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運命に花束を①
運命と春の嵐⑤
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子供の泣き声に目を覚ました。日差しの入る部屋の中は初夏の陽気に少し暑いくらいだった。
「あ……」
小さな赤ん坊が小さなベッドでむずかって泣いている。
ナダールは?
慌てて周りを見回しても彼はおらず、恐る恐るその小さな女の子を抱き上げた。
夢じゃなかった……改めて日差しの中でそれを思う。子供の泣き声に胸が張る。
あ……出るのかな、こんな男の身体でもちゃんと育てられるようになってるのかな?
ベッドに腰掛け胸元に赤子の顔を寄せると、何かを察したように娘はそこに吸い付いた。奇妙な感覚、自分の中からこの子の食事が出てくるなんておかしな光景だ。
小さな手、小さな体で一生懸命生きようとしている。今まで死ぬ事ばかりを考えて生きてきた自分とは真逆の存在、なのにそれがとても愛おしい。
部屋の扉が開き、驚いたようにナダールがこちらを覗いた。手には哺乳瓶、ミルクを作っていたのだろう。
「必要、なかったみたいですね」
「ん……でも足りないかもしれないし、ちゃんと出てるのかもよく分からない」
「ちゃんと出てましたよ、昨夜確認済みです」
しれっとそう言ったナダールの言葉にぶわっと赤面した。
「おっ前……そういう事……」
「だから言ったじゃないですか、娘より先に堪能するのはどうかと思う、って」
ナダールの言い草に言葉も出ない。もう、もう、もう!!
「顔、赤いですよ」
「見んな」
娘を抱いたまま、体ごと向きを変えてそっぽを向いた。
「昨日の、痕になってしまいましたね」
肩口を撫でられびくっと身体が震えた。
「なに!?」
「昨夜、ここ噛んでしまったので、すみません。歯型が付いてます」
「歯型?」
慌てて覗いて見ると確かにそこには赤い歯型。
「なんか、お前の所有印みたいだな」
「そんな事言うとまた付けますよ。なにせ所有したくても現状できないんですから」
「付けたきゃ付ければいいだろ。別に構わねぇよ」
言葉に彼は口を手で覆う。「なんだよ?」と喧嘩腰に問えば
「そんな言葉があなたの口から聞ける日が来るなんて夢みたいです……」と、相好の崩れた顔で言われてしまった。
俺、この村に来てからは結構こいつに優しくしてたつもりだったんだけど、伝わってなかったか?
「ねぇ、昨日の約束覚えてますか?」
「約束?」
「素面で『好き』って言って貰う約束ですよ」
また、ぶわっと顔に血が上るのが分かった。
「お、覚えてない!」
「え~またまた、その反応、絶対覚えてるでしょう」
「覚えてないったら、覚えてない!」
大きな声に驚いたのか娘が腕の中でふにゃ~と猫の仔のように泣き出した。
「あなたが大きな声出すから」
ナダールは自分の腕から娘を抱き上げて、揺らすようにあやすと娘はすぐに泣き止んだ。
「やっぱりお前はすごいな」
「あなたもすぐに出来るようになりますよ」
微笑む笑顔が眩しすぎる。あぁ、この笑顔を守るためにも自分は過去と戦わなければいけない。小さな娘と大事な人、この二人がいればきっと強くなれる。そんな気がする。
強くならなければならない、それが自分の、そしてこの子の未来を守る。それは確信だった。
逃げ続けても未来はない、だったら立ち向かう。ナダールがいれば強くなれる。
「好きだよ」
「え?」
娘に気を取られて聞き逃したのだろう彼に、なんでもないよと首を振る。面と向かってこれを言うのはまだ恥ずかしいから、今はまだこれでいい。
「ルイ、生まれてくれてありがとう。頼りない親だけど、よろしくな」
娘の頬を突いてそう言うと、丸い瞳の彼女はにっこり笑みを見せた。
「あ……」
小さな赤ん坊が小さなベッドでむずかって泣いている。
ナダールは?
慌てて周りを見回しても彼はおらず、恐る恐るその小さな女の子を抱き上げた。
夢じゃなかった……改めて日差しの中でそれを思う。子供の泣き声に胸が張る。
あ……出るのかな、こんな男の身体でもちゃんと育てられるようになってるのかな?
ベッドに腰掛け胸元に赤子の顔を寄せると、何かを察したように娘はそこに吸い付いた。奇妙な感覚、自分の中からこの子の食事が出てくるなんておかしな光景だ。
小さな手、小さな体で一生懸命生きようとしている。今まで死ぬ事ばかりを考えて生きてきた自分とは真逆の存在、なのにそれがとても愛おしい。
部屋の扉が開き、驚いたようにナダールがこちらを覗いた。手には哺乳瓶、ミルクを作っていたのだろう。
「必要、なかったみたいですね」
「ん……でも足りないかもしれないし、ちゃんと出てるのかもよく分からない」
「ちゃんと出てましたよ、昨夜確認済みです」
しれっとそう言ったナダールの言葉にぶわっと赤面した。
「おっ前……そういう事……」
「だから言ったじゃないですか、娘より先に堪能するのはどうかと思う、って」
ナダールの言い草に言葉も出ない。もう、もう、もう!!
「顔、赤いですよ」
「見んな」
娘を抱いたまま、体ごと向きを変えてそっぽを向いた。
「昨日の、痕になってしまいましたね」
肩口を撫でられびくっと身体が震えた。
「なに!?」
「昨夜、ここ噛んでしまったので、すみません。歯型が付いてます」
「歯型?」
慌てて覗いて見ると確かにそこには赤い歯型。
「なんか、お前の所有印みたいだな」
「そんな事言うとまた付けますよ。なにせ所有したくても現状できないんですから」
「付けたきゃ付ければいいだろ。別に構わねぇよ」
言葉に彼は口を手で覆う。「なんだよ?」と喧嘩腰に問えば
「そんな言葉があなたの口から聞ける日が来るなんて夢みたいです……」と、相好の崩れた顔で言われてしまった。
俺、この村に来てからは結構こいつに優しくしてたつもりだったんだけど、伝わってなかったか?
「ねぇ、昨日の約束覚えてますか?」
「約束?」
「素面で『好き』って言って貰う約束ですよ」
また、ぶわっと顔に血が上るのが分かった。
「お、覚えてない!」
「え~またまた、その反応、絶対覚えてるでしょう」
「覚えてないったら、覚えてない!」
大きな声に驚いたのか娘が腕の中でふにゃ~と猫の仔のように泣き出した。
「あなたが大きな声出すから」
ナダールは自分の腕から娘を抱き上げて、揺らすようにあやすと娘はすぐに泣き止んだ。
「やっぱりお前はすごいな」
「あなたもすぐに出来るようになりますよ」
微笑む笑顔が眩しすぎる。あぁ、この笑顔を守るためにも自分は過去と戦わなければいけない。小さな娘と大事な人、この二人がいればきっと強くなれる。そんな気がする。
強くならなければならない、それが自分の、そしてこの子の未来を守る。それは確信だった。
逃げ続けても未来はない、だったら立ち向かう。ナダールがいれば強くなれる。
「好きだよ」
「え?」
娘に気を取られて聞き逃したのだろう彼に、なんでもないよと首を振る。面と向かってこれを言うのはまだ恥ずかしいから、今はまだこれでいい。
「ルイ、生まれてくれてありがとう。頼りない親だけど、よろしくな」
娘の頬を突いてそう言うと、丸い瞳の彼女はにっこり笑みを見せた。
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