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01 仕組まれた断罪劇
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「リルの無罪は証明された。ブィア鑑別所へ連絡を! 彼女をバリィ侯爵家へもどすように手配してくれ。彼女が望むなら、私の婚約者へもどすことは可能か?」
「アルトヴァルツ殿下……リリラフィーラ様は流行病で亡くなったとしたほうが……」
側近のケイオスの言葉にムッとし、眉間のシワが深くなる。リルの冤罪騒ぎで心身ともに疲れきっているのに、たった1年前にもどすことのなにが問題なんだ? しかも亡くなったことにする? ああ、ケイオスも4大伯爵家の出だ……4大伯爵家からは新たな婚約者候補が選出されている。帝国唯一の侯爵家の令嬢が、私の婚約者にもどるのは、都合が悪いのだろう……
幼いころ決まった、リリラフィーラ・バリィ侯爵令嬢との婚約に文句はなかった。
リルは可愛らしく金の巻き毛を指にクルクルとまきつけ、歌を歌うのが好きな少女だった。『小鳥と一緒に歌い冒険しましょ』だとか『妖精に祝福された指輪をなくした』だとか、彼女の気分でサクランボのような唇からつむがれる、おとぎ話のような歌詞が王太子教育で忙しくしていた自分の気持ちを癒してくれるようで、大好きだった。
リルが歌わなくなったのは? いつからだっただろうか? アカデミーに入学してからは、そういえば聞いていない……「自分とお茶をしてほしい!」と、騒いでいた彼女のことだ。また歌ってほしいとお茶に誘えば、喜んでもらえるだろうか?
無邪気な幼少のころの笑顔より、琥珀色の瞳が驚きで大きく見開かれ「身に覚えがありません!」と、泣き叫んでいたアカデミー卒業の祭典でのようすが、私の脳裏には鮮明に残っている。
誰よりも美しく着飾った彼女は衛兵に床に押しつけられ、苦悶の表情で私を見つめていた。
「アートどうか……」
ひさしく呼ばれていなかった愛称で呼びかけられた。妖艶な美しさに彩られた元婚約者リリラフィーラ・バリィ侯爵令嬢。
淑女の仮面をはずし、私に救いを求め、恥も外聞もなく涙を流していた断罪の日。
必死にのばされた細い白い手が、揺れていた。そのようすが今もまぶたの奥に焼きついていて、頭痛がする。
「アディが言っていたことが……アカデミーでの醜聞が、すべて冤罪だったとは……」
リルの冤罪を晴らし、名誉を回復すれば……1年前……いや、リルが笑っていたアカデミー入学前の仲のよい婚約者同士にもどれるはずだ……
私がちゃんと謝罪すれば、リルはきっと許してくれる……元通りに……なにもなかったかのように……すべて元通りに……
呪文のようにつぶやきながら、ブィア鑑別所へ馬を走らせた。リルは私のところへもどってくる……そう、信じていた。
冤罪を着せられ、愚かな王太子に断罪され、婚約破棄された帝国唯一の侯爵家の令嬢が、少し大げさな痴話げんかのあと、もとの生活にもどった……愚かなのは王太子の私。アルトヴァルツ・トゥラリウスだと証言し許しを請おう……
かなうなら、またあの可愛らしい歌を歌ってほしい……祈りをこめて、ふところに入れた黒い小箱を握った。
――私は知らなかったのだ……
私が送ったブィア鑑別所でリルが科せられた、再教育と労働奉仕の実情を……貴族の女性が、いや庶民でも、あそこに送られた者は死んだことにしてもらったほうが幸せな余生をすごせるということを……
「アルトヴァルツ殿下……リリラフィーラ様は流行病で亡くなったとしたほうが……」
側近のケイオスの言葉にムッとし、眉間のシワが深くなる。リルの冤罪騒ぎで心身ともに疲れきっているのに、たった1年前にもどすことのなにが問題なんだ? しかも亡くなったことにする? ああ、ケイオスも4大伯爵家の出だ……4大伯爵家からは新たな婚約者候補が選出されている。帝国唯一の侯爵家の令嬢が、私の婚約者にもどるのは、都合が悪いのだろう……
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「アートどうか……」
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必死にのばされた細い白い手が、揺れていた。そのようすが今もまぶたの奥に焼きついていて、頭痛がする。
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――私は知らなかったのだ……
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