ある幸せな家庭ができるまで

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番外編:その後のある幸せな家庭

価値基準の相違

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「本邸で君の手助けをしたのは自分の居場所を守るためだったし、あの屋敷に残ったのもお金云々の前に私がそうしたかったからそうしただけだ、私は常に自分の事しか考えていない」
「? ミレニアさん、あの屋敷に残りたかったんですか?」

 俺だってあの屋敷が人手に渡ると思ったら感傷的な気持ちになったのだ、長く住み込みで働いていたミレニアさんなら尚の事だとは思うけど、けれどその為に嫌いなバートラム様に仕える事になったのはどうなのだろうな?

「別に私は屋敷自体に執着はない」
「だったら……」
「私はバートラムの傍にいたかった」

 ! 意外過ぎる言葉、え!? それ完全に両想いじゃん! どういう事!?

「私は何故こんな事を君に話しているのだろうな、これは誰にも言わないつもりできたのに、口が滑った。忘れてくれ」
「いや、でもそれならなんでバートラム様からの求婚を頑なに拒否してるんですか!? 普通に両想いじゃないですか!」
「はは、そんな簡単な話なら良かったんだけどな、ダメなんだよ。私ではダメなんだ……」

 そう言ってミレニアさんは両手で顔を覆う。

「ダメって、何がですか? あ、性の不一致的なアレですか? 確かにその辺はバートラム様と要相談だと思いますけど、それは……」
「違う」
「だったら……」
「ダメなんだよ、私は半獣人だからバートラムとは釣り合わない。バートラムとの婚約は親同士が勝手に決めたもので、バートラムはそれを遵守しようとしてるだけ、私を愛している訳じゃない」

 え? そうなの?? いやでも、俺を誘拐した時のバートラム様、そんな感じじゃなかったと思うけど? どちらかと言えばバートラム様の方がミレニアさんにぞっこんだって俺は見ててそう思ってたのに違ってたのか??

「昔からバートラムは来るもの拒まず去る者追わず好き勝手な奴だった。それは今も昔も変わらない、私の事はそんな戯れの一環に過ぎない。あいつはつれない相手を落とすのが好きなだけ、もし私が陥落すれば、あいつはその時点で私への興味を失うだろう」

 え……最悪だな、あのクマ。そういえば俺が拉致られた時にもバートラム様に連れてかれたのはキャバクラだったっけ。確かに遊び慣れてはいそうだった。

「だがいいんだ、それは別に。あいつが私を選びさえしなければ私はそれで……」
「え? なんで?」
「さっきから言っている。私とあいつとでは釣り合いが取れないのだよ」

 釣り合いってなんの釣り合いだ? ミレニアさんのお母さんってオーランドルフの家系だろ? それこそお義母さんハロルド様の兄弟だろ? それにミレニアさんの家は獣人国ズーランドではそこそこの権力者の家だって確か誰かに聞いたぞ?

「こんな醜い容姿の私を娶ろうだなんて、それこそバートラムと釣り合いが取れないのは分かりきっている!」
「……は?」

 言われている意味が分からず耳を疑う。
 誰が醜いって? もしかして俺の聞き間違いですか? それこそミレニアさんが醜いなんて言ったら俺の立つ瀬がないだろぉぉ!!?

「ミレニアさん、それ本気で言ってます?」
「当たり前です。私は醜い、だから私は誰とも番わない。私の……半獣人の遺伝子などこの世界に残す必要がないのですから」
「意味が分からない、それこそ世界の損失でしょうが!」

 思わず叫んだ俺、悪くない。ミレニアさんは普通に人としても美形だけど、そこに更にモフモフの尻尾と耳が付いてる、もうそれだけで希少価値的に尊いのに何が必要ないだ、必要に決まってんだろ! モフモフは正義だぞ!
 しかもバートラム様と釣り合いが取れないとか何なんだよ、言っておくがクマの見分けなんか俺にはつかない、もしバートラム様と他のクマが一緒に並んでいたら見分けられない自信が俺にはある、そんなクマとミレニアさんの釣り合いが取れないとかあり得ないだろう!

「世界の、損失? 君は何を言っているんだ?」
「それはこっちのセリフです、何をどうしてミレニアさんは自分が醜いだなんて結論に到ったんですか? 普通に考えてあり得ないでしょう!?」
「慰めならいらない。私自身分かっているし、そこはもう諦めている。醜い顔だと言われ続けるのは幼い頃からずっとだ、だからこそそれ以外の事でなんとかならないかと頑張って生きてきたが、人生はそこまで甘くはなかった……」

 そう言ってミレニアさんは自身の生い立ちをぽつりぽつりと語ってくれた。
 幼い頃から容姿を揶揄われ蔑まれ、母親だけは唯一自分の事を「可愛い」と言ってくれたが、物心ついた時には既に容姿にはコンプレックスを持っていたらしい。

「初めてバートラムに会った時もそうだった、あいつは挨拶をするより前に私の顔を見て『変な顔』と、そう言ったんだ」

 はぁ!? ちょっと意味が分からないんですけど!

「学生時代もそんな感じで周りから私は常に浮いていた。そもそもあの国には半獣人がいないんだ、私が学校に在籍している間、半獣人は一人も入学してこなかったし、当然親しい友人もできなかった。母の祖国であるこの国にはそれでも半獣人が多くいると聞いていた、だから私はこの国にやって来た。学年一の成績を治めてもなお私はこの顔のせいでズーランドでは職に就く事さえできなかったからな」
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