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第四章
力を合わせて
しおりを挟む「まずいわ、少し下がりましょう!」
あまりにも巨大な力に、私たちは目の前のロキから危険を感じて一旦彼から離れ、距離を取る事にした。
「…………これでまだ本調子ではないとは……」
ロキの強大な魔力にさすがのジークも驚きを隠せず、目を見開いている。まだ完全に力が戻っているわけではないにしても、この力は凄い。
大地が震えている……いえ、この世界の全てが震えているように感じる。
彼の手にかかればこの世界などあっという間に制圧し、暗黒の世界に出来てしまうのではないかと思ってしまう。
「……ジーク、彼は魔王なの。この世界に蔓延る邪の気配の根源…………」
「魔王?そんなものが存在していたのか…………君はそれを知って……?」
「うん、ごめんなさい」
彼に伝えようと思っていたものの、生徒に呼び出されてこんな事になって、結局後出しになってしまった。
きっと驚いているわよね……私が伝えていなかった事に怒っていないかしら。
そう思ってチラッとジークの顔を見上げると、とても意地悪な表情で苦笑していて、その表情にドキッとしてしまう。
「君は本当に…………仕方ないな。後でお仕置きだ」
「なっ」
私が顔を赤くして慌てると、彼の手が私の頬に伸びてきて顔を引き寄せられ、額にほんの少し触れるか触れないかのキスが落ちてきた。
たったそれだけの事なのに、こんな状況にも関わらず浮かれてしまう自分がいる。なんだか力が湧いてきたわ。
「クゥゥゥ!」
「ラクー!」
ロキと対峙するのに必死ですっかりラクーを盾で守ったままなのを忘れていた。ラクーが私の元へ来たという事はこの子の力が必要なのかもしれない。
「ラクー、力を貸してくれる?」
「クゥ!クゥ!」
「うふふっありがとう」
頼りにしたらラクーがとても嬉しそうなので、私も思わず顔がほころんでしまう。ラクーを肩に乗せて優しく撫でた。
「私もいる事を忘れないでほしいな」
「ジーク、忘れてなんていないわ!当然手伝ってくれるわよね?」
私が気安い感じで彼を見上げると「もちろんだ」と優しい笑みを返してくれて、頭をなでてくれる。
ラクーも喉を鳴らして頬ずりをしてくるので、2人とのやり取りで一気に気持ちが和らいだ感じがするわ。私もロキのように自分の力を限界まで溜めてみようと決意した。
「みんなの力を借りるわね…………聖なる光よ、不浄なる者を清め彼の地に安寧をもたらさん」
私が詠唱をし始めるとジークやラクーの補助のおかげもあり、どんどん魔力が増幅されていった……力が満ちていくのが分かる。
もしかしたらいけるかも。
ロキも私が何を発動させようとしているかが分かっているようで、かなり慌て初めていた。
『その魔法は――――』
「知っているなら話は早いわね。消え去りなさい![神聖消滅魔法]――――バニッシュ!!」
私の体に溜められた全ての魔力を解き放ちバニッシュを放つと、生徒たちの体から不浄なるものがどんどん剥がれていき、彼らが人間の姿に戻っていくのが見える。
良かった――――そして魔王の方はと言うと…………
『ぐぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙…………っ……』
溜めていた邪の力で何とか自身を守っているものの、聖魔法に全て祓われてしまい、まともにバニッシュを受けながら耐えていた――――
カリプソ先生にとどまりたいのかなかなか引き剥がせない。
『ぐっ…………く…………っ!』
なんてしぶといの…………ありったけの魔力をかき集めて最後のダメ押しを放った。
「お願い、消えて――――」
『………………っ…………ク……ラ…………ディア…………ッ』
追撃のバニッシュによってどんどんロキがカリプソ先生から引き剥がされ、剥がされたものがチリになっていく。やがて元のカリプソ先生が姿を現し始め、魔王がカリプソ先生の中から完全に引き離されると、先生はその場で倒れ込んだ。
そして魔王は私の名前を断末魔にチリとなって消えていったのだった。
「…………はぁっ……はぁ……」
私は魔力を使い果たしていたので膝から崩れ落ち、ガックリと項垂れてしまう。
完全に消し去ったのだろうか……森にはロキの気配はないわ。でも――――
最後は自らカリプソ先生の体から出て行ったように見えたのよね。だからといって生死を確かめる術はないのだけど。
もっと私に力があれば、あのまま完全に消滅させる事も出来たのに…………悔しくて拳を握りしめていると、ジークが私の手を自身の両手で包み込んでくれて励ましてくれる。
「頑張ったな。魔王はもうここにはいない……学園を守ってくれてありがとう、ディア」
「ジーク…………」
「クゥゥゥ!」
ジークの言葉に難が去ったのだなと実感してジーンと感動していると、ラクーが肩に乗ってきて私を元気づけるように頬ずりをしてくれたので、すっからかんだった魔力が少し回復したような気がした。
「みんな、ありがとう。ひとまずこれで大丈夫、よね……」
するとそこへ、ダンティエス校長とミシェル副校長の声が響き渡った。
「兄上にクラウディア先生!物凄い光だったけど大丈夫?!」
「クラウディア先生!理事長も、お2人ともご無事で何よりです!」
2人の声がする方に振り返ると、慌てて走ってくるダンティエス校長とその後ろにはミシェル副校長が…………って、この美少女はどちら様?!
「ミシェル副校長?!その髪型はどうしたのです?眼鏡も壊れて……」
「え、あ、生徒たちを避難させている時に生徒にぶつかってしまって、眼鏡が割れてしまったのです。すみません、このような出で立ちで……変、ですよね」
「いえ、そうではないんです!むしろ……」
「とっても可愛い!だよね!」
ダンティエス校長が鼻息を荒くして私の言いたかった事を代弁してくれた。ミシェル副校長は校長の言葉が信じられないらしく、じとーっとした目で校長を見上げていた。
「そう、とっても可愛いですわ!そのままの方が絶対にいいと思います」
私が力説するとミシェル副校長が「そ、そうですか?クラウディア先生がおっしゃるなら……」とモジモジしている。むしろ照れている姿が可愛すぎると思うのだけど。
こんなに可愛らしい方だったの?いつもは眼鏡が厚すぎて表情がよく分からなかった……瞳の色が七色でとても綺麗。
もしかしてこの瞳を隠す為にあの眼鏡は特殊な加工をされているのかしら。
「いや、ダメだめ。このままはダメだよ~~誰が見ているかも分からないし」
「やっぱり変なのではないですかっ」
「そうじゃなくて~~」
二人のやり取りが夫婦漫才のようで思わず笑ってしまう。ダンティエス校長は他の人にミシェル副校長の可愛さを知られたくないのね。
彼女にはまるで伝わってないようだけど。
私はジークの方をチラリと見ると、同じ事を思っていたのか顔を見合わせてまた笑った。
生徒たちは無事に姿が戻ったし、カリプソ先生も元に戻っていたので、ひとまず魔王の気配はしない事にホッと胸をなでおろす。
とにかく倒れている生徒たちとカリプソ先生を保健室に運ばなければ…………意識のない人達を運ぶのは大変なので、私の風魔法で彼らを浮かせながら皆で協力をして保健室へと運んだのだった。
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