刃のまにまに

矢の字

文字の大きさ
上 下
15 / 19

新しい仕事の依頼

しおりを挟む
 日本人形のような少女は俺達に『強欲』を祓ってくれとそう言った。

「ミコちゃん、酷い! いくらおじいちゃんの事嫌いだからって、お掃除屋さんに追い払えはないんじゃない!? お掃除屋さんだって、そんなの迷惑だよね!?」
『真凛はちと騒々しい……』
「あ、今、うるさいって言った! うるさいって言ったでしょ!」

 真凛と呼ばれる少女の耳には座敷童の言葉が現代風に自動翻訳でもされているのだろうか? だとしたらめちゃくちゃ便利だな!

『我は何も無闇に追い払えとは言っておらん。奴に憑いてるモノを祓って欲しいだけじゃ』
「おじいちゃんに付いてる……? え? なに、虫?」

 相変らず真凛はとんちんかんだけど、意外とこれでいて会話が成立してるの面白い。

『あ奴等がこの屋敷にちょっかいをかけてこなければ、我が悪戯をする必要はなくなる、結果的にお主らの受けた依頼達成の近道になるはずだがの』
「あはは、これは参りましたね」

 御堂は苦笑して「そういうのは今回に関しては業務外なんですけど」と少し困り顔だ。

「俺は『強欲』がなんなのかは分からないけど『祓い』って意味じゃ同じなんじゃないのか?」
「僕達が今回受けている依頼は建物なんかに憑いてるモノの祓い。出来ない訳じゃないけど、人に憑いてるモノを祓うのはそれ相応の準備がいるんだ。やってくれ、はい分かりましたって簡単に出来るものじゃないんだよ」
「お、そうなんだ? 同じようなもんだと思うのに、何が違うんだ?」
「そもそも何か憑いているから祓って欲しいって赴いて来た人を祓うのと、何か憑いてますから祓いますねってこっちから声をかけるのでは根本的な所が全然違う。今回は後者だけど、その場合対象者は大きなお世話、気味が悪いと思う人がほとんどで祓いに協力なんてしてくれない。だから僕達はよっぽどそういう依頼は受けないんだよ」

 あ~なるほど。確かに神社に厄払いに来た人を祓うのは本人が望んでいるんだからどうという事もないけれど、突然目の前に現れた見知らぬ人物に「あなた憑かれてますから祓いますね」なんて言われたら怪しい新興宗教を疑うし、俺だったら逃げるわ。

「それに御堂君はどちらかというと問答無用で祓う方が得意で、そういう繊細な祓いはまだ不得意だものね。御堂君がやったら守護霊まで纏めて祓っちゃいそう」

 凜々花さんが苦笑するように言った言葉に御堂は苦虫を噛み潰したような表情だ。図星なのか御堂、お前大雑把すぎんだろ。いや、何もできない俺にだけは言われたくないかもだけど。

「いいわ、今回は私がやる」

 そう言って凜々花さんはにこりと笑みを見せたのだが、それに何故か少しだけ雄二さんが嫌そうな表情を見せた。

「雄二さん、どうかしました?」
「いや、これも仕事の内だからな……」

 明らかに雄二さんは不機嫌そうな表情ではあるのだが、諦めたように溜息を吐く。そんな雄二さんに凜々花さんは「浮気じゃないんだから許してよ」と苦笑して彼に抱きついた。

「分かっていても嫌なものは嫌なんだ」

 あ、なんかいちゃつきだした。相変らずラブラブだなこの夫婦。それにしてもなんでここで『浮気』なんて単語が出てきたのだろうか? これはあくまで仕事の話だよな?

「さぁ、そうと決まったら行きましょうか」

 にこやかな笑みの凜々花さんと対照的にやはり雄二さんの顔色は優れない。あ、これもしかして今、凜々花さんにがっつり持ってかれたな……?
 俺みたいに動けなくなる事はないみたいだけど、その仕事は雄二さんの中に蓄えた力を欲する程度には大変な仕事だという事なのだろう。
 凜々花さんが先頭に立って蔵を出て行こうとすると「お掃除屋さん、ホントにおじいちゃん追い出す気なの!?」と真凛が慌てたように付いて来た。

「君はここでミコちゃん? と一緒に待っててもらえると有難いんだけど」

 御堂の言葉に真凛は「なんでよ!」と食ってかかる。

「おじいちゃんはひいばあちゃんを心配してるだけなのに、追い出すとかどうかしてる!」
「どうやらミコちゃんはそう思ってないみたいなんだから仕方ないな。これは大人の事情ってやつで子供が口を出せる話じゃない」

 俺の言った言葉に「あんただってミコちゃんだって私とそんなに歳変わんないでしょ!」と今度はこちらに食いついてきた。
 まぁ、確かに真凛と俺は歳が近そうだけど『ミコちゃん』はひいばあちゃんより年上だぞ……と、言った所でたぶん真凛は信じないんだろうけど。

「ちなみに君の年齢を聞いても?」
「14歳、中学二年生!」
「え……化粧濃すぎねぇ? 逆に老けて見えるんだけど」
「は!? 言うに事欠いて老けてるってなによ! そこは大人っぽいって言うんだよ!」

 いや、でもあんまりにも化粧も髪も盛り過ぎてて中学生に見えねぇよ! 同じくらいの歳かと思いきや全然ガキじゃないか。座敷童が子供だと言っていたが間違いなく真凛は子供だ。

「そういう事は自分で金稼げるようになってから言えよ。親からこづかい貰ってる身分で大人っぽいとか言われてもなぁ」

 俺の返答に真凛はキッとこちらを睨み付けたが別段何も怖くはない。大人ぶりたい年頃ではあるのだろうけど、そもそも方向性間違ってる気もするし。

「あんたさっきから失礼ね! あんただってどうせそんなに変わんないんでしょ! 頭に変なぬいぐるみ乗っけて、子供なのはどっちよ!」

 お、この娘、コン太の事も見えるのか。意外とそこそこ視えるタチの子なんだな。それでいてこの家に違和感もってないのはある意味強者だと俺は思う。

『ぬいぐるみとは、ずいぶん失礼な小娘だのう』
「あ、こら」

 コン太が俺の頭から飛び降りて真凛の前に降り立つと、その身体がぶわりと膨れ上がった。

『我は霊験あらたかな妖狐の末裔、愚弄するな』
「え、え、ナニコレっ、手品!? カッコいい!!」
「お前……」

 俺が呆れたようにコン太を見やるとコン太もこちらに流し目をくれるようにして、ふふんと鼻で笑った。
 ずいぶん物々しく現れてくれたものだが、中身がアレなのが分かってるこちらとしては、こうやってこいつは人を欺くのか……と苦笑が漏れる。
 真凛は真凛で急に目の前に現れた妖に警戒心ゼロで感嘆の声をあげているし、コン太はそれに満足気な表情で、なんだこの茶番……と俺は脱力した。

「まぁ、もう何でもいいや、行こう。お前はここでその子と留守番な」
『!? な、待っ……』
「あとは任せた」

 問答無用で俺が言い切ると、真凛がコン太のもふりとした尻尾に抱きつき満足気な表情だ。まぁ、これは彼女の前でその姿になったお前の自業自得だし、せいぜい子守り頑張れよ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

恋ってウソだろ?!

chatetlune
BL
いくらハロウインの夜だからってあり得ないだろ! この俺が酔って誰かと一夜を、しかも男となんて!―数年前元妻に去られて以来、三十路バツイチの佐々木は、広告業界でクリエイターを生業にしているが、撮影されるモデルなどはだしで逃げ出すほどの美貌の持ち主ながら、いたって呑気な性分だ。ところがハロウィンの夜たまたま一人で飲んだのが悪かった、翌朝、ホテルの部屋で男の腕の中で目が覚めて佐々木は固まった。あり得ないだろうと逃げ出したのだが、なんとオフィスに顔もうろ覚えのその男から電話が入り、忘れ物を預かっているという男と再び会うことに。しらふで再会した男はうろ覚えの佐々木の記憶よりもがっしりと大きくかなりハイレベルなイケメンだった。男はトモは名乗り、お互い癒されるのなら、いいじゃないですか、ゲームだと思えば、という。佐々木には抗いようのない波にのまれようとしている自分の姿が見えていた。その先に何が待ち受けているのかもわからない。怖いけれど、溺れてしまいたい自分を佐々木はどうすることもできなかった。だがある日唐突に、二人のゲームは終わることになる。

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

凶悪犯がお気に入り刑事を逆に捕まえて、ふわとろま●こになるまで調教する話

ハヤイもち
BL
連続殺人鬼「赤い道化師」が自分の事件を担当する刑事「桐井」に一目惚れして、 監禁して調教していく話になります。 攻め:赤い道化師(連続殺人鬼)19歳。180センチくらい。美形。プライドが高い。サイコパス。 人を楽しませるのが好き。 受け:刑事:名前 桐井 30過ぎから半ば。170ちょいくらい。仕事一筋で妻に逃げられ、酒におぼれている。顔は普通。目つきは鋭い。 ※●人描写ありますので、苦手な方は閲覧注意になります。 タイトルで嫌な予感した方はブラウザバック。 ※無理やり描写あります。 ※読了後の苦情などは一切受け付けません。ご自衛ください。

【R18】父と息子のイケナイ関係

如月 永
BL
<あらすじ> 父:「息子を好きすぎて辛い。いつか私から離れてしまうのなんて耐えられない。だから……一生愛して支配したい」 息子:「僕がドMで変態なんて父さん知ったら嫌われちゃうよね。でも僕は母さんにしてたみたいにドSな父さんに虐めて欲しい」 父子家庭で仲良く暮らす二人は、実は長年両片思いだった。 拗らせ過ぎた愛情はやっと成就し、ご主人様と奴隷の生活が始まった。 <説明&注意点> 父×息子。近親相姦。ストーリー性0。エロ中心。ソフトSM傾向。 設定も深くありませんので、血の繋がりもそれほど気にせずとも読めるかも。 素人作品のため、作者の気分次第で視点が急に変わったり、文体が変わる傾向があります。特にエロ文章を試行錯誤中。 誤字脱字、話中の矛盾、変態プレイなど気になら方はどうぞ頭からっぽにして読んでください。 <キャラクター覚書> ●父:御主人様。40代。Sっ気あり。年齢に見合わず絶倫。妻(母)を亡くしてから息子が生きがい。歪んだ愛が蓄積し、息子を奴隷とする。 息子を育てるために、在宅で出来る仕事をし、家事全般にも優秀。 ●息子:大学生。20代。快感に弱く流されやすい。父限定で淫乱ビッチ奴隷。物心がついた頃からドMだと自覚あり。母似で、幼少は女の子とからかわれるのが嫌で、今は適度に身体を鍛えて身長も高い。通常時は父を「オヤジ」、自分を「俺」と呼ぶが、えっちな状況や気分になると「父さん」「僕」と無意識に呼び方が変わる。 ●母(故人):作中にはほぼ出ませんが、息子が小学生の頃、病気で亡くなる。父とは性癖が合い長年のセフレを経て妻になる。息子にとっては母。

周りにαが多すぎる

小雪 秋桜
BL
神嵜 守は、名門財閥神嵜一家の三男として生まれた。 α同士の両親から生まれ、家族はもちろん自分の幼馴染みもαであり、当たり前のようにαであると思っていた。 しかし、診断書がくるとΩであるということが分かり…… 少しだけ恋愛要素のあるギャグを書いていきたいと思っております。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

処理中です...