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運命に花束を①
運命は妖艶に微笑む④
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その街は渓谷からさほど離れていなかったので渓谷近くまで行けば小屋が見えてくる。不自然な山小屋、渓谷沿いに点在するその小屋は知ってしまえば何の事はない、ムソンの民の資材置き場だった。
一見ただの山小屋だが、中に入って床下を覗くと「飛翼」の部材がばらして置いてあるのだ。この飛翼はムソンの民以外には知られてはいけない重要機密なので、辺りを見回し人がいないことを確認してその中へと入り込む。
「何かありましたか? なんだか調子が悪そうですけど……」
「ホントお前には隠し事できないな。あのスフラウトの家にいた女のヒートにあてられたみたいで身体が熱い。これ、俺もヒート来るかも……」
「大丈夫ですか? そんな状態で飛べますか?」
「う……ん、たぶん。薬飲むし、でも家に着いたらもう無理かなぁ、ルイに会いたかったのに……」
ヒートの熱に浮かされてしまえば頭の中は子作り一色だ、それ以外の生活など二の次、三の次で子供の面倒を見ている場合ではない。ムソンの村はバース性の人間がほとんどなので皆理解がある、他所に比べて人口も少ないので生めよ増やせよ的な感覚の所もあって、Ωがヒートなど起こせば誰かしら子供の面倒を見てくれるので番も、そうでなくても子作りに専念できる。倫理観的にゆるいとは思うが本当に子育てには良い環境だと思う。
「そういえば、私あなたのまともなヒートに立ち会うの初めてじゃないですか?」
「そうだっけ?」
「初めての時は通常のヒートじゃなかったでしょう? そのまま子供が出来てしまってここまでヒートはなかったので、やっぱり初めてです」
「今は子作りしてる場合じゃないんだけどなぁ」
「どのみち今、村で子作りなんてしたら大変な事になりますよ」
ヒート時のΩのフェロモン発散量は通常より多いのが普通で、通常時ですらHもままならない程のフェロモンを発しているグノーがヒートでαを寄せるフェロモンを発したらと思うとナダールの肝が冷える。
「帰らない方がいいかな……」
「ここなら人もほとんど来ませんので、ここでやり過ごした方がいいかもしれませんね」
「お前は外だぞ」
「やっぱりそうなるんですか……」
「二人目欲しいけど、今できたら計画実行できなくなるだろ。ただでさえ、あんなすぐに子供できたんだからやったら絶対またできる気がする」
「相性が良すぎるのも考えものですね」
二人は顔を見合わせて笑ってしまう。
「そういえばこの首輪の鍵、やっぱりレリックが持ってるっぽい」
「え? そうなんですか?」
「うん、ルイスさんの息子がそう言ってた。肌身離さず持ってる鍵があるって、たぶんこれの鍵じゃないかな」
「これはますます計画の失敗は許されませんね」
お互いの顔が近付き軽い口付けを交わす。
「コレが外れたら、いっぱい子作りしような」
普段なら恥ずかしがって口にしなさそうな言葉をさらりと言ってのけるグノーにナダールは苦笑する。彼はきっと今発情の熱に浮かされている。そんな事を言われたら今すぐ押し倒したくなるじゃないか。
グノーの白い指がそろりと寄ってきてナダールの服を脱がせにかかった。
「今はやらないんじゃなかったんですか?」
「やらねぇよ。でもお前の匂いは安心する」
「私の理性が持ちませんよ」
「ふふ、だからさ……」
追いはぎのように服をはがれ、荷物ごと小屋の外に蹴りだされた。
「いい子で待ってろな」
はいだ服の匂いを嗅ぐようにしてグノーはにっこり微笑み、問答無用で小屋の鍵をかけた。
「ちょ……え? 私の服!」
替えの服もある事はあるが、上着などひとつしかないのに!
今が比較的温かい季節で良かったと思うしかなかった。
数日を山小屋で過す間に比較的ヒートが収まっていそうな瞬間を見計らって食事を差し入れる。窓の外から小屋の中を覗き込めばなにやらこんもりした山の中に彼は埋まっていて、まるで冬眠する熊のようだなと笑ってしまう。
ナダールからはぎ取った服がメインなのだろうが、山小屋の中に常備されている簡易の毛布なども使って丸く配置された寝床はずいぶん寝心地が良さそうで羨ましい。
鍵を開けて、食事を受け取る彼はまだどこか浮かされたような顔をしていて、顔も身体も上気して、甘い薫りを発している。
お互い薬を飲んでいるとはいえ、これはなかなか耐え難い。
「立派な寝床を作りましたねぇ、ずいぶん居心地が良さそうだ」
「うん、でもなんかまだちょっと足りない感じ。今度はもっと立派に作るから、次は一緒に寝ような」
グノーの言葉に「ん?」と首を傾げる。ヒートに浮かされなんとなく出来てしまった山だと思っていたのだが、それは意図して作られた物なのかと首を傾げたのだ。
首を傾げている間にまた扉は閉められて鍵をかけられてしまったのだが、それが後日『Ωの巣作り』という行為で、絆の強い番の間にしか発生しないΩの稀な習性なのだと聞かされたナダールが悶絶したのは言うまでもない。
一見ただの山小屋だが、中に入って床下を覗くと「飛翼」の部材がばらして置いてあるのだ。この飛翼はムソンの民以外には知られてはいけない重要機密なので、辺りを見回し人がいないことを確認してその中へと入り込む。
「何かありましたか? なんだか調子が悪そうですけど……」
「ホントお前には隠し事できないな。あのスフラウトの家にいた女のヒートにあてられたみたいで身体が熱い。これ、俺もヒート来るかも……」
「大丈夫ですか? そんな状態で飛べますか?」
「う……ん、たぶん。薬飲むし、でも家に着いたらもう無理かなぁ、ルイに会いたかったのに……」
ヒートの熱に浮かされてしまえば頭の中は子作り一色だ、それ以外の生活など二の次、三の次で子供の面倒を見ている場合ではない。ムソンの村はバース性の人間がほとんどなので皆理解がある、他所に比べて人口も少ないので生めよ増やせよ的な感覚の所もあって、Ωがヒートなど起こせば誰かしら子供の面倒を見てくれるので番も、そうでなくても子作りに専念できる。倫理観的にゆるいとは思うが本当に子育てには良い環境だと思う。
「そういえば、私あなたのまともなヒートに立ち会うの初めてじゃないですか?」
「そうだっけ?」
「初めての時は通常のヒートじゃなかったでしょう? そのまま子供が出来てしまってここまでヒートはなかったので、やっぱり初めてです」
「今は子作りしてる場合じゃないんだけどなぁ」
「どのみち今、村で子作りなんてしたら大変な事になりますよ」
ヒート時のΩのフェロモン発散量は通常より多いのが普通で、通常時ですらHもままならない程のフェロモンを発しているグノーがヒートでαを寄せるフェロモンを発したらと思うとナダールの肝が冷える。
「帰らない方がいいかな……」
「ここなら人もほとんど来ませんので、ここでやり過ごした方がいいかもしれませんね」
「お前は外だぞ」
「やっぱりそうなるんですか……」
「二人目欲しいけど、今できたら計画実行できなくなるだろ。ただでさえ、あんなすぐに子供できたんだからやったら絶対またできる気がする」
「相性が良すぎるのも考えものですね」
二人は顔を見合わせて笑ってしまう。
「そういえばこの首輪の鍵、やっぱりレリックが持ってるっぽい」
「え? そうなんですか?」
「うん、ルイスさんの息子がそう言ってた。肌身離さず持ってる鍵があるって、たぶんこれの鍵じゃないかな」
「これはますます計画の失敗は許されませんね」
お互いの顔が近付き軽い口付けを交わす。
「コレが外れたら、いっぱい子作りしような」
普段なら恥ずかしがって口にしなさそうな言葉をさらりと言ってのけるグノーにナダールは苦笑する。彼はきっと今発情の熱に浮かされている。そんな事を言われたら今すぐ押し倒したくなるじゃないか。
グノーの白い指がそろりと寄ってきてナダールの服を脱がせにかかった。
「今はやらないんじゃなかったんですか?」
「やらねぇよ。でもお前の匂いは安心する」
「私の理性が持ちませんよ」
「ふふ、だからさ……」
追いはぎのように服をはがれ、荷物ごと小屋の外に蹴りだされた。
「いい子で待ってろな」
はいだ服の匂いを嗅ぐようにしてグノーはにっこり微笑み、問答無用で小屋の鍵をかけた。
「ちょ……え? 私の服!」
替えの服もある事はあるが、上着などひとつしかないのに!
今が比較的温かい季節で良かったと思うしかなかった。
数日を山小屋で過す間に比較的ヒートが収まっていそうな瞬間を見計らって食事を差し入れる。窓の外から小屋の中を覗き込めばなにやらこんもりした山の中に彼は埋まっていて、まるで冬眠する熊のようだなと笑ってしまう。
ナダールからはぎ取った服がメインなのだろうが、山小屋の中に常備されている簡易の毛布なども使って丸く配置された寝床はずいぶん寝心地が良さそうで羨ましい。
鍵を開けて、食事を受け取る彼はまだどこか浮かされたような顔をしていて、顔も身体も上気して、甘い薫りを発している。
お互い薬を飲んでいるとはいえ、これはなかなか耐え難い。
「立派な寝床を作りましたねぇ、ずいぶん居心地が良さそうだ」
「うん、でもなんかまだちょっと足りない感じ。今度はもっと立派に作るから、次は一緒に寝ような」
グノーの言葉に「ん?」と首を傾げる。ヒートに浮かされなんとなく出来てしまった山だと思っていたのだが、それは意図して作られた物なのかと首を傾げたのだ。
首を傾げている間にまた扉は閉められて鍵をかけられてしまったのだが、それが後日『Ωの巣作り』という行為で、絆の強い番の間にしか発生しないΩの稀な習性なのだと聞かされたナダールが悶絶したのは言うまでもない。
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