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番外編:ある幸せな家庭の幸せな日常生活
そしてこれからも……
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「なぁ、ライザック本当にこいつ引き取って良かったのか?」
ベッドの上では天使の寝顔の二人が抱き合うように眠っている。
最初のうちはシズクに怯えていたドクだったのだが、子供同士の遊びをするうちに数日も経てばすっかり打ち解け、今はひとつのベッドで仲良く丸くなって眠るようになった。
聞けば劣悪な環境で暮らしていたらしいドクは目に見えてこちらにキラキラとした信頼の瞳を向けるようになり、なんだか複雑な気持ちだ。
「どうやらこの子はウルフドッグの子供らしい、ウルフドッグは人に懐きにくいが、一度懐いたら忠誠は一生ものなんだそうだ。ドクはシズクの忠実な僕になるだろう。シズクはこんな体質だし、人の社会で生きていくのは大変だろう、だが信頼に足る僕が付いているのは何よりも心強い。私はこれからドクをそのように育てていこうと思っている」
「シズク専属の従者としてドクを育てるって事か?」
「まぁ、言ってしまえばそうなるか……」
俺は憮然とライザックを見やる。
「不服かい?」
「そんな風に無理矢理忠誠心を押し付けるようなやり方は好きじゃない。僕とか従者とかそういうんじゃなくて、普通に兄弟みたいに育てればいいじゃないか」
「兄弟……兄弟ならばカズが産んでくれればいいだろう?」
矛先がこちらに来た。俺はその言葉に少し口元をへの字に結ぶ。実を言えば、恋人期間の短かった俺達は最初こそしょっちゅう身体を重ねていたが、シズクが生まれ家庭を築き、忙しなく日々を過ごすうちに何となくそういう事から縁が遠のいてしまっていたのだ。
まぁ、言ってしまえばセックスレス夫婦だな。いや、別に嫌だった訳じゃないんだけど、お互い何となくやりたいタイミングが合わなくて、気が付いたらどう誘っていいのかも分からなくなってしまっていたのだ、言わばこれは不可抗力。
だけど、Hは嫌いじゃないけど妊娠出産子育ては大変なんだぞ……
「簡単に言うな、別にお前が産んでくれてもいいんだぞ?」
この世界に暮らす人間は全員が雌雄同体、ライザックは見た目もきっちり男性体だけどもちろん妊娠出産ができる訳で、だったら俺一人がキツイ思いをする必要もないだろう?
「カズが望むなら私はそれでも構わないけれど?」
以前ライザックは自分が産むより、産んでもらいたい方だと言い、抱かれるのは絶対にごめんだとばかりに従兄弟であるロゼッタさんを断固拒否している姿も見ている俺は、ライザックの意外な言葉に驚いた。
「え? マジ? お前、そっちは無理って前に言ってなかった?」
「敢えて言うなら進んでは望まない、けれどシズクの妊娠中、カズはとても大変そうだったし、代われるものなら代わりたいと何度も思った。だから、カズがそう望むのなら、私はそれでも構わない」
え~意外すぎる……まさかそんな返答が返って来るとは予想もしていなかった俺は言葉に詰まる。だって、ライザックがそっちを担うという事は、俺がライザックを抱くという事だ。
「無理」
「ん?」
「無理無理」
そんなの今まで考えた事もないし、俺には自分より体格のいい男を抱く趣味はない。ワンチャン可愛いらしい見た目の相手ならできない事もないかもだけど、全然全く勃つ気がしない。
抱かれる方に関しては才能があったみたいで、突かれて気持ちよくなれたけど、そっちはないわぁ。
「まさか、カズはもう私への愛情が枯渇してしまったのか?」
「いや、そういう問題じゃないから」
俺は瞬間青褪めたライザックの言葉を一蹴する。
「だったら、どういう問題だと……」とライザックが言いかけた所で「ママぁ、おしっこ」と、ふいにかけられた声にびくりと身体を竦ませた。声の方を見やればシズクが大きな瞳を擦って、こちらを見上げている。
「あ、あぁ……シズク。偉いな、ちゃんと漏らさず起きられたんだな」
ベッドの上ではドクもとても眠そうな顔なのだが、むくりと起き上がりシズクを見やる。寝てていいのに、何故起きた?
「シズク、おしっこ? 一緒行く?」
「行くぅ」
瞳を擦り擦り、ドクがシズクを連れて行く。なんだか本当にお兄ちゃんみたいだな。年下の世話を焼くのは習性か? ウルフドックの習性はよく分からないけど、最近はこんな事が増えていて、シズクに手がかからなくなってほっとする傍ら、母ちゃんちょっと寂しいぞ。
「これもいい機会だと思うのだが……」
ライザックの腕がするりと伸びて、ふわりと身体を抱きこまれた。こんな風に彼に抱かれるのもずいぶんと久しぶりだ。
「カズ……」
耳元で息を吹きかけるようにライザックが囁く。こいつ顔もいいけど、無駄に声もいいんだよなぁ。拒む必要もないし、兄弟かぁ……
「もう一度、子供達が寝た後でな」
俺が瞳を逸らしてそう言うと、ライザックは嬉しそうな笑みを見せた。この調子だと、春頃にはまた家族が増えるかもしれないな。だけどそれも悪くない。
ベッドの上では天使の寝顔の二人が抱き合うように眠っている。
最初のうちはシズクに怯えていたドクだったのだが、子供同士の遊びをするうちに数日も経てばすっかり打ち解け、今はひとつのベッドで仲良く丸くなって眠るようになった。
聞けば劣悪な環境で暮らしていたらしいドクは目に見えてこちらにキラキラとした信頼の瞳を向けるようになり、なんだか複雑な気持ちだ。
「どうやらこの子はウルフドッグの子供らしい、ウルフドッグは人に懐きにくいが、一度懐いたら忠誠は一生ものなんだそうだ。ドクはシズクの忠実な僕になるだろう。シズクはこんな体質だし、人の社会で生きていくのは大変だろう、だが信頼に足る僕が付いているのは何よりも心強い。私はこれからドクをそのように育てていこうと思っている」
「シズク専属の従者としてドクを育てるって事か?」
「まぁ、言ってしまえばそうなるか……」
俺は憮然とライザックを見やる。
「不服かい?」
「そんな風に無理矢理忠誠心を押し付けるようなやり方は好きじゃない。僕とか従者とかそういうんじゃなくて、普通に兄弟みたいに育てればいいじゃないか」
「兄弟……兄弟ならばカズが産んでくれればいいだろう?」
矛先がこちらに来た。俺はその言葉に少し口元をへの字に結ぶ。実を言えば、恋人期間の短かった俺達は最初こそしょっちゅう身体を重ねていたが、シズクが生まれ家庭を築き、忙しなく日々を過ごすうちに何となくそういう事から縁が遠のいてしまっていたのだ。
まぁ、言ってしまえばセックスレス夫婦だな。いや、別に嫌だった訳じゃないんだけど、お互い何となくやりたいタイミングが合わなくて、気が付いたらどう誘っていいのかも分からなくなってしまっていたのだ、言わばこれは不可抗力。
だけど、Hは嫌いじゃないけど妊娠出産子育ては大変なんだぞ……
「簡単に言うな、別にお前が産んでくれてもいいんだぞ?」
この世界に暮らす人間は全員が雌雄同体、ライザックは見た目もきっちり男性体だけどもちろん妊娠出産ができる訳で、だったら俺一人がキツイ思いをする必要もないだろう?
「カズが望むなら私はそれでも構わないけれど?」
以前ライザックは自分が産むより、産んでもらいたい方だと言い、抱かれるのは絶対にごめんだとばかりに従兄弟であるロゼッタさんを断固拒否している姿も見ている俺は、ライザックの意外な言葉に驚いた。
「え? マジ? お前、そっちは無理って前に言ってなかった?」
「敢えて言うなら進んでは望まない、けれどシズクの妊娠中、カズはとても大変そうだったし、代われるものなら代わりたいと何度も思った。だから、カズがそう望むのなら、私はそれでも構わない」
え~意外すぎる……まさかそんな返答が返って来るとは予想もしていなかった俺は言葉に詰まる。だって、ライザックがそっちを担うという事は、俺がライザックを抱くという事だ。
「無理」
「ん?」
「無理無理」
そんなの今まで考えた事もないし、俺には自分より体格のいい男を抱く趣味はない。ワンチャン可愛いらしい見た目の相手ならできない事もないかもだけど、全然全く勃つ気がしない。
抱かれる方に関しては才能があったみたいで、突かれて気持ちよくなれたけど、そっちはないわぁ。
「まさか、カズはもう私への愛情が枯渇してしまったのか?」
「いや、そういう問題じゃないから」
俺は瞬間青褪めたライザックの言葉を一蹴する。
「だったら、どういう問題だと……」とライザックが言いかけた所で「ママぁ、おしっこ」と、ふいにかけられた声にびくりと身体を竦ませた。声の方を見やればシズクが大きな瞳を擦って、こちらを見上げている。
「あ、あぁ……シズク。偉いな、ちゃんと漏らさず起きられたんだな」
ベッドの上ではドクもとても眠そうな顔なのだが、むくりと起き上がりシズクを見やる。寝てていいのに、何故起きた?
「シズク、おしっこ? 一緒行く?」
「行くぅ」
瞳を擦り擦り、ドクがシズクを連れて行く。なんだか本当にお兄ちゃんみたいだな。年下の世話を焼くのは習性か? ウルフドックの習性はよく分からないけど、最近はこんな事が増えていて、シズクに手がかからなくなってほっとする傍ら、母ちゃんちょっと寂しいぞ。
「これもいい機会だと思うのだが……」
ライザックの腕がするりと伸びて、ふわりと身体を抱きこまれた。こんな風に彼に抱かれるのもずいぶんと久しぶりだ。
「カズ……」
耳元で息を吹きかけるようにライザックが囁く。こいつ顔もいいけど、無駄に声もいいんだよなぁ。拒む必要もないし、兄弟かぁ……
「もう一度、子供達が寝た後でな」
俺が瞳を逸らしてそう言うと、ライザックは嬉しそうな笑みを見せた。この調子だと、春頃にはまた家族が増えるかもしれないな。だけどそれも悪くない。
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