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01 落ちて来た異世界人

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「疲れた~ 週末は絶対ダラダラする~」
 
 佐藤理緒リオは会社帰りコンビニで夕食を買いこみ、一人暮らしのアパートの玄関ドアを開けた。立地条件より格段に家賃の安い、お手頃ワンルームだ。

 階下の住人が「この部屋に住む人、何人も蒸発しちゃう事故物件なのよ」と、意地悪な忠告をしてきたが、不動産屋さんはなにも言ってなかったし……
 きっとドタバタ足音高く生活するな! の忠告なのだと思っている。

「週末は好きなWeb小説を読みながら、静か~に死んだようにひきこもる予定ですよ~」

 ――確かに玄関ドアを開けたと思った。
 室内からあふれる乱反射する七色の光――体がヒュッと下へひっぱられる。

 落ちる? なんで? 床は?

 階下のおばさんを、つぶしちゃわないかな? 墜落の衝撃にそなえるように、ぎゅっと目を閉じた。

「大丈夫か?」

 ――レスキューが来てくれたの?

 思っていた衝撃はなかった。よかった。そっと目を開けると、目の前に青い瞳。
 キレーな青い目。碧眼っていうんだっけ。

 ――瞬間、視界がひらけた。

 深い森のなか、中世の騎士のような格好をした赤髪、碧眼の外国人が私を横抱きしている。

 ――ちょっと待って!? お姫様抱っこ??
 わーい『死ぬまでやってみたい10のこと』ひとつクリアーって違うか! 憧れていたけれど!
 最近のレスキュー隊員の制服……のわけないよね? 騎士だよね? 騎士様だよね??

「――な、なにが、どうなったの……ですか?」
「よかった言葉はつうじるようですね。初めまして小さな聖女様。私はシシーリア聖皇国の宰相補佐、ジリオーラ・エバンティス・セフィロース伯。――ジリオって呼んで」

 私を横抱きしている騎士様の横から、サラサラの長い銀髪を後ろで1本に結んでいるイケメンさんが話しかけてくる。
 髪を結んでいるローズピンクのレースのリボンが、やけに可愛らしい。

「――ジリ……「セフィロース卿!」」

 騎士様の大声にビクッと体がふるえる。

「怖い顔しないでよ。『聖者・聖女条約』により、我が国にも聖女をお迎えする権利が発生した。友好国相手でもゆずれないよ」

 ふぅ~っ、と、ため息をついた騎士様は、一度ぎゅっと目をつむり私を地面におろした。そのまま私の前に跪くと、そっと右手を取られる。

 なにこの状況? 騎士の誓い? 想像以上に恥ずかしくって――目が泳ぐ。

 まわりに騎士様とジリオ様以外いないのが、せめてもの救いか?

「私はシャルナ王国の騎士、アラン・ロズベルト。ここはシャルナ王国、シノアの森。あなたを異世界からの聖女と認定し保護します。突然のことで不安でしょうが、お守りします。まずは王宮へご案内しましょう」

 エスコートするように私の右手を右手に握りこみ、左手は腰……というよりお腹にまわされた。

 ――ホールド? がっちり騎士様の胸のなかに抱きこまれているんですけれど??

 立ちあがるとよくわかる。ジリオ様も背が高いけれど、騎士様はさらに高い。
 子供の頃から背が低いのがコンプレックスだった私は、高いヒールを履いてギリ160cmのはずなのに、頭が騎士様の胸の位置って??
 ふるふる、ふるえながら騎士様を見上げる。
 
「あの……騎士様」
「どうかアランと」
「――ア、アラン様……」
「アランと」
「…………」

 ――無理~! 21歳年齢=彼氏いない歴の、地味なOLには、男性にたいしての免疫がなさすぎるのです。異性を呼び捨てなんてしたことがない。
 ア、アラン様の声もなんかやけにセクシーだし。なにこれ? なにこれ~?

「ロズベルト、君は私の護衛でしょ」
「セフィロース卿、ただ今をもって『聖者・聖女条約』により、彼女が一番の保護対象になりました」

 ふと気がついたようにアラン様が見下ろしてきた。

「聖女様、お名前をうかがっても?」
理緒リオです~」
「リオデス様」
「――リオ。――佐藤理緒リオ……です」
「「リオ(様)とお呼びしても?」」

 ジリオ様とアラン様のいきおいに押され、いっぱいいっぱいだった私はカクカクと上下に頭を振ることしかできなかった。





 ――その日、シャルナ王国の上空に異世界からの来訪者をつげる虹色の雲、彩雲がかかった。
 数百年に1度の割合でおとずれる、神の御業。めずらしいことだが、前例がうしなわれるほど期間があくわけでもない。
 異世界からの来訪者は、ひとしく強大な魔力をその身に内包していたため、男性は聖者、女性は聖女と呼ばれた。
 国益につながる存在のため、保護、国への報告、各国間の条約など決まりごとも多くあり、徹底的に守られた。

 リオが落ちてきた場所が、シャルナ王国とシシーリア聖皇国をつなぐシノアの森でなければ……

 両国間の貿易開発会議が開催される、今の時期でなければ……

 ――彼女も、聖女と呼ばれ、幸せに微笑んでいることができたはずだった。
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