榊原さんちの家庭の事情

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双子のαは殻の中

双子のαは殻の中

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「ねぇ、2人にとって私って一体何なのかな?」
「ん? 俺達にとって君は可愛い恋人だけど、なんで?」

 付き合い始めて数週間『ああ、またか』と俺は心の中で苦笑する。

「だってさっきからあなた達2人だけでずっとゲームをしていて、私の事なんておざなりじゃない!」
「だってそれは仕方なくない? これは2人用のゲームだし、寂しいんなら変わるよ、ほら」

 俺がコントローラーを差し出すと、彼女はそれにムッとした表情で「そういう事じゃないの!」と、声を荒げる。

「だったら何? 君はどうして欲しいのかな?」
「私はあなた達2人の彼女なんでしょ? もっと大事に扱ってって言ってるの!」
「俺達すごく大事に扱ってるつもりだよ、なぁ、双葉?」
「うん、すごく大事に扱ってるよねぇ、三葉」

 俺の線対称に向かい側、俺と同じ顔が俺と同じ表情で苦笑しているのが見て取れる。双葉の心の内は手に取る様によく分かる、そろそろ潮時だなと感じているね。

「あなた達の仲が良いのは分かってる、私もそんな2人が好きで2人の彼女になれるならとそう思った。私はあなた達にもっと愛されると思っていたわ、だけどこれじゃ私なんてあなた達のただのおまけじゃない!」
「そんな事言われても……」
「2人両方の彼女でいいって言ったのは君の方だよね?」
「そうよ! 2人の彼女になれば私は他の人の二倍愛されると思っていた、だけど違う、結局あなた達は2人でいればそれでいいんじゃない! 恋人なんて必要ないんでしょ!」
「それは違う! けど、まぁ、そう思われちゃうんならもう仕方ないな……」
「うん、俺達を理解できないならもう無理だ」

 「「別れよう」」2人の言葉が綺麗にハモる、「寒いから気を付けて帰るんだよ」と声をかけると彼女は悔しそうに眉を寄せ泣きそうな顔で部屋を出て行った。

「また駄目だったな三葉」
「そうだな、双葉。今度こそ上手くいくと思ったんだけどなぁ」

 そもそも俺達に言い寄ってきたのは彼女の方からだ、よく似た双子の俺達を好きだと言って、2人とも好きだから選べないとそう言った。だから俺達は彼女を選んだというのに、結局これだ。

「なかなか上物のΩだったのに」
「彼女は物じゃないんだから上物とか言うな」
「だって、ただでさえΩは数が少ないのに、俺達2人を纏めて選んでくれる人ってそうないだろう?」
「まぁ、そりゃそうなんだけどさ……」
「でもまぁ、俺は三葉が居ればそれでいいんだけど」
「それは俺も同感だね」

 自然と唇が重なって、お互いが貪るように舌を絡め合う。何だかんだで2人でいるのが一番気楽で、本当は恋人なんていなくてもいいのかな? って俺は思ってたりもするんだ。けれど双子の兄の双葉は何故か恋人を欲しがって、とっかえひっかえ相手を連れてくる。それでも2人の恋人にって言った瞬間に引かれる事がほとんどだけど。

「今日はどっちの気分? 上? 下?」
「う~ん、じゃあ下」

 冷たい指が俺の肌を撫でる。あぁ、もう冬だもんなぁ……

「双葉、冷たいよ」
「すぐに温かくなるよ」

 そう言って笑う顔は俺と同じ。いつも思うんだけど、これってどうなんだろう? 自分で自分の顔に欲情するって、なんてナルシスト? それでも俺と双葉は別人だから本当に自分だったらげんなりするのだろうけど、それが双葉だと思うと興奮するの何でなのかな? やっぱり少し自意識過剰? だって俺は双葉がとても好きなんだ。
 生まれた時から隣にいる俺の兄。いいや、どっちが兄かなんて本当は分からないよな、出てきたのが後か先か、たったそれだけの事だしな。
 同じ卵、同じ腹から生まれてきた俺達は生まれてきた瞬間から2人で1人、本来なら別れるべきじゃない命が別れて生まれた、だからこんなにも愛しくてたまらない。
 一説には双子は結ばれなかった恋人達が心中して生まれ変わった姿だって説もあるらしいけど、惚れた腫れたじゃないんだよ、そこに居るのが当たり前で俺は双葉でも三葉でもある。それはたぶん双葉も同じ、どっちでもいいんだ、名前が付いたから別人なだけで俺達は元々同一なんだから。
 内臓を押し上げる律動、零れる吐息はどちらのものか。のけぞり見上げた窓の外、ちらちらと舞い始めた粉雪に思わず声を上げると「なに余裕ぶっこいてんの?」と、なお一層奥へと昂りを押し付けられた。

「ちょ……双葉っ! んっ、まって、ひゃん」
「雪なんか見てないで俺を見ろよ、三葉」
「んっ、んんっ……ふた、ば」

 見上げたそこには、やっぱり自分にそっくりな顔があるだけなのになんだか可笑しいの。



 気だるい身体を横たえて、俺は傍らの片割れを眺めやる。

「ねぇ、双葉。双葉はなんでそんなに恋人を欲しがるんだ? 彼女も言ってたけど、正直俺は双葉さえいればそれでいいのに」

 瞬間、双葉は満面の笑みをぱっと見せて、けれどすぐに俺から瞳をそらし窓の外を見やる。

「あ、また雪だ」

 話を逸らそうとするように言った双葉に「答えになってないよ」とその身体を抱き寄せると「だって俺達2人じゃ何も残らない」と双葉は拗ねたようにそう答えた。

「消えてなくなるだけなんだ、あの雪みたいに。俺は俺達が生きた証を残したい。双葉がΩだったらなぁ、別に俺でもいいけどさ」
「何それ、もしかして双葉は子供が欲しかったの?」
「悪い?」

 少し怒ったように双葉がこちらを見やる。

「俺達にそっくりな子供、可愛いだろ!」
「俺達にそっくりじゃあ、3人みんな同じ顔になっちゃうよ」

 思わず笑いだした俺に双葉は憮然とした表情で「それでいいだろ」とそう言った。

「その為だけに俺達の間に他人を介入させようとするなら本末転倒だね、そもそもそれだけの為に恋人を作ろうだなんて動機が不純すぎる」
「だって……」
「だって何?」
「三葉が俺を選んでくれなかった時、困る」

 またしても双葉がふいと瞳を逸らした。選ぶ? 選ぶってなんだ? 双葉の事なら何でも分かっているつもりだったのに、言っている意味が分からない。
 俺は双葉の手に自分の手を重ねてぎゅっと握り込む。

「1人は嫌だ、2人がいい」
「2人がいいなら俺は双葉がいいけど、双葉はそうじゃないの?」
「つっっ……三葉の馬鹿!」
「なんでだよっ!」

 ふいと横を向いた双葉の頬が気持ち赤くて、冷えるからかな? と思ったけれど、繋いだ手はなお暖かくて、照れているだけかと気が付いた。

「なんで俺が離れてくなんて思ったの?」
「俺が連れてくる奴等、なんでかいつもお前を選ぶからだよっ」

 俺と双葉はそっくりで、ほとんどの奴らが見分けも付かないくせにそういう事はままあって、それを不安に思ってたの?

「俺がお前以外の人間選ぶわけないだろ」
「そんなの分からないだろ!」
「選ばないよ、双葉が俺以外の誰かを選ばない限りね」

 双葉には言ってない、教えてない。俺は双葉以外を選ばない。だから俺は双葉のふりで恋人達に冷たくあたる、当然彼等は三葉に縋って、だけど双葉はそれを許さない。当然俺だって双葉を誰かにあげるつもりなんてさらさらないんだ。
 だからもう、第三者なんて連れてこなけりゃいいんだよ。俺達は二人だけで充分だろ? だけど子供かぁ、その提案は少しだけ魅力的だね。

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