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強気なΩは好きですか?③
大好き
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「あのな、樹。試合終わって三年生が引退して、俺、サッカー部のキャプテンになったんだ」
「ふぅん?」
急な話題の転換に一体この人は何を言い出したのだろうか? と僕は首を傾げた。試合に負けた事誤魔化そうとしてる? それってちょっとどうかと思うな。
「だから樹、あと一年、もう一年だけ俺にチャンスをくれないか?」
「? なに?」
「来年こそはちゃんと優勝するから! それまで待っててくれないか?」
まるで拝むみたいに先輩が僕を見やる。そういうの僕、好きじゃないなぁ。
「……ヤダ」
思わず出た僕の否定の言葉に瞬間先輩の顔が青褪めた。その時の僕には少し意地悪な気持ちがなかった訳じゃない、だってこれだけずっと待ってたのに更に待てなんて酷いって思ったんだもん。
だけど先輩の反応は僕の予想以上にショックを受けたような様子で、僕は動揺する。
「あっ……は、ダメか、そうか……だよなぁ……こんな結果残せないような人間じゃお前に相応しくないもんなぁ……」
「あ……」
違う、そういう意味じゃなかったのに、先輩が大きな溜息を吐いてしゃがみ込んだ。
「悪い、ホント不甲斐ない。樹なら待っててくれるんじゃないかってわりと自分に自惚れてた……やべ、泣きそう」
「あ……」
「ごめん、もう樹の周りうろつかないようにするから、ホントごめん」
「違っ、先輩!」
もう、何やってんの僕!? 試合負けて悔しいのは絶対僕より先輩の方なのにさらに追い打ちかけてどうすんのさ!?
「悪ぃ、ちょっとしばらく頭冷やしてくから、樹はもう行って。今までありがと……」
今度は僕の血の気が引く番。だってまさかそんな事言われると思ってなかった。先輩はいつでも猪突猛進で、今まで僕に何を言われてもさらりと受け流していた、さらには「そういうとこ好き」って笑って受け入れる鋼の精神の持ち主だったものだから、まさかそんな反応が返って来るなんて予想外だ。
「! なんでそんな事言うの!? 先輩はそんなにあっさり僕のこと諦めちゃうの!? 今まで散々付き纏ってきたくせに、なんでそんな簡単に引き下がろうとすんの? ヤだよ、僕のこと好きなら傍に居てよ!」
「え……?」
なに驚いたような顔してんの? 僕、最近はずっと先輩のこと拒否なんてしてないだろ!?
「僕は一年も待ちたくないって言ってんじゃん! 分かれよ、先輩のニブチン!」
「それって……」
顔を上げた先輩の瞳が赤くなってて、悪い事したなぁって心が痛む。
「言い方マズったのは僕の方だ、ごめん。だけど先輩だって悪いんだから! 僕、ずっと待ってたのに!!」
先輩の人となりなんて一年近く隣に居たからもうとっくに分かってる。猪突猛進な性格も、とても真面目で不器用な所も、好きになっちゃったんだからしょうがないじゃん!
僕は先輩の前にしゃがみ込む。
「先輩は僕のこと、好き?」
「それはずっと好きだって言ってるだろ」
「うん、だよね。僕も好きだよ」
僕は先輩の唇に唇を寄せる。先輩は鳩が豆鉄砲を喰らったようなビックリ顔のまま固まってしまった。
「……夢?」
「夢にしたいの?」
瞬間先輩の顔がぼっと赤く染まった。やった僕の方がもっと恥ずかしいんだから、そういう反応やめてよ。
「いやっ! え? いいのか? 俺、約束守れなかったのに!」
「約束はちゃんと守ってもらうよ、これ以上は来年までお預けだからね!」
またしても先輩はビックリ顔だけど当たり前だろ。
「そもそもまだ僕達学生だし、風紀に反したお付き合いは良くないと思うんだよね。だから、来年優勝するまではキスまでね、僕を番にしたいと思ってるなら来年また頑張って、ダーリン♡」
先輩はやはり驚いた顔なんだけど、僕の言葉を理解したらぱぁっと満面の笑みで僕を抱き締めた。こうして僕達の約束は更新され、僕達はお付き合いを始める事になったんだ。
教室の窓の外、朝練が終わった先輩が僕に気付いてこちらに向かって大きく手を振る。僕はそれに苦笑して、小さく手を振り返した。
「榊原君、最近ああいう事されても怒りも隠れもしなくなったね」
「それはだって、先輩、僕の彼氏だもん隠れる必要ないじゃん。先輩モテるんだから、むしろ牽制しとかないと」
「人って変わるもんだねぇ……」
友達にそんな事を言われて僕はむくれる。だって先輩ってば本当に女の子達によくモテるんだ。大会の試合がテレビ中継されて、全国的に顔が売れている先輩のファンはうちの学校の生徒だけにとどまらない。だから恋人関係になったから余計に僕の心は休まらない。
そういえば、先輩と恋人になってから初めて知った事実がある。先輩はどうやら僕に会う日はいつも事前にフェロモンの抑制剤を服用していたらしいのだ。それは僕を襲ったあの日からずっと。
本来αはフェロモンの抑制などよほどの事がない限りしないのだ。もちろんうちの兄ちゃん達だってそんな薬は飲んでいない。
「運命の番ってのはそのフェロモンがお互い過剰に効きすぎる事があるらしいって医者に言われて、実際俺が薬飲み忘れた日は樹の様子もおかしかったし、ああ、これ間違いないわって思ったんだよな」
先輩はそんな事を言ってふわりと笑った。
「この薬、試合の時はドーピングで引っかかる可能性もあるから試合前は薬飲んでなくて樹に会えなかった。連絡すると会いたくなるし、だからずっと連絡できなかった」
ごめんと謝られて、そんな事情があったなら先に言ってよ! と僕は思う。
試合前の先輩から薫るフェロモンの薫りは僕には強烈で、あちこち疼いてしまうので本当に困ってしまう。
「来年は絶対勝って僕を番にしてよね!」
「ああ、任せとけ!」
キャプテンになった篠木先輩は現在チームの戦力底上げに尽力しているらしい。サッカーは一人じゃできないし、あの負けた試合で自分の能力だけが飛び抜けてても意味がないと悟ったんだって。
引退した元キャプテンは「マイペースな篠木がチームの事を考えて動くようになった」と嬉しそうに言っていた。僕のお陰だとかなんとか言ってたけど、僕、別に何もしてないんだけどな。
「ふぅん?」
急な話題の転換に一体この人は何を言い出したのだろうか? と僕は首を傾げた。試合に負けた事誤魔化そうとしてる? それってちょっとどうかと思うな。
「だから樹、あと一年、もう一年だけ俺にチャンスをくれないか?」
「? なに?」
「来年こそはちゃんと優勝するから! それまで待っててくれないか?」
まるで拝むみたいに先輩が僕を見やる。そういうの僕、好きじゃないなぁ。
「……ヤダ」
思わず出た僕の否定の言葉に瞬間先輩の顔が青褪めた。その時の僕には少し意地悪な気持ちがなかった訳じゃない、だってこれだけずっと待ってたのに更に待てなんて酷いって思ったんだもん。
だけど先輩の反応は僕の予想以上にショックを受けたような様子で、僕は動揺する。
「あっ……は、ダメか、そうか……だよなぁ……こんな結果残せないような人間じゃお前に相応しくないもんなぁ……」
「あ……」
違う、そういう意味じゃなかったのに、先輩が大きな溜息を吐いてしゃがみ込んだ。
「悪い、ホント不甲斐ない。樹なら待っててくれるんじゃないかってわりと自分に自惚れてた……やべ、泣きそう」
「あ……」
「ごめん、もう樹の周りうろつかないようにするから、ホントごめん」
「違っ、先輩!」
もう、何やってんの僕!? 試合負けて悔しいのは絶対僕より先輩の方なのにさらに追い打ちかけてどうすんのさ!?
「悪ぃ、ちょっとしばらく頭冷やしてくから、樹はもう行って。今までありがと……」
今度は僕の血の気が引く番。だってまさかそんな事言われると思ってなかった。先輩はいつでも猪突猛進で、今まで僕に何を言われてもさらりと受け流していた、さらには「そういうとこ好き」って笑って受け入れる鋼の精神の持ち主だったものだから、まさかそんな反応が返って来るなんて予想外だ。
「! なんでそんな事言うの!? 先輩はそんなにあっさり僕のこと諦めちゃうの!? 今まで散々付き纏ってきたくせに、なんでそんな簡単に引き下がろうとすんの? ヤだよ、僕のこと好きなら傍に居てよ!」
「え……?」
なに驚いたような顔してんの? 僕、最近はずっと先輩のこと拒否なんてしてないだろ!?
「僕は一年も待ちたくないって言ってんじゃん! 分かれよ、先輩のニブチン!」
「それって……」
顔を上げた先輩の瞳が赤くなってて、悪い事したなぁって心が痛む。
「言い方マズったのは僕の方だ、ごめん。だけど先輩だって悪いんだから! 僕、ずっと待ってたのに!!」
先輩の人となりなんて一年近く隣に居たからもうとっくに分かってる。猪突猛進な性格も、とても真面目で不器用な所も、好きになっちゃったんだからしょうがないじゃん!
僕は先輩の前にしゃがみ込む。
「先輩は僕のこと、好き?」
「それはずっと好きだって言ってるだろ」
「うん、だよね。僕も好きだよ」
僕は先輩の唇に唇を寄せる。先輩は鳩が豆鉄砲を喰らったようなビックリ顔のまま固まってしまった。
「……夢?」
「夢にしたいの?」
瞬間先輩の顔がぼっと赤く染まった。やった僕の方がもっと恥ずかしいんだから、そういう反応やめてよ。
「いやっ! え? いいのか? 俺、約束守れなかったのに!」
「約束はちゃんと守ってもらうよ、これ以上は来年までお預けだからね!」
またしても先輩はビックリ顔だけど当たり前だろ。
「そもそもまだ僕達学生だし、風紀に反したお付き合いは良くないと思うんだよね。だから、来年優勝するまではキスまでね、僕を番にしたいと思ってるなら来年また頑張って、ダーリン♡」
先輩はやはり驚いた顔なんだけど、僕の言葉を理解したらぱぁっと満面の笑みで僕を抱き締めた。こうして僕達の約束は更新され、僕達はお付き合いを始める事になったんだ。
教室の窓の外、朝練が終わった先輩が僕に気付いてこちらに向かって大きく手を振る。僕はそれに苦笑して、小さく手を振り返した。
「榊原君、最近ああいう事されても怒りも隠れもしなくなったね」
「それはだって、先輩、僕の彼氏だもん隠れる必要ないじゃん。先輩モテるんだから、むしろ牽制しとかないと」
「人って変わるもんだねぇ……」
友達にそんな事を言われて僕はむくれる。だって先輩ってば本当に女の子達によくモテるんだ。大会の試合がテレビ中継されて、全国的に顔が売れている先輩のファンはうちの学校の生徒だけにとどまらない。だから恋人関係になったから余計に僕の心は休まらない。
そういえば、先輩と恋人になってから初めて知った事実がある。先輩はどうやら僕に会う日はいつも事前にフェロモンの抑制剤を服用していたらしいのだ。それは僕を襲ったあの日からずっと。
本来αはフェロモンの抑制などよほどの事がない限りしないのだ。もちろんうちの兄ちゃん達だってそんな薬は飲んでいない。
「運命の番ってのはそのフェロモンがお互い過剰に効きすぎる事があるらしいって医者に言われて、実際俺が薬飲み忘れた日は樹の様子もおかしかったし、ああ、これ間違いないわって思ったんだよな」
先輩はそんな事を言ってふわりと笑った。
「この薬、試合の時はドーピングで引っかかる可能性もあるから試合前は薬飲んでなくて樹に会えなかった。連絡すると会いたくなるし、だからずっと連絡できなかった」
ごめんと謝られて、そんな事情があったなら先に言ってよ! と僕は思う。
試合前の先輩から薫るフェロモンの薫りは僕には強烈で、あちこち疼いてしまうので本当に困ってしまう。
「来年は絶対勝って僕を番にしてよね!」
「ああ、任せとけ!」
キャプテンになった篠木先輩は現在チームの戦力底上げに尽力しているらしい。サッカーは一人じゃできないし、あの負けた試合で自分の能力だけが飛び抜けてても意味がないと悟ったんだって。
引退した元キャプテンは「マイペースな篠木がチームの事を考えて動くようになった」と嬉しそうに言っていた。僕のお陰だとかなんとか言ってたけど、僕、別に何もしてないんだけどな。
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ものすごく可愛いです💕
四季と樹が可愛すぎてついコメントを…
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書いてくださってありがとうございます
( ˃̶᷇ ‧̫ ˂̶᷆ )
ホープさん、感想ありがとうございます!
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