ある幸せな家庭ができるまで

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第三章:出産編

占い師の館

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 ライザックと付き合う前、まだ妊娠が発覚する前に訪れたその店はわりとシンプルな民家のような建物だったと思うのだが、それから数か月、店の外観はずいぶん様変わりをしていた。あの時にはまだなかった大きな看板が店の前にでん! と置かれてお店自体は分かりやすくなったと思う。店の前面には飾りのように何かの蔦が伸びていて壁を覆い、その胡散臭さは二割増し。
 あの時は店の外にまで長蛇の列が続いていて、なんだこれ? と思ったものだが、現在そこに列はなく本当にそんなに人気なのかと俺が首を傾げると、ハインツは「人気すぎて完全予約制になったんだよ」と笑みを見せた。
 今日は急遽やって来て、そんな予約も取っていなかろうと思ったのだが、そこに現れるのが先程の特別優待券だ、要するにあれは予約無視のフリーパス券だという事だ。

 店内に入ると待合にはぼちぼち人がいて完全に客がいない訳ではなさそうだ。だけど完全予約制って事はその客の数が俺達の目に見える訳じゃないし、本当にあの頃程の人気があるのかどうかはこちら側からは分らないと考える俺はやはりハインツの言う事を真に受ける事はできない。
 そういえばハインツもだけれど、よく考えたらライザックも少なくとも二回はこの店に顔を出してるんだよな、この店がなければたぶん俺とライザックは出会っていなかった訳で、運命的ではあるのだけどそれでもやっぱり胡散臭い!

「お次の方どうぞ」

 次々と待合にいる人が扉の向こうに消えていく、けれど入った人が出てくる事はなく、次の人が呼ばれるので俺が首を傾げると、この店は混雑を避けるため入口と出口は別になっているのだとハインツは言った。

「混雑って、こんなに人少ないのに……」
「今はね、カズだって最初の頃の列見ただろう? この待ち合いもあの頃は人でごった返してて大変だったんだよ」

 確かに言われてしまえばそうかもしれない、今の人数なら全然余裕のある待ち合いだけど広さ的には然程広くはないし大勢が出入りするには向いてない、だったら一方通行で流してしまった方が人のはけは良いのだろうな。そういえば、ライザックと遭遇したのも店の裏側の方だったと俺は何とはなしに思い出す。
 多少の待ち時間はあったもののハインツと話しながら待っていたらそんな時間もあっという間で、気が付けば間もなく俺達の番、とはいえ俺は付き添いみたいなもんだけど。

「カズは占い師さんに何を聞く?」
「俺は別にいいよ」
「え~せっかく来たんだから何か聞いたら?」
「別に何も聞く事ないし……」

 そういえばこの占い師の得意な占いは未来予知さきよみだったか、だったらほんの少しだけこの子の未来を視てもらうのもありかもしれないな。そうは言っても元気に生まれてくれさえすればそれでいいけど。
 占って欲しい内容はあらかじめ占い師に告げられるようで俺達は簡単な問診票のような物を書かされ、それをスタッフが回収していく。しばらくすると「お次の方どうぞ」と声がかかり、ハインツは楽し気にぴょこんと椅子から立ち上がり俺を促した。

「カズ、早く早く」

 今の俺は妊夫だからそんな機敏には動けない。よっこいせと立ち上がったら腹の子にぽこりと中から蹴られて腹を撫でる。腹の中で自己主張をするかのように動く我が子、元気に育って嬉しいよ。
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