ある幸せな家庭ができるまで

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第一章:出会い編

もふもふ

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 「少しだけ考えさせてくれ」と言い残し、バートラム様は屋敷を後にした。しばらくはここクリスタで宿を取っているとの事でまた訪ねてくる可能性はあるのだろうが、俺はひとまずほっと胸を撫でおろす。
 下手に喧嘩を売られなくて良かったよ……熊相手じゃ到底勝ち目はないだろうしな。

「巻き込んで悪かったね」
「あ……いえ」

 挨拶してもろくろく返事も返してくれなかったミレニアさんが頭を下げる。

「黙っていてくれて助かった」

 そこはそれ、空気を読む事に関しては定評のある日本人ですから! 困っているのを分かっていてわざわざ場の空気を荒らすような事はしませんけど、こんなのは一時しのぎにしかならないとは思うのだよな……

「でもあんな嘘吐いちゃって、ミレニアさん大丈夫なんですか?」
「なぁに、あいつはプライドの高い奴だ、家庭に入るようなたまじゃない。ああ言っておけば私の事もじきに諦めるさ。それにしても君は私の心配をしてくれるのか? 私は君にはきつくあたってばかりだったと思うのだが……」
「あぁ、別にあれくらいどうという事ないですよ、暴力ふるわれたりした訳じゃないんで」
「ふむ、そうか……私はバートラムが暴れ出したら君を差し出す気満々だったのだけれどな。ハインツが怪我でもしたら仕事に支障が出るから君の方を選んだ、と言ったら?」
「えぇ……」

 ちょっとそんな気もしてたけど、さらっと言われるとどう返していいか分からない。

「はは、冗談だ冗談。君には何か礼をしなければいけないな」
「いえ、俺はただ黙ってただけで何もしてませんし」
「私がこんな風に君に優しいのは今だけかもしれないぞ?」

 そこは、これから仲良くしてくれたらいいのにぶれないのか……あくまで俺はこの家には不要の人間というスタンスは変わらないんだな。別にいいけど。

「だったら一度でいいんで、その尻尾もふらせてください! 一度触ってみたかったんですよ、その尻尾!」
「は?」
「ちょ……カズ!?」

 相変わらずミレニアさんの狐色の尻尾はもふりとボリュームがあって、ホント堪らなく魅力的なんだよ。すりすりしたい欲求に俺はとても忠実だ。だけど俺のその言葉にミレニアさんは困惑顔だし、何故かハインツまでもが何か言いたげにこちらを見やる。

「触ってみたいだけか?」
「? 他に何か意味が?」

 ミレニアさんが前に回した自身の尻尾を撫でる。あぁ、やっぱり気持ち良さそう。

「少しだけだぞ?」
「ありがとうございます!」

 俺は喜び勇んでミレニアさんの尻尾に飛びついた。うわぁ、やっぱりふわふわのもふもふだぁぁぁ。ボリュームがあるから尻尾の中身も太いのかと思いきや、毛がもっふりしているだけで中身はそれほどでもないんだな。あぁ、でもこの毛並み、ホント堪らん……

「か……カズ、もういいだろう?」
「あともう少しだけ……」

 撫でるだけに飽き足らず、尻尾に頬を摺り寄せた俺にミレニアさんは少し顔を赤らめて完全に困惑顔なのだけど、だって本当に気持ちがいいんだから仕方がない。あぁ、家で飼ってたわんこを思い出す。俺に滅茶苦茶懐いている可愛いやつだったのに、もう会えないのは寂しい限りだ。

「カズは何をやっている?」
「!? ご、ご主人様!?」

 ミレニアさんの尻尾が俺の顔を叩いて逃げて行った。あぁ! 俺のもふもふ!
 だけどそんな事を思ったのは一瞬で、顔を上げたらそこにはやたらとにこやかなライザックが立っていた。いや、ライザックはいつもにこやかなんだけどな? だけど、なんかいつもと雰囲気が……
 ミレニアさんが顔を引きつらせ、ハインツが視線を彷徨わせている。あれ? 俺、何かしちゃったかな?

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