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第四章

ダンティエスSide 4

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 階段を上りかけていたミシェルは手すりにしがみついて必死に耐えていたので駆けつけて支えてあげた。

 これほどまでに大きな力とは……何が起こっているんだ?


 「校長!このように大きな力……先ほど森に入っていったクラウディア先生に何かあったのでは?!すぐ近くで感じます……!」

 「ああ、クラウディア先生と違う力を感じる……兄上に知らせなければ!」
 

 私がそう言って今度こそ理事長室に行こうとすると、生徒たちの悲鳴がどんどん増していく。

 私たちでも混乱するのだから生徒たちがパニックになるのも無理はない。学園は安全だと皆思っているし、この地で何事かが起こるとは誰も思っていなかっただろうから――――


 「その前に生徒たちを避難させなければならないな」

 「あ、理事長!」


 ミシェルの言葉に階段の上を見上げると兄上が急いで下りてきているところで、私たちは協力して生徒たちを避難させる事にしたのだった。

 でも兄上の顔を見ていると今すぐにでも駆けつけたいだろうに、真面目で頑固な兄上は必死にその気持ちを押し殺しているのが手に取るように分かる。


 物凄く苦しい顔をしているにも関わらず必死に生徒を誘導する姿を見ていられなくなって「兄上は行かなければならないところがあるでしょ」と声をかけた。


 「しかし私は王太子でありこの学園の理事長でもあるのだ。生徒を放って駆けつけるなど……」


 兄上らしい堅物な考えを披露してきて若干イラっとしたので、ほんの少し挑発してみる。
 

 「そんな事を言ってる場合?!何かあれば……」

 「何かあれば、だと?」


 この時、自分の言葉を人生で一番後悔したかもしれない。兄上からとてつもない力溢れ出し、魔力が暴走しそうになってしまったのだ。

 クラウディア先生に何かあればって想像しただけでこんな状態なのに、どうしてこの人は………………すると我々のやり取りを見ていたミシェルが、突然水魔法で兄上の人形のようなものを作り出した。


 「ミシェル、君って…………凄く器用なんだね」

 「校長、お褒めにあずかり光栄です。どうです?理事長は2人も要りませんので、あなたは用済みですからとっとと森に行った方がいいかと」

 「ミシェル!兄上になんて言葉をっ」


 とっても素直な物言いはミシェルの良いところだとは思うけど、不敬が過ぎると心配になってしまう。

 しかし兄上は憑き物が落ちたのか、スッキリした顔をしてミシェルにお礼を言うと、瞬間移動ですぐに森に飛んで行ったのだった。


 「………………まったく、ご兄弟そろって世話が焼けますね」

 「ミシェル、ありがとう。助かったよ。俺は本当に優秀な部下を持ったな~~」

 「お褒めにあずかり光栄ですね」


 いつものように冷静に返してきたミシェルは全然光栄といった感じではないけど、この気安いやり取りが好きだったので、自然と笑みがこぼれる。

 いつの間にかクラウディア先生への気持ちも落ち着いているし、ミシェルには感謝しなくては。


 するとそこへ避難している生徒の数が増してきて、ミシェルは生徒にぶつかった衝撃で転んでしまった。


 「きゃっ!」

 「危ない!」


 倒れ込む彼女を咄嗟に支えたものの眼鏡が吹き飛び、避難してきた生徒の足で踏まれてしまい、眼鏡は無残にもヒビが入って使い物にならない状態になってしまうのだった。

 
 「いたた…………ありがとうございます、校長。眼鏡……眼鏡…………」
 

 ミシェルは眼鏡がないと何も見えないのか、床に向かってお礼をいいながら四つん這いでひたすら眼鏡を手探りで探している。

 すると彼女の髪留めが落ちたのか、キッチリ留められていた髪の毛がハラリと無造作に広がり、綺麗なウェーブがかった長い髪が腰までおりてきた。

 彼女が髪を全部おろしたところを初めて見るな。

 
 眼鏡をしていないところも…………顔をあげずに探しているのでまだ拝めていないミシェルの素顔をじっくり見てみたい。


 俺は先回りして眼鏡を拾い、ミシェルに渡してあげる事にした。ずっと探しているので本当に何も見えないんだな……これは大変だ。


 「ミシェル、眼鏡はここだよ………………っ?!」

 「あ、校長!ありがとうございます!これがないと何も見えないので助かりましたっ」


 そう言って笑顔で眼鏡を受け取るミシェルから、一時も目が離せず固まってしまう俺………………この美少女は誰だ?

 大きい垂れ目に長いまつ毛、瞳が七色に輝いてるし、長く美しい髪の毛をゆったりと下ろし、上目遣いで感謝する天然小悪魔のような女性……これがミシェル?

 この眼鏡は何か特殊加工でもしているんだろうか……七色の瞳って初めて見たし、いつも眼鏡の奥の表情が分からなかったのもこの眼鏡のせいなのか?


 「校長?どうかなさったのですか?」


 俺の様子がおかしいと思ったのか近寄ってきて、顔を覗き込んでくる。その上目遣いは反則だ。


 「い、いや、何でもない!」

 「本当ですか?いつもより顔が赤いですよ。保健室行きます?」

 「だ、大丈夫だから!とにかくミシェルは眼鏡をした方がいいな!俺がいいと言うまでこの眼鏡は外さないように!」

 「?言われなくとも外しませんけど」

 
 明らかに俺の様子がおかしいと怪訝そうな顔で壊れた眼鏡をつけているが、全然可愛さを隠せていない。

 これは危険だ……こんなミシェルが他の男どもに見られたら一気に人気が爆発してしまう。彼女の可愛さを知っているのは俺だけでいい。


 ミシェルの素顔を見てから心臓がまだドキドキして痛いくらいに脈打っていた。こんなに可愛らしい女性を今までどうして相棒とか言っていたんだ。

 
 「…………まいったな……」

 「…………やっぱり保健室……」
 
 
 彼女がいつでも自分を心配してくれていたのかと思うと、胸が締め付けられるような感覚がして思わずミシェルの顔を両手で包み込んだ。


 「確かに俺はおかしくなってしまったらしい。でもこれはミシェルにしか治せないから保健室は必要ないんだ」

 「?そうなのですか?よく分かりませんが……校長が大丈夫ならいいです」


 俺の両手で頬を潰されながら可愛い事を言うミシェルがたまらなく愛おしくなって、ひとまず生徒の避難が終わりそうな状況だったのを確認し、兄上が向かった森に連れ出した。


 これ以上校舎にいるのは危険だ、手を出してしまいかねない。

 それに生徒とは言え他の男の前に今のミシェルを披露したくない。


 この気持ちがなんなのかは自分自身で分かってはいるけど、ひとまず森で何が起こっているかを確認しなければ……なけなしの理性を総動員しながらミシェルと一緒に森へ駆けていったのだった。


 
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