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強気なΩは好きですか?①
自分の心が分からない
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きゃーきゃーと黄色い声援が飛び交う試合会場、僕は声援を送る女の子達から離れた場所からグラウンドを見やる。
「お前の彼氏、滅茶苦茶モテてるけど大丈夫?」
「ってか予想以上に人気者じゃん、樹君ピ~ンチ」
「うっさい、まだ彼氏じゃないし!」
僕の言葉に双子の兄は「だったらその不機嫌顔やめたら?」と声を揃えてくすくす笑う。直近であった篠木先輩のサッカーの試合会場は僕が一人で観戦に赴くには少し遠くて、兄に車を出してもらったのは良いのだが、双子の兄は僕をからかう気満々でちょっと嫌。
車を出してもらった手前、一通りの事情は説明したんだけど、適当に誤魔化しておけば良かったよ。
ウォーミングアップをする選手達、その中には勿論篠木先輩もいて、その真剣な表情はやはり格好いい。なんだよ、そういう顔も出来るんじゃん。
先輩には観戦に行くとか、そんな話はひとつもしていないのだけど、ふいに顔を上げた先輩がこちらを見やって目が合った。いや、合ったかな? グラウンドからはずいぶん離れているしきっと気のせい……と思ったら、先輩が大きく僕の方に手を振った。
嘘、ホントに見えてるの?
「樹も手、振ってやったら?」
「そうそう彼氏のやる気爆上がりかもよ?」
両側から双子の兄にそう言われて、少しだけ手を振り返したら、先輩はふいと目を逸らした。なにそれ、ちょっと感じ悪い。もしかして僕に手を振った訳じゃなかったのかな? だとしたら僕、少し恥ずかしい事したな。
その後すぐに始まった試合は何故か先輩はミスの連発で見ていられない。正直ちょっとがっかりだよ。そして負け越しで迎えたハーフタイム、ホイッスルと共に駆け出した先輩が何処に行くのかと思ったら、ものすごい速さで僕達の前に現れた。
「樹、ちょっとこっち来て!」
「え? なに?」
双子の兄に挟まれるように座っていた僕は戸惑う。
「いいから来て!」
そこまで混んでいない観覧席、強引な篠木先輩に引っ張られ僕は先輩の腕の中にぽすんと収まってしまう。先程までグラウンドを走り回っていた先輩の体温は高く、そして少し汗臭い。だけど、何故だろう僕の動悸が跳ね上がる。僕、この匂い知ってる……
「樹! あいつ等、お前の何!?」
「え……何って、兄ちゃん」
「兄ちゃ……ん? え? 樹のお兄さんは確かβのはず……」
「うち兄弟多いから。四季兄は4番目の兄ちゃん、この2人は2番目と3番目」
「「どうも~」」と双子の兄が声を揃えてにこりと笑うと、先輩が脱力したようにしゃがみ込んだ。
「何? どうかしました?」
「樹が俺の知らない男連れてるから浮気かと……」
「浮気って……そもそも僕達まだ付き合ってないですよね!?」
「心臓壊れるかと思った」
「そんな大袈裟な」
僕は呆れてしまうのだが、先輩の表情は至極真面目でどんな顔をしていいのか分からないよ。
「そんな事より、試合! 何なんですかアレ!?」
「樹が浮気してると思ったら集中出来なかった」
はぁ!? 先輩の不調を僕のせいにするとか最低だよ!
「でも最後までちゃんと見てて、絶対勝つから!」
それだけ言い残して先輩はまた来た時同様の慌ただしさでグラウンドに戻っていく。その後の先輩の活躍は目覚ましく、本当に逆転して勝っちゃったんだから僕が気になって試合どころじゃなかったって言うのもあながち間違いではなかったのだろう。
僕の方は纏わり付く先輩の匂いでその後は観戦どころじゃなかったんだけどね!
「あいつ、さりげなく樹に匂い付けしてったな」
「そうだな、あれは意外と嫉妬深いぞ。大変だな、樹」
「だから、まだ付き合うなんて言ってないのに!」
でも僕は気付いてしまった、あの日、僕が学校でヒートを起こしたのは先輩の匂いを嗅いだからだ。ふわりと風に乗ってきた匂いに急に動悸がして慌ててトイレに駆け込んだ、そして僕はそのまま発情期(ヒート)に突入した。
先輩は僕を『運命』の相手だと言ったけど、それはもしかしたら僕も本能的に感じていた事だったのかもしれない。だけど、その後の先輩からはそんなフェロモンの匂い全然しなかったのに!
「樹! 俺、格好良かっただろ!?」
試合後、両手を広げて満面の笑みで飛びついて来た先輩からはやっぱり凄く良い匂いがしてドキドキする。他人の汗の匂いなんて、今まで臭い以外の感情持った事ないのに……
「っつ……先輩は感情にムラがあり過ぎます! 出来るんなら最初からちゃんとやってください! それに暑苦しい! 引っ付かないで!」
この上がる心拍を悟られたくない僕は殊更に先輩に冷たくあたるのだけど、やっぱり先輩は「樹のそういうとこ、好き」なんて笑うんだ。なんなの? マゾなの? 僕、Sっ気はないはずなんだけどな!?
しかも双子の兄ちゃん達は「あいつは良いと思うよ?」「浮気はしないタイプ」と口を揃えていうモノだからなんだか複雑。
僕は本当に今まで先輩に『運命』なんて感じなかったはずなのにおかしいなぁ……沈まれ心臓、もう息もできないよ。
「お前の彼氏、滅茶苦茶モテてるけど大丈夫?」
「ってか予想以上に人気者じゃん、樹君ピ~ンチ」
「うっさい、まだ彼氏じゃないし!」
僕の言葉に双子の兄は「だったらその不機嫌顔やめたら?」と声を揃えてくすくす笑う。直近であった篠木先輩のサッカーの試合会場は僕が一人で観戦に赴くには少し遠くて、兄に車を出してもらったのは良いのだが、双子の兄は僕をからかう気満々でちょっと嫌。
車を出してもらった手前、一通りの事情は説明したんだけど、適当に誤魔化しておけば良かったよ。
ウォーミングアップをする選手達、その中には勿論篠木先輩もいて、その真剣な表情はやはり格好いい。なんだよ、そういう顔も出来るんじゃん。
先輩には観戦に行くとか、そんな話はひとつもしていないのだけど、ふいに顔を上げた先輩がこちらを見やって目が合った。いや、合ったかな? グラウンドからはずいぶん離れているしきっと気のせい……と思ったら、先輩が大きく僕の方に手を振った。
嘘、ホントに見えてるの?
「樹も手、振ってやったら?」
「そうそう彼氏のやる気爆上がりかもよ?」
両側から双子の兄にそう言われて、少しだけ手を振り返したら、先輩はふいと目を逸らした。なにそれ、ちょっと感じ悪い。もしかして僕に手を振った訳じゃなかったのかな? だとしたら僕、少し恥ずかしい事したな。
その後すぐに始まった試合は何故か先輩はミスの連発で見ていられない。正直ちょっとがっかりだよ。そして負け越しで迎えたハーフタイム、ホイッスルと共に駆け出した先輩が何処に行くのかと思ったら、ものすごい速さで僕達の前に現れた。
「樹、ちょっとこっち来て!」
「え? なに?」
双子の兄に挟まれるように座っていた僕は戸惑う。
「いいから来て!」
そこまで混んでいない観覧席、強引な篠木先輩に引っ張られ僕は先輩の腕の中にぽすんと収まってしまう。先程までグラウンドを走り回っていた先輩の体温は高く、そして少し汗臭い。だけど、何故だろう僕の動悸が跳ね上がる。僕、この匂い知ってる……
「樹! あいつ等、お前の何!?」
「え……何って、兄ちゃん」
「兄ちゃ……ん? え? 樹のお兄さんは確かβのはず……」
「うち兄弟多いから。四季兄は4番目の兄ちゃん、この2人は2番目と3番目」
「「どうも~」」と双子の兄が声を揃えてにこりと笑うと、先輩が脱力したようにしゃがみ込んだ。
「何? どうかしました?」
「樹が俺の知らない男連れてるから浮気かと……」
「浮気って……そもそも僕達まだ付き合ってないですよね!?」
「心臓壊れるかと思った」
「そんな大袈裟な」
僕は呆れてしまうのだが、先輩の表情は至極真面目でどんな顔をしていいのか分からないよ。
「そんな事より、試合! 何なんですかアレ!?」
「樹が浮気してると思ったら集中出来なかった」
はぁ!? 先輩の不調を僕のせいにするとか最低だよ!
「でも最後までちゃんと見てて、絶対勝つから!」
それだけ言い残して先輩はまた来た時同様の慌ただしさでグラウンドに戻っていく。その後の先輩の活躍は目覚ましく、本当に逆転して勝っちゃったんだから僕が気になって試合どころじゃなかったって言うのもあながち間違いではなかったのだろう。
僕の方は纏わり付く先輩の匂いでその後は観戦どころじゃなかったんだけどね!
「あいつ、さりげなく樹に匂い付けしてったな」
「そうだな、あれは意外と嫉妬深いぞ。大変だな、樹」
「だから、まだ付き合うなんて言ってないのに!」
でも僕は気付いてしまった、あの日、僕が学校でヒートを起こしたのは先輩の匂いを嗅いだからだ。ふわりと風に乗ってきた匂いに急に動悸がして慌ててトイレに駆け込んだ、そして僕はそのまま発情期(ヒート)に突入した。
先輩は僕を『運命』の相手だと言ったけど、それはもしかしたら僕も本能的に感じていた事だったのかもしれない。だけど、その後の先輩からはそんなフェロモンの匂い全然しなかったのに!
「樹! 俺、格好良かっただろ!?」
試合後、両手を広げて満面の笑みで飛びついて来た先輩からはやっぱり凄く良い匂いがしてドキドキする。他人の汗の匂いなんて、今まで臭い以外の感情持った事ないのに……
「っつ……先輩は感情にムラがあり過ぎます! 出来るんなら最初からちゃんとやってください! それに暑苦しい! 引っ付かないで!」
この上がる心拍を悟られたくない僕は殊更に先輩に冷たくあたるのだけど、やっぱり先輩は「樹のそういうとこ、好き」なんて笑うんだ。なんなの? マゾなの? 僕、Sっ気はないはずなんだけどな!?
しかも双子の兄ちゃん達は「あいつは良いと思うよ?」「浮気はしないタイプ」と口を揃えていうモノだからなんだか複雑。
僕は本当に今まで先輩に『運命』なんて感じなかったはずなのにおかしいなぁ……沈まれ心臓、もう息もできないよ。
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