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運命に花束を①
運命との出会い⑧
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二人に会わせる前にナダールは今日一日あった事を父にかいつまんで説明する。
「それで、どっちがお前の運命だったんだ?」
「いえ、それが分からなくて。その時はそうだと思ったんですが、会ってしまったらどちらも男性でしたし、匂いもなんか違う感じで、あれがなんだったのかよく分からないんです」
「そういえばお前には言ってなかったか? この場合男女の性差は関係ないぞ、Ωは男でも女でもα相手なら子供ができる。そういうもんなんだ」
え……と、ナダールは固まった。男性だから違う、となんとなく思っていたのに、その思いは父にあっけないほど簡単に否定されてしまった。
可愛いお嫁さんとラブラブな生活、などと甘ったるい事を考えたこともあったのだが、そこに相手は男性である可能性も出てきて俄かに混乱した。
「二人とも好みじゃなかったか?」
「いえ、なんというか、そういう風に男性を見た事がないので分かりません」
「そんな事は関係ないくらいに惹かれ合うのが『運命』ってものだから、その二人は違うのかもしれないな」
父は制服を脱ぎ、部屋着に着替えながらそんな風に言った。今日も父からは良い匂いが薫る。
「そういえば、さっき私の匂いは駄々漏れすぎて胸焼けがすると言われたんですけど、そんなに匂いますか?」
「あ?」
父が不思議そうにこちらを見やる。
「いや、いつもと変わらないと思うが?」
「ですよね、αとΩでは感じる匂いが違うのでしょうか、これもよく分かりません」
「ふむ、不思議な話だ。一人はアジェと名乗ったと言ったな。確かに妹の一人息子はアジェという名だし、歳の頃も一致する、しかしアジェは確かαだったはずなのだがな」
父の言葉にナダールは驚く。自分の連れてきたアジェは間違いなくΩだと思うし、グノーもそれを認めた。けれど、母は義妹の話題をふって彼が甥だと確信していたようなのに、別人という事はあるのだろうか。
「まぁ、会えば分かるな。連れて来い、二人は私に会いにきたのだろう?」
「えぇ、そうですね」
父に促されナダールは客間へと足早に向かった。
一体あの二人が何者なのかまるで分からない。そもそも、あの二人の関係もよく分からないのだ。主従? いや、親友と言っていたか?
それにしても、アジェの身なりが小綺麗なのに対して、グノーの外見は浮浪者一歩手前の小汚さだし、どうにも二人が釣り合っているようには見えない。
アジェが育ちの良さを前面に出している傍ら、グノーはチンピラ同然の言動だったし、友達というにも違和感があって、ナダールは首を捻った。
客間の扉をノックしてナダールは二人を呼ぶ。
「はい、どうしました?」
「父が帰ってきましたのでお知らせに。二人に会いたいそうですよ」
扉から顔を覗かせたアジェにそう告げるとアジェは嬉しそうにぱっと微笑んだ。
あ、やっぱり可愛い。アジェの笑顔はなにやら抗いがたい魅力がある。彼の笑顔を見ると、つい自分も笑ってしまうのをナダールは自覚していた。
「グノー、伯父さん会ってくれるって、行こう」
部屋の中に声を掛けるアジェ、しばらくするとグノーもうっそりと姿を見せた。なんだか機嫌が悪そうだ。
「あんたも一緒?」
「え?」
「あんま聞かれたくない話があんだけど、一緒に聞くなら覚悟して聞いてくれる?」
「そんなに、重要な話があるんですか? もし、私が聞いて不都合な話でしたら席を外しますけど」
戸惑ったようにそう言うと、アジェは慌てたように「そんな言い方駄目だよ」と彼の袖を引いた。
「だって、俺こいつ嫌い。へらへらしてて何考えてるか分かんねぇし、胡散臭い」
酷い言われようだ。
「もう、グノー! ごめんなさい、悪気があるわけじゃないんですよ、グノーはちょっと素直過ぎるだけなんで気にしないで下さい」
素直という事はそれが本音ということじゃないか……これは完全に嫌われたか、とナダールは内心落ち込んだ。
この能力のお陰もあって自分は人に嫌われたことがないのだ。βですら感情が大きく揺さぶられた時にはその匂いが分かる、これは他のαにもない自分だけの能力だった。
「私、部屋に戻ってますね。何か用があったら呼んで下さい」
大きな身体をしょぼんと縮めて、ナダールは二人を父の元へと案内すると二人から背を背けた。なんだか悲しくて仕方がない。そんな自分を困ったようにアジェが見ているのは分かったが、今は何も聞きたくなかった。
その日、自分が父や彼等に呼ばれる事はなく、ナダールは一日あった事を反芻するように自室のベッドでまどろんでいた。
確かに甘い匂いがしたのだ、抱きしめられるように安心する心地良い薫りだった。にも関わらず、彼等はナダールに対して何も反応しない。グノーに到ってはまるで天敵を見るような瞳をこちらに向ける。あれは一体何故なのだろう。
何か気に障るようなことをしただろうか? いや、それ以前にまだほとんど交流もしていないのに。グノーのαに対するあの憎悪は一体どこからきているのだろうか。
そう考えて、もしかしてαに酷い目に遭わされたことがあるのかもという考えに思い至る。
聞いてみようか? だが、そんな事を聞くのは傷口に塩を塗りこむような所業に違いない。ナダールはひとつ溜息を吐く。
彼の言うとおり、αである自分は彼に近付かないことが一番の良策なのかもしれない。どのような用事で父に会いに来たのかは分からないが、極力彼らには関わらないようにしようと、ナダールは瞳を閉じた。
「それで、どっちがお前の運命だったんだ?」
「いえ、それが分からなくて。その時はそうだと思ったんですが、会ってしまったらどちらも男性でしたし、匂いもなんか違う感じで、あれがなんだったのかよく分からないんです」
「そういえばお前には言ってなかったか? この場合男女の性差は関係ないぞ、Ωは男でも女でもα相手なら子供ができる。そういうもんなんだ」
え……と、ナダールは固まった。男性だから違う、となんとなく思っていたのに、その思いは父にあっけないほど簡単に否定されてしまった。
可愛いお嫁さんとラブラブな生活、などと甘ったるい事を考えたこともあったのだが、そこに相手は男性である可能性も出てきて俄かに混乱した。
「二人とも好みじゃなかったか?」
「いえ、なんというか、そういう風に男性を見た事がないので分かりません」
「そんな事は関係ないくらいに惹かれ合うのが『運命』ってものだから、その二人は違うのかもしれないな」
父は制服を脱ぎ、部屋着に着替えながらそんな風に言った。今日も父からは良い匂いが薫る。
「そういえば、さっき私の匂いは駄々漏れすぎて胸焼けがすると言われたんですけど、そんなに匂いますか?」
「あ?」
父が不思議そうにこちらを見やる。
「いや、いつもと変わらないと思うが?」
「ですよね、αとΩでは感じる匂いが違うのでしょうか、これもよく分かりません」
「ふむ、不思議な話だ。一人はアジェと名乗ったと言ったな。確かに妹の一人息子はアジェという名だし、歳の頃も一致する、しかしアジェは確かαだったはずなのだがな」
父の言葉にナダールは驚く。自分の連れてきたアジェは間違いなくΩだと思うし、グノーもそれを認めた。けれど、母は義妹の話題をふって彼が甥だと確信していたようなのに、別人という事はあるのだろうか。
「まぁ、会えば分かるな。連れて来い、二人は私に会いにきたのだろう?」
「えぇ、そうですね」
父に促されナダールは客間へと足早に向かった。
一体あの二人が何者なのかまるで分からない。そもそも、あの二人の関係もよく分からないのだ。主従? いや、親友と言っていたか?
それにしても、アジェの身なりが小綺麗なのに対して、グノーの外見は浮浪者一歩手前の小汚さだし、どうにも二人が釣り合っているようには見えない。
アジェが育ちの良さを前面に出している傍ら、グノーはチンピラ同然の言動だったし、友達というにも違和感があって、ナダールは首を捻った。
客間の扉をノックしてナダールは二人を呼ぶ。
「はい、どうしました?」
「父が帰ってきましたのでお知らせに。二人に会いたいそうですよ」
扉から顔を覗かせたアジェにそう告げるとアジェは嬉しそうにぱっと微笑んだ。
あ、やっぱり可愛い。アジェの笑顔はなにやら抗いがたい魅力がある。彼の笑顔を見ると、つい自分も笑ってしまうのをナダールは自覚していた。
「グノー、伯父さん会ってくれるって、行こう」
部屋の中に声を掛けるアジェ、しばらくするとグノーもうっそりと姿を見せた。なんだか機嫌が悪そうだ。
「あんたも一緒?」
「え?」
「あんま聞かれたくない話があんだけど、一緒に聞くなら覚悟して聞いてくれる?」
「そんなに、重要な話があるんですか? もし、私が聞いて不都合な話でしたら席を外しますけど」
戸惑ったようにそう言うと、アジェは慌てたように「そんな言い方駄目だよ」と彼の袖を引いた。
「だって、俺こいつ嫌い。へらへらしてて何考えてるか分かんねぇし、胡散臭い」
酷い言われようだ。
「もう、グノー! ごめんなさい、悪気があるわけじゃないんですよ、グノーはちょっと素直過ぎるだけなんで気にしないで下さい」
素直という事はそれが本音ということじゃないか……これは完全に嫌われたか、とナダールは内心落ち込んだ。
この能力のお陰もあって自分は人に嫌われたことがないのだ。βですら感情が大きく揺さぶられた時にはその匂いが分かる、これは他のαにもない自分だけの能力だった。
「私、部屋に戻ってますね。何か用があったら呼んで下さい」
大きな身体をしょぼんと縮めて、ナダールは二人を父の元へと案内すると二人から背を背けた。なんだか悲しくて仕方がない。そんな自分を困ったようにアジェが見ているのは分かったが、今は何も聞きたくなかった。
その日、自分が父や彼等に呼ばれる事はなく、ナダールは一日あった事を反芻するように自室のベッドでまどろんでいた。
確かに甘い匂いがしたのだ、抱きしめられるように安心する心地良い薫りだった。にも関わらず、彼等はナダールに対して何も反応しない。グノーに到ってはまるで天敵を見るような瞳をこちらに向ける。あれは一体何故なのだろう。
何か気に障るようなことをしただろうか? いや、それ以前にまだほとんど交流もしていないのに。グノーのαに対するあの憎悪は一体どこからきているのだろうか。
そう考えて、もしかしてαに酷い目に遭わされたことがあるのかもという考えに思い至る。
聞いてみようか? だが、そんな事を聞くのは傷口に塩を塗りこむような所業に違いない。ナダールはひとつ溜息を吐く。
彼の言うとおり、αである自分は彼に近付かないことが一番の良策なのかもしれない。どのような用事で父に会いに来たのかは分からないが、極力彼らには関わらないようにしようと、ナダールは瞳を閉じた。
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