運命に花束を

矢の字

文字の大きさ
上 下
28 / 455
運命に花束を①

運命との旅立ち⑦

しおりを挟む
 気まずいままに日数だけ重ねてナダールは遠くから彼をぼんやり見つめていた。
 アジェは同い年のマルクと気が合ったようでちょこちょこと彼と一緒に出掛けてしまう。できればアジェとグノー、二人一緒にいて欲しいとお願いするのだが、どうにもマルクが言う事を聞いてはくれずアジェを連れ出してしまうのだ。
 マルクもまだ成り立てとはいえ騎士団員の端くれだ、何かあったとして対処はできると信じ任せてはいるが、どうにも不安は隠せない。
 一方グノーの方もあれからどうにも元気がなく、それはそれで心配で仕方がない。近付くなと怒られるのであまり近付かないようにしているのだが、元気がないとどうにもこちらまで不安になってしまう。
 ここ数日、グノーは陽のあるうちは小刀片手になにやらせっせと作っている。そして陽が落ちると今度は飽きもせずにひたすら剣を振るっていた。それは皆が寝静まる深夜まで続いていて、彼はちゃんと寝ているのかと首を傾げたくなるほどだった。

「何を作っているんですか?」
「あ? なんでもいいだろ」

 返答は相変わらずにべもない。

「私と話すのも嫌ですか?」
「別に……」

 そう言う彼は全くこちらを見ようとはせず、ただひたすらに何か部品を彫り続けている。それはとても小さな物で、一体何を作ろうとしているのかもまるで分からずナダールはまたその様子をぼんやりと眺めていた。

「……からくり人形」

 唐突に彼がぼそりと言う。え? と眺めていた彼の手元から彼の顔へと視線を移せば、彼はやはりそっぽを向いているのだが、久しぶりなまともな会話に嬉しくなった。

「からくり人形、作れるんですか?」
「趣味だから、簡単なヤツだけだけどな」

 そういえばメリアはそういったからくり細工が有名だったなと思い出す。人形であったり、動力であったり、それは様々な場所で利用されていると聞いたことがある。

「どんな物を作ろうとしているんです?」
「自動人形、オートマタって知ってるか?」
「いえ、それはどういった?」
「普通人形はネジを回したり、人の手で操って動かすものだけど、それを自動でやる。言っても全部自動かって言ったらそういう物でもないけど、ある程度動く、そういう人形」
「それは凄いですね」

 素直に感心してその手元をまた覗き込む。

「興味ある?」
「それはそうですね、見た事ないですから」
「そうか……」

 言って彼はまた黙り込んだ。

「あなたはなんでそれに興味を持ったんですか?」

 その言葉に彼は少し手を止め「自分にそっくりだと思ったから」と、そう言った。
 自分に似ている? それがどういう意味なのかよく分からず首を傾げる。

「何も考えない、ただ動くだけの人形。その仕組みが知りたくて作り方を覚えた。自分の中身もきっと同じだと思ってる」
「そんな事、ある訳ないじゃないですか」
「切ってみたら部品が壊れて動かなくなるかと思ったのに、思いの外痛かった。ついでに血が大量に出てきて、自分の動力どうなってんだろうな……ってそんな事ばっかり考えてた」

 彼の言葉に戸惑った。これは彼の心の闇か?

「人形は操者の手の中だ、それが嫌で壊し方を研究してる」
「壊すために作ってるんですか?」
「これは違う。アジェが見たいって言ったから作ってるだけ」

 彼はそう言って、またその小さな部品と格闘を始める。彼の心はどこか壊れている、それはずっと感じていたことだ。今の言葉は自身への自傷行為の告白だ。
 自動人形、何の意思も持たずただ操者に操られる……彼を操っているのは、縛っているのは一体誰なのか……彼の頑なな心の鍵はきっとその人物が握っている。だがそれは彼の一番の心の禁忌だ、迂闊に触れればまた彼を怒らせかねない。

「完成したら、私にも見せてくださいね」

 今はその過去に触れる時ではないと、言葉を選んでそう言ったら彼は黙って頷いた。
 今はまだこれだけでいい、時間はまだある。
 彼の心の鍵を必ず見つけ出してみせる、そうナダールは心に誓った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...