんあるのに……
ナダールが家の玄関を開けると家の中はシーンとしていて、人の動く気配がしない。リビングの扉をあけるとそのソファーの上に三人の姿を発見する。
ルイとユリウスはグノーの腕の中ですやすやと寝息を立てており、その二人を抱えてグノーもソファーに埋まるようにして眠りこんでいた。
自分のいない間彼等はどのように過しているのかは分からないが、その寝姿は本当に微笑ましいかぎりだ。幸せな光景に頬が緩む。
起こさないようにそっとソファーの前に座って三人を眺めていると、本当に幸せで仕方がない。しばらくすると人の気配に気付いたのか、グノーが目を覚まして、慌てて飛び起きた。
「ごめん! 俺、寝てた」
「いいですよ、とても目の保養になりました」
笑うナダールにルイとユリウスの存在を思い出しグノーは慌てるが、二人はまだ寝入ったまま起きる気配はない。
「やはり子供はいいですねぇ、幸せの象徴です」
「本当にな」
「ですが最近、私はあなたが足りなくてどうにかなりそうですよ」
唐突にナダールがそんな事を言うのでグノーは首を傾げる。
「子供は可愛いですし、愛おしいですが、私の事ももっと構ってください。最近グノー、私の扱い雑じゃないですか?」
「え? そうだっけ?」
子供二人をグノーの上から退けるようにしてソファーに降ろし、ナダールはグノーの手を取り立ち上がらせた。そして何故だかそのまま抱きしめられる。項から発するフェロモンを嗅いでいるのか、顔を埋めるようにして首元に鼻を寄せられるので思わず抵抗してしまう。
「駄目ですか?」
「そういうのは夜にしろ。子供だっているんだから」
「最近あなた夜には早々に寝てしまうじゃないですか」
「う……それは、まぁそうなんだけど」
「私はあなたが足りないんです。私の事ももっと構ってください」
すりすりと髪に頬を摺り寄せるようにするナダールに、子供か! と苦笑する。和らいだ空気にキスの雨を降らされ、自分も少しその気になってしまう。
顔や髪、頬の到る所にキスを落とされてくすぐったい。
「なぁ、ナダール、お前にとって愛って何?」
「愛、ですか?」
「そう。最近よく分からなくなって……サリサさんに聞いたら子供は愛してるけど旦那は微妙って言うんだ。愛してないわけじゃないけど面倒くさいって、でもそんなのでも愛って言うなら『愛』って何だろうって思ったりするんだよな」
「あなたはどう思うんですか?」
「俺? 俺の愛の基準は全部お前だから、お前がこれを愛だって言うなら愛だと思ってる」
「私を想う気持ちや、子供達を想う気持ちですか?」
「そう、それ」
「ではあなたは私がそれは愛じゃないって言ったら、違うと思うんですか?」
「それなんだよ、そこが分からなくて、だからお前にとって愛ってなんなんだろうなってそう思ったんだよ」
「愛の基準を他人に求めるのはあまり感心しませんね。そういうのは自分の中から溢れてくる感情です。私がそれを愛だと思わなかったら基準がぶれてしまう程度の気持ちだったら、それが本当にあなたの中の真実の愛なのか私には分かりません」
「真実の愛……また難しくなってきた……」
「あなたは私を愛してくれているのではなかったのですか?」
「うん? 好きだよ。俺にこんな平穏な生活をくれて、家族をくれて、友達をくれて、幸せをくれた。だから俺にとってお前は絶対なんだ」
「それは愛ではないのですか?」
「これはお前から与えられた愛だろ? そうじゃなくて俺が返せる愛が分からないんだよ」
「あなたから返す『愛』ですか。あなたは時々とても哲学的な事を考えますよね」
「そうかな? でもさ、俺はお前に貰った分だけの物をお前に返せてる気がしないんだよな」
「あなただって私に家族をくれたじゃないですか」
「子供が欲しいならまだ産めると思うけど、それでいいの?」
「何か、なんでしょう、その言い方だと玩具を簡単に意味もなく与えようとしてる親みたいな感じで愛をあまり感じられないですね……」
「そうだろ? なんか違うと思うんだけどよく分からなくて」
二人は二人揃って首を傾げてしまう。
「もう一度聞きますけど、あなたは私を愛していますか?」
「うん? うん。お前がいなくなったら生きてけなくなる程度には……」
「そこは子供の為に生きましょうよ。そんなんじゃ、うかうかあなたより早死にできないじゃないですか」
「できれば俺より一分でも一秒でも後に死んでくれたら助かるな」
「善処はしますけど、人生そう上手くいくとは限りませんからね。ただでさえ私の方が年上なんですから」
「うちの子達強いから俺達がいなくても逞しく生きてけるって言ったのお前だし、いざとなったらきっと村の人達が面倒見てくれるよ」
「せめて子供達が成人するまでは死ねません」
ナダールは苦笑する。いまだにグノーの頭の中には死の影がちらついているのかと思うとそれにも溜息が零れる。
「あなたはもっと前向きに生きる事の方が先決ですね」
「俺ってそんなに後ろ向き?」
「発言を聞いている限りはまったくもって後ろ向きです。私が死んでも孫の顔を見るまで死ねない! くらい言って貰わないと安心できませんよ」
「だって俺はお前がいればそれでいいんだ……」
「嬉しいですけど、嬉しくないですね。熱烈な愛の告白にも聞こえるのですけど、それ本気ですよね」
「そうだけど、駄目だった?」
「駄目というか、あなたの周りには私以外にもあなたを愛している人はたくさんいるのですから、その人達の事も考えてください」
「俺はそんなに器用に大勢を愛せない」
本当にもう! とナダールはグノーを抱きしめる。
「私、あなたのそういう所本当に大好きですよ」
「んん~? だったらこれで正解?」
「人としては大はずれですけど、私にとっては大正解です。変わって欲しいと思う反面、そのままでいて欲しいとも思いますし、あなたは私の心を弄ぶ事にかけては天下一品の腕の持ち主ですよ」
「俺、弄んでなんかないぞ?」
「知っていますよ、私が勝手に弄ばれているだけなんで気にしないでください」
「むぅ、俺にも分かるように説明してくれよ」
拗ねたように訳が分からないという顔をするグノーに笑みを零して、その頬に口付けると傍らから寝惚けたような小さな声。
「パパ……おかえり」
そこには二人の声に目を覚ましたのかソファーで寝ていた子供達が目を擦りながらこちらをぼんやり見上げていた。
ナダールの相好が崩れる。
「ただいま、二人共いい子でお留守番できましたか?」
「うん。パパとママは何してるの?」
きょとんと二人はまだ眠そうに首を傾げるのだが、その姿が本当に愛らしい。
「ママに『ただいま』のキスをしていた所ですよ。二人もパパに『おかえり』のキスをしてくれますか?」
「おかえりのキスする~」
「ユリも、ユリも~」
寝ぼけていた頭がはっきりしてきたのか、ルイとユリウスはナダールに飛び付いてしゃがめとばかりに足を引っ張る。
ナダールの体温が離れていくと、少し切ない。それでもしゃがんだナダールの頬に口付ける我が子は天使のようだ。
「ママにもするからしゃがんで~」
「ママもするぅ~」
自分の足も引っ張る子供達にナダールと同じようにしゃがみこめばきゃっきゃと二人はキスをくれた。もうなんなんだよ、幸せ過ぎて胸が詰まる。
思わず二人を抱きしめると、二人は遊んでくれているものと思ったのか、またきゃっきゃと笑った。
「さて、そろそろ夕食にしましょうか」
「え? あ……忘れてた……」
ついうっかり子供達と居眠りをしてしまったせいでなんの準備もしていない。
「あぁ、そうなんですね。では久しぶりに腕をふるいましょうかねぇ」
「わぁい、パパご飯、パパご飯」
子供達はくるくる回る。
最近はナダールに仕込まれた腕でもっぱら料理は自分がしているのだが、やはり料理の腕はナダールの方が上で子供達はナダールの作る料理が大好きだ。
同じように作ってるはずなのにな……と子供達の反応に少し拗ねたような気持ちになる。
「グノーも手伝ってくれますか?」
「あぁ、何すればいい?」
二人で台所に立つともれなく子供達も付いて来る。
「ルイもやりたい~」
「ユリもぉ~」
包丁を持たせるのはまだ危ないと玉ねぎの皮むきや、肉の手捏ねなど簡単な作業を与えて家族四人で作った料理は本当に美味しい。おなかいっぱいに食べた子供達は食後またすぐに睡魔に負けて寝入ってしまった。
「やっぱりお前が作った方が食いが違うな。ホント何が違うんだろ」
「珍しいから興奮して食べるだけですよ。今日は自分達も手伝ったので余計にね」
「だったらいいけど、俺元々あんまり食事も料理も好きじゃなかったから、そういうの出てたら嫌だな……」
「気にしすぎです。あなたの作る料理、私好きですよ。それに最近あなた料理嫌いじゃないでしょう?」
「あ……うん。なんで分かった?」
「時々私の知らないメニューが出てくるので、興味を持って料理をしてるのがよく分かります」
「ホントお前はそういう細かい事よく気が付くよな。お前の作るのってランティスの料理だろ? でも自分が元々食べてたのってメリアの料理な訳じゃん、作り方は分からないけど作れないかなぁって試してる。あと、ファルスで食べた旨い料理とかも再現できたらって思ってるんだけど、これがなかなか難しい」
「あなたそういう所、研究熱心ですよねぇ」
「だって楽しいだろ?」
「食べる事に無関心だったあなたがここまで成長した事が私は嬉しいです」
「だって子供には美味しい物食べさせたいじゃん」
「それもあなたが与える愛のひとつだと思いますよ」
ナダールがにっこり笑う。あ……そうなんだと、すとんと心に落ちてきた。
「これも愛っていうんだな」
「あなたが誰かにしてあげたいって想う気持ちはすべて愛だと思いますよ」
「そっかぁ、へへ……そっかぁ」
「嬉しそうですね」
「だって、本当に分からなかったんだ、自分が愛されたって記憶が薄いから、どういうのが愛って言うのかよく分からなかった。レリックはよく愛してる愛してるって言ってたけど、それって何だ? ってずっと思ってたんだよ」
「あなたのお兄さんの愛は一方的過ぎましたからね。ただ与える無償の愛も貪欲に求める愛も同じ愛ですが、それでもどうせ愛するなら幸せになれる愛がいいですね」
「幸せになれない愛もある?」
「それこそあなたのお兄さんですよ。相手の気持ちを考えない愛情は、向こうは愛を与えているつもりでも、受け取る側は迷惑でしかないでしょう。それでも愛している方はそれが正しいと思ってしまうから、質が悪い」
「愛って難しいんだな」
「私はあなたを愛していますし、あなたのしたい事をなんでもして欲しいと思っています。それがあなたの兄のように行き過ぎてしまってあなたが窮屈だと感じたら、遠慮なく言ってくださいね」
「ん?」
グノーは首を傾げる。
「時々思うのですよ。私は子供であなたをここに縛り付けているのではないか……とね。あなたは私より才能も才覚もある人です、行動力もあるし人を惹きつける力もある、それを私はこんな所で私の為だけに燻ぶらせているのは勿体無いのではないかと思う時もあるのです」
「俺は好きでお前の傍に居るし、別にやりたい事なんてねぇよ?」
「ありがとうございます。そう言って貰えると凄く嬉しいですけど、やりたい事はあるんじゃないですか?」
「ん~まぁ何にもないって訳じゃないかな。俺、昔閉じ込められて生活してたじゃん? だからいつも色んな所見てみたいって思ってたんだよな。それはずっと変わらなくてさ、まだ行きたい場所はたくさんあるよ。でもそれは今じゃなくてもいいんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、今はルイとユリが育ってくのを見てるのが楽しい。毎日毎日少しずつ成長してくのホント楽しい。これって今しかできない事だから、いつでもできる事は後回しでいいんだ」
グノーのにこにこ満面の笑みにナダールも笑みを零す。
「あなたは本当に最高に可愛いですね」
「可愛いのは子供達、俺なんか足元にも及ばないだろ」
「私から見たらあなたも子供達も同じように可愛くて仕方ないですよ。あぁ、でもそうですね、本当に子供は可愛すぎて私、ルイを嫁に出せないかもしれませんね……」
「そこはちゃんと相手に譲る事は考えておかないとな。ルイの人生はルイの物なんだから」
「グノーに正論を吐かれました、立ち直れません……娘を嫁に出すのがこんなに苦しい事なら二人共男の子だった方が良かったです」
「男の子だっていずれ独り立ちするぞ? お前だってそうやって親元飛び出してきたんだろ」
「更に正論で返されました……ううう、子供達が巣立ってもあなただけはずっと私の傍に居てくださいね」
抱きついて泣き真似をするナダールの頭をよしよしと撫でてやる。最近は甘やかされるばかりではなく、こうやってナダールを甘やかす事もできるようになった。自分の中ではすごい進歩だ。
「そんないつの話になるか分からない未来の話より、とりあえず今は現実問題の話をしよう」
「ん? なんですか? 何かありましたっけ?」
「お前、俺に隠れてこそこそ何かしようとしてるだろ?」
「なんの事ですか? 何を言っているのか分かりませんが……」
ナダールがついと瞳を逸らした。普段いつも瞳を覗き込むように会話を仕掛けてくる彼がそんな態度を取るのは明らかに怪しい。
「結婚式がどうのこうの言ってた割りに、その後何も言わないのがおかしい。俺に隠れて何かしようとしてないか?」
「あはは、何のことやらさっぱり」
笑顔のナダールはいつも通りでグノーはむぅと眉を寄せる。
「本当のホントに何も企んでないだろうな? 隠し事は嫌いだからな、何かあったら遠慮なく怒るぞ?」
「あなたは結婚式をやってもいいと思っているのですか?」
「え? やだ。そんな恥ずかしい事しなくていいよ」
一刀両断で斬り捨てられてナダールは苦笑する。
実を言えば祭りに乗じた結婚披露宴の準備は着々と進んでいるのだ、ただそれをグノーに納得させるのには少しばかり骨が折れるとナダールは思っていた。
「そんなに嫌ですか?」
「だって今更だろ? なんでそんなにやりたいんだ? 何か理由でもあるの?」
「言ったでしょ、あなたを私のものだと宣言したいって、そのまま言葉通りですよ」
「ルークの事とか関係あるの?」
聞くとナダールの薫りが少し揺れたのが分かる。
「俺、浮気はしないぞ?」
「分かっていますよ。それでも心配するのは美しい伴侶を持った者の宿命です」
グノーより六歳も年下の青年ルークは出会った頃は坊ちゃん坊ちゃんしていたのに、この数年で一気に身長も伸びて見上げる程に成長していた。にっこり笑顔で上から顔など覗き込まれるとどうにも腹立たしくて仕方ない。
そして、ナダールに威嚇され追い払われ続けた彼は最近ナダールの目を盗んで彼の不在時を狙って家を訪問してくる。
正直鬱陶しくて仕方ない。
「あいつには何やっても無駄だと思うけどなぁ……」
「それでもやらないよりマシです。村人達にあなたは私の物だと宣言する事であの人に多少なりとも牽制できるなら私はなんでもやりますよ」
あぁ、やっぱり気にしてるんだなとグノーは溜息を吐いた。
でも実を言えば最近グノーは気が付いたのだ、ルークには想いを寄せる相手がいる。
ただその相手がβなのでなんとなく踏ん切りがつかず、彼はその人を妬かせたくて自分にちょっかいをかけてくるのだ。
要は自分は当て馬としていい様に扱われているという事だ。
気が付いたのは最近なのでまだ確認はしていないけれど十中八九間違いない。それでもナダールにはなんとなく言えないまま今に到る。
「気にしなくていいのに」
そんな事を言いながらも自分も彼に妬かれるのは嬉しいのだ。
好きでもない相手に嫉妬心は湧かない、だからこうして妬いてくれている内は自分は好かれていると実感できる。
「気にするに決まってるじゃないですか、それに彼ばかりではありませんよ、あなたを見ている村人はまだまだ他にもたくさんいます。私はその全員に牽制したいんです」
「だからって結婚式はどうなんだ?」
「分かりやすくてよくないですか?」
うーんとグノーは呻る。彼に妬かれるのは嬉しいが正直結婚式は面倒くさいし恥ずかしい。
「ともかく俺は嫌だし反対。今のままで俺は充分だから、この指輪着けてるだけでもだいぶ違うと思うし、この話はなしな」
グノーに言われてナダールはますます言い出せなくなる。
もう長老にも村長にもこの話は通ってしまっている、娯楽を求める村人に今更キャンセルもきかないのだ。
こうなったら最終手段は当日まで彼に隠し通すしかない。
ナダールは口止めをしないといけない人物のリストを頭の中でリストアップする。これは仕事をこなすより大変な作業かもしれないな……と笑みを浮かべたままナダールは頭をフル回転させていた。
ちゃんとベッドに寝かせようかと抱き上げたら、服をぎゅっと握りこまれてしまって身動きが取れなくなった。
仕方ないので膝の上に乗せ、その可愛らしい寝姿を眺めてぼんやりしているとなんだか自分も眠たくなってくる。
腕の中の小さな体、少し前まで自分もよくこうやってナダールの膝の上に抱えられ寝入ってしまっていたものだが、今思えばそれは完全に子ども扱いだったことがよく分かる。だが、温かい人の体温と鼓動が心の中に安堵を呼ぶ事を自分はよく知っていた。
頭を撫でると柔らかい猫っ毛で、うっとりする。
可愛い……とそう思った、人と付き合うことを極力避けて生きてきた自分にとって、子供との付き合いなど子守か、遊び相手としてだけで、それもいつでも期間限定の短い付き合いだった。だがこの子達は違う、正真正銘自分とナダール二人の子供だ。こんな奇跡、本当にあっていいものだろうか?
メリアに暮らしていた時も子供が欲しいとは確かに思ったけれど、実際に子供を腕に抱けるなど考えていなかった。
自分は子供の産めない出来損ないのΩ、そう思っていたのに、今自分の膝の上には可愛い我が子が二人も眠っている。
幸せ過ぎて涙が出そうだ、自分はもうこれ以上に望むことはないというのに、何故ナダールは突然あんな事を言い出したのだろう。
サリサの言うとおり自分はナダールに何か不安を与えるような事をしているのだろうか? 確かに誘いは多いが、それはすべて丁重にお断りしている。ナダールが不安に思う理由がグノーには分からないのだ。
「パパは心配性過ぎだよなぁ……」
二人の髪をかわるがわる撫でる。自分によく似た紅の赤髪、そしてナダールによく似た黄金の金髪。よくも見事に分かれたものだ。
ルイはどちらかというと自分似だと思う。気が強い所はあまり似て欲しくなかったのだが、持って生まれた物は仕方がない。
二人目のユリウスはおっとりとした性格の笑顔の可愛い男の子だった。二人共バース性はαである。Ωという性が生きづらい事は分かっていたので正直その性を知ってほっとした。
この子達の未来が自分のせいで影を落とすような事はもう無い筈だ、だから今は健やかに育ってくれたらそれでいいと思っている。
いつしかグノーは二人の放つ睡魔にやられて一緒にうつらうつらと船を漕ぎ出す。あぁ、まだやらなければいけない事がたくさんあるのに……
ナダールが家の玄関を開けると家の中はシーンとしていて、人の動く気配がしない。リビングの扉をあけるとそのソファーの上に三人の姿を発見する。
ルイとユリウスはグノーの腕の中ですやすやと寝息を立てており、その二人を抱えてグノーもソファーに埋まるようにして眠りこんでいた。
自分のいない間彼等はどのように過しているのかは分からないが、その寝姿は本当に微笑ましいかぎりだ。幸せな光景に頬が緩む。
起こさないようにそっとソファーの前に座って三人を眺めていると、本当に幸せで仕方がない。しばらくすると人の気配に気付いたのか、グノーが目を覚まして、慌てて飛び起きた。
「ごめん! 俺、寝てた」
「いいですよ、とても目の保養になりました」
笑うナダールにルイとユリウスの存在を思い出しグノーは慌てるが、二人はまだ寝入ったまま起きる気配はない。
「やはり子供はいいですねぇ、幸せの象徴です」
「本当にな」
「ですが最近、私はあなたが足りなくてどうにかなりそうですよ」
唐突にナダールがそんな事を言うのでグノーは首を傾げる。
「子供は可愛いですし、愛おしいですが、私の事ももっと構ってください。最近グノー、私の扱い雑じゃないですか?」
「え? そうだっけ?」
子供二人をグノーの上から退けるようにしてソファーに降ろし、ナダールはグノーの手を取り立ち上がらせた。そして何故だかそのまま抱きしめられる。項から発するフェロモンを嗅いでいるのか、顔を埋めるようにして首元に鼻を寄せられるので思わず抵抗してしまう。
「駄目ですか?」
「そういうのは夜にしろ。子供だっているんだから」
「最近あなた夜には早々に寝てしまうじゃないですか」
「う……それは、まぁそうなんだけど」
「私はあなたが足りないんです。私の事ももっと構ってください」
すりすりと髪に頬を摺り寄せるようにするナダールに、子供か! と苦笑する。和らいだ空気にキスの雨を降らされ、自分も少しその気になってしまう。
顔や髪、頬の到る所にキスを落とされてくすぐったい。
「なぁ、ナダール、お前にとって愛って何?」
「愛、ですか?」
「そう。最近よく分からなくなって……サリサさんに聞いたら子供は愛してるけど旦那は微妙って言うんだ。愛してないわけじゃないけど面倒くさいって、でもそんなのでも愛って言うなら『愛』って何だろうって思ったりするんだよな」
「あなたはどう思うんですか?」
「俺? 俺の愛の基準は全部お前だから、お前がこれを愛だって言うなら愛だと思ってる」
「私を想う気持ちや、子供達を想う気持ちですか?」
「そう、それ」
「ではあなたは私がそれは愛じゃないって言ったら、違うと思うんですか?」
「それなんだよ、そこが分からなくて、だからお前にとって愛ってなんなんだろうなってそう思ったんだよ」
「愛の基準を他人に求めるのはあまり感心しませんね。そういうのは自分の中から溢れてくる感情です。私がそれを愛だと思わなかったら基準がぶれてしまう程度の気持ちだったら、それが本当にあなたの中の真実の愛なのか私には分かりません」
「真実の愛……また難しくなってきた……」
「あなたは私を愛してくれているのではなかったのですか?」
「うん? 好きだよ。俺にこんな平穏な生活をくれて、家族をくれて、友達をくれて、幸せをくれた。だから俺にとってお前は絶対なんだ」
「それは愛ではないのですか?」
「これはお前から与えられた愛だろ? そうじゃなくて俺が返せる愛が分からないんだよ」
「あなたから返す『愛』ですか。あなたは時々とても哲学的な事を考えますよね」
「そうかな? でもさ、俺はお前に貰った分だけの物をお前に返せてる気がしないんだよな」
「あなただって私に家族をくれたじゃないですか」
「子供が欲しいならまだ産めると思うけど、それでいいの?」
「何か、なんでしょう、その言い方だと玩具を簡単に意味もなく与えようとしてる親みたいな感じで愛をあまり感じられないですね……」
「そうだろ? なんか違うと思うんだけどよく分からなくて」
二人は二人揃って首を傾げてしまう。
「もう一度聞きますけど、あなたは私を愛していますか?」
「うん? うん。お前がいなくなったら生きてけなくなる程度には……」
「そこは子供の為に生きましょうよ。そんなんじゃ、うかうかあなたより早死にできないじゃないですか」
「できれば俺より一分でも一秒でも後に死んでくれたら助かるな」
「善処はしますけど、人生そう上手くいくとは限りませんからね。ただでさえ私の方が年上なんですから」
「うちの子達強いから俺達がいなくても逞しく生きてけるって言ったのお前だし、いざとなったらきっと村の人達が面倒見てくれるよ」
「せめて子供達が成人するまでは死ねません」
ナダールは苦笑する。いまだにグノーの頭の中には死の影がちらついているのかと思うとそれにも溜息が零れる。
「あなたはもっと前向きに生きる事の方が先決ですね」
「俺ってそんなに後ろ向き?」
「発言を聞いている限りはまったくもって後ろ向きです。私が死んでも孫の顔を見るまで死ねない! くらい言って貰わないと安心できませんよ」
「だって俺はお前がいればそれでいいんだ……」
「嬉しいですけど、嬉しくないですね。熱烈な愛の告白にも聞こえるのですけど、それ本気ですよね」
「そうだけど、駄目だった?」
「駄目というか、あなたの周りには私以外にもあなたを愛している人はたくさんいるのですから、その人達の事も考えてください」
「俺はそんなに器用に大勢を愛せない」
本当にもう! とナダールはグノーを抱きしめる。
「私、あなたのそういう所本当に大好きですよ」
「んん~? だったらこれで正解?」
「人としては大はずれですけど、私にとっては大正解です。変わって欲しいと思う反面、そのままでいて欲しいとも思いますし、あなたは私の心を弄ぶ事にかけては天下一品の腕の持ち主ですよ」
「俺、弄んでなんかないぞ?」
「知っていますよ、私が勝手に弄ばれているだけなんで気にしないでください」
「むぅ、俺にも分かるように説明してくれよ」
拗ねたように訳が分からないという顔をするグノーに笑みを零して、その頬に口付けると傍らから寝惚けたような小さな声。
「パパ……おかえり」
そこには二人の声に目を覚ましたのかソファーで寝ていた子供達が目を擦りながらこちらをぼんやり見上げていた。
ナダールの相好が崩れる。
「ただいま、二人共いい子でお留守番できましたか?」
「うん。パパとママは何してるの?」
きょとんと二人はまだ眠そうに首を傾げるのだが、その姿が本当に愛らしい。
「ママに『ただいま』のキスをしていた所ですよ。二人もパパに『おかえり』のキスをしてくれますか?」
「おかえりのキスする~」
「ユリも、ユリも~」
寝ぼけていた頭がはっきりしてきたのか、ルイとユリウスはナダールに飛び付いてしゃがめとばかりに足を引っ張る。
ナダールの体温が離れていくと、少し切ない。それでもしゃがんだナダールの頬に口付ける我が子は天使のようだ。
「ママにもするからしゃがんで~」
「ママもするぅ~」
自分の足も引っ張る子供達にナダールと同じようにしゃがみこめばきゃっきゃと二人はキスをくれた。もうなんなんだよ、幸せ過ぎて胸が詰まる。
思わず二人を抱きしめると、二人は遊んでくれているものと思ったのか、またきゃっきゃと笑った。
「さて、そろそろ夕食にしましょうか」
「え? あ……忘れてた……」
ついうっかり子供達と居眠りをしてしまったせいでなんの準備もしていない。
「あぁ、そうなんですね。では久しぶりに腕をふるいましょうかねぇ」
「わぁい、パパご飯、パパご飯」
子供達はくるくる回る。
最近はナダールに仕込まれた腕でもっぱら料理は自分がしているのだが、やはり料理の腕はナダールの方が上で子供達はナダールの作る料理が大好きだ。
同じように作ってるはずなのにな……と子供達の反応に少し拗ねたような気持ちになる。
「グノーも手伝ってくれますか?」
「あぁ、何すればいい?」
二人で台所に立つともれなく子供達も付いて来る。
「ルイもやりたい~」
「ユリもぉ~」
包丁を持たせるのはまだ危ないと玉ねぎの皮むきや、肉の手捏ねなど簡単な作業を与えて家族四人で作った料理は本当に美味しい。おなかいっぱいに食べた子供達は食後またすぐに睡魔に負けて寝入ってしまった。
「やっぱりお前が作った方が食いが違うな。ホント何が違うんだろ」
「珍しいから興奮して食べるだけですよ。今日は自分達も手伝ったので余計にね」
「だったらいいけど、俺元々あんまり食事も料理も好きじゃなかったから、そういうの出てたら嫌だな……」
「気にしすぎです。あなたの作る料理、私好きですよ。それに最近あなた料理嫌いじゃないでしょう?」
「あ……うん。なんで分かった?」
「時々私の知らないメニューが出てくるので、興味を持って料理をしてるのがよく分かります」
「ホントお前はそういう細かい事よく気が付くよな。お前の作るのってランティスの料理だろ? でも自分が元々食べてたのってメリアの料理な訳じゃん、作り方は分からないけど作れないかなぁって試してる。あと、ファルスで食べた旨い料理とかも再現できたらって思ってるんだけど、これがなかなか難しい」
「あなたそういう所、研究熱心ですよねぇ」
「だって楽しいだろ?」
「食べる事に無関心だったあなたがここまで成長した事が私は嬉しいです」
「だって子供には美味しい物食べさせたいじゃん」
「それもあなたが与える愛のひとつだと思いますよ」
ナダールがにっこり笑う。あ……そうなんだと、すとんと心に落ちてきた。
「これも愛っていうんだな」
「あなたが誰かにしてあげたいって想う気持ちはすべて愛だと思いますよ」
「そっかぁ、へへ……そっかぁ」
「嬉しそうですね」
「だって、本当に分からなかったんだ、自分が愛されたって記憶が薄いから、どういうのが愛って言うのかよく分からなかった。レリックはよく愛してる愛してるって言ってたけど、それって何だ? ってずっと思ってたんだよ」
「あなたのお兄さんの愛は一方的過ぎましたからね。ただ与える無償の愛も貪欲に求める愛も同じ愛ですが、それでもどうせ愛するなら幸せになれる愛がいいですね」
「幸せになれない愛もある?」
「それこそあなたのお兄さんですよ。相手の気持ちを考えない愛情は、向こうは愛を与えているつもりでも、受け取る側は迷惑でしかないでしょう。それでも愛している方はそれが正しいと思ってしまうから、質が悪い」
「愛って難しいんだな」
「私はあなたを愛していますし、あなたのしたい事をなんでもして欲しいと思っています。それがあなたの兄のように行き過ぎてしまってあなたが窮屈だと感じたら、遠慮なく言ってくださいね」
「ん?」
グノーは首を傾げる。
「時々思うのですよ。私は子供であなたをここに縛り付けているのではないか……とね。あなたは私より才能も才覚もある人です、行動力もあるし人を惹きつける力もある、それを私はこんな所で私の為だけに燻ぶらせているのは勿体無いのではないかと思う時もあるのです」
「俺は好きでお前の傍に居るし、別にやりたい事なんてねぇよ?」
「ありがとうございます。そう言って貰えると凄く嬉しいですけど、やりたい事はあるんじゃないですか?」
「ん~まぁ何にもないって訳じゃないかな。俺、昔閉じ込められて生活してたじゃん? だからいつも色んな所見てみたいって思ってたんだよな。それはずっと変わらなくてさ、まだ行きたい場所はたくさんあるよ。でもそれは今じゃなくてもいいんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、今はルイとユリが育ってくのを見てるのが楽しい。毎日毎日少しずつ成長してくのホント楽しい。これって今しかできない事だから、いつでもできる事は後回しでいいんだ」
グノーのにこにこ満面の笑みにナダールも笑みを零す。
「あなたは本当に最高に可愛いですね」
「可愛いのは子供達、俺なんか足元にも及ばないだろ」
「私から見たらあなたも子供達も同じように可愛くて仕方ないですよ。あぁ、でもそうですね、本当に子供は可愛すぎて私、ルイを嫁に出せないかもしれませんね……」
「そこはちゃんと相手に譲る事は考えておかないとな。ルイの人生はルイの物なんだから」
「グノーに正論を吐かれました、立ち直れません……娘を嫁に出すのがこんなに苦しい事なら二人共男の子だった方が良かったです」
「男の子だっていずれ独り立ちするぞ? お前だってそうやって親元飛び出してきたんだろ」
「更に正論で返されました……ううう、子供達が巣立ってもあなただけはずっと私の傍に居てくださいね」
抱きついて泣き真似をするナダールの頭をよしよしと撫でてやる。最近は甘やかされるばかりではなく、こうやってナダールを甘やかす事もできるようになった。自分の中ではすごい進歩だ。
「そんないつの話になるか分からない未来の話より、とりあえず今は現実問題の話をしよう」
「ん? なんですか? 何かありましたっけ?」
「お前、俺に隠れてこそこそ何かしようとしてるだろ?」
「なんの事ですか? 何を言っているのか分かりませんが……」
ナダールがついと瞳を逸らした。普段いつも瞳を覗き込むように会話を仕掛けてくる彼がそんな態度を取るのは明らかに怪しい。
「結婚式がどうのこうの言ってた割りに、その後何も言わないのがおかしい。俺に隠れて何かしようとしてないか?」
「あはは、何のことやらさっぱり」
笑顔のナダールはいつも通りでグノーはむぅと眉を寄せる。
「本当のホントに何も企んでないだろうな? 隠し事は嫌いだからな、何かあったら遠慮なく怒るぞ?」
「あなたは結婚式をやってもいいと思っているのですか?」
「え? やだ。そんな恥ずかしい事しなくていいよ」
一刀両断で斬り捨てられてナダールは苦笑する。
実を言えば祭りに乗じた結婚披露宴の準備は着々と進んでいるのだ、ただそれをグノーに納得させるのには少しばかり骨が折れるとナダールは思っていた。
「そんなに嫌ですか?」
「だって今更だろ? なんでそんなにやりたいんだ? 何か理由でもあるの?」
「言ったでしょ、あなたを私のものだと宣言したいって、そのまま言葉通りですよ」
「ルークの事とか関係あるの?」
聞くとナダールの薫りが少し揺れたのが分かる。
「俺、浮気はしないぞ?」
「分かっていますよ。それでも心配するのは美しい伴侶を持った者の宿命です」
グノーより六歳も年下の青年ルークは出会った頃は坊ちゃん坊ちゃんしていたのに、この数年で一気に身長も伸びて見上げる程に成長していた。にっこり笑顔で上から顔など覗き込まれるとどうにも腹立たしくて仕方ない。
そして、ナダールに威嚇され追い払われ続けた彼は最近ナダールの目を盗んで彼の不在時を狙って家を訪問してくる。
正直鬱陶しくて仕方ない。
「あいつには何やっても無駄だと思うけどなぁ……」
「それでもやらないよりマシです。村人達にあなたは私の物だと宣言する事であの人に多少なりとも牽制できるなら私はなんでもやりますよ」
あぁ、やっぱり気にしてるんだなとグノーは溜息を吐いた。
でも実を言えば最近グノーは気が付いたのだ、ルークには想いを寄せる相手がいる。
ただその相手がβなのでなんとなく踏ん切りがつかず、彼はその人を妬かせたくて自分にちょっかいをかけてくるのだ。
要は自分は当て馬としていい様に扱われているという事だ。
気が付いたのは最近なのでまだ確認はしていないけれど十中八九間違いない。それでもナダールにはなんとなく言えないまま今に到る。
「気にしなくていいのに」
そんな事を言いながらも自分も彼に妬かれるのは嬉しいのだ。
好きでもない相手に嫉妬心は湧かない、だからこうして妬いてくれている内は自分は好かれていると実感できる。
「気にするに決まってるじゃないですか、それに彼ばかりではありませんよ、あなたを見ている村人はまだまだ他にもたくさんいます。私はその全員に牽制したいんです」
「だからって結婚式はどうなんだ?」
「分かりやすくてよくないですか?」
うーんとグノーは呻る。彼に妬かれるのは嬉しいが正直結婚式は面倒くさいし恥ずかしい。
「ともかく俺は嫌だし反対。今のままで俺は充分だから、この指輪着けてるだけでもだいぶ違うと思うし、この話はなしな」
グノーに言われてナダールはますます言い出せなくなる。
もう長老にも村長にもこの話は通ってしまっている、娯楽を求める村人に今更キャンセルもきかないのだ。
こうなったら最終手段は当日まで彼に隠し通すしかない。
ナダールは口止めをしないといけない人物のリストを頭の中でリストアップする。これは仕事をこなすより大変な作業かもしれないな……と笑みを浮かべたままナダールは頭をフル回転させていた。
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