運命に花束を

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運命に花束を①

運命との旅立ち⑤

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「そっちの君は初めてだよね? どこの子?」
「あ、僕はマルクの従兄弟でアジェと言います。マルクがナディアさんに会わせてくれるって言うので付いてきちゃったんですけど、お邪魔ですか?」
「全然大丈夫だよ、お客様は大歓迎さ。でもなんでフード被ってるの? それ流行り?」

 グノーは髪を隠す為に、アジェは顔を隠す為に外に出る時は常にフードを被っているのだが、それはやはり奇異に写るようで、カイルは首を傾げてそう言った。

「すみません、そういう訳ではないんですけど、驚かせてしまうこと多いみたいで……」

 言ってアジェがフードを外すと、カイルは目を見開いた。そういえば彼は王宮勤めだとか言っていたか、王子の顔も見知っているのならその反応は至極当然の反応だった。

「エリオット王子?」

 信じられないという顔でカイルは呟く。

「あは、やっぱり似てます? 他人のそら似なんですけど、メルクードに来てからは驚かれてばかりで困ってます」

 アジェは心底困っているという表情で微かに笑みを見せた。

「そら似? それにしたって……」

 おもむろにカイルはアジェに寄っていき顔を寄せる。アジェは驚いて後退った。

「あ、本当に別人だ。君Ωだね」

 カイルは何かに納得したようにひとつ頷く。何をされたのか分からないアジェはおろおろと立ち竦んだ。

「いきなり人の匂いを嗅ぐのはマナー違反ってものだろう」

 グノーは怒ってアジェを抱き寄せた。本当にこの男は自分を怒らせる事しかしやしない。嫌われている事は分かっているが、アジェにまでそれを向けるのは許せない。
 ナダールの近くに他にもΩがいた事で牽制してるつもりか? アジェには好きな男がいるのだから牽制などしても無駄なのに。

「あぁ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど、あんまりにも王子に似てたから、つい。王子はαだからね、だけどそれにしてもよく似てる」
「お兄さんは王子のことよく知っているんですか?」
「一応僕、王子の家庭教師だからね」

 エリオット王子はαだったらしい。αとΩの双子、アジェの方が捨て子に選ばれた理由が垣間見えた気がした。

「家庭教師……そんなに近くにいる人でもやっぱり似てると思いますか?」
「うん、似てるね、そっくりだよ。ただ王子の方がなんて言うか、もっともの言いが上からだね。王子が素直になったら君みたいになるのかな。そしたら仕事も楽になりそうなんだけど」

 カイルは大袈裟に溜息をついた。

「王子様相手はそんなに大変ですか?」
「それはね。そもそも人の言う事なんか聞きやしない、覚えはいいからやりがいはあるけど、クセが強くて扱いが難しい。おっと、こんな話聞かれたら首を刎ねられてしまうな、危ない危ない」

 カイルは大仰に辺りを見回した。

「僕、やっぱり王子に会ってみたいなぁ」
「え?」

 カイルは驚いたようにアジェを見やる。

「ここまで似てるって言われると、やっぱり興味は湧きますよ。どのくらい似てるのか、実際見てみたいと思うのは変な事ではないでしょう? 難しいのは分かっていますけど」

 ふぅん、とカイルは瞳を細めた。あぁ、なんだかあまりいい気がしない。

「いいんじゃない? 僕が君に王子を会わせてあげるよ」
「え? 本当ですか?」

 カイルの言葉にアジェが瞳を輝かせる。あぁ、悪い予感的中だ。

「ちょっと待て、そんな簡単に会える相手じゃないってナダールも言ってただろ!」
「大丈夫だよ、僕王子の家庭教師だよ? 信用もあるから友人の一人や二人会わせるのは朝飯前だよ」
「マジで? 兄ちゃん凄いな」

 マルクも会話に加わって三人は楽しげだったが、グノーは一人唇を噛む。どうにもこの男は信用できない。グノーは嫌な予感しかしなかった。

「もしアジェが行くなら、俺も付いてく」
「別にいいよ。そしたらいつがいいかなぁ……早い方がいいよね?」

 唇に指を当て、楽しい悪戯を企んでいますというような表情のカイルはにんまり笑った。その時「ただいま~」と少女の声が響く。
 マルクはご主人様が帰ってきた忠犬のようにそちらへ駆けて行ってしまう。ぶんぶんと振る尻尾が見えるようだ。

「あぁ妹も帰ってきたみたいだね、じゃあ改めて計画を練ろうか。楽しみだね」

 丸眼鏡の奥の瞳はどこまでも楽しげだが、グノーはどうにも胸騒ぎを止めることができなかった。

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