ある幸せな家庭ができるまで

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第一章:出会い編

迷子

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 やみくもに走って逃げたら道に迷った。ただでさえ、俺はまだこの街には慣れていないのに迷い込んだ小道は少し薄暗いし人気もなくて心細い。

「ここ何処だよ……」

 道を戻ろうと思っても既に自分が来た方向が分からなくて途方に暮れる、せめて誰か通りかかってくれれば……ときょろきょろと辺りを見回していると不意に誰かと目が合った。良かった人だ! と改めてもう一度ちゃんと顔を確認しようと目を凝らして、それが人ではない事に気が付いた。

「あ……」
「なんだ坊主、迷子か?」

 そこに居たのは大きな獣人、たなびくたてがみが立派な……これはライオン? 身体もずいぶん大きなそのライオンは腕を組んでこちらをちらりと見やるのだけれど、怖い。どうしよう……

「なんだ、喋れないのか? ん? 親は? いないのか?」

 大きなライオンが屈みこんで下から俺の顔を覗き込んだ。あれ? もしかして俺子供扱いされてる? 実はこのライオンそこまで怖くない?

「ライオネス、どうした?」
「ああ、どうも迷子らしい子供を見付けてな」

 次にそのライオンの後ろから現れたのは大きな熊、ライオネスと呼ばれたライオンが大きすぎて全く見えていなかったのだが、そんな2人に見下ろされると本気で小さな子供にでもなった気分だ。
 でも、それにしても熊だ、熊の違いが俺にはさっぱり分からないのだけれど、もしかしたらもしかする?

「ん~? この小僧何処かで見たような……」
「もしかしてベアード様ですか!?」

 俺の言葉に驚いた様子の2人が慌てたようにその大きな掌で俺の口を塞いだ。そして周りをきょろきょろと見回して声を潜め「お前なんでそれを……?」と俺に問う。あれ? 何だろう? 何かバレちゃいけない感じなのだろうか?

「えっと……先だってお会いしましたよね。ミレニアさんの婚約者の……えっと、バートラム様?」
「ああ! お前あの時の小僧! なんでお前がこんな所に!?」
「なんでと言われても、本気で普通に迷子なんですけど、大通りってどっちですか?」
「お前、ここに住んでるんじゃないのか? よそ者に道を尋ねるってのはどういう事だ?」
「俺、まだここに来たばかりで、この街には詳しくないんです」

 バートラム様の眉間にあからさまに不審気な皺が刻まれる、あ……いかん、うっかりするとミレニアさんの嘘がバレるかも。気を付けないと。

「お前、ミレニーとはいい仲なんだよな?」
「えっと、まぁそうですね」
「今日はミレニーはどうした?」
「お屋敷で普通に働いてますよ」

 「ほぉ」と一言呟いて、バートラム様が瞳を細める。

「ミレニーの黒くて可愛い子羊がわざわざ喰われにやってきたか」

 え……

「ライオネス、こいつを連れて行くぞ」
「な……正気か!? バートラム!?」

 ライオン顔のライオネスさんは困惑顔でバートラム様を見やるのだけど、それを気にする風でもないバートラム様はひょいと俺を担ぎ上げる。ちょっと待って、俺何処に連れてかれちゃうの!? 誰か助けて!!!

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