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第二章:妊娠編
母親
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「母上、これは一体どういう事ですか!? 話によっては私はカズを連れて今すぐにでも家に帰らせていただきます!」
元々お披露目会の本番は日を挟んだ翌日だったので今晩は本家に宿泊の予定だった俺達には立派な客間が用意されていた。その部屋に案内され室内に身内以外がいなくなったタイミングでライザックがハロルド様に詰め寄り事の次第を問いただす。普段は温厚な彼がこんな風に声を荒げるのは珍しい。
「ライザック、私は常々お前に言い聞かせていたはずなのだけどね。あなたはこのオーランドルフの家を継ぐ者、そのお相手はロゼッタ以外にあり得ないだろう?」
「私はそのお話は何度もお断りをしているはずです!」
「何故そんなに頑なにロゼッタを拒むのか……あの子は素直でいい子じゃないか」
「そんな事は言われなくても分かっていますよ、ですが私はどう頑張ってもロゼッタを愛する事は出来ない!」
ライザックの言葉にハロルド様が意味ありげに瞳を細め「結婚に愛など必要ないのだよ、ライザック」と酷薄な笑みを浮かべるので、また俺はぞっとする。
申し訳ないけど俺駄目だわ、ライザックの母親だって事は分かってるけど生理的に受け付けない。この人得体が知れなくて気持ち悪い。
「確かにロゼッタは母親に似て逞しい体躯をしているが、灯りを消しさえすればそんなものは何も見えないし関係ない」
「関係ない訳ないでしょう!? 相手がロゼッタだと考えたら勃つモノも勃ちませんよ!」
いや、それはさすがに言い過ぎでは? ロゼッタさんはがっしりした体躯をしているけど、美形だしモテない訳じゃないと思う。でも俺もロゼッタさんを抱けるか? と問われたらたぶん無理って言いそうだから何も言えない。
なんであの人あの体躯で妻の側を選ぶかな? いや、でも人の性志向は他人がどうこう言う事じゃないし、そういう差別は良くないな。ライザックの叔父さんのような人もいる訳だし、きっとこの世界にはそういう需要だってあるのだろう。
「本来ならばロゼッタの花婿を決める為のお見合いパーティ、ふふ、それがお前の嫁の座を競って身分のある者達が争うなんて、こんな愉快な事はない」
「母上!?」
「お前にはそれだけの価値があるという事を何故お前自身が理解しないのか私には分からない。そんな何処の馬の骨とも知れない者を連れて来て嫁にするなど最初からあり得ないのだよ。妾なら幾らでも侍らせればいい、それも人の上に立つ者の甲斐性だ。けれど正妻の座だけは血統のしっかりした者でないとね」
「母上……」
途方に暮れたような表情のライザック、けれど何かを決意したようにハロルド様を見据えて「母上、こんな事は言いたくはないのですが、そんな結婚で一番辛い思いをしたのは母上自身ではないのですか?」と彼に問う。
「そもそも母上、私とカズが出会ったのは母上が私をけしかけ、あの占い師の元へと行かせたからです。私とカズが出会ったのは運命であり、その結末に導いたのは他ならぬ母上なのですよ!」
え? そうだったの? それ初耳なんだけど! いや、占い師の言うがままに行動して俺と出会った話は聞いてたし、そんな曖昧な根拠の元で俺を選ぶのどうかとは思ってたけど事の発端はこの人だったのか!
ハロルド様はそんなライザックの言葉を聞いて「お前は愚かだな」とそう言った。
「出会ったのがその馬の骨な時点で占い師がペテンである事などすぐに分かったであろうに、まだそんな事を言うのか? でもまぁ、きっかけをくれたという点ではあながち望みから外れている訳でもないがな」
? きっかけ? なんの? 望み?
「ふふ、ライバルがいた方が愛は激しく燃え上がる。ただ与えられたのでは人はすぐに目移りをするものだ、自分の力で手に入れた者だからこそロゼッタはお前をより大事に扱うようになる、そこの馬の骨は当て馬としては適役だ。妻には出来なくとも妾として侍らせておけばそれでいい」
うわぁ……本人目の前にして酷い言い草だな。この人俺のこと一人の人間扱いしてないんじゃん、俺はチェス盤の上の捨て駒のひとつなのか? まぁ、それで言ったらライザックも重要な駒という役割を与えられているだけで扱いは似たり寄ったりにも見えるけど。
「私はお前に私の二の舞になってほしくはないのだよ。これは母の愛だ。それがお前には分からないのかい?」
「こんなものの一体何処が愛だというのですか!? 母上が私を想って下さるのなら私の選んだ選択を否定するのはやめてください!」
「子が間違った選択するのを正すのも親の役目だよ」
「私は間違った事などしていない!」
う~ん、これは難しい問題だよな。結婚相手の選択が正しいか間違ってるかなんて実際問題目で見て分かるもんでもないからなぁ。自分をハズレだと言われる事には腹立つけど、オーランドルフ家の嫁という立場に立って俺で正解か? と問われたらたぶん俺は家に相応しい嫁ではないのだろうしな。
でも俺はオーランドルフ家と結婚する訳じゃない、俺はライザックと結婚するんだ。だけど世間一般はそんな見かたをきっとしてくれないのだろうな。
『人の良いご主人様に取り入って既成事実を作り、オーランドルフ家に潜り込んだ出自もよく分からない馬の骨。認知だけでは飽き足らず正妻の座を得ようとしている狡猾な元使用人……』
妊娠発覚と共にミレニアさんに言われた言葉、きっとこの言葉は間違っていない。それが世間一般の俺に対する見かたなのだろう。
「大丈夫だよライザック、ようは俺が負けなきゃいいんだろ?」
「カズ! お前は自分が今普通の状態ではないという事を分かっているのか!?」
「それはまぁ、だけど戦いを挑まれたのに尻尾巻いて逃げる訳にいかないだろう?」
俺って昔から結構負けず嫌いなんだよな。小さい頃から空手を習っていて、最近はからっきしだけど中学生の頃にはこれでも全国大会まで行った事もあるんだぞ。最近は趣味の範囲にとどめてるけど割と腕に自信はあるんだ。
どんな勝負がくるのか分からないけど体力だって普通にあるし、まぁ何とかなるんじゃね? なんて俺は簡単に考えていたんだけど、ダメだったかな?
元々お披露目会の本番は日を挟んだ翌日だったので今晩は本家に宿泊の予定だった俺達には立派な客間が用意されていた。その部屋に案内され室内に身内以外がいなくなったタイミングでライザックがハロルド様に詰め寄り事の次第を問いただす。普段は温厚な彼がこんな風に声を荒げるのは珍しい。
「ライザック、私は常々お前に言い聞かせていたはずなのだけどね。あなたはこのオーランドルフの家を継ぐ者、そのお相手はロゼッタ以外にあり得ないだろう?」
「私はそのお話は何度もお断りをしているはずです!」
「何故そんなに頑なにロゼッタを拒むのか……あの子は素直でいい子じゃないか」
「そんな事は言われなくても分かっていますよ、ですが私はどう頑張ってもロゼッタを愛する事は出来ない!」
ライザックの言葉にハロルド様が意味ありげに瞳を細め「結婚に愛など必要ないのだよ、ライザック」と酷薄な笑みを浮かべるので、また俺はぞっとする。
申し訳ないけど俺駄目だわ、ライザックの母親だって事は分かってるけど生理的に受け付けない。この人得体が知れなくて気持ち悪い。
「確かにロゼッタは母親に似て逞しい体躯をしているが、灯りを消しさえすればそんなものは何も見えないし関係ない」
「関係ない訳ないでしょう!? 相手がロゼッタだと考えたら勃つモノも勃ちませんよ!」
いや、それはさすがに言い過ぎでは? ロゼッタさんはがっしりした体躯をしているけど、美形だしモテない訳じゃないと思う。でも俺もロゼッタさんを抱けるか? と問われたらたぶん無理って言いそうだから何も言えない。
なんであの人あの体躯で妻の側を選ぶかな? いや、でも人の性志向は他人がどうこう言う事じゃないし、そういう差別は良くないな。ライザックの叔父さんのような人もいる訳だし、きっとこの世界にはそういう需要だってあるのだろう。
「本来ならばロゼッタの花婿を決める為のお見合いパーティ、ふふ、それがお前の嫁の座を競って身分のある者達が争うなんて、こんな愉快な事はない」
「母上!?」
「お前にはそれだけの価値があるという事を何故お前自身が理解しないのか私には分からない。そんな何処の馬の骨とも知れない者を連れて来て嫁にするなど最初からあり得ないのだよ。妾なら幾らでも侍らせればいい、それも人の上に立つ者の甲斐性だ。けれど正妻の座だけは血統のしっかりした者でないとね」
「母上……」
途方に暮れたような表情のライザック、けれど何かを決意したようにハロルド様を見据えて「母上、こんな事は言いたくはないのですが、そんな結婚で一番辛い思いをしたのは母上自身ではないのですか?」と彼に問う。
「そもそも母上、私とカズが出会ったのは母上が私をけしかけ、あの占い師の元へと行かせたからです。私とカズが出会ったのは運命であり、その結末に導いたのは他ならぬ母上なのですよ!」
え? そうだったの? それ初耳なんだけど! いや、占い師の言うがままに行動して俺と出会った話は聞いてたし、そんな曖昧な根拠の元で俺を選ぶのどうかとは思ってたけど事の発端はこの人だったのか!
ハロルド様はそんなライザックの言葉を聞いて「お前は愚かだな」とそう言った。
「出会ったのがその馬の骨な時点で占い師がペテンである事などすぐに分かったであろうに、まだそんな事を言うのか? でもまぁ、きっかけをくれたという点ではあながち望みから外れている訳でもないがな」
? きっかけ? なんの? 望み?
「ふふ、ライバルがいた方が愛は激しく燃え上がる。ただ与えられたのでは人はすぐに目移りをするものだ、自分の力で手に入れた者だからこそロゼッタはお前をより大事に扱うようになる、そこの馬の骨は当て馬としては適役だ。妻には出来なくとも妾として侍らせておけばそれでいい」
うわぁ……本人目の前にして酷い言い草だな。この人俺のこと一人の人間扱いしてないんじゃん、俺はチェス盤の上の捨て駒のひとつなのか? まぁ、それで言ったらライザックも重要な駒という役割を与えられているだけで扱いは似たり寄ったりにも見えるけど。
「私はお前に私の二の舞になってほしくはないのだよ。これは母の愛だ。それがお前には分からないのかい?」
「こんなものの一体何処が愛だというのですか!? 母上が私を想って下さるのなら私の選んだ選択を否定するのはやめてください!」
「子が間違った選択するのを正すのも親の役目だよ」
「私は間違った事などしていない!」
う~ん、これは難しい問題だよな。結婚相手の選択が正しいか間違ってるかなんて実際問題目で見て分かるもんでもないからなぁ。自分をハズレだと言われる事には腹立つけど、オーランドルフ家の嫁という立場に立って俺で正解か? と問われたらたぶん俺は家に相応しい嫁ではないのだろうしな。
でも俺はオーランドルフ家と結婚する訳じゃない、俺はライザックと結婚するんだ。だけど世間一般はそんな見かたをきっとしてくれないのだろうな。
『人の良いご主人様に取り入って既成事実を作り、オーランドルフ家に潜り込んだ出自もよく分からない馬の骨。認知だけでは飽き足らず正妻の座を得ようとしている狡猾な元使用人……』
妊娠発覚と共にミレニアさんに言われた言葉、きっとこの言葉は間違っていない。それが世間一般の俺に対する見かたなのだろう。
「大丈夫だよライザック、ようは俺が負けなきゃいいんだろ?」
「カズ! お前は自分が今普通の状態ではないという事を分かっているのか!?」
「それはまぁ、だけど戦いを挑まれたのに尻尾巻いて逃げる訳にいかないだろう?」
俺って昔から結構負けず嫌いなんだよな。小さい頃から空手を習っていて、最近はからっきしだけど中学生の頃にはこれでも全国大会まで行った事もあるんだぞ。最近は趣味の範囲にとどめてるけど割と腕に自信はあるんだ。
どんな勝負がくるのか分からないけど体力だって普通にあるし、まぁ何とかなるんじゃね? なんて俺は簡単に考えていたんだけど、ダメだったかな?
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