ある幸せな家庭ができるまで

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第四章:夫婦の絆編

夫婦の絆

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 お義父さんが帰って家族団らんの後、シズクを寝かしつけると俺達は何とはなしにお互いの話をし始めた。ライザックの職業が騎士だというのは知っていたのだが、その仕事内容までは把握していなかった俺は、実は彼がかなり立場の上な人間だという事を初めて知った。
 確かに稼ぎは良いのだろうなとは思っていたのだ、稼ぎのいくらかは向こうの家に入れつつも俺達は食うに困る生活にはなっていない。それをライザックは「君がやりくり上手だから」と言ってくれるが、別に俺は何もしていない。
 こちらの世界に来る前、自分が生きてきた生活を思い返せば明らかにこちらの物価は安いし、つい衝動買いをしてしまうような食べ物や娯楽品の誘惑がほとんどないのだ、一人でいたら退屈な世界だと思ったかもしれないが、シズクが生まれて退屈している暇もない。思い返せばあちらではいるのかいらないのか分からないような物に囲まれてごちゃごちゃとした生活を送っていたが、自分が持っていた物のほとんどが生活には必要ないものだと気付いたら、別に欲しいとも思わなくなった。
 まだこれから自分がどう変わっていくかは全く分からないが、今現在俺はいわゆるミニマリストの生活を楽しんでいて物欲が全然湧かないんだよな、なんてそんな事をぽそりとライザックに話したら、少し心配そうな顔をされてしまう。

「贅沢はさせてやれないかもしれないが、欲しいものは遠慮なく言うんだぞ?」

 なんて、今の俺はその言葉だけで充分なんだけどな。

「カズは本当に不思議だな、出会えたことは奇跡のようで、だがしかし時々不安になる」
「不安?」
「私の目の前に降って湧いたように現れた君は私にとっては神の遣いのようなもので、いずれその役目を終えたら何処かへ消えていなくなるのではないかと……いや、そんな馬鹿な話ある訳がないな」

 俺の役目……そんな事を考えた事もなかったな。たぶん向こうの世界で死んだはずの俺がこの世界に降って湧いたのには何かそれなりの理由があったのだろうか? だが、そんなものを感じた事は一度もない俺はそんな考え方に驚いてしまう。

「消えないよ、だって俺はここにいる」
「ああ、そうだな」

 ふわりと抱きしめられて、その腕の中の温かさに俺はほっとする。まるで欠けたピースが嵌るように俺がこの世界に現れたのはきっと彼と出会う為だった。それが何かに導かれたのだとしても、このパズルはこれで完成し、壊れる事はないのだと俺は信じたい。

「今、君の戸籍を新たに作らせている」
「戸籍?」
「君の存在は本当に不思議で、この世界の何処にも君が存在していたという形跡がない。君は一体何処から来たのか、それを聞いたら君が消えてしまうのではないかとなんとなく不安で詮索するのは避けてきたのだが、その辺の事情を聞いても……?」

 不安げな表情のライザック、どうやら俺の存在は彼の中では妖精か天女のようなモノだったのだろう、事情を聞いたら消えてなくなるなんてお伽噺ではよくある話で、だから彼は今まで俺に何も問おうとしなかったのか。得体の知れない俺なんかを受け入れてくれた彼も彼で色々考えていたんだな。

「いいよ、実はな……」

 俺はこの世界へやって来た経緯をライザックに話して聞かせる。実際の所、それはどうして起こったのか俺にも分からない事だらけだけれど、彼ならきっと信じてくれると思ったんだ。

「君はそもそもこの世界の人間ではない……?」
「まぁ、そうなんだろうな。俺の世界には獣人なんていなかったし、こっちの世界みたいに誰でも子供が産めるとかあり得ない、ついでに触手ワームだなんてへんてこな生き物もいなかった」

 俺の世界の妊娠出産の話や、ふたつの性別の話が衝撃だったらしいライザックは言葉を失うけど、俺にとったらこっちの世界の方がよほど奇妙だからな? この世界の人間はいわゆる雌雄同体というやつなのだろうけど、自由過ぎてびっくりだよ。
 それにしてもこの世界で俺は子供を生めたのだから、今現在俺の身体もそうなっているのだと思うと、それもそれで不思議な力を感じるけどな。

「だが、その話を聞いて納得だ。君はどこか他の人間とは違うと感じていた。私の勘は外れていなかったな」

 ライザックは思った通り、俺の話を信じてくれた。この世界に地盤のない俺はどこか浮世離れしていて地に足がついていないという感情をずっと抱えてきたのだけど、話してしまえば急に気持ちが軽くなった。

「だが、そんな話を聞いてしまうと、また不安になるな。君はこの世界の人間ではない、いずれまたその向こうの世界に戻ってしまう可能性も……」
「帰らないよ」

 俺はライザックの瞳を覗き込み断言する。

「例えそんな機会が巡ってきても帰る気ない。だって、お前とシズクを残して帰るとかあり得ない。向こうに戻ったとして元の生活を送るなんて俺にはもうできないし、するつもりもないから安心して」
「カズ……」

 何故だか少しライザックの瞳が涙目だ。俺は伸びをしてよしよしと彼の頭を撫でる。

「だからさ、俺がこの世界にいる事を後悔しないようにお前は俺達の事たくさん愛してな」
「それは勿論!」

 食い気味で言い切られて俺は笑ってしまう。俺はこの世界で生きていく、流されるままに生きてきた俺だけど、この瞬間俺は彼と生きていく事を改めて決意したんだ。

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