榊原さんちの家庭の事情

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βだって愛されたい!③

一縷

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「あっ、兄ちゃ……もぅ、無理、壊れちゃ……あぁ!!」

 腕の中で跳ねる肢体を押さえつけ、逃げる腰を掴んで叩きつける。零れる喘ぎは「無理だ」と告げるが、止めたら止めたで不満顔を見せる事を俺は知っているので遠慮はしない。
 最初のうちこそ慎重に丁寧に扱って、辛そうな表情を見せればすぐに止めたし、痛いと言えばすぐに抜いたが、そんな俺の行動は何故か彼の気持ちを不安にさせるようでどう扱っていいのか正直戸惑う。
 俺の名前は榊原一縷さかきばらいちる5人兄弟の長男で24歳、腕の中に居るのは俺の実の弟、6歳年下の4男榊原四季さかきばらしきだ。
 兄弟で何をやっているのかという突っ込みに関しては不要だ、そんな事は言われなくても分かっている。これは近親相姦、一般的には許されざる関係だという事も重々承知の上で俺は弟を抱いている。

「ダメっ、今……イった! まだ、そこ、だめぇぇ!」

 俺は四季が可愛い。4人も弟がいるのに、何故か四季だけが産まれた時から俺の中では特別だった。
 4歳年下の双子の弟達、この2人は可愛くない。4歳まで両親を独り占めに生きてきた俺にとってこの2人の怪獣は天敵でしかなかった。なりたくもないのに『お兄ちゃん』のレッテルを貼られ、したくもない我慢を強いられた幼い記憶。しかもこの2人、お互いがいればそれで満足な2人だけの世界を構築していて、俺はいつでも蚊帳の外。そんな2人が可愛いと思えるはずもなく、俺は鬱々とした幼少期を過ごしていた。
 そんな中、次に生まれたのが4男の四季、双子の時には可愛いとは微塵も思えなかったのに、生まれたばかりの四季はびっくりするほどに可愛かった。
 小さな手が俺の服の袖を掴み、にぱっと笑うその笑みに俺の心は打ちぬかれた。思えば四季は俺の初恋だったのだ。
 四季の下に産まれた5男の樹も双子に比べれば格段に可愛かったのだが「にいたん」と俺の後ろを付いて歩く四季が俺にとっては特別だった。
 そんな四季が俺から離れていったのは俺が中学に上がる歳、四季は小学一年生。その前から中学校受験のせいで塾だなんだと忙しくなっていた俺は四季と関わる時間が格段に減っていた。けれどその受験さえ終わってしまえば……と頑張っていたのに、俺達がそれぞれ進学し、気が付けば四季は俺なんかより学校の友達を優先して遊び回るようになっていた。

「今日はケンタのうちで遊んでくる~!」

 元気に飛び出して行く四季はやはり可愛い、だけどケンタってどこのどいつだ!? 可愛い弟を誑かすなど言語道断! なんてな……この頃からだ、俺のこの気持ちがどうやら兄弟愛なんてものから逸脱しているのじゃないか? と俺は気付いてしまった。
 そして気付いてしまったら今度は四季にどう接していいか分からなくなった。



 性の目覚めの起こる中学生。初めての夢精の相手は弟だった。その罪悪感たるや半端なく、俺は四季の顔が見られなくなった。俺はゲイなのか? ロリコンなのか? いや四季は男だからショタコンか……バース性がαである俺にとって性別は特に関係ない。男であろうと女であろうとΩでありさえすれば性的対象になるのだが、四季は女でもなくΩですらなく、自分はおかしいのだと悶々と悩み続けた。
 もし自分が小児性愛的な人間なのだとしたらこれは一過性の想いだ、四季の成長と共にこの気持ちは消えてなくなるはずと俺は自分を騙し続けた。けれど、その俺の気持ちはよその子供に向く事はなく、そして四季から離れる事もなかった。

 四季が中学に上がる歳、俺は大学に進学した。すらりと伸びた手足、大人とも子供とも言えないアンバランスな年頃の四季の色気に俺は見悶えた。このままではいつか四季を襲ってしまうのではないかと怖くなった俺は家を出る事も検討したのだが、そんな育ち盛りの四季の成長を脳に刻まずにはいられなくて俺は家を出る事が出来なかった。

 そのままずるずると社会人になっても実家に暮らし続け、このままでは駄目だと思った俺は四季が20歳になったら、この想いを告げて四季の前から姿を消すつもりでいた。
 20歳になるまであと2年、それまで自分は四季にとって良い兄でいようとしていたのだ。
 けれど転機は訪れる、四季が家族に向けて「彼女が出来た」と照れくさそうに告げた瞬間俺の血の気は引いた。いつまでも子供ではないと分かっていた、いずれ四季も独り立ちする時が来るのだと、頭の中では理解していたはずなのに、急に現実を突きつけられた俺は「お前はまだ子供だろ!」と思わず口走り、不機嫌な表情を見せられ初めて失言だったと気が付いた。
 普通の兄弟ならば、そこは普通に「おめでとう」と囃し立てる、もしくは「そうか」と受け入れるべき所だった、実際双子の弟達は「めでたい、めでたい」と四季の事を囃し立て笑っていた。
 俺のこの感情がおかしいのだ、『女に四季を奪われた!』俺の頭の中にはそんな黒い感情しかなくて、改めて自分の気持ちの業の深さを知った。そして同時に俺はもうひとつの事実に気付く、樹が何も言わない。我が家で一番四季と仲が良いのは末弟の樹だ。一番年が近い事もあり、部屋も同じ、そんな樹が何も言わずに口をへの字に歪めていた。

「もしかして樹は四季が好きなのか?」

 2人きりの時に何とはなしにそう問うたら「一兄だってそうだろう!」と返された。
 「僕、今まで一番のライバルは一兄だってずっと思ってたのに、悔しい……」なんて、ずばりと切り込まれて戸惑った。

「知っていたのか?」
「分からない訳ないだろう? 一兄のフェロモンは分かりやすくいつも四季兄を向いてる。四季兄だけは絶対に気付かないだろうけどね。でも四季兄が彼女を作ったって事は四季兄は抱く側だって事だ、そりゃそうだよね四季兄は男だし。だったらまだ僕にだってチャンスは残ってる。僕は女になんて負けないもん!」

 末弟の樹はその辺の女より断然可愛い、本人にもその自覚があって自分が可愛い言動をしていれば周りがちやほやしてくれる事を自覚している聡い子だ。
 兄弟の中でも四季の一番近くに居て、そして四季に甘える事を許されている存在……

「四季の意志は尊重すべきだ」
「え?」
「四季にだって自分で選択する権利がある」
「そんな事、僕だって分かってる!」
「樹、不可侵条約を結ぼう。四季に対して無理強いはしない、四季の意志はあくまで四季の物。四季が誰を選ぶかそれは四季の気持ちに任せる。それは俺かもしれないし、お前かもしれない、もしかしたら彼女かもしれない、だけど四季の決めた事に従う事」
「えぇ……」

 不服そうな樹に無理やり俺の意見を飲ませた。これは牽制だ、まさかこんな近くにライバルがいるとは思わなかった。あと2年で自分は四季の前から消えるつもりでいたのに、急に怖くなった、俺は誰かの隣で笑う四季など見たくない。
 自分の心の中にはこれほどまでに重い感情があるのだと、俺はその時改めて自覚したのだ。

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