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第四章:夫婦の絆編

触手症

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 青褪めた顔はしているが、お義父さんは意外と冷静だった。

「触手症ってなんですか?」
触手ワームの毒に侵された者が発症すると聞いている。症例は少なく親からその毒を引き継いで発症すると……君、もしかして」
「そんな病名がついてるんだ……」

 今となってはその伸び縮みする手足も可愛いとしか思わないけど、やっぱり個性というよりは病気、ううん障害になるのかな? だってこれは一生治る事がないと言われている。

「森の触手ワームに犯されたことが……?」
「そこから助けてくれたのがライザックです」

 お義父さんの表情が険しい、やっぱり障害持ちの孫なんてって思われてるのかな……と不安になったところでお義父さんにがしっと抱きしめられて驚いた。

「つらかったね、僕、何も知らなくて、ごめんね!」
「え!? いや、こっちこそ黙ってて申し訳ないって言うか……」
「言えないよ、そんな事! 思い出すのも嫌だよねっ、大変だったね」

 いつの間にかお義父さんがぼろぼろ泣いている。なんだかつられてこっちも泣きそうなんだけど……そういえばアレはそういうものだと思っていたけど、触手ワームに犯されるって結構な事件でもあるんだよな。
 命に関わる事だし後遺症も残ったり、こうやって子供に影響もでるような事態で、あんまりにも不思議な事が続くものだからうっかり受け入れてしまったけど、こんな全力で俺の心配してくれた人、この世界にきてから初めてかも。

「ツラい事があったらいつでも僕に言うんだよ? 抱え込んじゃ駄目だ、平気だと思おうとしても心はどんどん蝕まれて、気付いたら身動きできなくなる事もあるんだよ。今までよく頑張ったね」
「お義父さん……」

 ヤバい、もうこれ本気で泣く。
 不安はいつでも抱えていた、妊娠中の触手の夢や占い師の言葉で情緒不安定になったのもその不安の現れで、ライザックはいつでも俺の傍らで俺を支えてくれたけど、それでも全ての恐怖は拭いきれなかった。今はその不安もあらかた消えてはいるけれど、俺があの時欲しかったのはその言葉だったって、今なら分かる。
 頼れるのはライザックだけで彼がいなければ不安になった、ハインツやロゼッタさん、ミレニアさんも俺には優しかったけど、彼等はあくまで友人で一線を越えてはこなかったし、自分もどこか距離を置いている部分もあって、なのに何でだろう、今お義父さんに抱き締められて俺はとてもほっとしているんだ。

「弱音、吐いてもいいんですか?」
「当たり前だろ! 触手症の話は聞いた事あったけど、見たのは僕も初めてだ。大丈夫なの? この子もだけど、君も、無理してない?」
「無理は、してない……ですけど、うぅ」

 この触手の原因も分かって、普通に育てれば普通にシズクは育つのだと知って、だったら平気だと思っていた。無理はしてない、大丈夫だと思っていたのに、どうにも涙が止まらなくなった。ヤバい、嗚咽で言葉が出ない。

「もっと早くに気付いてあげられたら良かったのに、ごめんね」

 お義父さんが謝る事なんてひとつもないのに、お義父さんは涙が止まらなくなってしまった俺の背中を優しく撫でる。シズクの触手も伸びてきて俺の涙を掬い上げるので、子供に慰められてどうするよって少し情けなくなった。

「こっちこそ、ごめんなさい。平気だって、思ってたのに……」
「僕にも経験あるからさ、自分自身は大丈夫だって思ってても急に涙が止まらなくなったりするんだ。そういう時は自然に任せた方がいいんだよ、泣きたかったらたくさん泣いていいんだ、誰も君を咎めたりしないし、誰も君を責めたりしない」
「本当に……?」
「不安? 少なくとも僕は君の味方だよ? 君は僕の大事な息子のお嫁さんだもの」

 オーランドルフの家でハロルド様には存在すら認めてもらえなかった俺なのに、アルフレッドさんはどこまでも俺に優しい。つくづくライザックは父親似なのだなと俺は思う。
 促されるまま泣き続けて、その間ずっとお義父さんは俺の横にいてくれて、お義父さんが帰り、ライザックが家に帰ってきた時には酷い顔になってたけど、心はすっかり軽くなっていた。

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