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59 ジリオの日記4
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――彼女の言葉を忘れないよう、なにが彼女の心を解放するきっかけになるか、わからないから、これ以降、彼女の言動をそのまま記す。
辛抱強く、なにがあったのか? ピジュに問いかけた。
「愛しいピジュ、可愛いピジュ、なにがあったの?」
「ピジュと呼ばないで! わたくしをその名前で呼ばないで! あなたのピジュはもういないの! わたくしは、あなたのピジュじゃない! あなたに愛されたピジュはもう死んだの!」
「落ちついてピジュ」
「いや! さわってはダメ! ジリィが汚れてしまいますわ」
泣き崩れるピジュの姿に、過去の嫌な経験がよみがえる……え? まさか、だって……ピジュは、私だけのものだって……ラズ侯爵が約束してくれていた……はず……
ギギギッと重い首を、扉のかげでふるえているラズ公爵のほうへ向ける。私の顔を見た彼は、ヒッ! と短い悲鳴をあげた。
「エバンティス侯爵の命令で、しかたがなかったのです! 未婚の血族は、血族の仕事をことわることはできない!」
「……誰に?」
「ひぃ!」ラズ侯爵がガクガクふるえながら、腰を抜かした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……わたくしはもう、ジリィの花嫁にふさわしくないの」
ピジュが嫌がるのを無視して、ガッと抱きしめ、彼女の唇を自分のそれでふさいだ。ピジュはビクリと体をふるわせたあと、だらりと体の力を抜き、私の舌に答えてくれた。
「あ、わたくし……ひとつだけ守れたわ。ジリィへの愛の証……口づけされないように、こうやって身体強化して手で口を覆ったの」
泣きながら、自分の口元を両手で覆った彼女の、小さなふるえる手を取り、その指先にも口づけを落とす。
「私と同じだよ……ピジュ。私も口づけだけは、君に捧げている。血族の仕事から守れなくてごめんね。はやく婚姻しよう。そうすれば私が君を守ってあげられるから」
「いいの? わたくしで……本当に?」
「私の花嫁は、ピジュだけだよ」
「うん……あなたの花嫁になりたかったの……本当に? 夢を叶えてくださるの?」
ピジュとふたり、抱きあって泣いた。彼女の気持ちが落ちつくまで、ラズ侯爵邸に滞在することにした。父からは、はやく戦後処理の報告に登城しろ! と催促がきたが、すべて無視した。
私のピジュが笑顔を見せてくれるようになって数日。彼女の具合が悪くなった……
――――――ピジュは、私の愛しいピジュは…………妊娠していた……
ラズ侯爵は、私が血族の仕事に嫌悪感を持っているのを知っていた。ピジュを私の好みに育てあげようと、彼女に閨教育をしていなかった――より純粋で無垢な存在に育つように……
私が送った未成年向け恋愛物語りぐらいの、性の知識しか持たなかったピジュは、体内にだされた精液を浄化魔法で消してしまう方法すら知らなかったのだ……
――――ピジュは、私以外の子供を身ごもったことを知った……
「浄化魔法を体内にかけなかったのか? 望まない妊娠をしないよう、できたのに……誰の子かわかるか?」
無責任なラズ公爵の言葉に、彼女は悲痛な叫び声をあげた。
――――絶望が彼女を狂わせた……
ピジュを抱きしめ、口づけをし、どれだけ止めようとしても、彼女の口から紡ぎだされる、浄化魔法をやめさせることはできなかった。
のどから血がでても、私の腕のなかで泣き叫びながら唱えられる浄化魔法。彼女が疲れはて眠りにつくまで、その声は止まらなかった……目覚めたとき、ピジュの美しかった銀髪が真っ白に変わっていた。
そして真っ赤に染まった夜着の下半身…………彼女は流産した……
――ピジュと呼んでも、反応しなくなった愛しい人。癒しになれば、と贈ったウーニャにだけ微かな微笑みをむけている……だから、彼女を……今日から『僕のウーニャ』と呼ぶことにする。
ピジュと呼ばなければ、反応してくれる……
僕のウーニャと呼べば、笑ってくれる……
愛しいピジュの日記は、これで綴ることをやめようと思う。今日から彼女は、新しい人生を生きる僕のウーニャなのだから……
辛抱強く、なにがあったのか? ピジュに問いかけた。
「愛しいピジュ、可愛いピジュ、なにがあったの?」
「ピジュと呼ばないで! わたくしをその名前で呼ばないで! あなたのピジュはもういないの! わたくしは、あなたのピジュじゃない! あなたに愛されたピジュはもう死んだの!」
「落ちついてピジュ」
「いや! さわってはダメ! ジリィが汚れてしまいますわ」
泣き崩れるピジュの姿に、過去の嫌な経験がよみがえる……え? まさか、だって……ピジュは、私だけのものだって……ラズ侯爵が約束してくれていた……はず……
ギギギッと重い首を、扉のかげでふるえているラズ公爵のほうへ向ける。私の顔を見た彼は、ヒッ! と短い悲鳴をあげた。
「エバンティス侯爵の命令で、しかたがなかったのです! 未婚の血族は、血族の仕事をことわることはできない!」
「……誰に?」
「ひぃ!」ラズ侯爵がガクガクふるえながら、腰を抜かした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……わたくしはもう、ジリィの花嫁にふさわしくないの」
ピジュが嫌がるのを無視して、ガッと抱きしめ、彼女の唇を自分のそれでふさいだ。ピジュはビクリと体をふるわせたあと、だらりと体の力を抜き、私の舌に答えてくれた。
「あ、わたくし……ひとつだけ守れたわ。ジリィへの愛の証……口づけされないように、こうやって身体強化して手で口を覆ったの」
泣きながら、自分の口元を両手で覆った彼女の、小さなふるえる手を取り、その指先にも口づけを落とす。
「私と同じだよ……ピジュ。私も口づけだけは、君に捧げている。血族の仕事から守れなくてごめんね。はやく婚姻しよう。そうすれば私が君を守ってあげられるから」
「いいの? わたくしで……本当に?」
「私の花嫁は、ピジュだけだよ」
「うん……あなたの花嫁になりたかったの……本当に? 夢を叶えてくださるの?」
ピジュとふたり、抱きあって泣いた。彼女の気持ちが落ちつくまで、ラズ侯爵邸に滞在することにした。父からは、はやく戦後処理の報告に登城しろ! と催促がきたが、すべて無視した。
私のピジュが笑顔を見せてくれるようになって数日。彼女の具合が悪くなった……
――――――ピジュは、私の愛しいピジュは…………妊娠していた……
ラズ侯爵は、私が血族の仕事に嫌悪感を持っているのを知っていた。ピジュを私の好みに育てあげようと、彼女に閨教育をしていなかった――より純粋で無垢な存在に育つように……
私が送った未成年向け恋愛物語りぐらいの、性の知識しか持たなかったピジュは、体内にだされた精液を浄化魔法で消してしまう方法すら知らなかったのだ……
――――ピジュは、私以外の子供を身ごもったことを知った……
「浄化魔法を体内にかけなかったのか? 望まない妊娠をしないよう、できたのに……誰の子かわかるか?」
無責任なラズ公爵の言葉に、彼女は悲痛な叫び声をあげた。
――――絶望が彼女を狂わせた……
ピジュを抱きしめ、口づけをし、どれだけ止めようとしても、彼女の口から紡ぎだされる、浄化魔法をやめさせることはできなかった。
のどから血がでても、私の腕のなかで泣き叫びながら唱えられる浄化魔法。彼女が疲れはて眠りにつくまで、その声は止まらなかった……目覚めたとき、ピジュの美しかった銀髪が真っ白に変わっていた。
そして真っ赤に染まった夜着の下半身…………彼女は流産した……
――ピジュと呼んでも、反応しなくなった愛しい人。癒しになれば、と贈ったウーニャにだけ微かな微笑みをむけている……だから、彼女を……今日から『僕のウーニャ』と呼ぶことにする。
ピジュと呼ばなければ、反応してくれる……
僕のウーニャと呼べば、笑ってくれる……
愛しいピジュの日記は、これで綴ることをやめようと思う。今日から彼女は、新しい人生を生きる僕のウーニャなのだから……
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