ある幸せな家庭ができるまで

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第一章:出会い編

プロローグ③

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 数日後、俺はようやく宿屋の外に出られた。あぁ、世界が変わって見えるようだよ……って、違うじゃん! もうここ明らかに俺の知ってる世界じゃねぇぇぇぇ!!!
 
「カズ、大丈夫か?」

 傍らの大男、ライザックが俺の顔を覗き込む。なんか薄々感づいてたけど日の日差しの中で見るライザックは無駄にイケメンだ。道行く人の中でも際立って格好いい、それは着ている服のせいもあるのかもしれないけれど、ぴしっとした制服はこのオーランド国の騎士団員の制服なのだと聞いた。

「何となく分かってたけど、俺の住んでた世界と全然違う……」

 宿屋の中はな、まぁ普通のホテルだった。出入りする宿のスタッフも普通の人達だったし、服が少しだけファンタジーっぽいなとは思ったけど、まぁ普通だった。だけど違う、宿屋の外、人ももちろん歩いているが、何故だかそこには獣面の動物みたいなのも二足歩行で服着て歩いてる。これはもう確実に俺の生きてた世界じゃない。
 もしかしたら、どこか外国にいるのかもなんて思っていた俺の希望は儚く消える、外国レベルじゃねぇ、これ完全に異世界だ……

「何がそんなに違う?」
「そもそも俺の世界に獣人はいない。そんでもって、この世界なんで女がいないのさ!?」

 そう、道行く人達は右を見ても左を見ても全員男、なんならカップルっぽいのも見かけるのだが、それももれなく全員見た目は男で俺は意味が分からない。

「おんな……とは?」
「子供産む人だよっ! 母親だよっ! あんただって樹の股から生まれてきた訳じゃないだろう!? 一体ここどういう世界なんだよっ!!」
「子なら誰でも産めるだろう……?」
「は……?」

 誰でも産めるって何? 言ってる意味が分からないんだけど?

「いや、だからな、相手を見付けて結婚したら、産みたいと思った方が産めばいい話だろう?」
「産みたいって思った方……?」
「あぁ、そうだ。私はどちらかと言えば産むより産んで欲しい方だから結婚相手は産みたいと思うような性質の者を好むが、それ以外に何がある?」
「……ライザックも……産めるのか?」

 「それは勿論」と頷かれて、カルチャーショックで声も出ない。こんなに筋骨隆々とした男が妊娠とか、どうなの? それどうなんだ!? そして、この世界には女は一人もいないって事か……嘘だろっ!?

「カズの暮らしていた土地では違っているのか?」
「全然違うよっ! 人には男と女って性別があって、子供は女が産むもんだっ! そんでもって俺は男だっ!!」

 ライザックが男である俺をなんの躊躇もなく抱けたのは、そういう世界だからこそか。そして、ワームはそんな人の中に寄生して繁殖するとそういう事か……
 「よく分からないな……」と首を傾げるライザック、だけどそれを言いたいのは俺の方だっ! 

「それで、これからカズはどうするんだ?」
「どうするもこうするも……どうしよう……」

 俺は途方に暮れて項垂れた。こんな訳の分からない土地で一人きり、どうやって生きていっていいのかも分からない。

「もしカズが良ければうちに来るか……?」
「え?」
「ちょうどメイドが一人辞めて人手が不足している、扱いは使用人だが、それでも良ければ……」
「行く!」

 俺は即決で片手を上げた。こんな訳の分からない世界で右も左も分からないのにこのまま放り出されてはどうやって生きていっていいのか分からない。俺の命を助ける為とはいえ、俺の貞操をくれてやったのだから、少しくらいライザックの世話になったってきっと罰は当たらないはずだ。

「仕事は大変かもしれないが……」
「大変じゃない仕事なんてないだろう? 路頭に迷う所だったから助かる!」

 俺の言葉にライザックは少しだけ笑みを見せて「そうか」と頷いた。

「では、ここからは私とお前は主人と従者という事になるが、大丈夫か?」
「うん! いや、はいっ! か。えっと……ライザック様って呼んだ方がいい?」
「う~ん、それなら旦那様の方がいいな」

 ライザックの言葉に頷いて、俺は頭の中で『旦那様』を反芻する。

「では、行こうか」
「はい、旦那様っ!」

 こうして俺の異世界生活は幕を開ける。ここから俺の波乱万丈な生活が始まるのだけど、その時の俺はそれを知る由もない。
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