運命に花束を

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運命に花束を①

運命の交錯④

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「それはあなた方を見ていれば分かります。あの時はお子さんが無事で安堵いたしました。グノーさんも少し様子がおかしいと聞いていましたが、こうやって普通に話せる程に回復したのはあなたの献身の賜物なのでしょう。その節はエディが不躾に申し訳ございませんでした」

 クロードは頭を下げるが、エディはそっぽを向いている。
 エディはそんな事をする必要がないと思っているのは一目瞭然で、事実そんな風に頭を下げられるいわれもないので慌てて「やめてくれ」とクロードを止めた。

「俺の方こそ何も知らずに迷惑かけたみたいで、ごめん。でも、だからと言って、はい、そうですかってメリアに帰るわけにはいかない。俺にも家族ができた、レリックの所に帰るなんてまっぴらごめんだ」
「当たり前です! どこに好き好んで監禁されに帰る馬鹿がいますか、そんな事絶対させませんよ」
「だったらアジェはどうなる!?」
「助けに行くに決まってんだろ!」

 自分の断言にエディとクロードは驚いたようにこちらを見やった。
ナダールは「あぁ、やっぱり……」という顔でまたしても額に手を当てている。

「あなたの事なのでそう言うと思っていましたよ。だから子供が生まれるまで言いたくなかったんです、どんな無茶をしようとするか分からなかったから……」
「さすがに俺だってあれだけ腹がでかかったら無闇に動かねぇよ。むしろ精神的ショックの方が大きかったから言ってくれた方が良かった」
「嘘おっしゃい。あなたがアジェ君がそんな事になっていて、普通に安穏と妊夫生活に甘んじている訳がない。自分のせいだと思い悩んで結局母体に影響するのは同じでしたよ」

 確かに、きっと自分ならうじうじと悩みこんでまた不眠なり拒食なりに陥ってた可能性は否定できず、ぐっと言葉に詰まる。
ナダールは俺の事を俺より理解しているのか……とそれに自分で呆れてしまった。

「ってか、なんだよ。お前等は俺が帰れば万事解決とでも思ってたのかよ? そんな訳あるか! メリアって国はおかしいんだよ、どこか狂った国なんだ。俺の事がなくたっていずれ戦争は起こすかもしれない、それだけの物を持っている。それはもう分かったんだから、だったら先手を打って潰す事を考えろ!」
「だからファルスは手出しが出来ないと先程も……」
「別に国をあげてメリアに対抗しろなんて、俺言ってないだろ?」

 何を言い出したんだという顔でエディとクロードの二人はこちらを見やる。

「言ったはずだ、メリアは首の皮一枚で繋がってる国なんだよ。レリックは国を纏めた英雄だとか言われてるらしいが、王家には常に不満が付き纏ってる。そこを突けば国なんてすぐに崩壊するさ。俺一人じゃ出来なかった、でも今ならできる気がする」
「何をですか?」
「メリア王国の解体」

 ファルスの二人だけではなくナダールまで驚いたような顔でこちらを見ている。

「正気ですか? そんな事できる訳がない」
「なんでそう言い切れる?」
「あなたの言っている事は、国ひとつを潰す……という話ですよ? 正気の沙汰じゃない」
「正気の沙汰じゃないのは向こうも同じだ。たかだか俺一人の為に戦争起こそうとしてる相手に真っ向から正論をぶつけたって聞くわけがない」
「それはそうですが……」
「何か手でもあるのか?」

 エディが真面目な顔で問うてくる。

「手出しが出来なくても、今こちら側に付いているのは誰だ?ブラックは勿論こっち側だろう?」
「まぁ、そうだな」
「ランティスのエリオット王子は?」
「何かあった場合、協力は惜しまないと言質いただいています」
「すでに国が二つこっちの味方だ。ブラックの部下どもは使っても構わないんだろ?」
「部下……? ファルスの兵士は使えないぞ」
「そうじゃない、この村の奴等だよ。この村自体がブラックの諜報部隊なんだろ?」
「あぁ、そうですね。私達も大変お世話になりました」
「これだけいれば充分だ」

 グノーの唇は弧を描く。呪うように国を潰すか自分を殺すか、そんな事ばかり考えていた。自分一人ではできなかった、金も労力も自分には足りなかったから。でも今ならできる。

「この村の奴等は戦力にはならないぞ。諜報に関してはお手の物だが、武術に関してはからっきしだ」
「それでいい、まずはメリア王の城の詳しい見取り図でも作ってもらおうか」
「そんなんで良ければ、もうあるよ」

 どこからか声が降ってきた。全員が驚いて声の方を見やる、それは確かに頭上からの声で、天井を見上げれば壁の隅からひらりと振られる手がひとつ。

「誰だ!?」
「待って、今そっち行く」

 呑気な声がそんな事を言うと天井の壁が一枚動いて、そこからにゅっと黒髪の男が顔を覗かせた。

「ルーク君、そんな所で何をやっているんですか……」
「だってコレがおいらの仕事だもん。よいせっと」

 ナダールの呆れたような声に、何事もない顔でルークはしれっとそう返し、天井から降りてきた。

「この方、なんなんですか?」
「おいらルーク。長老の孫だよ! じいちゃん家で何度か会ったよね?」
「確かに顔は見かけた気はするが……」

 エディとクロードは戸惑い顔だ。

「俺、まだブラックに見張られてんの?」
「それはねぇ、メリアの第二王子なんて分かれば、見張らない訳にいかないかな」
「まぁ、見られて困るような生活してないからいいけど。で、見取り図あんの?」
「ありますよ、任せてください。そういうのこそ本領発揮です。なんならランティス城のも出しますよ」
「ランティスのもあるんですか……」

 ランティスの騎士団員としてこれは由々しき事態だと思わざるを得ず、ナダールは頭を抱えた。

「あぁ、俺のいた頃とそう変わってねぇな」

 地図を覗き込んでそんな事をぶつぶつと呟いていると、何が起こっているのか分からないという顔のファルスからの客人もその地図を覗き込む。

「アジェがいるのはここか、で、ブラックの娘がここ。あれ?」
「どうしました?」
「これって最近作ったの?」
「そうですよ。ボスの娘さんが連れて行かれた時に作られたものです。どこかおかしいですか?」

 その地図には誰がどの部屋を主に使っているのか、完全把握とまではいかずとも名前まで明記されていてそれを見ていたグノーは首を傾げる。

「ここ、なんで俺がいるの?」

 そこには確かにセカンド・メリアの文字が有り、だが自分が使っていた場所とは明らかに違う場所に記されたその印が気になった。

「あ、本当だ。これ作ったのおいらじゃないんで、詳しい事までは分からないんですけど、作った人連れてきます?」
「そうだな、見てきてるんなら今の状況を知りたい。最新情報」

 了解です! と元気よくルークは踵を返して駆けて行った。
地図を睨み付けてその情報を頭の中に叩き込む。これは思った以上にこの村の民は使える。

「一応確認なんですがあなたはメリアを本気で潰す気なんですか?」

 戸惑ったようなクロードの声に顔を上げた。

「そうだよ、それがどうした?」
「潰してもいいんですか? 王家自体だってあなたの家ですよね?」
「俺にメリア王家への情なんてあると思うのか? あったら家出なんてしてねぇっての。潰すんなら徹底的に、立ち上がれなくなるまで潰せばいい」
「過激ですね……」
「そうか?」
「あなたも私と同じで流されるままに生きている人だと思っていたので、正直驚いています」

 あぁ、確かにその通りだ。今までの俺はそうだった、何にも期待せず時が流れるまま、生きているから生きていた、ただそれだけだった。だが、今は違う。自分は生きなければいけない。
 娘を残して自分は死ねない、あの子に降りかかるだろう火の粉はすべて払っておかなければ死ぬ事はできない。

「うちの奥さん意外と男前なんですよ」

 ナダールは少し困ったようでもあり、嬉しそうでもある不思議な表情でそう言った。

「奥さんって言うな」
「この期に及んでまだ、私との関係を否定するんですか?」
「違う、子供は産んでも俺は男だ、女になる気はない。奥さんは女の呼称だろ、言うなら旦那って言え」
「本当にあなたは男前過ぎです……そんな所、大好きですよ」
「人前でそういうこと言うな」

 照れ隠しでそっぽを向けば、それを分かっている彼は抱きついてきた。

「目のやり場に困るから、人前でいちゃつくのは控えてくれ」

 なんていうか、あんたはアジェに聞いてたイメージと全然違う……とエディはぶつぶつ零しつつ眉間に皺を寄せ髪を掻きあげる。

「アジェ君はどんな風に私の事を言っていたんですか?」
「いつも笑ってにこにこしてて、絶対怒らなそうな人畜無害な人」
「そのまんまじゃん?」

 首を傾げてそう言うとエディは溜息を吐く。

「どこがだ! 普通に怒るし、笑ってもないだろ。しかも人目も憚らず常時いちゃいちゃと……俺にとっては公害だ!」
「それで言うなら私もあなたのイメージずっと壊れっぱなしですよ。もっと大人びた冷静な男性だとアジェ君から伺っていたのに、切れやすいし手は早いし、全然違うじゃないですか、騙されました」
「アジェの前ではこいつ大きな猫を被ってるからな。いっそ笑えるくらい別人演じてるから、一度見てみるといい」

 背後から巻き付けられているその腕を撫でながら、くすくす笑い声でそう言うとまたエディが切れた。

「アジェ以外になんて、どう思われようとどうでもいいんだよ俺は。っていうかホントそのさりげなくいちゃつくスタイルやめろ! マジ腹立つ!!」
「何を言っているんですか? ようやく手に入った人ですよ、今抱きしめておかなくて、いつ抱きしめるんですか? 悔しかったらあなたも早くアジェ君を助けだす算段を立てることですね」
「そんな事は分かってる!」
「エディを煽るのはやめてください。この人切れるとどこまで暴走するか分かりませんので手に負えなくなります」

 無表情だ無表情だと思っていたクロードの顔に少しの疲れが見える。苦労しているのだろうか。

「そういえば、エディ君はクロードさんの部下だとお聞きしていたのですけど、二人を見ているとそんな風には見えませんが一体どういう関係なんですか?」
「友人です。私にとっては初めての友人なんですよ」

 クロードの言葉にグノーとナダールは怪訝な顔をしてしまう。

「上司と部下にも見えないけど、友達って言われてもなんか違和感。友達の一人もいない俺に言われたかないだろうけど、本当に友達?」
「変ですか?」
「変というわけではありませんが、グノー同様、違和感は拭えませんね。どちらかと言うとお世話係……的な?」
「言っておくが、こいつの世話をしてるのは俺の方だからな」

 エディは怒ったように言う。

「え? そうなんですか?」
「何を言ってるんですか、今まで私がどれだけあなたの尻拭いをしてきたと思っているんですか」
「勝手に付いて来て、勝手にやってるだけだろう。生活能力皆無のお前の尻拭いは俺だってしてる!」
「喧嘩するほど仲がいい?」

 「あ?!」とエディは声を荒げ、クロードは「それです!」と少し嬉しそうに手を打った。なんだかよく分からないが、これはこれで上手く噛み合っているようで笑ってしまう。
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