105 / 113
番外編:その後のある幸せな家庭
馴れ初め②
しおりを挟む
一方でお義母さんはそこまでお見合いに関しては惨敗を続けていたらしい、見目こそ麗しいけれど性格に難ありなお義母さん、人とのコミュニケーションにももちろん難があってすでに気持ちは諦めモード、お義父さんの手前パーティに参加はしていたが、もうそろそろやめたいと思っていたのだそうだ。
そんな時に目の前に現れたシノックさん、身長は自分より小さいしお世辞にも見栄えがいい訳でもお金を持っている訳でもなく、何故お見合いパーティにいるのかすら分からないような人物で最初は詐欺師かと疑ったのだそうだ。
けれど、よく考えたら現在自分は詐欺に遭ったとしても盗られるような金も地位もない訳で、だったらそれに乗っかって人生経験を詰んでみるのも悪くないと思ったのだそうだ。ある意味自暴自棄だったとお義母さんは苦笑した。
結果、よくよく話してみればシノックさんはとても真面目な学者だという事が分かり、ついでに家もないと聞いたお義母さんは警戒心の欠片もなく「うちに来るか?」と誘った。そこはもう世間知らずなお義母さんらしい、もし本当の詐欺師だったら家ごと盗られてしまう所だ。
で、最初は本当にただの同居。一緒に住んでみたらお義母さんは壊滅的に家事が出来ない事に気付いたシノックさん、お義母さんの事が心配で仕方がなくなってしまったらしい。頻繁に訪ねてくる友人が必要最低限の世話をしているようだったけれど、それでも家の中は荒れていた。
少しは自分で片付けてみたらと進言すると、やり方が分からないと返ってくる。この辺でシノックさんは初めてお義母さんがとんでもない箱入りだと気付いたらしい。けれどそのわりには生活は質素なもので、訳アリなのだろうと察したシノックさんはお義母さんの世話を焼いた。そしてたくさん話をしたのだと言う。
「話し?」
「うん、本当に他愛のない事から思い出話までお互いの事をずっとお話してたんだって。お義母さんって元々引き籠りだっただろ? だからシノックさんの話す色々な土地の話がすごく面白かったみたい、で、シノックさんの方も人から話を聞き出すのが仕事みたいな所があるから、お義母さんの話も嫌な顔ひとつせずに全部聞いてくれたんだって。お義母さんはもうそれだけでシノックさんにコロッといっちゃったみたいだね」
「母上がちょろすぎる……本当に向こうは詐欺師とかではないんだろうな?」
「はは、その辺はお義父さんが徹底的に調べたらしいから大丈夫なんじゃないかな」
そう、お義父さんは何食わぬ顔でお義母さんの元を訪れては友人の顔をしてシノックさんを値踏みしていたらしい。シノックさんもまさかこの二人が元夫婦だとは思わなかったようで、その事実を知った時には相当驚いたと笑っていた。
「それでも最終的に二人が結婚に踏み切るまでにはお互い悩んだらしいよ。シノックさんは半獣人だし、生活も決して安定している訳じゃない。だけど結婚しても仕事は続けなきゃいけないし、その為には各地を渡り歩かなきゃいけない、それにお義母さんが一緒に行くかって言ったら……」
「まぁ、行かないでしょうね。そもそも母上は人付き合いが得意ではない、ただの観光旅行ならともかくフィールドワークに付いて行くなんて絶対に言わないでしょう」
「さすがライザックは分かってるな。答えはその通りなんだけど、お義母さんの返答はこう。『夫が家に居ないのは慣れています、必ず帰ってくると信じていいのなら私は何年でも待ちますよ』だって。元々帰ってくる家がなかったシノックさんはその言葉がすごく嬉しかったみたいで、その後はもうとんとん拍子だったみたいだな」
俺の言葉にライザックは「その台詞を聞いた時の父上の顔が見てみたかったですね」と苦笑する。確かにお義父さんは滅茶苦茶複雑そうな表情してたよ。お義父さんは家を出て行ったまま結局帰ってこなかった張本人だからな!
「それにしても、本当にカズが来てから我が家はどんどん変わっていくな」
そんな事を言ってライザックがやんわりと俺を抱き締める。
「もしあの時カズに出会っていなければ、今頃私は空っぽの家で父を恨み、母と刺し違えていたかもしれない」
「怖い事言うなよ、縁起でもない」
「それくらいカズが私を……私達家族を変えてくれた、と言っているのだよ。あの頃の私では想像できなかった未来が今ここにはある」
「まぁ確かに、俺の存在は相当イレギュラーではあるだろうけど、別に俺一人で全てを変えたって訳でもなくない? お義母さん達は自分で勝手に変わってっただけだし」
「それでもだよ」
ライザックが穏やかな笑みで「愛している」と俺にキスをくれる。うん、まぁ、俺は滅茶苦茶幸せだし、お義母さんもいい方向に向かってるっぽいし、もしこれが触手のお導き的な何かなのだったら、どうせなら俺の周りにいる人達全員、幸せになって欲しいなって俺は思うよ。
そんな時に目の前に現れたシノックさん、身長は自分より小さいしお世辞にも見栄えがいい訳でもお金を持っている訳でもなく、何故お見合いパーティにいるのかすら分からないような人物で最初は詐欺師かと疑ったのだそうだ。
けれど、よく考えたら現在自分は詐欺に遭ったとしても盗られるような金も地位もない訳で、だったらそれに乗っかって人生経験を詰んでみるのも悪くないと思ったのだそうだ。ある意味自暴自棄だったとお義母さんは苦笑した。
結果、よくよく話してみればシノックさんはとても真面目な学者だという事が分かり、ついでに家もないと聞いたお義母さんは警戒心の欠片もなく「うちに来るか?」と誘った。そこはもう世間知らずなお義母さんらしい、もし本当の詐欺師だったら家ごと盗られてしまう所だ。
で、最初は本当にただの同居。一緒に住んでみたらお義母さんは壊滅的に家事が出来ない事に気付いたシノックさん、お義母さんの事が心配で仕方がなくなってしまったらしい。頻繁に訪ねてくる友人が必要最低限の世話をしているようだったけれど、それでも家の中は荒れていた。
少しは自分で片付けてみたらと進言すると、やり方が分からないと返ってくる。この辺でシノックさんは初めてお義母さんがとんでもない箱入りだと気付いたらしい。けれどそのわりには生活は質素なもので、訳アリなのだろうと察したシノックさんはお義母さんの世話を焼いた。そしてたくさん話をしたのだと言う。
「話し?」
「うん、本当に他愛のない事から思い出話までお互いの事をずっとお話してたんだって。お義母さんって元々引き籠りだっただろ? だからシノックさんの話す色々な土地の話がすごく面白かったみたい、で、シノックさんの方も人から話を聞き出すのが仕事みたいな所があるから、お義母さんの話も嫌な顔ひとつせずに全部聞いてくれたんだって。お義母さんはもうそれだけでシノックさんにコロッといっちゃったみたいだね」
「母上がちょろすぎる……本当に向こうは詐欺師とかではないんだろうな?」
「はは、その辺はお義父さんが徹底的に調べたらしいから大丈夫なんじゃないかな」
そう、お義父さんは何食わぬ顔でお義母さんの元を訪れては友人の顔をしてシノックさんを値踏みしていたらしい。シノックさんもまさかこの二人が元夫婦だとは思わなかったようで、その事実を知った時には相当驚いたと笑っていた。
「それでも最終的に二人が結婚に踏み切るまでにはお互い悩んだらしいよ。シノックさんは半獣人だし、生活も決して安定している訳じゃない。だけど結婚しても仕事は続けなきゃいけないし、その為には各地を渡り歩かなきゃいけない、それにお義母さんが一緒に行くかって言ったら……」
「まぁ、行かないでしょうね。そもそも母上は人付き合いが得意ではない、ただの観光旅行ならともかくフィールドワークに付いて行くなんて絶対に言わないでしょう」
「さすがライザックは分かってるな。答えはその通りなんだけど、お義母さんの返答はこう。『夫が家に居ないのは慣れています、必ず帰ってくると信じていいのなら私は何年でも待ちますよ』だって。元々帰ってくる家がなかったシノックさんはその言葉がすごく嬉しかったみたいで、その後はもうとんとん拍子だったみたいだな」
俺の言葉にライザックは「その台詞を聞いた時の父上の顔が見てみたかったですね」と苦笑する。確かにお義父さんは滅茶苦茶複雑そうな表情してたよ。お義父さんは家を出て行ったまま結局帰ってこなかった張本人だからな!
「それにしても、本当にカズが来てから我が家はどんどん変わっていくな」
そんな事を言ってライザックがやんわりと俺を抱き締める。
「もしあの時カズに出会っていなければ、今頃私は空っぽの家で父を恨み、母と刺し違えていたかもしれない」
「怖い事言うなよ、縁起でもない」
「それくらいカズが私を……私達家族を変えてくれた、と言っているのだよ。あの頃の私では想像できなかった未来が今ここにはある」
「まぁ確かに、俺の存在は相当イレギュラーではあるだろうけど、別に俺一人で全てを変えたって訳でもなくない? お義母さん達は自分で勝手に変わってっただけだし」
「それでもだよ」
ライザックが穏やかな笑みで「愛している」と俺にキスをくれる。うん、まぁ、俺は滅茶苦茶幸せだし、お義母さんもいい方向に向かってるっぽいし、もしこれが触手のお導き的な何かなのだったら、どうせなら俺の周りにいる人達全員、幸せになって欲しいなって俺は思うよ。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
2,755
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる