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第二章:妊娠編
ライザックの心情①
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「なんだいライザック不服そうな顔をして」
「母上は一体何を考えてこんな事を……」
現在ライザックの視線の先ではカズとロゼッタが仲良くお互いの作った料理を試食しあって、楽しそうに談笑している。
「私の考える事はいつでもお前の事ばかりだよ。私はお前の将来が心配でこんなに心を砕いているんじゃないか、見てごらん、あの子達だって楽しそうにやっている。私は何もお前の悪いようにはしていない」
「………………」
扇子で口元を隠すようにして母ハロルドは笑みを浮かべるのだが、やはりライザックはそんな母の言葉に無条件に頷く事は出来ない。自分はこんな事は望んでいない。正直オーランドルフの家だってどうでもいいと思っているライザックにとってこれは歓迎できた事ではなかったからだ。
「母上が私を想ってくださるのでしたら、何故私とカズとの仲を無条件に認めてはくださらないのですか? 私はカズを妾にしたい訳ではない、想う気持ちを止められない私は誰よりもカズを愛しています。そして私はきっとロゼッタを愛する事は出来ません」
「何度も言うがライザック、結婚に愛など必要ない」
「母上!」
「人の心は移ろいゆくもの、今は愛に目が眩んでいたとしてもいずれ目が覚める時が来る。その時に後悔しても遅いのです、人生は長い、足元は常に盤石なものとしておかなければならないのです」
ライザックは瞳を伏せて、しかしもう一度息を吐いて前を向く。
「お言葉ですが母上、それは本当に私を想ってのお言葉なのでしょうか? 足元を盤石に、それは確かに尤もな言葉です、ですが私の足元は別に揺らいでなどいない。仕事の方は順調で直実にキャリアを積んでおりますし、私生活の方でもカズと恙なく愛を育んでいます。年明けには子供も生まれるのですよ? 母上にとっては初孫ではないですか、何故それを素直に喜んではくれないのですか?」
「どこの馬の骨とも知れぬ者が産んだ子などオーランドルフ家の子供として私は認めない、ライザック。そもそもあの子の腹の子は本当にお前の子なのかい? お前だってここまで何度も騙され裏切られ、散々辛酸を舐めさせられてきただろう?」
母の言葉にライザックは言葉に詰まる。過去、オーランドルフの名に惹かれ自分に寄ってきた者の数は両手で足りない。けれどその者達がどれだけ真実の愛を囁いても、その実は我が家の家名や金目当てであった事は何度もあったのだ。分家である我が家の内情は火の車、そんな事実を知ってライザックに背を向けた恋人の数も数えたくはない程にライザックもまた裏切られ続けてきたのだ。
「カズは……今までの者達とは違います」
「どうだかな。私も調べてはみたのだよ、お前があの子にご執心である事はミレニアに聞いていたからね。だけどどうにもおかしい、この世界にあの子を知る者は誰もいない。この国ではあの子の黒髪は珍しい、なのにどれだけ情報を募ってもあの子の情報は何も上がってはこない」
「カズはずいぶん遠くからこの国にやって来たのだと……」
「そうだね、何処の田舎者なのか知らないけれど、あの子には戸籍すらありはしない。戸籍がない、すなわちあの子はこの国の者ではないという事だ、そしてあの子はこの国に入国したという情報すらもありはしない。だったらあの子は一体何処から現れた? 考えられる事はふたつ、密入国してきた他国の者か、オーランド国では戸籍を作れなかった程に生活地盤のない者。どちらにしても胡散臭い事に変わりはない。まぁ、百歩譲って妾にくらいにならしてもいいと言っている私はかなり寛大な母親だと思うけれどね」
確かにその辺はライザックも調べて首を傾げたのだ。どれだけ調べてもカズのバックグラウンドは見えてこない、本人に聞いても要領を得ないし聞いてもまるで分らない単語を羅列され困惑する事も度々あった。
けれど、カズの生活態度を見ているとそこまで育ちも悪くは見えず荒んだ所も見受けられない。そこには何か深い事情があるのだろうと、ライザックは些細な事には目を瞑ったのだ。
「母上は一体何を考えてこんな事を……」
現在ライザックの視線の先ではカズとロゼッタが仲良くお互いの作った料理を試食しあって、楽しそうに談笑している。
「私の考える事はいつでもお前の事ばかりだよ。私はお前の将来が心配でこんなに心を砕いているんじゃないか、見てごらん、あの子達だって楽しそうにやっている。私は何もお前の悪いようにはしていない」
「………………」
扇子で口元を隠すようにして母ハロルドは笑みを浮かべるのだが、やはりライザックはそんな母の言葉に無条件に頷く事は出来ない。自分はこんな事は望んでいない。正直オーランドルフの家だってどうでもいいと思っているライザックにとってこれは歓迎できた事ではなかったからだ。
「母上が私を想ってくださるのでしたら、何故私とカズとの仲を無条件に認めてはくださらないのですか? 私はカズを妾にしたい訳ではない、想う気持ちを止められない私は誰よりもカズを愛しています。そして私はきっとロゼッタを愛する事は出来ません」
「何度も言うがライザック、結婚に愛など必要ない」
「母上!」
「人の心は移ろいゆくもの、今は愛に目が眩んでいたとしてもいずれ目が覚める時が来る。その時に後悔しても遅いのです、人生は長い、足元は常に盤石なものとしておかなければならないのです」
ライザックは瞳を伏せて、しかしもう一度息を吐いて前を向く。
「お言葉ですが母上、それは本当に私を想ってのお言葉なのでしょうか? 足元を盤石に、それは確かに尤もな言葉です、ですが私の足元は別に揺らいでなどいない。仕事の方は順調で直実にキャリアを積んでおりますし、私生活の方でもカズと恙なく愛を育んでいます。年明けには子供も生まれるのですよ? 母上にとっては初孫ではないですか、何故それを素直に喜んではくれないのですか?」
「どこの馬の骨とも知れぬ者が産んだ子などオーランドルフ家の子供として私は認めない、ライザック。そもそもあの子の腹の子は本当にお前の子なのかい? お前だってここまで何度も騙され裏切られ、散々辛酸を舐めさせられてきただろう?」
母の言葉にライザックは言葉に詰まる。過去、オーランドルフの名に惹かれ自分に寄ってきた者の数は両手で足りない。けれどその者達がどれだけ真実の愛を囁いても、その実は我が家の家名や金目当てであった事は何度もあったのだ。分家である我が家の内情は火の車、そんな事実を知ってライザックに背を向けた恋人の数も数えたくはない程にライザックもまた裏切られ続けてきたのだ。
「カズは……今までの者達とは違います」
「どうだかな。私も調べてはみたのだよ、お前があの子にご執心である事はミレニアに聞いていたからね。だけどどうにもおかしい、この世界にあの子を知る者は誰もいない。この国ではあの子の黒髪は珍しい、なのにどれだけ情報を募ってもあの子の情報は何も上がってはこない」
「カズはずいぶん遠くからこの国にやって来たのだと……」
「そうだね、何処の田舎者なのか知らないけれど、あの子には戸籍すらありはしない。戸籍がない、すなわちあの子はこの国の者ではないという事だ、そしてあの子はこの国に入国したという情報すらもありはしない。だったらあの子は一体何処から現れた? 考えられる事はふたつ、密入国してきた他国の者か、オーランド国では戸籍を作れなかった程に生活地盤のない者。どちらにしても胡散臭い事に変わりはない。まぁ、百歩譲って妾にくらいにならしてもいいと言っている私はかなり寛大な母親だと思うけれどね」
確かにその辺はライザックも調べて首を傾げたのだ。どれだけ調べてもカズのバックグラウンドは見えてこない、本人に聞いても要領を得ないし聞いてもまるで分らない単語を羅列され困惑する事も度々あった。
けれど、カズの生活態度を見ているとそこまで育ちも悪くは見えず荒んだ所も見受けられない。そこには何か深い事情があるのだろうと、ライザックは些細な事には目を瞑ったのだ。
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