ある幸せな家庭ができるまで

矢の字

文字の大きさ
上 下
74 / 113
第四章:夫婦の絆編

現在の俺達の生活

しおりを挟む
 何故か異世界に飛ばされて子供を授かってしまった俺、渋谷和寿がこの世界にやって来てそろそろ一年が経とうとしている、こちらに来たばかりの頃は衝撃的な出来事ばかりが続きあたふたした生活を送っていたのだが、子供が生まれて落ち着いて、今は何だかんだで平和に生きている。
 一風変わった体質で生まれてしまった我が子シズクを育てるのは大変なのだけど、そこはそれ柔軟性と適応力に定評がある俺はそんな奇妙な体質も受け入れて今は平穏そのものだ。

「カズ、少しばかり言い辛いのだが、シズクはそれで大丈夫なのか……?」
「へ? あぁ、うんまぁ大丈夫なんじゃないかな?」

 現在シズクは俺の肩の上、触手を器用に使って登って来るのでやるがままに任せている、シズクは本来ならばまだ抱っこでしか移動できないはずの月齢なのだが、好奇心旺盛な我が子はその触手を使って何処へでも行くし何でもやろうとする。子育ての中でそこだけは本当に厄介で困っているのだが、シズクはそれ以外は比較的に大人しい手のかからない子供だった。
 普通の子供だったら怪我の心配のひとつもする所なんだろうが、シズクの身体は半分触手で出来ている、怪我をしたり例えば触手がちぎれても、ものの数分で治ってしまうのだ、最初は冷や冷やしていた俺だけど今となっては手がかからなくていいなとしか思わなくなってしまった。
 むやみに触手を出すようだと困るなとも思っていたのだが、基本的にシズクは触手を出すのは俺達の前でだけだった。興奮したりすると出てしまう事もあるのだが、それは触手自体の本能なのか周りに知らない人間がいるとちゃんと人に擬態するのだ。
 まだお喋りもできない赤ん坊なので、それがどういう状態なのかよく分からないのだが、見た目的には普通の人の子として育っているので、まずは良しとする。
 知能的に不安な部分もなくはないのだが、シズクは俺達の会話にもよく耳を傾けている、時には意味が分かっているのか? というような行動を取る事もあって、そちらの方面もあまり心配はなさそうだ。むしろ、その辺の子よりうちの子賢いんじゃね? とか思ってしまうのは親バカが過ぎるだろうか?

 俺は不安な事がある時はあの触手持ちの占い師I・Bの館へと赴いて相談を持ち掛ける、彼お得意の未来予知さきよみの占いじゃなくて、普通に子育て相談してる客なんて俺だけだと思うけど、まぁ、彼とも仲良くやっている。
 だけど元々占い師の事を盲目的に信奉していたハインツは少し驚いていたな。なにせ俺は彼の占いには懐疑的だったのに、最近では優待券を発行される程度には常連客になっているからだ。実は金も払ってないなんて言ったら怒られそうだ。
 I・Bにとってシズクはこの世界に存在する唯一の自分の同胞だ、それ故にシズクの事は目に入れても痛くない程の可愛がりようで、こちらとしても有難い。
 最初は産むなと言ったくせにこの変わりよう「あの時は君の不安と未来の感情に引きずられたんだ」と存外子供っぽい拗ね方をした彼は「今はもうこの子の未来に影はないよ」と、シズクに頬ずりをしているので俺はほっと胸を撫でおろしている。

 ライザックの母親、ハロルド様には出産の報告をしたけれど別段なんの返信もない。完全に黙殺されているのだろうけど、変に手を出されないならそれでいいかって思ってる。
 花婿争奪戦で仲良くなったロゼッタさんにも報告したけど、こっちからはお祝いの手紙と手作りと思われる豪華な産着が届いた。家が遠いからなかなか会う事はできないけれど、手紙のやり取りはなんとなく続いていて、落ち着いた頃にシズクの顔を見に行くからと言われている。
 ロゼッタさんってホント良い人、早く素敵な旦那さんが見付かると良いなと俺は思う。

「そういえば今度ベアード様もお祝いをと言っていたのだが……」
「そうなんだ、バートラム様、今もミレニアさんのとこに通ってるの?」
「そのようだな、ミレニアは相変わらず迷惑そうな顔をしていた。だが正直ミレニアもそろそろ身の振り方は考えるべき頃合いだとは思うのだけどな。あの家にいつまでも囚われているのも可哀想だ」

 ミレニアさんは相変わらずオーランドルフ家の執事を務めている。ライザックが家を出てしまった今、オーランドルフ家の家計はかなり厳しいはずで、ライザックの母親であるハロルド様がそれを理解していればいいのだが、きっとそれは難しいと思うのだ。

「いざとなったらハロルド様、こっちに呼ぶ? 問答無用の貧乏暮らしだけど」
「母上がそれを受け入れるかだな。そうなったらこちらに来るより叔父上の所に身を寄せるんじゃないだろうか」

 ライザックが叔父上と呼ぶのはロゼッタさんの父親だ、オーランドルフの本家なだけあって、かなり羽振りは良さそうだしハロルド様一人くらいなんとかなりそうだけど、プライドの高いハロルド様がどう行動するかは未知数だ。
 俺達はとても平穏に暮らしているけど、問題はまだまだたくさんあるんだよなぁ……

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...