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第四章
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しおりを挟む旅の支度はセリーヌや邸の者が全て整えてくれたので、私自身は特に何も用意するものもなく、あとはジークが来るのを待つのみといった感じだった。
イルボーネの街は王家が管理している街なので王族が立ち寄る事も考えて美しい邸が建てられている。
今回は私とジークが婚約した事がすぐに発表されたので、新婚旅行みたいに二人で旅行に出るといった名目らしい。
この発表もとても速やかだったので、お父様と陛下がどこまで知っていたのだろうかと疑念が生まれる。
もう二人とも絶対確信犯だわ。
ジークが私を好きで、こういう流れになるだろうと想定してイルボーネの街に行けと言ったのね。
その通りになるのは少しばかり癪だけど、ジークと婚約したのは素直に嬉しかった。それを公表してくれた事も。
私はこの世界では悪女的な立場だし、彼と婚約出来るとは思っていなかったから。
ジークは光の王子と言われるほど国民のイメージもクリアで素晴らしく、そんな彼と結ばれるのはどこかの国の王女とか、国にとって有益な相手じゃなければいけないと誰もが思っている。
まさか陛下が私との婚約を許可するとは思わなかった――――私が聖なる力を持っていたからなのかもしれないけど。
この力にも感謝しながら使わなきゃね。ゲームにはない力なんだし……どうして私に宿ったのか未だに分からないけど、それも魔王を倒すまでに分かってくるのかもしれない。
「お嬢様、準備完了です!」
「ありがとう、セリーヌ。あなたも来てくれるの?」
「もちろんですよ~~お嬢様の行くところ、セリーヌありです!地獄の果てまでお供いたしますっ」
「ふふっありがとう」
地獄は嫌だけど、セリーヌが来てくれるのは本当に嬉しいし安心する。
そうこうしているうちにジークが到着したのでエントランスホールを出ると、門の前には王族専用の馬車が停まっていて、彼と婚約出来たのだなとヒシヒシと実感する。
婚約した2人が乗る馬車だから外装も美しいわね……ジークは人目につかずに行きたい感じだったから質素な馬車かと思っていたのだけど、陛下にダメだと言われたのかしら。
「お嬢様~~王族のこんな素敵な馬車を初めて見ました!凄いですね!」
私に耳打ちするかのように顔を近づけながら、セリーヌが感動の声をあげている。そうよね、我が家に王族の馬車がやってくるなんて今までなかったものね。
すると馬車の扉が開かれて、中からジークが下りてきた。
柔らかい笑みを浮かべておりてきたジークは、王子様そのものといった感じで無駄のない所作に屋敷の者たちはうっとりと見入っている。
天然の人たらしとはこの事…………物凄いオーラもあるし、生まれながらの王族といった感じがするわね。
でも私が好きになったのはそんなところじゃなくて――――
「クラウディア、迎えにきたよ」
さっきまで王族風を吹かせていたのに私の存在を認識すると、途端にワンコのように顔を緩めて近づいて来る姿が可愛すぎる。
私にだけ見せる姿だから、こんな風に可愛いジークを見るのが初めての邸の者たちは、とても尊いものを見る目をジークに向けていた。
そんな雰囲気をばっさりと切るような声が公爵邸に響き渡る。
「兄上もクラウディア先生も早く乗ろうよ~~街に着くのがもっと遅くなっちゃうよ」
「…………え?ダンティエス校長?!」
「…………すまない、ディア。ダンテが勝手に父上に許可をもらっていたらしく」
「もう校長じゃないけどね。それに俺だけじゃないよ~」
「?」
ダンティエス校長の言葉を聞いて馬車の中を覗き込むと、校長の隣りにはミシェル副校長も座っていたのだった。
「副校長まで?!ど、どうして…………」
「申し訳ございません、クラウディア先生…………」
「まぁまぁ、旅は長いから行きながら話そうよ」
「は……」
あまりの急展開に私の口から間の抜けた声が出てしまう。いけない……落ち着くのよクラウディア。
自分を落ち着かせながらジークの方をチラリと見ると、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。あまりにも落胆した表情を見せるので、なんだか可愛くなって思わず笑ってしまう。
「ふふっジークが悪いわけじゃないでしょ。人数が多い方が心強いし、皆で楽しみながら向かいましょう」
「……そうだな」
私の隣りには大好きな人がいて優しく微笑んでくれてるし、何も恐れる事はない。
「じゃあ、みんな。行ってきます!」
邸の者に笑顔で挨拶をして馬車に乗り込むと、馬車は夜に溶け込むようにゆっくりと動き始め、イルボーネの街に向けて街道をひたすら進んでいった。
~・~・~・~・~
地底深くにそびえ立つ魔王城の玉座――――――
「魔王様、どちらへ行かれていたのかと思ったら…………また力を使われたのですか?」
銀の髪を真ん中で分けた執事風の魔族の男が、困り果てた様子で魔王の後ろを歩いていた。彼の名前はヘルマン、魔王の側近であり、魔王に次ぐ力の持ち主だ。
「少し人間の世界をかき回してやろうと思ったら、とんだ邪魔が入ってな」
「まだ本調子ではないのに力を使われるから、そのような目に遭うのですよ。たった一年の間に何があったのです!」
「そうヒステリックになるな、ヘルマン。いいものも見つかったのだ……」
あの時、クラウディアの魔力が想像以上に大きくてあの場を去るしかなかったが、次こそは絶対に手に入れてみせる。
あの平手打ち……………………想像以上に効いたな。
「何をおっしゃっているのですか!そのような姿で…………まるで小さな子供です!なんておいたわしいっ」
そう、あの時我は力を使い過ぎた為に体を大きく形成するほどの力がなくなってしまったのだ。今はこのくらいの大きさを保つのが精一杯とは……人間の子供だと5歳くらいか?
体の形成にはとても生命力がいる。魔法を使う力とはまた別なのでしばらくはこの体で過ごさなくてはならない。
「体は小さくとも魔界の者たちを一掃するくらいの魔力は残っているぞ」
「そんなお姿で仰られても説得力ありませんぞ!」
「ふむ……しかしこの姿は人間界では有利かもしれん」
この姿で街を歩いていたら、色んな人間が声をかけてきて食べ物を渡してきたりしたのだ。小さな子供は人々の心を緩ませるのだな。
もしかしたらクラウディアもこの姿だったら…………
「また人間界に行ってくる。後を頼む、ヘルマン」
「ま、魔王様……どちらへ?」
「さあな」
ヘルマンが「魔王様――!!」と後ろで叫んでいる声が聞こえてはいたが、目的の為に全力でスルーをして、彼女がいる場所に向かう事にしたのだった。
「待っていろ、クラウディア。この姿を見たら驚くだろうな、楽しみだ」
地底奥深くに存在する魔界は、先代魔王が大地に大穴をあけるほどのダメージを与えた時に地底に創り上げたものだと言われている。
その時に造られたものなのかは分からないが、魔王城は地上と一部繋がっている場所があり、玉座の後ろにある隠し小部屋に入ると、上へと一直線に続く通路が存在した。
なぜこんなものがその時に必要だったのかは分からないが……
この通路は魔王城に住む我とヘルマンしか知り得ないので、魔界の魔物が地上に行く事はなく、地上でこの通路の存在を知る者はいないだろう。
ヘルマンも叫ぶくらいなら一緒に来ればいいものを。アイツは先代から城を任されているから、城を空けるのが嫌なんだろうな。
そんな事を考えながら通路の中を一直線に上へ飛びながら移動すると行き止まりにたどり着き、我の魔力を当てると行き止まりだった壁は動き始め、出口に変わった。
地上は今は夜で、辺りには人の気配はなく、いつもの景色が広がっている。
我が出た場所はとある王宮内の裏庭の一角—―—―魔王城とは違い、夜でも煌びやかで眩しいな。
我が外へ出たと同時に出口の岩と芝が動き出し綺麗に塞がったので、外からは魔界への入口が全く見えない仕組みだった。
城壁に飛び乗ると、ここからそう遠くない場所にドロテア魔法学園が見える。
私からクラウディアを引き離したあの金髪の男—―—―ヤツはこの城の王族だったか。
まさかここから魔界へ行けるとは誰も思ってはいまい…………
「……さて、行くか」
魔王ロキは夜の地上の景色を一瞥すると、空高く舞い上がり、闇夜に溶けてしまったかのようにその姿はいつの間にか消えていたのだった。
第一部・完
~・~・~・~・~
最後まで読んでくださってありがとうございます!!<(_ _)>
本編は第一部完となりまして、第二部はただいま執筆中です~~!
色々と並行していますので、第二部は新年明けてからを予定しております。
また連載再開しましたら読んでいただけると嬉しいです^^
色々と伏線張りすぎた感じがしますが、最後まで回収できるように頑張ります!!
よろしくお願いいたします~~<(_ _)>
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