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俺の現状
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現在、俺、小夜原優斗の住む家は御堂の暮らすマンションの一室だ。高校卒業と同時に住み込みの就職先も見付けてあったのに、御堂は強引に俺をこの家に引っ張り込み、就職先にも勝手に就職辞退の連絡を入れてしまったので、その時点で俺の生活は完全に詰んでしまった。
施設育ちの子供に貯金などあるはずもなく、あるのは奨学金という名の借金のみ。それでも、未来に向かって歩いて行こうと考えていた矢先のこれだからな、ここまでグレずに真っ当に育ってきた俺もさすがにグレようかとあの時は真剣に考えた。
けれど、俺をこの家に引きずり込んだ御堂の提示した俺への提案はまずまず魅力的ではあったのだ。
まずは住居の斡旋。こいつの住むマンションに同居という形だが、そこはいわゆる高級マンションと称される場所で2LDKで部屋がひとつ余っているという言葉通りに俺には部屋が提供された。
まるでモデルルームのようなその部屋は住み込みで暮らすはずだった寮の部屋より広く快適だった。悔しいけれど、完全に生活レベルが良いのはこちらだと判断せざるを得ない。
トイレやキッチン、風呂場は共同だが、そんなの施設の中では当たり前だったし問題にはならない。
家具も一通り揃っているし、ずっと欲しくても手に入れられなかったスマホまで与えられて、俺の心は大いに揺さぶられた。
ついで提示されたのが奨学金返済の肩代わり、必要最低限額で抑えた奨学金だがそれでもそこそこの額の俺の借金、それを御堂はさらりと全額返済してくれたのだ。
更には職の斡旋、これは今になって思えばもう少し考えてから答えを出すべきだったと思うのだが、御堂は自分の仕事を手伝えば元々するはずだった仕事の給金の三倍の給金を俺に支払うと言ったのだ。
そう、俺は金に目がくらんだ。当たり前だろ? だって、そんな桁の違う金なんて見た事がなかったんだ、嫌な仕事ならある程度稼いだところで転職だって可能だろうと俺は安易にその儲け話に食いついた。そして今のこの生活だ。
せめて何の仕事か聞いてから契約しとけ、あの時の俺! と、何度も後悔したが後の祭りだ。
こうして、俺の新しい生活が始まったのが半年前。現在の俺はぴちぴちの『新米退魔師』なのである。
だがしかし、俺は半年経った現在もまだ退魔の仕事は一切していない。正しく言えばまだできない。慣れれば多少は出来るようになるだろうと言われているけど、そもそも俺の仕事はそれではないのだ。
だったら、退魔師と名乗りながらお前は何をしてるってんだ? って話だよな? 端的に言えば何もしてない。ただ御堂にくっ付いて、御堂の力の子守りをするのが俺の仕事だ。
なんだそれ? って突っ込みたい気持ちは分かる、俺だってそうだから。だがそれが『鞘』である俺の仕事なのだから仕方がない。
御堂の血筋は優秀な退魔師を何人も排出している、だが先にも述べたがその力が強大過ぎて優秀な者ほど己一人でその力を抑える事ができなくなるのだそうだ。そこで重要になるのが『鞘』と呼ばれる俺のような人間の存在だ。
御堂の血筋の者達は『鞘』がなくてもある程度の退魔の力は行使できるらしい、けれど抑えきれない力を行使すれば心身共にぶっ壊れ、廃人同然になってしまうのだそうだ。
けれど刀は鞘を得る事で退魔の力の使用に関して限界突破ができるらしい。体内で暴れ狂う退魔の力を御堂は増幅できるが抑えられない、そんな暴れ馬な退魔の力を胎内で眠りにつかせるのが『鞘』である俺の仕事。
要するに御堂の退魔の力の過剰分が現在俺の中で眠ってる、俺は力の保存庫とでも言えばいいのだろうか? いざ仕事となったらその余剰分を御堂は俺の中から持ち出して魔を祓う、そして滾ったままのその力を仕事を終えたら俺が回収して抑え込む、俺達二人の関係はそんな感じ。
「あぁあ、それにしてもなんでよりによって俺なんだ? 他にもお前の鞘ができる人間は幾らもいるんじゃねぇのかよ? お前、本家の人間だって言ってたし、それこそよりどりみどりだろ?」
「無理だよ、僕の鞘役はさあやにしかできないからね」
そう言って、御堂は俺の前に食後のお茶をことりと置いた。
「なんでだよ! 俺知ってんだからな、鞘の役目を担う人達は御堂の家に使えてんだろ? そこで本来なら修行を積んで任務に就くのが普通だって俺聞いたぞ」
「それ、誰に聞いたの?」
「凜々花さん」
小夜原凜々花、彼女の姓は俺と同じ小夜原だが御堂の従姉にあたる人で、俺たちと同じ退魔師をしているお姉さまだ。
ボディラインの綺麗なセクシーで色っぽいお姉さまなのだが、残念なことに既に人妻。
彼女は言ってしまえば俺達の同僚で、何度か一緒に仕事もしている。
ちなみに仕事の後にラブラブしてるのを目撃しちゃったのは凜々花さんとその鞘役の旦那さん。いいよな、あんな美人が相棒なら俺だって色んな意味で頑張れると思うんだけどな……
「余計なことを……」
「あ? なに?」
ちっ、と舌打ち打って呟く御堂。やっぱ他の奴でもこの仕事できるんだろう? だったらこんなど素人使わないで、ちゃんと訓練された人と一緒にやればいいのに。
「誤解があるようだから言っておくけど、僕の鞘役は本当にさあやにしかできないんだからね。他の奴等がやったら、その人達はことごとく壊れてる」
「あ?」
御堂が真剣な面持ちで俺の横の椅子に腰掛ける。
「小さな刀に大きな鞘なら、見た目は不格好だけどなんとか収まる。だけどね、大きな大剣に小さな鞘じゃそもそも収まらない。無理やり入れたら刀も傷付くし鞘も壊れる」
ああ、まぁ確かにその通りだわな。
「元々刀と鞘は一対って決まってて本来使い回しなんてできないんだ、だから僕の鞘は君だけだ、誰も優斗の代わりになんてなれないんだよ」
ぐっ、と俺は言葉に詰まった。いつもさあや、さあやと変なあだ名で呼ぶくせに、なんでこういう時だけ名前で呼ぶかな。呼ばれ慣れなくて変な感じ。
「ああ、もう分かった! 分かったから手ぇ握んなっ、暑苦しい!」
「君と僕は唯一無二の存在なんだし、スキンシップは大事だろ?」
ずいっと身を寄せてくる御堂から身を引いて俺は逃げ出す。過剰なスキンシップは苦手だ、こいつは距離が近すぎる。
「仕事はちゃんとこなすから、そういうのは止めろ! 俺は給料分はちゃんと働くつもりだ、だけどお前とそういう関係になる気はないからっ!」
最近の俺の日常はこんな感じで、初めての俺の城である自分の寝床へと逃げ込んだ。所詮その部屋も御堂の領地内だろ? って、そんな事は俺だって分かってんだよ! もう少し金が貯まったら独り立ちしてやるから今に見てろ!
施設育ちの子供に貯金などあるはずもなく、あるのは奨学金という名の借金のみ。それでも、未来に向かって歩いて行こうと考えていた矢先のこれだからな、ここまでグレずに真っ当に育ってきた俺もさすがにグレようかとあの時は真剣に考えた。
けれど、俺をこの家に引きずり込んだ御堂の提示した俺への提案はまずまず魅力的ではあったのだ。
まずは住居の斡旋。こいつの住むマンションに同居という形だが、そこはいわゆる高級マンションと称される場所で2LDKで部屋がひとつ余っているという言葉通りに俺には部屋が提供された。
まるでモデルルームのようなその部屋は住み込みで暮らすはずだった寮の部屋より広く快適だった。悔しいけれど、完全に生活レベルが良いのはこちらだと判断せざるを得ない。
トイレやキッチン、風呂場は共同だが、そんなの施設の中では当たり前だったし問題にはならない。
家具も一通り揃っているし、ずっと欲しくても手に入れられなかったスマホまで与えられて、俺の心は大いに揺さぶられた。
ついで提示されたのが奨学金返済の肩代わり、必要最低限額で抑えた奨学金だがそれでもそこそこの額の俺の借金、それを御堂はさらりと全額返済してくれたのだ。
更には職の斡旋、これは今になって思えばもう少し考えてから答えを出すべきだったと思うのだが、御堂は自分の仕事を手伝えば元々するはずだった仕事の給金の三倍の給金を俺に支払うと言ったのだ。
そう、俺は金に目がくらんだ。当たり前だろ? だって、そんな桁の違う金なんて見た事がなかったんだ、嫌な仕事ならある程度稼いだところで転職だって可能だろうと俺は安易にその儲け話に食いついた。そして今のこの生活だ。
せめて何の仕事か聞いてから契約しとけ、あの時の俺! と、何度も後悔したが後の祭りだ。
こうして、俺の新しい生活が始まったのが半年前。現在の俺はぴちぴちの『新米退魔師』なのである。
だがしかし、俺は半年経った現在もまだ退魔の仕事は一切していない。正しく言えばまだできない。慣れれば多少は出来るようになるだろうと言われているけど、そもそも俺の仕事はそれではないのだ。
だったら、退魔師と名乗りながらお前は何をしてるってんだ? って話だよな? 端的に言えば何もしてない。ただ御堂にくっ付いて、御堂の力の子守りをするのが俺の仕事だ。
なんだそれ? って突っ込みたい気持ちは分かる、俺だってそうだから。だがそれが『鞘』である俺の仕事なのだから仕方がない。
御堂の血筋は優秀な退魔師を何人も排出している、だが先にも述べたがその力が強大過ぎて優秀な者ほど己一人でその力を抑える事ができなくなるのだそうだ。そこで重要になるのが『鞘』と呼ばれる俺のような人間の存在だ。
御堂の血筋の者達は『鞘』がなくてもある程度の退魔の力は行使できるらしい、けれど抑えきれない力を行使すれば心身共にぶっ壊れ、廃人同然になってしまうのだそうだ。
けれど刀は鞘を得る事で退魔の力の使用に関して限界突破ができるらしい。体内で暴れ狂う退魔の力を御堂は増幅できるが抑えられない、そんな暴れ馬な退魔の力を胎内で眠りにつかせるのが『鞘』である俺の仕事。
要するに御堂の退魔の力の過剰分が現在俺の中で眠ってる、俺は力の保存庫とでも言えばいいのだろうか? いざ仕事となったらその余剰分を御堂は俺の中から持ち出して魔を祓う、そして滾ったままのその力を仕事を終えたら俺が回収して抑え込む、俺達二人の関係はそんな感じ。
「あぁあ、それにしてもなんでよりによって俺なんだ? 他にもお前の鞘ができる人間は幾らもいるんじゃねぇのかよ? お前、本家の人間だって言ってたし、それこそよりどりみどりだろ?」
「無理だよ、僕の鞘役はさあやにしかできないからね」
そう言って、御堂は俺の前に食後のお茶をことりと置いた。
「なんでだよ! 俺知ってんだからな、鞘の役目を担う人達は御堂の家に使えてんだろ? そこで本来なら修行を積んで任務に就くのが普通だって俺聞いたぞ」
「それ、誰に聞いたの?」
「凜々花さん」
小夜原凜々花、彼女の姓は俺と同じ小夜原だが御堂の従姉にあたる人で、俺たちと同じ退魔師をしているお姉さまだ。
ボディラインの綺麗なセクシーで色っぽいお姉さまなのだが、残念なことに既に人妻。
彼女は言ってしまえば俺達の同僚で、何度か一緒に仕事もしている。
ちなみに仕事の後にラブラブしてるのを目撃しちゃったのは凜々花さんとその鞘役の旦那さん。いいよな、あんな美人が相棒なら俺だって色んな意味で頑張れると思うんだけどな……
「余計なことを……」
「あ? なに?」
ちっ、と舌打ち打って呟く御堂。やっぱ他の奴でもこの仕事できるんだろう? だったらこんなど素人使わないで、ちゃんと訓練された人と一緒にやればいいのに。
「誤解があるようだから言っておくけど、僕の鞘役は本当にさあやにしかできないんだからね。他の奴等がやったら、その人達はことごとく壊れてる」
「あ?」
御堂が真剣な面持ちで俺の横の椅子に腰掛ける。
「小さな刀に大きな鞘なら、見た目は不格好だけどなんとか収まる。だけどね、大きな大剣に小さな鞘じゃそもそも収まらない。無理やり入れたら刀も傷付くし鞘も壊れる」
ああ、まぁ確かにその通りだわな。
「元々刀と鞘は一対って決まってて本来使い回しなんてできないんだ、だから僕の鞘は君だけだ、誰も優斗の代わりになんてなれないんだよ」
ぐっ、と俺は言葉に詰まった。いつもさあや、さあやと変なあだ名で呼ぶくせに、なんでこういう時だけ名前で呼ぶかな。呼ばれ慣れなくて変な感じ。
「ああ、もう分かった! 分かったから手ぇ握んなっ、暑苦しい!」
「君と僕は唯一無二の存在なんだし、スキンシップは大事だろ?」
ずいっと身を寄せてくる御堂から身を引いて俺は逃げ出す。過剰なスキンシップは苦手だ、こいつは距離が近すぎる。
「仕事はちゃんとこなすから、そういうのは止めろ! 俺は給料分はちゃんと働くつもりだ、だけどお前とそういう関係になる気はないからっ!」
最近の俺の日常はこんな感じで、初めての俺の城である自分の寝床へと逃げ込んだ。所詮その部屋も御堂の領地内だろ? って、そんな事は俺だって分かってんだよ! もう少し金が貯まったら独り立ちしてやるから今に見てろ!
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