ある幸せな家庭ができるまで

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第一章:出会い編

拗れる感情

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「なぁ、ハインツ……本当にここ?」
「うん! 間違いない……と思うけど……」

 そこはクリスタの街の繁華街、そこには長蛇の列が伸びていて何故か皆きゃっきゃとその列に並んでいる。何だこれは? 列の先にはタピオカ屋でもあるのか?

「これ、並ばないと駄目な感じ?」

 俺達は噂の占い師に興味本位で会いに来た訳なのだけど、正直この列を見てしまうと特にこれといってその占い師に興味がある訳ではない俺はげんなりしてしまう。

「人気の占い師だとは聞いてたけど、まさかここまでとは……」

 ハインツもさすがにこれは予想外だったようで、列を眺めて逡巡している。まぁな、この人数だ、どれだけ待つかなんて分からないもんな。最悪並んでいるだけで一日が終わってしまう。

「悪いけど、俺はさすがにこれに並ぶ気にはなれないわ。ハインツはどうする?」
「ん~それでもせっかくここまで来たんだし、そのまま回れ右で帰るのもねぇ……待機列は長いけど、意外と流れは早いかもしれないし? 僕は並んでみようかな」

 果敢にもこの長蛇の列に挑んでみると言うハインツに物好きだなと思いながら、別行動を取る事となった俺達はその場で別れて俺はふらりと歩き出す。特別用事があって出てきた訳じゃないから行く宛もないのだけど、散歩がてら散策でもしてみるか。幸いここは繁華街で色々なお店も立ち並んでいる、ウインドウショッピングでもしていけばいいかと歩き出した俺の背に「カズ?」と少し戸惑ったような声がかかった。
 この街に知り合いなどほとんどいない俺が驚いて顔を上げると、そこにはライザックがやはり困惑顔で立っていて、なんでこの人ここに居るのだろう? と俺は首を傾げる。
 彼は今朝早く「少し所要が……」と家を出たのだ。騎士団の仕事は休みのようだったので完全にプライベートでの外出であったのだと思うのだが、こんな繁華街に一体何の用があったのだろう?

「カズはこんな所で何を?」

 いや、それはこっちの台詞。まさかこんな所で遭遇すると思ってなかったから、うまく言葉が出てこない。
 最近俺は少しライザックを避けていた。使用人として普通に働いてはいるものの、それ以上の接触は極力取らないように気を付けていたのだ。俺はたぶん今現在ライザックを好きになりかけている。自分の処女を捧げたからとか、そういうのも勿論あるのだろうけど、突然こんな見も知らぬ異世界に飛ばされて途方に暮れていた俺に優しくしてくれたライザックは俺にとっては神様みたいな存在で、だけど身近で接していればその身分差は歴然で、これ以上好きになってはいけない人なのだと思い知らされる。少しだけあたりの柔らかくなったミレニアさんにも釘を刺されてしまっているし、もうこれ以上彼に深く関わるべきではないと俺は俯いた。

「カズ、どうした? 気分でも悪いのか?」
「いいえ、旦那様こそなんでここに?」
「ちょっとした野暮用だったのだが……」

 咄嗟に声をかけてしまったのだろうが何となく気まずい雰囲気を察したのだろう、ライザックも言葉を濁す。

「俺も同じですよ、それじゃ……」
「待てカズ! もし……良かったら少し一緒に歩かないか?」
「え……でも、何か用事があるんじゃ?」
「私の用事はもう済んだ。あぁ、もしかしてカズは今から何処かに行く予定なのか?」
「いえ、それは無いですけど……」

 あぁ、思わず素直に答えちゃったけど用事がある事にしとけば良かった。思わず口籠った俺に「そんなに私と2人きりは嫌かい?」とライザックは俺の瞳を覗き込む。

「そういう訳じゃ……!」
 
 思わず大きな声で否定しかけて、はっと気付いてまた瞳を伏せた。小さな声で「……ないです」と続けるとライザックは少し困ったような表情で苦笑した。
 おかしいな、なんだか距離感が掴めない。出会った当初は普通に話せていたはずなのに、どう接していいのか分からない。

「困ったね、私はカズの物怖じしない所が好きだったのだけどな」
「そんな事言われても……」

 俺だって普通に話せるなら話したい、だけどこのまま仲良くなったら絶対好きになってしまう。俺の恋愛対象は女の子のはずだったのに、この世界に女の子はいないから俺の価値観も狂ってしまったのだろうか?

「私にとってカズは運命の相手なのだけどな」
「なんですか、それ? 思わせぶりな事言うの止めてくださいよ、本気にしますよ?」
「すればいいだろう?」

 さらりとライザックが言った言葉にかちんときた。最初に彼と俺とは主人と使用人なのだと釘を刺したのは彼自身なのに、なんでそんな事を平気で言うのだろうか? 安易に拾って優しくして、訳の分かっていない俺を懐柔するのはさぞかし簡単だっただろう、なのにこれ以上に深い関係にはなれないと線を引いておきながら、口説くような事を言うのは何故なんだ?
 最初は体の関係から始まった俺達だ、だけど俺はお前のセフレになった覚えはない! そしてそれも仕事の内だと割り切れるほどに俺は大人なんかじゃない。

「俺はあんたが大嫌いだ!」
「!?」
「色々と世話になった事には感謝してる、だけど俺はおもちゃじゃない!」

 言うだけ言って逃げ出した。優しい人だと思っていたのに、そうじゃなかった事が悲しくて仕方がなかった。

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