ある幸せな家庭ができるまで

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番外編:その後のある幸せな家庭

不思議な人

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 家に帰り着くとミレニアさんが台所に立っていた。

「ミレニアさん何してるんですか? 寝てないとダメですよ」
「ああ、少し水を飲みに来ただけだ。だが、今朝よりは調子がいい、たぶんもうすぐ治る」
「それならそれに越した事ないですけど、無理は禁物ですよ。あと、今からちょっとお義父さんとお義母さんがお見舞いに来るので、部屋片付けないと」
「……は? 誰が? お見舞い……?」
「だからお義父さんとお義母さんですよ。アルフレッドさんとハロルド様、あとお義母さんは婚約者の人も連れてくるって……って、何してるんですか?!」

 何故かミレニアさんが寝間着を脱いで着替えようとしている、病人なんだから大人しく寝ててくれればいいのに、何してんの!?

「君は馬鹿か! こんな無様な姿をご主人様方に見せられる訳がないだろう!」
「いや、それ向こうも分かってるし、病人は病人らしくしててくださいよ、何格好つけようとかしてるんですか、今、それ全然必要ないですから! 二人とも普通にミレニアさんの事心配してるだけだし、そもそもミレニアさんはもうオーランドルフ家の使用人じゃないんですよ」

 瞬間ミレニアさんが棒立ちに硬直した。え? 何? 俺なにか変な事言った?

「何故……」
「何故って何ですか?」
「私は彼等にとってただの元使用人だろう? 確かに血縁もあるし、ハロルド様にとって私は甥にあたる、けれどそれだけだ。心配する理由なんて……」
「いや、それだけでも充分心配する理由にはなるでしょう? なに訳の分からない事言ってるんですか?」
「訳が分からない事を言っているのは君の方だ! 私にはお二人に気にかけていただく理由が全く分からない」

 ええ~まさかミレニアさんがそこまで鈍い人だとは思ってなかったよ、そんなの二人が、というか特にお義母さんがミレニアさんの事、使用人じゃなくて家族だって思ってるからに決まってんじゃん、察しなよ。
 お義母さんなんか、未だかつて一度だってこの家に足を踏み入れた事ないのに、ミレニアさんがいるって理由だけで来ようとしてるんだよ? はっきり俺より愛されてると思うけどね!

「それは寝ながら考えてくださいよ、あ、でも考えすぎてまた熱が上がっても困るんで、程々に」
「いや、だが……」
「だがもへちまもない! 病人は大人しく寝ることが仕事です! あと、たぶんハクア草とギルライも入手出来そうな感じなんで、楽しみに待っててください」

 俺がミレニアさんの背中を押すとミレニアさんは困惑したような様子ながらも素直に部屋に戻っていった。
 本当にミレニアさんの思考回路って不思議だな。ツンツンしてるかと思えば、意外と気にかけててくれてるし、強気なのかと思えば意外と弱気だったり素直だったり。
 確かにライザックと仲が良いのには多少もやっとする時もあるのだけれど、そんな感じだからミレニアさんがライザックを奪おうとはしていないって分っちゃうんだよなぁ。
 シズクをリビングで遊ばせて、俺はお義父さんに持たされた物を広げていく。それは食材だったり看護用品だったり、この世界にも氷枕がある事を俺は初めて知ったよ。
 この世界にも一応冷蔵庫というものは存在する。けれどそれは電化製品ではなくて氷で箱を冷やして貯蔵するというような形で、それを維持するために各家庭氷はある程度常備されている。そんな氷を氷枕に詰め込んで、ミレニアさんの寝ている寝室を覗くと、ミレニアさんはベッドに横になってぼんやり天井を見上げていた。

「ミレニアさん、氷枕持ってきましたよ」
「え……ああ、ありがとう」

 素直に礼を言われてちょっとビックリだ。枕をタオルでくるんだ氷枕に代えてミレニアさんの額に手を当てると確かに今朝より熱は下がってきているように感じる。

「なぁ、君は何故そんなに私に優しくするんだ? 私は今まで君には厳しくあたってばかりだったろう?」
「ん~確かにミレニアさんは厳しかったですけど、別に俺、虐められたりとかはしてないですし、言われた事が理不尽な要求だったりした事ないです。だからミレニアさんの事は信用してるし弱ってるなら助けになりたいなって思うんですよ」
「君はお人好しだな」
「それ、ミレニアさんにだけは言われたくないです。ミレニアさんだって相当なお人好しでしょう?」
「私が? まさか」

 ミレニアさんがおかしそうに苦笑する。「何を見てそんな事を」と言うので、自分が気付いたミレニアさんのお人好しポイントを羅列すると「全て自分のためにやった事だ」と、彼は俺から瞳を逸らしてまた天井を見上げた。
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