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強気なΩは好きですか?③
試合
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年の瀬に始まった高校サッカーの全国大会、一回戦は難なく通過。うちの高校ってだてに強豪校って呼ばれている訳じゃないんだなって改めて思う。
そんな中でエースストライカーを務めてる篠木先輩はやっぱり凄い人なんだろうな。画面に映る先輩の真剣な横顔はもうすっかり見慣れてしまった僕ですら惚れ惚れするくらい格好いい。
そんな人が僕のせいでサッカー辞めるとか言ってたんだから、そりゃ周りは困惑するよ、今ならあの時の先輩の非常識さがよく分かる。
年を越して三が日、そこも先輩はずっと試合でホントに大変。
メールで「明けましておめでとう」だけは伝えたけれど返事は来なくて、読んでいるのかどうかも分からない。
「一言だけでも返信してくれたらいいのに……」
なんて、まるで僕の方が先輩よりずっと先輩のことが好きみたい。そんなの顔に出すつもりはないけど、僕は先輩から貰ったウサギのキーホルダーを指ではじく。先輩の猪突猛進は相変わらずだよ。
準々決勝は冬休み最終日、僕はその日もテレビに釘付けで先輩の姿を目で追っていた。
「知らなかったけど、本当に冬休み返上で試合してるんだな。三年生は受験勉強どうしてるんだ?」
まさに大学受験目前の四季兄が僕の横で単語帳をめくりつつ息を吐いた。
「キャプテンは推薦入学決まってるんだって、試合出てる人達は大体みんなそんな感じ」
「一芸に秀でてるっていいな、羨ましい」
先輩がずっと頑張ってる姿を知っている僕は、それを一芸だと言われたのに少しだけもやる。勉強が大変なの分かるけど、完全実力主義で査定される方だってそんなに楽な事じゃないのに。
そんな事を思っている間に試合はもう後半戦、今話していたゴールキーパーのキャプテンが敵チームからのゴールを防ぐ。点数はうちの高校が一点リードしていて残り時間もあと少し、このまま逃げ切るかと思ったのに試合終了一分前、油断が出たのだろう猛攻撃の敵チームに一点を奪われた。
「ああっ!!」
「あれ? PK戦?」
「PK戦ってなに?」
「まぁ、簡単に言ったら延長戦なんだけど、普通に試合するんじゃなくてゴールキーパーとキッカーの一対一でやりあうんだよ」
「普通に戦わないの? なんで?」
「ん~会場の時間の都合とそんな感じなのかな? 俺も詳しい事は分からないけど、準々決勝に延長戦はないらしい」
え~それってすごく納得いかない。サッカーってチームで戦ってこそのサッカーだろ? しかもゴールキーパーの負担大きくない? あ、だからゴールキーパーがキャプテンなのかな?
画面の向こう側の先輩が険しい表情で汗を拭っている。なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「ねぇ、先輩負けないよね?」
「それは何とも。こういうのは実力もだけど運の部分もあるからな」
しばらくの休憩の後、PK戦が始まった。先輩が大きく息を吐いて、駆け出し、ボールを蹴る。そのボールは真っすぐゴールに向かって見事にシュートが決まった。
「入った!! 勝った!? これで勝ち!?」
「うんにゃ、PKは攻守交互にシュートを繰り返して三点先取で決着だ」
「あと二点? でも篠木先輩ならあと二点くらい……」
「それも残念ながら、だな。同じ選手が続けてキックする事はできないからお前の先輩の活躍はここまでだ」
「えぇぇ……」
次は相手方のキック、それをあの強面のキャプテンはがっちり受け止めた。やるじゃんキャプテン、今までは難癖つけられるばっかりだったから雑に扱ってきたけど、これからはもう少し優しく接してあげよう。
だけど次にこちらが蹴ったボールは敵方のキーパーに防がれてしまう、向こうだってもう後がない、必死なのは分かるけど心臓に悪い……なんて思いながら続く試合を固唾を飲んで見守っていたら、ふいに画面がぱっと別の番組に切り替わった。
「え……」
「あ、時間切れか」
「えぇぇ!? ちょっと中継は!?」
嘘だろ!? まさかのこんな所で中継打ち切りとか番組プロデューサーは馬鹿なの? 死ぬの? こんなの絶対全国のお茶の間からクレームくるだろ! ってか、クレームを入れさせろ!!
「ちょっと待ってろ、樹、今ネット配信探してみるから!」
ああ、そっか、そういうのあるから今は平気で試合途中で打ち切っちゃうのか、だったら最初からそっちで見とけばよかったぁぁ!
四季兄がスマホでネット配信を探し当て、その画面を覗き込んだら選手達がバラバラと駆け足で並ぼうとしている場面が目に飛び込んでくる。
「もしかして試合終わっちゃった……?」
「そうみたいだな、結果、結果どこだ?」
四季兄がスマホをスクロールしている横で僕はどうにも落ち着かない。元々試合だってうちの学校の方が優勢だった、負けるわけがない、先輩が負けるわけがないと思うのに身体が震える。
「え……おい、樹、大丈夫か!?」
「……なに? それより結果……」
「なに、じゃない! お前熱あるだろ!」
四季兄が検索の手を止めて僕の額に手を当てた。熱? そういえば今日は朝から少しふわふわしてるとは思っていたんだ、先輩の試合があるからそうなってるだけかと思ってたのに、あれ? なんか、身体が熱い。
「樹~、残念だったな……って、ちょ……お前、ヒートかっ!」
「へ?」
双子の兄がリビングを覗き込み、驚いたように後退った。発情期? ああ、そういえばそろそろ予定日だ。
「うわっ、ヤバっ、三葉、そこ窓開けて! 四季! 樹を早く部屋に連れてけ! 母さん、クスリ~!!!」
双子の兄は二人ともアルファだ、四季兄だけはベータだから平気なのだろうが、オメガのヒート時のフェロモン発露は兄弟とはいえ上三人の兄にも影響が出る、気を付けていたつもりだったのに、まさかこんな時に……
身体が熱い、なんだかむやみに泣けてくる。
「ねぇ、試合は? 先輩どうなったの!?」
「試合なら負けたぞ」
三葉兄ちゃんにあっさり言われて血の気が引いた。
「……うそ」
「見てたんじゃなかったのか?」
見てたよ! 見てたけど途中で中継打ち切られちゃったんじゃんか! でも、なんで? 負けた? 先輩が? そんな、そんなの……
「うわぁぁぁぁぁん」
身体に力が入らない、熱は籠るし足元はふわふわしていてもう何がなんだか分からずに僕は泣き崩れた。
「わぁ、樹、泣くなぁ!」
「だって、先輩が負けちゃったぁぁ」
絶対優勝するって言ってたのに、優勝して僕を攫いにくると思ってたのに、それなのにこんなの酷い。そんなのないよっ!
もうどうしようもなく泣けて泣けて、そんな僕を四季兄は抱きかかえるようにして僕をベッドに放り込んだ。
そんな中でエースストライカーを務めてる篠木先輩はやっぱり凄い人なんだろうな。画面に映る先輩の真剣な横顔はもうすっかり見慣れてしまった僕ですら惚れ惚れするくらい格好いい。
そんな人が僕のせいでサッカー辞めるとか言ってたんだから、そりゃ周りは困惑するよ、今ならあの時の先輩の非常識さがよく分かる。
年を越して三が日、そこも先輩はずっと試合でホントに大変。
メールで「明けましておめでとう」だけは伝えたけれど返事は来なくて、読んでいるのかどうかも分からない。
「一言だけでも返信してくれたらいいのに……」
なんて、まるで僕の方が先輩よりずっと先輩のことが好きみたい。そんなの顔に出すつもりはないけど、僕は先輩から貰ったウサギのキーホルダーを指ではじく。先輩の猪突猛進は相変わらずだよ。
準々決勝は冬休み最終日、僕はその日もテレビに釘付けで先輩の姿を目で追っていた。
「知らなかったけど、本当に冬休み返上で試合してるんだな。三年生は受験勉強どうしてるんだ?」
まさに大学受験目前の四季兄が僕の横で単語帳をめくりつつ息を吐いた。
「キャプテンは推薦入学決まってるんだって、試合出てる人達は大体みんなそんな感じ」
「一芸に秀でてるっていいな、羨ましい」
先輩がずっと頑張ってる姿を知っている僕は、それを一芸だと言われたのに少しだけもやる。勉強が大変なの分かるけど、完全実力主義で査定される方だってそんなに楽な事じゃないのに。
そんな事を思っている間に試合はもう後半戦、今話していたゴールキーパーのキャプテンが敵チームからのゴールを防ぐ。点数はうちの高校が一点リードしていて残り時間もあと少し、このまま逃げ切るかと思ったのに試合終了一分前、油断が出たのだろう猛攻撃の敵チームに一点を奪われた。
「ああっ!!」
「あれ? PK戦?」
「PK戦ってなに?」
「まぁ、簡単に言ったら延長戦なんだけど、普通に試合するんじゃなくてゴールキーパーとキッカーの一対一でやりあうんだよ」
「普通に戦わないの? なんで?」
「ん~会場の時間の都合とそんな感じなのかな? 俺も詳しい事は分からないけど、準々決勝に延長戦はないらしい」
え~それってすごく納得いかない。サッカーってチームで戦ってこそのサッカーだろ? しかもゴールキーパーの負担大きくない? あ、だからゴールキーパーがキャプテンなのかな?
画面の向こう側の先輩が険しい表情で汗を拭っている。なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「ねぇ、先輩負けないよね?」
「それは何とも。こういうのは実力もだけど運の部分もあるからな」
しばらくの休憩の後、PK戦が始まった。先輩が大きく息を吐いて、駆け出し、ボールを蹴る。そのボールは真っすぐゴールに向かって見事にシュートが決まった。
「入った!! 勝った!? これで勝ち!?」
「うんにゃ、PKは攻守交互にシュートを繰り返して三点先取で決着だ」
「あと二点? でも篠木先輩ならあと二点くらい……」
「それも残念ながら、だな。同じ選手が続けてキックする事はできないからお前の先輩の活躍はここまでだ」
「えぇぇ……」
次は相手方のキック、それをあの強面のキャプテンはがっちり受け止めた。やるじゃんキャプテン、今までは難癖つけられるばっかりだったから雑に扱ってきたけど、これからはもう少し優しく接してあげよう。
だけど次にこちらが蹴ったボールは敵方のキーパーに防がれてしまう、向こうだってもう後がない、必死なのは分かるけど心臓に悪い……なんて思いながら続く試合を固唾を飲んで見守っていたら、ふいに画面がぱっと別の番組に切り替わった。
「え……」
「あ、時間切れか」
「えぇぇ!? ちょっと中継は!?」
嘘だろ!? まさかのこんな所で中継打ち切りとか番組プロデューサーは馬鹿なの? 死ぬの? こんなの絶対全国のお茶の間からクレームくるだろ! ってか、クレームを入れさせろ!!
「ちょっと待ってろ、樹、今ネット配信探してみるから!」
ああ、そっか、そういうのあるから今は平気で試合途中で打ち切っちゃうのか、だったら最初からそっちで見とけばよかったぁぁ!
四季兄がスマホでネット配信を探し当て、その画面を覗き込んだら選手達がバラバラと駆け足で並ぼうとしている場面が目に飛び込んでくる。
「もしかして試合終わっちゃった……?」
「そうみたいだな、結果、結果どこだ?」
四季兄がスマホをスクロールしている横で僕はどうにも落ち着かない。元々試合だってうちの学校の方が優勢だった、負けるわけがない、先輩が負けるわけがないと思うのに身体が震える。
「え……おい、樹、大丈夫か!?」
「……なに? それより結果……」
「なに、じゃない! お前熱あるだろ!」
四季兄が検索の手を止めて僕の額に手を当てた。熱? そういえば今日は朝から少しふわふわしてるとは思っていたんだ、先輩の試合があるからそうなってるだけかと思ってたのに、あれ? なんか、身体が熱い。
「樹~、残念だったな……って、ちょ……お前、ヒートかっ!」
「へ?」
双子の兄がリビングを覗き込み、驚いたように後退った。発情期? ああ、そういえばそろそろ予定日だ。
「うわっ、ヤバっ、三葉、そこ窓開けて! 四季! 樹を早く部屋に連れてけ! 母さん、クスリ~!!!」
双子の兄は二人ともアルファだ、四季兄だけはベータだから平気なのだろうが、オメガのヒート時のフェロモン発露は兄弟とはいえ上三人の兄にも影響が出る、気を付けていたつもりだったのに、まさかこんな時に……
身体が熱い、なんだかむやみに泣けてくる。
「ねぇ、試合は? 先輩どうなったの!?」
「試合なら負けたぞ」
三葉兄ちゃんにあっさり言われて血の気が引いた。
「……うそ」
「見てたんじゃなかったのか?」
見てたよ! 見てたけど途中で中継打ち切られちゃったんじゃんか! でも、なんで? 負けた? 先輩が? そんな、そんなの……
「うわぁぁぁぁぁん」
身体に力が入らない、熱は籠るし足元はふわふわしていてもう何がなんだか分からずに僕は泣き崩れた。
「わぁ、樹、泣くなぁ!」
「だって、先輩が負けちゃったぁぁ」
絶対優勝するって言ってたのに、優勝して僕を攫いにくると思ってたのに、それなのにこんなの酷い。そんなのないよっ!
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