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運命に花束を①
運命は廻る⑦
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何日かはそんな感じで平穏に過ぎていった。アジェも数日経過して気を取り直したように観光ガイドを眺めていたし、稽古場をえらく気に入ったグノーは一人でだったり、またはナダールを誘って躍るように剣を振り回していた。
そこへ最近では騎士団入りたての二番目の弟も加わり賑やかなものだ。
「マルク、お前は少し無駄な動きが多すぎる」
ナダールはそう苦言を呈しながら稽古に付き合ってやっているのだが、弟はあまり稽古に熱心ではない。
アジェと同い年の弟マルクは最近もっぱら年上の彼女との逢瀬で忙しい。今日は彼女に予定があった為、仕方なく稽古をしている、とそんな感じだった。
マルクはβだ。もちろん家族にαもΩもいるのでその辺の事は分かっているが、バース性のデリケートな部分には無頓着な弟はアジェやグノーがΩである事にも気付いてはいないようだった。
「一兄は彼女とか作んないの? 次兄もそうだけど、仕事ばっかでつまんなくね?」
「お前は最近たるみ過ぎだ、彼女もいいがもう少し騎士団員としての自覚を持ってだな……」
畳み掛けるように小言を漏らすも、弟はどこ吹く風で聞く耳を持たない。アジェはそんな私達を見てまたくすくす笑っている。
「ナダールさん、すごく『お兄ちゃん』って感じ」
「まぁ、一応長男ですからね」
「なぁなぁ、アジェは郷に彼女とか居ないの?」
弟の不躾な質問にアジェは困ったような笑みを浮かべる。
「マルク、そういうプライベートな話はそう軽々しく聞くものじゃない」
「え~これくらい普通だろ? そんな堅いこと言ってるから一兄はいつまでたっても彼女の一人もできないんだよ」
「私のことは放っておいてくれ……」
「ふふふ、可笑しい。マルクは本当に彼女さんの事が大好きなんだね。どんな人?」
「え? 聞きたい? 聞きたい? 仕方ないなぁ~」
アジェは綺麗に会話の流れを変えていく、こういうコミュニケーションが彼は本当に上手いと思う。言いたくない事は綺麗に受け流し、笑顔で相手に不快を与えない会話を紡いでいく。
喧嘩っ早いグノーと上手くやっていけているのはアジェのこの気質が大いに発揮された結果にもみえた。彼はどんな退屈な会話でも、それは楽しそうにうんうんと聞いてくれる、それは恐らく悩み相談でも同じだろう、無駄な言葉は発せず相手の欲しい言葉を探っていくのがとても上手い。
自分も見習わなければ、とナダールは思う。
「なぁナダール、今日ちょっと買い物付き合ってくんねぇ?」
グノーが稽古の手を休めてそう言ってくる。
「何か御入用ですか?」
「うん、そろそろ薬の予備が欲しい。有るんだよな? バース用の薬屋」
「ええ、有りますよ。でも薬はまだ有るんじゃなかったですか?」
「ブラックに貰ったのはヒートの緩和剤だ。今欲しいのは普段の匂いを押さえる方の抑制剤。こっちは割と安価で出回ってるからランティスにもあると思うんだけど?」
妹はまだ幼くフェロモンの発散などはしていない、そんな薬もあるのだと初めて知った。自分もΩに関しては知らないことばかりなのだな、と改めて思う。
「そういった薬があるのかはよく分かりませんが、薬屋にはご案内できますよ」
「じゃあ頼む」
「アジェ君も一緒に行きますか?」
「え? どこへ?」
マルクと盛り上がっていたアジェは話を聞いていなかったのか首を傾げる。
「え~もっと俺と話そうよ。アジェは俺の話嫌がらずに聞いてくれるから好き。もう皆聞き飽きたって顔して聞いてくんないんだもん」
他人の惚気話など好き好んで聞きたがる人間はそういないだろう、とナダールは溜息をつく。アジェは少し苦笑して自分はここでマルクと一緒に居るから行ってきていいよと笑った。
仕方ないな、とナダールとグノーは二人で出掛ける事にする。そういえばグノーと二人だけで出掛けるのは初めてだ。少し緊張する、また怒らせたりしなければいいが。
そこへ最近では騎士団入りたての二番目の弟も加わり賑やかなものだ。
「マルク、お前は少し無駄な動きが多すぎる」
ナダールはそう苦言を呈しながら稽古に付き合ってやっているのだが、弟はあまり稽古に熱心ではない。
アジェと同い年の弟マルクは最近もっぱら年上の彼女との逢瀬で忙しい。今日は彼女に予定があった為、仕方なく稽古をしている、とそんな感じだった。
マルクはβだ。もちろん家族にαもΩもいるのでその辺の事は分かっているが、バース性のデリケートな部分には無頓着な弟はアジェやグノーがΩである事にも気付いてはいないようだった。
「一兄は彼女とか作んないの? 次兄もそうだけど、仕事ばっかでつまんなくね?」
「お前は最近たるみ過ぎだ、彼女もいいがもう少し騎士団員としての自覚を持ってだな……」
畳み掛けるように小言を漏らすも、弟はどこ吹く風で聞く耳を持たない。アジェはそんな私達を見てまたくすくす笑っている。
「ナダールさん、すごく『お兄ちゃん』って感じ」
「まぁ、一応長男ですからね」
「なぁなぁ、アジェは郷に彼女とか居ないの?」
弟の不躾な質問にアジェは困ったような笑みを浮かべる。
「マルク、そういうプライベートな話はそう軽々しく聞くものじゃない」
「え~これくらい普通だろ? そんな堅いこと言ってるから一兄はいつまでたっても彼女の一人もできないんだよ」
「私のことは放っておいてくれ……」
「ふふふ、可笑しい。マルクは本当に彼女さんの事が大好きなんだね。どんな人?」
「え? 聞きたい? 聞きたい? 仕方ないなぁ~」
アジェは綺麗に会話の流れを変えていく、こういうコミュニケーションが彼は本当に上手いと思う。言いたくない事は綺麗に受け流し、笑顔で相手に不快を与えない会話を紡いでいく。
喧嘩っ早いグノーと上手くやっていけているのはアジェのこの気質が大いに発揮された結果にもみえた。彼はどんな退屈な会話でも、それは楽しそうにうんうんと聞いてくれる、それは恐らく悩み相談でも同じだろう、無駄な言葉は発せず相手の欲しい言葉を探っていくのがとても上手い。
自分も見習わなければ、とナダールは思う。
「なぁナダール、今日ちょっと買い物付き合ってくんねぇ?」
グノーが稽古の手を休めてそう言ってくる。
「何か御入用ですか?」
「うん、そろそろ薬の予備が欲しい。有るんだよな? バース用の薬屋」
「ええ、有りますよ。でも薬はまだ有るんじゃなかったですか?」
「ブラックに貰ったのはヒートの緩和剤だ。今欲しいのは普段の匂いを押さえる方の抑制剤。こっちは割と安価で出回ってるからランティスにもあると思うんだけど?」
妹はまだ幼くフェロモンの発散などはしていない、そんな薬もあるのだと初めて知った。自分もΩに関しては知らないことばかりなのだな、と改めて思う。
「そういった薬があるのかはよく分かりませんが、薬屋にはご案内できますよ」
「じゃあ頼む」
「アジェ君も一緒に行きますか?」
「え? どこへ?」
マルクと盛り上がっていたアジェは話を聞いていなかったのか首を傾げる。
「え~もっと俺と話そうよ。アジェは俺の話嫌がらずに聞いてくれるから好き。もう皆聞き飽きたって顔して聞いてくんないんだもん」
他人の惚気話など好き好んで聞きたがる人間はそういないだろう、とナダールは溜息をつく。アジェは少し苦笑して自分はここでマルクと一緒に居るから行ってきていいよと笑った。
仕方ないな、とナダールとグノーは二人で出掛ける事にする。そういえばグノーと二人だけで出掛けるのは初めてだ。少し緊張する、また怒らせたりしなければいいが。
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