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第四章
降臨
しおりを挟む「やっぱり姿を戻す事は出来なかった……」
独り言のように呟いてカリプソ先生の方を見ると、若干苦しそうな様子を見せていた。
少しは効いてるって事?でもこの程度じゃいつまで経っても祓う事は出来ない…………カリプソ先生も中に入られているだけだから、傷つけたくはない。
どうにかして皆から魔王らしきものの存在を追い出さなくてはならない。
私が考えあぐねていると、カリプソ先生はどんどん苦しそうな表情になっていった。
『っ…………ぐっ…………申し訳ございません……今すぐ始末いたします……か、ら――――――』
…………どうやら私に謝っているようではなさそうだけど……。
誰かに対して必死に謝っている、というより懇願していると言った方がいいかもしれない。
私には一部しか聞こえないので、何を言っているのかハッキリと分からず、とても苦しそうだし涙目だったので、じりじりカリプソ先生に近づいていきながら声をかけてみたのだった。
「……カリプソ先生?…………どうし……」
『私に触るな!!!!』
カリプソ先生が悲鳴にも似た叫び声で私を拒否したと同時に、ドォォンッ!!と衝撃が走り、私は少し吹き飛ばされてしまう。
地面は緩い地震のように揺れながらゴゴゴゴゴゴ……と地鳴りのような振動が体に伝わってきて、うまく立ち上がる事が出来ない。
まるで大地がその存在を恐怖しているかのよう……
そして何とか顔を上げるとカリプソ先生の口から大量の黒い物体が溢れ出していて、みるみるうちに彼女をその黒い物体が包み込んでいくのが目に入ってきた。
これは瘴気ではない。モヤというよりももっと濃い物体で、明らかに意思を持って動いている。
こんなものが彼女の体の中にいたなんて――――カリプソ先生の感情が爆発した事で溢れ出るかのように姿を現し、あっという間に彼女を飲み込んでしまった。
そして”ソレ”は魔物が形成されるかのようにどんどん形を歪めていき、やがて1つの個体を築き上げていく。
まるで芸術作品が作り上がっていく過程を見せられているかのようだけど、形作られた”ソレ”は、感動的なものではなく、私を絶望的にさせるものだった。
「あ……やはりあなたは………………魔王ロキ……」
『………………フ、フフ…………ようやく表に出る事が出来た…………実に使い勝手のいい女だった』
造り上げた自分の体に感動しながら独り言のように恐ろしい事を呟いている。
やはりカリプソ先生の中にいたのは魔王だったのね。
「カリプソ先生をずっと利用していたの?」
私が魔王に質問をなげかけると、たった今私の存在に気付いたかのように驚いた顔をして、意味深な言葉を返してきた。
『久しいな……今はクラウディアという名か』
久しい?私はこの世界で魔王に会った事はないと断言できる。カリプソ先生の体を使って自身の体を形成した目の前の男は、このドロテア魔法学園というゲームで一番最後に出てくるラスボス「魔王ロキ」そのものだった。
狡猾で今のように姿形を変えながら人々の中に侵食していく悪魔のような男…………ゲームではこのロキの姿を捉えて攻撃をあたえるのが本当に難しくて、軟体生物のようにすぐに姿を歪ませてすり抜けていくので、本当に厄介なラスボスだったのをハッキリと覚えている。
だから私がロキの姿を見間違えるはずはない。
魔物を統べる者だけどロキ自身は人間の見た目に近く、本人が好んでこの姿にしているのだろうとは思うけど、プリンスと言われてもおかしくない美丈夫で、尊大な態度と美しさから王宮にいたら王族と間違われるでしょうね。
黄金の瞳に漆黒の長い髪が少しウェーブがかっていて、スラリとした手足は一見すると女性にも見えるくらいの美しさなのだ。
ゲームと全然変わらないわね……それに――――
『考え事か?』
私が色々と思い出していると、いつの間にか距離を詰めていたロキが私の背後にいた。あまりの速さに背筋がゾッとしてしまう。
急いで振り返ったものの魔王はやすやすと私の首を片手で掴みながら軽々と持ち上げ、完全に地面から足が離れてしまった私はロキの腕を掴みながらもがくしかなかった。
そんな私の様子を楽しむかのように悪趣味な笑みを浮かべて、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「っ…………な、にをっ」
『動きが鈍ったのではないか?この程度の速さについてこれぬとは…………』
「クゥゥゥゥ!」
魔王の気配を感じているラクーが警戒の声を上げると、ロキが無言でラクーを叩き落とした。
「ラクー!」
『うるさい鳥は滅するべきだ』
そう言って地面に叩きつけられたラクーに対して片手を掲げたかと思うと、ロキの手に邪の力がどんどん集まっていく。
それでラクーを消滅させようというの?!
「させるもんですか……ヘブンズガード!」
咄嗟に作り出した聖なる大盾は邸で練習したものよりはるかに小さかったけど、ラクーを守るには大きすぎるくらいでロキの邪魔法を弾き飛ばしてくれたのだった。
「良かった…………」
『やはりお前は厄介だな。先にお前の方を消すべきか』
消すって簡単に言う言葉じゃないわよ。
頭の中でつっこみを入れるけど首をつかまれているので声をうまく出せない……私の首を掴んでいたロキの手に徐々に力が入ってくる。
苦しい…………このままじゃ首が折れるか窒息するか……どうにかしないと――――――
「…………っ……セイクリッド……クロス!」
何とかこの場を切り抜けたいと祈りを捧げていた私の口から聖魔法が出て、ロキの足元に魔方陣のようなものが浮かび上がった。
そして魔方陣から聖なる光が溢れ出ると、その光は柱のように形作られ、ロキを攻撃し始めた。
『っ…………くっ!』
おびただしい聖なる光の柱がロキの体を貫いていく――――でも私には分かっていた。この聖なる柱も自身の体を変形させてスルリとすり抜けていくだろうなと。
私の目の前で黒い物体化すると、案の定物凄い速さで消えていき、私から距離を取っていったのだった。
「…………っ…………ゴホッ……ゲホッ………………はぁ……っ」
ロキが急に手を離したので、私の体が地面に崩れ落ちると急に空気が入ってきたので思い切りむせてしまう。
苦しかった………………でもなんとかロキが離れてくれて良かった。
咄嗟に出た魔法だったけどロキと距離を取るぐらいなら効果はあったのかな。
でも彼を倒すにはこのくらいの魔法では簡単に避けられてしまうわね。
今の私では直接攻撃を当てる事ができない……どうするべき?
魔王を倒す術を考えあぐねている私をよそに、ロキがおもむろに自身の手を掲げたかと思うと、周りに倒れていた魔物化した生徒たちの体が、ロキの指の動きに合わせて操り人形のように動き始めた。
『ふむ、我にもまだ真の力が満ちるまで時間が必要なようだ。彼らに活躍してもらおうか』
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