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第四章:夫婦の絆編
お義父さんの過去
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ある日突然現れたお義父さんは宣言通りにマメに我が家に遊びに来るようになった。最初の内は少し困ったなと思っていた俺だったのだけど、話してみれば彼はとても気さくで話しやすかったのと、実は子育てに自信があると豪語していたのも本当の話で、この人自分で何人も子供を産んで育てている子育てに関してはエキスパートだった事が判明してびっくりした。
「ハロルドと色々合わなかったってのもその辺が原因でさ、僕はどちらかと言えば愛するより愛されたい方だったんだよね。ハロルドは嫁入りって形で我が家に来たし、その辺はもう覆せなくてさ、自分なりに頑張ってはみたんだけど、やっぱり駄目でねぇ……」
と、お義父さんは苦笑する。
「僕の今のパートナーは僕の幼馴染なんだけど、その辺は全て理解してくれた上で僕を受け入れてくれた度量の広い人で感謝してるんだ。そういう意味では僕はハロルドよりも彼を愛しているし、今の家庭を壊したくないと思ってる、だけど僕は別にハロルドの事は嫌いではないんだよ」
なるほど、アルフレッドさんとハロルド様は、世間で言うとこの性の不一致という感じでの不仲だったんだな。でもその辺は本当に仕方がないと俺は思う。だって俺だってどれだけ好きだと思ってもライザックを抱けって言われたら戸惑うよ。やってやれない事はないかもしれないけど、それは俺の中で違和感しかないし、それで家庭を維持していくのが大変だったというのは理解できる。
しかもハロルド様はあんな性格だし、ずいぶん居心地悪かったんだろうな。一方的にハロルド様とライザックは捨てられたのかと思っていたけど、アルフレッドさんがそうせざるを得なかった背景が見えてきて俺は同情が禁じ得ない。
「だけどライザックも独立したし、そろそろ僕もハロルドとは決着をつけないといけない頃合いなのかもね」
「決着……ですか?」
「そう、僕の踏ん切りでもあるし、ハロルドの為にもそろそろ片を付けないと」
「それはハロルド様と離婚する、という事ですか?」
「そうだね、ついでに家名も返上しちゃおうかなって。僕はもう今現在オーランドルフを名乗っていないし、今後名乗ろうとも思わない。ハロルドはそこを譲る気ないだろうけど、僕は籍を抜けるつもりだよ」
そういえばライザックが俺の戸籍を作らせてるとかなんとか言ってたけど、この国って意外と厳密に人って管理されてるんだな。オーランドルフの籍を抜けるってことは事実婚の相手と改めて結婚して向こうの籍に入るって事なのだろうか? 実際今あのオーランドルフ家を支配しているのはハロルド様なのだし、分家としての家をハロルド様に乗っ取られた形になるけど、お義父さんは清々したような表情をしている。
ライザックは家名が重いと常々言っていたし、たぶんそれはお義父さんも同じだったんだろうな。
「それにしてもシズクちゃんは、本当に大人しい子だね。こんなに手のかからない子、僕、初めて見たよ」
お義父さんの言葉に俺は苦笑する。実を言えばお義父さんがいると人への擬態を強いられるシズクは最近少し機嫌が悪い。その機嫌の悪さそのままに、癇癪を起しかけて触手を伸ばそうとするので、その触手の伸びかけた手を撫でて「ダメだよ」と声をかけるとシズクはそれをやめるのだ。そんな姿を見るとやはりシズクはある程度こちらの言う事を理解しているのだと思う。
だけどストレス良くないと思うし、そろそろお義父さんにもこの触手の事言わないとだよね……
「あの、実はひとつだけ、お義父さんに伝えてない事があるんですけど……」
「ん? なぁに?」
占い師I・Bはあまりこの触手の事は他人に言わない方がいいと言っていた。それは彼が生きてきた経験上、差別は切り離せないからとそう言っていたのだ。言った方が良いのか、言わない方が良いのか、けれど突然それを知れば初めてシズクの触手を見た時の俺のように誰もがシズクを化け物だと思うだろう、だったら少しずつでも周りに知らせるべきだとも思うのだ。
俺は腕の中に抱いたシズクを見やって頬を撫でる、シズクはそれがくすぐったかったのかむずがるような仕草をしてからにぱっと笑みを見せた。
「シズクのこの指先」
お義父さんが俺の腕の中のシズクを覗き込む。俺はシズクのその小さな手を握って、その指先を軽く引っ張った。シズクの瞳が「いいの?」と言わんばかりにこちらを向いて、俺がそれに頷くとその指先は遠慮がちにずるりと伸びた。
「ひっ!」
お義父さんの顔色が一気に青褪め飛びすさる。うん、そうだよね、それが真っ当な人の反応だ。
「その子、触手症なの!?」
触手症? 初めて聞いた言葉に俺は首を傾げる。顔を青褪めさせたまま、お義父さんはひとつ大きく深呼吸をしてこちらを見据えた。
「ハロルドと色々合わなかったってのもその辺が原因でさ、僕はどちらかと言えば愛するより愛されたい方だったんだよね。ハロルドは嫁入りって形で我が家に来たし、その辺はもう覆せなくてさ、自分なりに頑張ってはみたんだけど、やっぱり駄目でねぇ……」
と、お義父さんは苦笑する。
「僕の今のパートナーは僕の幼馴染なんだけど、その辺は全て理解してくれた上で僕を受け入れてくれた度量の広い人で感謝してるんだ。そういう意味では僕はハロルドよりも彼を愛しているし、今の家庭を壊したくないと思ってる、だけど僕は別にハロルドの事は嫌いではないんだよ」
なるほど、アルフレッドさんとハロルド様は、世間で言うとこの性の不一致という感じでの不仲だったんだな。でもその辺は本当に仕方がないと俺は思う。だって俺だってどれだけ好きだと思ってもライザックを抱けって言われたら戸惑うよ。やってやれない事はないかもしれないけど、それは俺の中で違和感しかないし、それで家庭を維持していくのが大変だったというのは理解できる。
しかもハロルド様はあんな性格だし、ずいぶん居心地悪かったんだろうな。一方的にハロルド様とライザックは捨てられたのかと思っていたけど、アルフレッドさんがそうせざるを得なかった背景が見えてきて俺は同情が禁じ得ない。
「だけどライザックも独立したし、そろそろ僕もハロルドとは決着をつけないといけない頃合いなのかもね」
「決着……ですか?」
「そう、僕の踏ん切りでもあるし、ハロルドの為にもそろそろ片を付けないと」
「それはハロルド様と離婚する、という事ですか?」
「そうだね、ついでに家名も返上しちゃおうかなって。僕はもう今現在オーランドルフを名乗っていないし、今後名乗ろうとも思わない。ハロルドはそこを譲る気ないだろうけど、僕は籍を抜けるつもりだよ」
そういえばライザックが俺の戸籍を作らせてるとかなんとか言ってたけど、この国って意外と厳密に人って管理されてるんだな。オーランドルフの籍を抜けるってことは事実婚の相手と改めて結婚して向こうの籍に入るって事なのだろうか? 実際今あのオーランドルフ家を支配しているのはハロルド様なのだし、分家としての家をハロルド様に乗っ取られた形になるけど、お義父さんは清々したような表情をしている。
ライザックは家名が重いと常々言っていたし、たぶんそれはお義父さんも同じだったんだろうな。
「それにしてもシズクちゃんは、本当に大人しい子だね。こんなに手のかからない子、僕、初めて見たよ」
お義父さんの言葉に俺は苦笑する。実を言えばお義父さんがいると人への擬態を強いられるシズクは最近少し機嫌が悪い。その機嫌の悪さそのままに、癇癪を起しかけて触手を伸ばそうとするので、その触手の伸びかけた手を撫でて「ダメだよ」と声をかけるとシズクはそれをやめるのだ。そんな姿を見るとやはりシズクはある程度こちらの言う事を理解しているのだと思う。
だけどストレス良くないと思うし、そろそろお義父さんにもこの触手の事言わないとだよね……
「あの、実はひとつだけ、お義父さんに伝えてない事があるんですけど……」
「ん? なぁに?」
占い師I・Bはあまりこの触手の事は他人に言わない方がいいと言っていた。それは彼が生きてきた経験上、差別は切り離せないからとそう言っていたのだ。言った方が良いのか、言わない方が良いのか、けれど突然それを知れば初めてシズクの触手を見た時の俺のように誰もがシズクを化け物だと思うだろう、だったら少しずつでも周りに知らせるべきだとも思うのだ。
俺は腕の中に抱いたシズクを見やって頬を撫でる、シズクはそれがくすぐったかったのかむずがるような仕草をしてからにぱっと笑みを見せた。
「シズクのこの指先」
お義父さんが俺の腕の中のシズクを覗き込む。俺はシズクのその小さな手を握って、その指先を軽く引っ張った。シズクの瞳が「いいの?」と言わんばかりにこちらを向いて、俺がそれに頷くとその指先は遠慮がちにずるりと伸びた。
「ひっ!」
お義父さんの顔色が一気に青褪め飛びすさる。うん、そうだよね、それが真っ当な人の反応だ。
「その子、触手症なの!?」
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