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隠し事
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大きなお屋敷、広い庭園、俺はその庭を駆けている。あぁ、これは夢だと思うのに、俺は駆けるのを止められない。というか、視点がおかしい、何故か俺は幼い自分自身を俯瞰するように駆けて行く幼い自分を眺めている。
『パパ、ママ! ここのお庭、すっごく広いんだよっ。僕、端から端まで走るだけで疲れちゃった!』
幼い俺が抱きついた人影、それは写真の中でしか見た事のない俺の両親。これは俺の無くした記憶の一部か?
『優斗、少しは大人しくしてなさい』
『はは、こんなに広い庭あまりないものなぁ』
母が困ったように俺を咎め、父は気にするなと俺を抱き上げる。優しい優しい両親の笑み。これは記憶? それとも俺の願望? こんな思い出は今まで俺の中には残されていなかった。
俺の幼い記憶は白い天井から始まる、交通事故で両親が亡くなった時の病院での記憶だ。それ以前の記憶などもう戻る事はないと思っていたのに……
『……や! さあや、起きろぉぉ~!!』
「ぐほっ!」
ドスンと何かが腹の上にふってくる衝撃で俺は目覚めた。まだもう少し微睡んでいたかった俺の意識は瞬時に覚醒する。
「っ前、起こすんなら、もう少し丁寧に起こしやがれっ!!」
『何回も声はかけたんだぞ! でも起きなかったんだぞ!』
俺の腹の上に乗っかったコン太はぺしぺしとその肉球で俺の胸を叩き『お腹すいた~』と叫ぶ。
「御堂がいるだろ、御堂にもらえよ」
部屋には朝食の美味しそうな匂いが漂って来ている、たぶん御堂が既に起きて台所で朝食の準備を整えているのだろう。
『御堂が無条件においらにご飯くれる訳ないじゃん、起こして来いって言われたんだぞ、だからさあやはとっとと起きるんだぞ!』
騒々しい子狐はそう言って身軽に俺の胸から飛び降りて、先導するように尻尾を振り振り、早く来いと俺を誘う。
久しぶりの両親の夢、もう少し堪能しておきたかったんだけどな……
俺は寝床から這い出して、トントンと階段を降りていく。マンションなのに何故階段? と思われるかもしれないのだが、このマンションはいわゆるメゾネットタイプと言われるもので、マンションの中に戸建ての家が入っているような作りになっている。俺の寝床は最上階のロフト部分、御堂はリビング脇の部屋を一室、俺にくれようとしていたのだが、まるで秘密基地のようなロフトを俺が気に入ってしまい、ここがいいと駄々をこねてゲットした俺だけの居住空間だ。
普段御堂はロフトに上がってくる事がないので、そこは俺の完全なるプライベート空間、俺はこの寝床をとても気に入っている。
「さあや、おはよう」
「はよ、ふあぁぁ」
「今日の仕事、凜々花達と一緒だから時間厳守なんだ、朝早くてごめんね」
「あぁ、そうなんだ」
仕事の依頼は基本御堂がどこからか持ってくる。どうやらどこかに退魔師達の本部があってそこで振り分けられた仕事を割り当てられるらしいのだが、俺は未だその仕組みがよく分かっていない。
「なぁ、お前の親族って皆退魔師やってんの? もしかして退魔師って家族経営?」
「え? はは、そんな事ないよ。この仕事は向き不向きがあるから、やらない人は絶対やらないし、確かにそんな生業が身近にある分人数は多いけど、全員って訳じゃない」
「ふぅん、そっか」
「さあやの家も小夜原の家系だけど、君のお父さんは普通のサラリーマンだっただろ?」
突然父親の話を振られて俺は驚く、俺、そんなこと知らねぇんだけど……
「御堂は俺の父親の事を知ってるのか?」
「え? あれ? 聞いてない……?」
「お前は俺が施設育ちなのも、チビの頃の記憶がないのも知ってんだろう」
「そうだけど、てっきり叔父さんから聞いてるものとばかり……」
叔父は俺を施設へと放り込んだ張本人だ。母の弟で俺を施設に放り込んでから連絡は一切なく、現在どこにいるかも分からない。
近いはずだが遠い人、そんなに悪く扱われた記憶はないのだが両親が死んだ頃の俺の記憶は曖昧で、気付けば施設に預けられてたから叔父の事はほとんど覚えてないんだよなぁ……
「叔父さんなんてもう顔も名前も思い出せないわ、今は何処で何してんだろうな」
「さあやと叔父さんってそんな感じなの? どうりでうちの家人がさあやを見付けだすのに手間どった訳だよ」
「あ? どういう意味?」
「君の叔父さん、逃げ回るみたいにあちこち転々としていて所在が掴めなかったんだよ、見付けだしてもすぐに姿を消してしまって、だけど君の後見人は叔父さんのまま、二人は一緒にいるものとばかり思って僕らは君達を何年も探してたんだよ」
へぇ、そんな話、初耳だ。
「君の母親は本当に普通の家の人だったみたいだし、弟さんも当然そうだろうし、弟さん、もしかして御堂から逃げ回ってたのかな……」
「え……それ――」
瞬間険しい表情を見せた御堂、俺がどういう事かと問おうとした瞬間、御堂はパンっ! と柏手を打って「この話、ここで終了! 早く朝ごはん食べよう、遅刻すると凜々花がうるさいからね」と、笑みを見せた。
「え、待て、お前誤魔化し方が雑すぎんだろっ! 今ぜってー何か重要な話だっただろ!」
「そんな事ないよ、あはは。ほらコン太もお食べ」
『やったぁぁぁ!』
よだれを垂らすようにして食事を待っていたコン太が飯に飛びつく、急に賑やかになった食卓で、それ以上の追及はするなと言わんばかりの御堂の言動に俺は不本意ながら黙りこむ。叔父さんなんて今となっては赤の他人より遠い存在だから別にいいけど、御堂のそのあからさまに何かを隠していますって態度がなんだか少し心に引っかかった。
『パパ、ママ! ここのお庭、すっごく広いんだよっ。僕、端から端まで走るだけで疲れちゃった!』
幼い俺が抱きついた人影、それは写真の中でしか見た事のない俺の両親。これは俺の無くした記憶の一部か?
『優斗、少しは大人しくしてなさい』
『はは、こんなに広い庭あまりないものなぁ』
母が困ったように俺を咎め、父は気にするなと俺を抱き上げる。優しい優しい両親の笑み。これは記憶? それとも俺の願望? こんな思い出は今まで俺の中には残されていなかった。
俺の幼い記憶は白い天井から始まる、交通事故で両親が亡くなった時の病院での記憶だ。それ以前の記憶などもう戻る事はないと思っていたのに……
『……や! さあや、起きろぉぉ~!!』
「ぐほっ!」
ドスンと何かが腹の上にふってくる衝撃で俺は目覚めた。まだもう少し微睡んでいたかった俺の意識は瞬時に覚醒する。
「っ前、起こすんなら、もう少し丁寧に起こしやがれっ!!」
『何回も声はかけたんだぞ! でも起きなかったんだぞ!』
俺の腹の上に乗っかったコン太はぺしぺしとその肉球で俺の胸を叩き『お腹すいた~』と叫ぶ。
「御堂がいるだろ、御堂にもらえよ」
部屋には朝食の美味しそうな匂いが漂って来ている、たぶん御堂が既に起きて台所で朝食の準備を整えているのだろう。
『御堂が無条件においらにご飯くれる訳ないじゃん、起こして来いって言われたんだぞ、だからさあやはとっとと起きるんだぞ!』
騒々しい子狐はそう言って身軽に俺の胸から飛び降りて、先導するように尻尾を振り振り、早く来いと俺を誘う。
久しぶりの両親の夢、もう少し堪能しておきたかったんだけどな……
俺は寝床から這い出して、トントンと階段を降りていく。マンションなのに何故階段? と思われるかもしれないのだが、このマンションはいわゆるメゾネットタイプと言われるもので、マンションの中に戸建ての家が入っているような作りになっている。俺の寝床は最上階のロフト部分、御堂はリビング脇の部屋を一室、俺にくれようとしていたのだが、まるで秘密基地のようなロフトを俺が気に入ってしまい、ここがいいと駄々をこねてゲットした俺だけの居住空間だ。
普段御堂はロフトに上がってくる事がないので、そこは俺の完全なるプライベート空間、俺はこの寝床をとても気に入っている。
「さあや、おはよう」
「はよ、ふあぁぁ」
「今日の仕事、凜々花達と一緒だから時間厳守なんだ、朝早くてごめんね」
「あぁ、そうなんだ」
仕事の依頼は基本御堂がどこからか持ってくる。どうやらどこかに退魔師達の本部があってそこで振り分けられた仕事を割り当てられるらしいのだが、俺は未だその仕組みがよく分かっていない。
「なぁ、お前の親族って皆退魔師やってんの? もしかして退魔師って家族経営?」
「え? はは、そんな事ないよ。この仕事は向き不向きがあるから、やらない人は絶対やらないし、確かにそんな生業が身近にある分人数は多いけど、全員って訳じゃない」
「ふぅん、そっか」
「さあやの家も小夜原の家系だけど、君のお父さんは普通のサラリーマンだっただろ?」
突然父親の話を振られて俺は驚く、俺、そんなこと知らねぇんだけど……
「御堂は俺の父親の事を知ってるのか?」
「え? あれ? 聞いてない……?」
「お前は俺が施設育ちなのも、チビの頃の記憶がないのも知ってんだろう」
「そうだけど、てっきり叔父さんから聞いてるものとばかり……」
叔父は俺を施設へと放り込んだ張本人だ。母の弟で俺を施設に放り込んでから連絡は一切なく、現在どこにいるかも分からない。
近いはずだが遠い人、そんなに悪く扱われた記憶はないのだが両親が死んだ頃の俺の記憶は曖昧で、気付けば施設に預けられてたから叔父の事はほとんど覚えてないんだよなぁ……
「叔父さんなんてもう顔も名前も思い出せないわ、今は何処で何してんだろうな」
「さあやと叔父さんってそんな感じなの? どうりでうちの家人がさあやを見付けだすのに手間どった訳だよ」
「あ? どういう意味?」
「君の叔父さん、逃げ回るみたいにあちこち転々としていて所在が掴めなかったんだよ、見付けだしてもすぐに姿を消してしまって、だけど君の後見人は叔父さんのまま、二人は一緒にいるものとばかり思って僕らは君達を何年も探してたんだよ」
へぇ、そんな話、初耳だ。
「君の母親は本当に普通の家の人だったみたいだし、弟さんも当然そうだろうし、弟さん、もしかして御堂から逃げ回ってたのかな……」
「え……それ――」
瞬間険しい表情を見せた御堂、俺がどういう事かと問おうとした瞬間、御堂はパンっ! と柏手を打って「この話、ここで終了! 早く朝ごはん食べよう、遅刻すると凜々花がうるさいからね」と、笑みを見せた。
「え、待て、お前誤魔化し方が雑すぎんだろっ! 今ぜってー何か重要な話だっただろ!」
「そんな事ないよ、あはは。ほらコン太もお食べ」
『やったぁぁぁ!』
よだれを垂らすようにして食事を待っていたコン太が飯に飛びつく、急に賑やかになった食卓で、それ以上の追及はするなと言わんばかりの御堂の言動に俺は不本意ながら黙りこむ。叔父さんなんて今となっては赤の他人より遠い存在だから別にいいけど、御堂のそのあからさまに何かを隠していますって態度がなんだか少し心に引っかかった。
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