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運命に花束を①
運命との旅立ち⑧
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王子の誕生日、そういえば王子が誕生日だということはアジェも今日が誕生日なのだと唐突に思い出した。
今日で王子は十六になる。当然アジェも十六だ。
アジェにはまだヒートはきていない、この年齢になればいつそれがきてもおかしくはない、用心しないとなとグノーは思った。
自分に初めてヒートがきたのは十三の時だった、自分は少し早熟だったが、それでもアジェのヒートは遅すぎる。元々βに近いと本人も言っていたが、それが現実味を帯びてきた。もしかしたらアジェにヒートはこないのかもしれない。
自分も欠陥品のΩだが、アジェもその点では自分とあまり変わらないのかもと少し嬉しくなった。
今日はナダールは城で要人警護があるからと朝も早くから出掛けていった。そして自分達は家から出ずに留守番……のはずだったのだが、今現在二人がいるのはリングス薬局だ。
「いらっしゃい、待ってたわよ」
マルクの彼女、ナディアはにっこり笑う。カイルと同じ金色の髪をなびかせて彼女は楽しそうに笑っていた。
彼女の兄カイルとは違いその笑みに邪気は見えないが、グノーはどうにも気が乗らずアジェの顔色を伺った。
「アジェ、本当に行くのか?」
「行くよ。いつまでもうじうじしてるの嫌なんだ、今日で自分の心に決着つける。それでこの街を出る。グノーもそうしたいんだろ?」
確かにそうなのだ。メルクードは都会で自分たちΩには居心地が悪すぎる、こんな所はさっさと見切りをつけて出て行ってしまうのが一番なのだ。
けれどアジェがやろうとしているのはナダールが絶対やるなと釘を刺した「不法侵入」だ。散々自分を諌めてきたアジェがそれをやろうと言うことに彼の焦りが垣間見えて、グノーは少し不安になるのだ。
自分とナダールが『運命』について口論をしていた時、アジェはこの不法侵入をすでに決めてしまっていた。カイルの妹ナディアもアジェの顔を見てあまりのそっくりさに驚き、その後はノリノリで兄の口車に乗ってしまった。
ナディアは王子付きの侍女なのだ。
「私の格好で城内に入ったら、後はマルクが兄さんの所まで案内してくれるわ、頑張って」
侍女の制服を着せられて、ナディアそっくりの鬘を被せられたアジェはお世辞抜きで可愛かった。
うっすら化粧まで施され、少々恥ずかしそうにしてはいるものの、今更こんな格好までしたのだ、アジェの決意は変わる事はない。
「呼んでくれたらすぐ行くから、何かあったら絶対俺を呼べよ」
一緒に行くと言ったのに、カイルはグノーが侵入する方法を用意してはくれなかった。だったら自力で忍び込むしかない。言ってはなんだが、不法な事は得意なのだ、見付からずに城に侵入する事など自分一人なら朝飯前だった。
マルクと共にアジェは正面から城へと向かう。それとは逆に自分は裏から周って忍び込む、侵入経路はすでに目星を付けていた。
「ナダールに見付かったらどやされるだろうな……」
それでも、今日アジェが自分自身に決着をつければ晴れてこの街を出て行ける。これで彼ともお別れだ。
お別れ……望んでいた事なのに何故か心がざわついた。これでいいのだ、彼との関係に生産性などないとそう思っても心は揺れる。
「今は忘れろ」
呟いて首を振った。こういう時、余計な事を考えていると失敗する。それはここまで生き抜いてきた自分の経験則から導き出された答えだ。
アジェも自分も見付かってしまったら大事になる。
王子、それとできれば国王陛下夫妻を見られさえすればそれでいい。自分を捨てた家族を見てみたい、その思いは酔狂であると思わざるを得ないが、それが『運命』から逃げてきたアジェの次へと進める道なのならば、グノーはそれに全面的に協力するしかないのだ。
「よっこいせ」
グノーは壁を乗り越える、その後ろを彼に気付かれることなく付いて行く人影。彼は知らない。その人影がカルネ領から離れる事無くずっと二人を見つめていた事を……
今日で王子は十六になる。当然アジェも十六だ。
アジェにはまだヒートはきていない、この年齢になればいつそれがきてもおかしくはない、用心しないとなとグノーは思った。
自分に初めてヒートがきたのは十三の時だった、自分は少し早熟だったが、それでもアジェのヒートは遅すぎる。元々βに近いと本人も言っていたが、それが現実味を帯びてきた。もしかしたらアジェにヒートはこないのかもしれない。
自分も欠陥品のΩだが、アジェもその点では自分とあまり変わらないのかもと少し嬉しくなった。
今日はナダールは城で要人警護があるからと朝も早くから出掛けていった。そして自分達は家から出ずに留守番……のはずだったのだが、今現在二人がいるのはリングス薬局だ。
「いらっしゃい、待ってたわよ」
マルクの彼女、ナディアはにっこり笑う。カイルと同じ金色の髪をなびかせて彼女は楽しそうに笑っていた。
彼女の兄カイルとは違いその笑みに邪気は見えないが、グノーはどうにも気が乗らずアジェの顔色を伺った。
「アジェ、本当に行くのか?」
「行くよ。いつまでもうじうじしてるの嫌なんだ、今日で自分の心に決着つける。それでこの街を出る。グノーもそうしたいんだろ?」
確かにそうなのだ。メルクードは都会で自分たちΩには居心地が悪すぎる、こんな所はさっさと見切りをつけて出て行ってしまうのが一番なのだ。
けれどアジェがやろうとしているのはナダールが絶対やるなと釘を刺した「不法侵入」だ。散々自分を諌めてきたアジェがそれをやろうと言うことに彼の焦りが垣間見えて、グノーは少し不安になるのだ。
自分とナダールが『運命』について口論をしていた時、アジェはこの不法侵入をすでに決めてしまっていた。カイルの妹ナディアもアジェの顔を見てあまりのそっくりさに驚き、その後はノリノリで兄の口車に乗ってしまった。
ナディアは王子付きの侍女なのだ。
「私の格好で城内に入ったら、後はマルクが兄さんの所まで案内してくれるわ、頑張って」
侍女の制服を着せられて、ナディアそっくりの鬘を被せられたアジェはお世辞抜きで可愛かった。
うっすら化粧まで施され、少々恥ずかしそうにしてはいるものの、今更こんな格好までしたのだ、アジェの決意は変わる事はない。
「呼んでくれたらすぐ行くから、何かあったら絶対俺を呼べよ」
一緒に行くと言ったのに、カイルはグノーが侵入する方法を用意してはくれなかった。だったら自力で忍び込むしかない。言ってはなんだが、不法な事は得意なのだ、見付からずに城に侵入する事など自分一人なら朝飯前だった。
マルクと共にアジェは正面から城へと向かう。それとは逆に自分は裏から周って忍び込む、侵入経路はすでに目星を付けていた。
「ナダールに見付かったらどやされるだろうな……」
それでも、今日アジェが自分自身に決着をつければ晴れてこの街を出て行ける。これで彼ともお別れだ。
お別れ……望んでいた事なのに何故か心がざわついた。これでいいのだ、彼との関係に生産性などないとそう思っても心は揺れる。
「今は忘れろ」
呟いて首を振った。こういう時、余計な事を考えていると失敗する。それはここまで生き抜いてきた自分の経験則から導き出された答えだ。
アジェも自分も見付かってしまったら大事になる。
王子、それとできれば国王陛下夫妻を見られさえすればそれでいい。自分を捨てた家族を見てみたい、その思いは酔狂であると思わざるを得ないが、それが『運命』から逃げてきたアジェの次へと進める道なのならば、グノーはそれに全面的に協力するしかないのだ。
「よっこいせ」
グノーは壁を乗り越える、その後ろを彼に気付かれることなく付いて行く人影。彼は知らない。その人影がカルネ領から離れる事無くずっと二人を見つめていた事を……
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