刃のまにまに

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蔵の主

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 蔵の中は暗い。完全に閉じられている窓も開け放すと、室内には明かりがさし、淀んだ空気が外へ出て行く。
 窓には鉄格子が嵌っていて、窓ガラスのない時代、防犯面でこれは当たり前の造りなのだろうが、何故だか少し閉じ込められているような気持ちになった。
 室内に置かれた木箱や段ボール、その上にはずいぶん埃が積もっていて、長いことこの蔵が放置されていたのは一目瞭然だ。
 そんなにたくさんある訳ではない窓を次々開け放っていくと、部屋の隅を黒い影が逃げ回る。こういう湿ってかび臭い感じの場所って絶対いるよなこういうの。
 俺一人だったら絶対こんな場所近寄らないけど、今日は祓いのプロが三人もいるから怖くない。そもそも、こいつ等も暗がりを好んでいるだけでそこまで強力な力を持ったモノではなさそうだな、とホッとした時にまた視線を感じた。それはこの屋敷に入った時から感じているあのざわざわとした視線だ。
 蔵を入ってすぐの場所は土間のような形になっていて、そこは完全に物置になっていたのだが、土間の奥に部屋でもあるのか一段上がったその場所は襖が閉まっている。その襖の向こう側、そこから視線を感じる。
 襖が閉じているのに視線を感じるなんておかしな話だが、それでも感じるモノは感じるのだ。
 俺が襖には近付かないようにしながら、さりげなく御堂の傍に寄っていったら、嬉しそうな御堂に肩を抱かれて額に口付けられた。と、同時に俺の身体からはごっそり力が抜けて、またしても俺は軽い貧血状態だ。

「そういうやり方すんなっ!」
「だってさあやが可愛くて♡」

 俺が怒鳴ると悪びれた様子もない御堂は俺を解放し襖の方へと足を向ける。あぁ、やべぇ目が回る。遠慮もなくがっつり持っていきやがって!

「優君って今まで普通に暮らしていたはずなのに、やっぱり分かるのね。さすが小夜原の血筋ね」

 俺が襖の奥を気にしているのが分かったのだろう、凜々花さんが苦笑するようにそう言うと誰もいないはずのその蔵の奥で何かが動く気配がした。
 古い日本家屋ではよくある事だが、木の軋むような音がする。
 凜々花さんの傍に居た雄二さんがへたり込みそうな俺の肩を支えて俺を襖から隠すように前に立つ。

「優君は大丈夫だから、御堂君お願いね」
「別に凜々花がやってくれてもいいんだよ?」
「何言ってんの、優君に格好いいとこ見せるチャンスじゃない、それに仕事なんだから文句言わないの!」

 御堂は一族の跡取りらしいけど、凜々花さんは御堂に容赦がない。たぶん子供の頃からの付き合いなんだろうな。俺にはそういう親戚も家族もないから羨ましいよ。
 御堂が閉じ切った襖の引き手に手をかける。凜々花さんは御堂と俺達の間に立って、たぶん何かあっても俺達を守ってくれようとしているのだと思う。
 そして雄二さんもさりげなく俺の前に立って壁になってくれてる。雄二さんは鞘の人だから凜々花さんほどの退魔の力はないはずだ、それでも俺よりは頼りになる凜々花さんのパートナーなんだ。俺だけ何の役にも立たない役立たずみたいで情けないな。
 襖は建付けが悪くなっているのだろう、少し軋みながら少しずつ開いていく、そしてその奥から現れたのはまるで何かを閉じ込めているかのような木の格子……

「これって……」
「まぁ、いわゆる座敷牢ってやつね」

 襖の向こう側、手前は6畳程の和室、そしてその向こう側に格子が立ち、その向こうにもう一室部屋がある。そこには埃を被っているが豪華な調度品が並び、その格子さえなければ貴賓室のようにも見える誂えに違和感が半端ない。
 その部屋の奥には窓などない、なのに何故かぶわっと生温い一陣の風が吹き抜ける。その風を御堂は具現化した刀で横一線切り裂いた。

「ここに居たのですね」
『我はここより動けぬ故になぁ』

 御堂の声かけに返事があった。その声は高くまるで子供の声だが、その喋り口調は到底子供のものとは思えない。

「あなたは何故ここに……?」
『お前も気付いておろう、我はこの豪華な牢獄に封じられておるのじゃよ』
「あなた程の力の持ち主ならば子供だましのようなものでしょう? しかも既に封印は解かれている」

 ちらりと垣間見える木でできた牢獄、その格子には至る所に札のような物が張られていて物々しい。けれどそのほとんどが既に字も掠れ、一部破損している。

『ふふふ、バレたか。お主は我を祓うのか?』

 部屋の奥、暗がりから小さな影が歩み出てきた。それは正真正銘小さな女の子、着物を纏い背中を流れる黒髪は絹糸ででも出来ているかのような日本人形によく似た少女がそこに立っていた。

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