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運命に花束を①
運命との出会い⑥
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「王子?」
ナダールの言葉に、二人が警戒の態勢を取ったのがすぐに分かった。
「僕、王子じゃありませんよ。なんだか、似てる似てるってあんまり言われるものだから、ちょっと見てみたいなって思ってるくらいで」
少年はそう言ってにっこり笑ったが、その瞳は警戒の色を帯びていた。
「そう、ですよね。王子がそもそもこんな所に居る訳ありませんしね」
「そうそう、人違い人違い」
青年はじゃあそういう事で、と少年の腕を取って歩き出そうとする。
「あの、私、ナダール・デルクマンと申します。近頃君くらいの年齢の少年が襲われるという事件がこの近辺で頻発していて警戒にあたっていた騎士団員です。今この辺りは危険なので、もしどこかへ行かれるのなら、一緒に行きませんか?」
「あ?」
青年が、不機嫌そうな声でこちらを向いた。
「いえ、ご迷惑もおかけしましたし、先程追っ手とか言っていましたよね、誰かに追われているんじゃないですか?」
青年はまた髪をがしがしと掻き回し、そんな青年の様子を窺って、少年は困ったようにこちらを見やった。
「追っ手というか、なんかそれこそ今ナダールさんが言ったみたいな人達なのかもしれないですね、道々何度か襲われたりしたんです。でもグノーは強いので大丈夫ですよ」
少年が発した名前『グノー』それが青年の名前のようだ。だが言っている内容は物騒極まりない。
「それ全然大丈夫じゃないですよ。どこに行かれるのですか?私、お送りします」
「いいよ、別に。それにαが一緒じゃこっちの方が落ち着かねぇ」
あぁ、やっぱり少年はΩで間違いないのだな、とナダールはそう思った。
αの匂いが強くて、すっかり匂いがかき消されてしまっているが、それでも微かに匂うΩの薫りにはナダールも気付いていた。
「私、何もしませんよ」
「率先して何もしなくてもヒートに当てられたらお前みたいな大男、俺だってそう簡単に止められない。下手したらお前殺して止めるはめになる俺の身にもなれ」
「殺すって、また物騒な」
「Ωはそうでもしないと自分の身が守れないんだよ。ったくホント面倒くせぇ」
「グノー、ごめんね」
申し訳なさそうに謝る少年に、青年は慌てる。
「アジェに言ってんじゃねぇよ、こういう体質が面倒くさいって言ってるだけで、アジェは悪くない。いっそαなんか世界から居なくなればいいんだ」
少年の名は『アジェ』というのかとナダールは心の中に二人の名前を刻み込む。
「俺達は今からメルクードに行くんだ。あんたは?」
「私達も今日この辺を見回ったら夕方にはメルクードに戻ります」
ふぅん、と青年は気のない返事をして、少年の手を引いた。
「それじゃあ、また会うこともあるかもな。あんたデルクマンって言ったな。騎士団長のギマール・デルクマンとは親戚かなんかか?」
「え? 父を知っているのですか?」
言葉に二人は驚いた様子でナダールを見やった。
「あんた騎士団長の息子かよ。俺達今から行こうとしてんの、あんたの家だ」
「え?」
今度はナダールが驚く番だ。
「うちですか? あなた達父の知り合いなんですか?」
「知り合い、というか親戚です。僕の名前はアジェ・ド・カルネ。僕の母がナダールさんのお父さんの妹なんですよ」
聞いた事がある、父の妹は自分が生まれた頃に他国に嫁いだのだ。確か隣国ファルスの田舎領主の所だったと記憶している。
メリア王国とは仲の悪いランティス王国だが、それ以外の国とは比較的良好な関係を築いている。もちろん他国との交流もあり、メリア王国とは反対隣のファルス王国とは非常に仲が良いのだ。
「あなた達ファルスから来たんですか?」
「はい、ちょっと色々あってギマール伯父さんに会いに来ました」
アジェが人の好い笑みでにっこり笑うので、思いのほか可愛いな、と心の中でナダールは心をときめかす。
「なんだ、そういうことなら。連れてってもらうのもやぶさかじゃないな、いろんな手間も省けるし」
「手間?」
「んんと、僕、今自分がアジェだっていう証明みたいな物何も持っていないんですよ。仮にも騎士団長様だし、会ってくれなかったら困るなぁって思ってたんで、ナダールさんが連れて行ってくれるならとても助かります」
「あぁ、そういう事ですか」
でも、それにしても自分の従兄弟が王子にそっくりというのはどういう事なのだろう?
自分達と王族の間には長い歴史の中で全く血縁がないという事もないのかもしれないが、それにしても似すぎている気がする。
「どうかしました?」
「いや、見れば見るほど王子に似ているので、本当に王子じゃないんですよね?」
「はは、違いますよ」
アジェは困ったような笑顔を見せた。
「そういえば、あんたさっき私達って言ったよな? 騎士団の人、他にもいんの?」
「あぁ! そうでした。私まだ仕事の途中で!」
「そうなんですね、じゃあ仕事の邪魔をしちゃいけないので、僕たち適当に時間潰して待ってますね」
アジェはにっこり笑う。やっぱり可愛い。そんなアジェの様子に、グノーは「仕方ないな」とため息を吐いた。
ナダールの言葉に、二人が警戒の態勢を取ったのがすぐに分かった。
「僕、王子じゃありませんよ。なんだか、似てる似てるってあんまり言われるものだから、ちょっと見てみたいなって思ってるくらいで」
少年はそう言ってにっこり笑ったが、その瞳は警戒の色を帯びていた。
「そう、ですよね。王子がそもそもこんな所に居る訳ありませんしね」
「そうそう、人違い人違い」
青年はじゃあそういう事で、と少年の腕を取って歩き出そうとする。
「あの、私、ナダール・デルクマンと申します。近頃君くらいの年齢の少年が襲われるという事件がこの近辺で頻発していて警戒にあたっていた騎士団員です。今この辺りは危険なので、もしどこかへ行かれるのなら、一緒に行きませんか?」
「あ?」
青年が、不機嫌そうな声でこちらを向いた。
「いえ、ご迷惑もおかけしましたし、先程追っ手とか言っていましたよね、誰かに追われているんじゃないですか?」
青年はまた髪をがしがしと掻き回し、そんな青年の様子を窺って、少年は困ったようにこちらを見やった。
「追っ手というか、なんかそれこそ今ナダールさんが言ったみたいな人達なのかもしれないですね、道々何度か襲われたりしたんです。でもグノーは強いので大丈夫ですよ」
少年が発した名前『グノー』それが青年の名前のようだ。だが言っている内容は物騒極まりない。
「それ全然大丈夫じゃないですよ。どこに行かれるのですか?私、お送りします」
「いいよ、別に。それにαが一緒じゃこっちの方が落ち着かねぇ」
あぁ、やっぱり少年はΩで間違いないのだな、とナダールはそう思った。
αの匂いが強くて、すっかり匂いがかき消されてしまっているが、それでも微かに匂うΩの薫りにはナダールも気付いていた。
「私、何もしませんよ」
「率先して何もしなくてもヒートに当てられたらお前みたいな大男、俺だってそう簡単に止められない。下手したらお前殺して止めるはめになる俺の身にもなれ」
「殺すって、また物騒な」
「Ωはそうでもしないと自分の身が守れないんだよ。ったくホント面倒くせぇ」
「グノー、ごめんね」
申し訳なさそうに謝る少年に、青年は慌てる。
「アジェに言ってんじゃねぇよ、こういう体質が面倒くさいって言ってるだけで、アジェは悪くない。いっそαなんか世界から居なくなればいいんだ」
少年の名は『アジェ』というのかとナダールは心の中に二人の名前を刻み込む。
「俺達は今からメルクードに行くんだ。あんたは?」
「私達も今日この辺を見回ったら夕方にはメルクードに戻ります」
ふぅん、と青年は気のない返事をして、少年の手を引いた。
「それじゃあ、また会うこともあるかもな。あんたデルクマンって言ったな。騎士団長のギマール・デルクマンとは親戚かなんかか?」
「え? 父を知っているのですか?」
言葉に二人は驚いた様子でナダールを見やった。
「あんた騎士団長の息子かよ。俺達今から行こうとしてんの、あんたの家だ」
「え?」
今度はナダールが驚く番だ。
「うちですか? あなた達父の知り合いなんですか?」
「知り合い、というか親戚です。僕の名前はアジェ・ド・カルネ。僕の母がナダールさんのお父さんの妹なんですよ」
聞いた事がある、父の妹は自分が生まれた頃に他国に嫁いだのだ。確か隣国ファルスの田舎領主の所だったと記憶している。
メリア王国とは仲の悪いランティス王国だが、それ以外の国とは比較的良好な関係を築いている。もちろん他国との交流もあり、メリア王国とは反対隣のファルス王国とは非常に仲が良いのだ。
「あなた達ファルスから来たんですか?」
「はい、ちょっと色々あってギマール伯父さんに会いに来ました」
アジェが人の好い笑みでにっこり笑うので、思いのほか可愛いな、と心の中でナダールは心をときめかす。
「なんだ、そういうことなら。連れてってもらうのもやぶさかじゃないな、いろんな手間も省けるし」
「手間?」
「んんと、僕、今自分がアジェだっていう証明みたいな物何も持っていないんですよ。仮にも騎士団長様だし、会ってくれなかったら困るなぁって思ってたんで、ナダールさんが連れて行ってくれるならとても助かります」
「あぁ、そういう事ですか」
でも、それにしても自分の従兄弟が王子にそっくりというのはどういう事なのだろう?
自分達と王族の間には長い歴史の中で全く血縁がないという事もないのかもしれないが、それにしても似すぎている気がする。
「どうかしました?」
「いや、見れば見るほど王子に似ているので、本当に王子じゃないんですよね?」
「はは、違いますよ」
アジェは困ったような笑顔を見せた。
「そういえば、あんたさっき私達って言ったよな? 騎士団の人、他にもいんの?」
「あぁ! そうでした。私まだ仕事の途中で!」
「そうなんですね、じゃあ仕事の邪魔をしちゃいけないので、僕たち適当に時間潰して待ってますね」
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