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強気なΩは好きですか?③
クリスマス
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クリスマスイブ、24日は家族と過ごした。
双子の兄には彼氏と出掛けなくていいのかと散々からかわれて、僕は不機嫌顔が隠せない。だけど、仕方ないだろ先輩は今が追い込みなんだから!
それにまだ彼氏じゃないし!
25日の朝、もう冬休みに入っている僕がのんびりとリビングに向かうと、ついていないテレビの前のソファーに座った四番目の兄、四季がぼんやり手元を眺めていた。
「四季兄、おはよ……?」
僕がそんな兄に何気なく声をかけると、四季兄はびくりと身を震わせ、たぶん眺めていた何かを隠し、僕を見上げる。
「お、おはよう、樹」
「? 四季兄、今何か隠した?」
「え、や……えっと」
「なに? 僕にも言えないような物?」
戸惑ったように少しだけ逡巡した四季兄が、おずおずと「プレゼント、もらっちゃって……」とそう言った。
ああ……一縷兄ちゃんか。兄弟でお付き合いをしている一番目の兄と四番目の兄、僕も四季兄が好きだったから今更何も言わないけど、相変わらずラブラブで羨ましいよ。
「何貰ったの?」
「これ……」
差し出された左手の、その薬指に嵌るのはどう見てもエンゲージリングで僕も言葉を失くす。
「朝起きたら嵌ってて、気付いた時には兄ちゃんもう出勤しちゃってて、どうしようって……」
「嫌なの?」
「そんな訳ない!」
「だったら嬉しい、で、いいんじゃないの?」
「そうだけど」と、四季兄はその薬指に嵌る指輪を撫でた。
「本当に俺がこんなの貰っちゃっていいのかな?」
「いいんじゃないの? 一兄は本気だと思うよ。そもそも本気じゃなきゃ弟に手を出すとかあり得ないよ」
「俺、Ωじゃないのに……」
「別にそれもどうでもいいんじゃないかな? その辺も全部承知の上で一兄はそれを四季兄に贈ったんだろうし、四季兄がそれを嬉しいと思うなら、それでいいんだよ」
泣きそうな表情の兄が僕を見やる。
「なんで樹はそんなに俺に優しいの? 普通反対するもんだろ? 俺達兄弟なのに」
「四季兄、僕が四季兄のこと好きだったの忘れてる?」
「それは覚えてるけど」
「正直今だって悔しいよ、一兄抜け駆けだっ! って思うけど、四季兄が幸せなのが一番だもん、嬉しいなら嬉しいって言っていいと思うよ、良かったね」
いつも穏やかな兄ちゃんの表情がくしゃりと歪んで「ありがとう」と言うその言葉と泣き笑いの笑みに僕も泣いてしまいそうだよ。
「そう言えば樹はあの人とはどうなってるんだ? 昨日も一日家に居たみたいだけど、今日会うとか?」
四季兄の言うあの人というのはもちろん篠木先輩の事だろうけど、僕は苦笑する。
「先輩はもうじき全国大会の試合だからそれどころじゃないよ。昨日も今日も、もちろん明日も、ずうぅぅっと練習」
「あ? 普通そこは顔くらい見に来るもんだろう!? クリスマスだぞ!」
「先輩、そんなイベント自体忘れてるんじゃないかなぁ……」
兄ちゃんの横に腰掛け、ふわふわのクッションをもふりと抱えて僕が言うと、四季兄は眉間に皺を刻んだ。
先輩がそういう人だってのはもう僕は分かってる。意外と猪突猛進で、過去モテモテだったみたいだからその手の事にそつがないのかと思いきや、どうも寄ってきた女の子に言われるがままお付き合いをしていただけだったみたいで、イベント事もたぶん僕が何も言わなきゃ本人には全く気がないみたい。
僕が積極的にアレをしようコレをしようって誘いをかければたぶん乗って来るのだろうし、そうなればそつなくイベントをこなしてくれそうではあるけど、それもどうかと思うんだよなぁ。
だってそれって本人は楽しいの? って思わない? やれば何でも程々にこなせてしまうらしい先輩は意外と自我の薄い所もあって、そういう所心配なんだよね。騙されやすそうって思うの僕だけなのかな?
「お前、あいつに蔑ろにされてるんだったら……」
「あはは、ないない、先輩はこれで通常運転だからそこは気にしなくて大丈夫」
少しブラコン気味の兄達は過剰に僕の心配をする。昨夜散々僕をからかった双子の兄達だって同じ、クリスマスイブに家に籠ってる僕を心配して気分を盛り上げようとしてくれてただけだって僕は分かってる。
「今はね、先輩は目先の試合の事しか考えられないんだと思うんだよ。それでさ、その理由が全国大会優勝して僕と付き合う為なんだから、僕はもうそれだけで嬉しいよ」
「っ……樹!」
何故か感極まったように四季兄に抱きつかれた。
まぁ、それでも一言メールなり電話なりくれてもいいのでは? と思わなくもないんだけどさ。
そんな事を思いつつ、ふと机の上に置かれたままの自分のスマホを見やれば着信のランプが光ってる。そういえば昨晩リビングに放置したまま忘れてたみたいだ。
可愛い可愛いと僕を撫でまわす四季兄をいなしてスマホを確認すると、着信の相手は篠木先輩だった。
「あ……」
「どうした?」
「先輩から連絡来てた、夕方会えないか、って……」
これ着信いつだ? 今朝? もう昼近いのに気付かなくて申し訳なかったな。
「! 良かったな、樹!」
まるで我が事みたいに四季兄は喜んでくれるけど、先輩ちゃんとクリスマス覚えてたんだ? 正直意外。だけど嬉しい。
実は一応プレゼントの用意だけはしてたんだ、たぶん渡すことないと思ってたんだけど、もし何かあったらお返し無いのも悪いと思って、念の為ね! 期待してた訳じゃないけどね!
「風邪ひかないように温かくして行っておいで」
最初はあんな奴に可愛い弟をやれるか! という感じだった四季兄が優しく僕の頭を撫でる。いつまでも小さな子供扱いは不服だけど、僕は「うん」と頷いた。
双子の兄には彼氏と出掛けなくていいのかと散々からかわれて、僕は不機嫌顔が隠せない。だけど、仕方ないだろ先輩は今が追い込みなんだから!
それにまだ彼氏じゃないし!
25日の朝、もう冬休みに入っている僕がのんびりとリビングに向かうと、ついていないテレビの前のソファーに座った四番目の兄、四季がぼんやり手元を眺めていた。
「四季兄、おはよ……?」
僕がそんな兄に何気なく声をかけると、四季兄はびくりと身を震わせ、たぶん眺めていた何かを隠し、僕を見上げる。
「お、おはよう、樹」
「? 四季兄、今何か隠した?」
「え、や……えっと」
「なに? 僕にも言えないような物?」
戸惑ったように少しだけ逡巡した四季兄が、おずおずと「プレゼント、もらっちゃって……」とそう言った。
ああ……一縷兄ちゃんか。兄弟でお付き合いをしている一番目の兄と四番目の兄、僕も四季兄が好きだったから今更何も言わないけど、相変わらずラブラブで羨ましいよ。
「何貰ったの?」
「これ……」
差し出された左手の、その薬指に嵌るのはどう見てもエンゲージリングで僕も言葉を失くす。
「朝起きたら嵌ってて、気付いた時には兄ちゃんもう出勤しちゃってて、どうしようって……」
「嫌なの?」
「そんな訳ない!」
「だったら嬉しい、で、いいんじゃないの?」
「そうだけど」と、四季兄はその薬指に嵌る指輪を撫でた。
「本当に俺がこんなの貰っちゃっていいのかな?」
「いいんじゃないの? 一兄は本気だと思うよ。そもそも本気じゃなきゃ弟に手を出すとかあり得ないよ」
「俺、Ωじゃないのに……」
「別にそれもどうでもいいんじゃないかな? その辺も全部承知の上で一兄はそれを四季兄に贈ったんだろうし、四季兄がそれを嬉しいと思うなら、それでいいんだよ」
泣きそうな表情の兄が僕を見やる。
「なんで樹はそんなに俺に優しいの? 普通反対するもんだろ? 俺達兄弟なのに」
「四季兄、僕が四季兄のこと好きだったの忘れてる?」
「それは覚えてるけど」
「正直今だって悔しいよ、一兄抜け駆けだっ! って思うけど、四季兄が幸せなのが一番だもん、嬉しいなら嬉しいって言っていいと思うよ、良かったね」
いつも穏やかな兄ちゃんの表情がくしゃりと歪んで「ありがとう」と言うその言葉と泣き笑いの笑みに僕も泣いてしまいそうだよ。
「そう言えば樹はあの人とはどうなってるんだ? 昨日も一日家に居たみたいだけど、今日会うとか?」
四季兄の言うあの人というのはもちろん篠木先輩の事だろうけど、僕は苦笑する。
「先輩はもうじき全国大会の試合だからそれどころじゃないよ。昨日も今日も、もちろん明日も、ずうぅぅっと練習」
「あ? 普通そこは顔くらい見に来るもんだろう!? クリスマスだぞ!」
「先輩、そんなイベント自体忘れてるんじゃないかなぁ……」
兄ちゃんの横に腰掛け、ふわふわのクッションをもふりと抱えて僕が言うと、四季兄は眉間に皺を刻んだ。
先輩がそういう人だってのはもう僕は分かってる。意外と猪突猛進で、過去モテモテだったみたいだからその手の事にそつがないのかと思いきや、どうも寄ってきた女の子に言われるがままお付き合いをしていただけだったみたいで、イベント事もたぶん僕が何も言わなきゃ本人には全く気がないみたい。
僕が積極的にアレをしようコレをしようって誘いをかければたぶん乗って来るのだろうし、そうなればそつなくイベントをこなしてくれそうではあるけど、それもどうかと思うんだよなぁ。
だってそれって本人は楽しいの? って思わない? やれば何でも程々にこなせてしまうらしい先輩は意外と自我の薄い所もあって、そういう所心配なんだよね。騙されやすそうって思うの僕だけなのかな?
「お前、あいつに蔑ろにされてるんだったら……」
「あはは、ないない、先輩はこれで通常運転だからそこは気にしなくて大丈夫」
少しブラコン気味の兄達は過剰に僕の心配をする。昨夜散々僕をからかった双子の兄達だって同じ、クリスマスイブに家に籠ってる僕を心配して気分を盛り上げようとしてくれてただけだって僕は分かってる。
「今はね、先輩は目先の試合の事しか考えられないんだと思うんだよ。それでさ、その理由が全国大会優勝して僕と付き合う為なんだから、僕はもうそれだけで嬉しいよ」
「っ……樹!」
何故か感極まったように四季兄に抱きつかれた。
まぁ、それでも一言メールなり電話なりくれてもいいのでは? と思わなくもないんだけどさ。
そんな事を思いつつ、ふと机の上に置かれたままの自分のスマホを見やれば着信のランプが光ってる。そういえば昨晩リビングに放置したまま忘れてたみたいだ。
可愛い可愛いと僕を撫でまわす四季兄をいなしてスマホを確認すると、着信の相手は篠木先輩だった。
「あ……」
「どうした?」
「先輩から連絡来てた、夕方会えないか、って……」
これ着信いつだ? 今朝? もう昼近いのに気付かなくて申し訳なかったな。
「! 良かったな、樹!」
まるで我が事みたいに四季兄は喜んでくれるけど、先輩ちゃんとクリスマス覚えてたんだ? 正直意外。だけど嬉しい。
実は一応プレゼントの用意だけはしてたんだ、たぶん渡すことないと思ってたんだけど、もし何かあったらお返し無いのも悪いと思って、念の為ね! 期待してた訳じゃないけどね!
「風邪ひかないように温かくして行っておいで」
最初はあんな奴に可愛い弟をやれるか! という感じだった四季兄が優しく僕の頭を撫でる。いつまでも小さな子供扱いは不服だけど、僕は「うん」と頷いた。
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