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第四章

呼び出し

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 ダンティエス校長が去ったドアを見つめながら、そろそろ本気で自分の気持ちをジークに伝えないといけないなと考えをめぐらせていた。


 今日課外授業に行ってみて、外の世界がここまで危険に満ちているとは思わず、自分の考えが甘かった事を痛感する。


 中にいれば今は比較的安全かもしれないけど、それはずっと続くものではない。

 このまま放置していてもゆくゆくは王都も危険な状況になってしまうのなら、この邪の気配の根源を消し去らなければ――――きっと私の力はその為にあるのだと思う。


 色んな事にけじめをつけないと。


 「ダンテが気になる?」

 「わっ!」


 すっかり考え事をしていた私のすぐ後ろからジークの声が聞こえてきて、驚きのあまり変な声が出てしまう。

 恥ずかしくてゆっくりと振り返ると、真剣な表情のジークがすぐ近くに立っていた。


 「ずっとダンテが去ったドアを見つめているから」

 「いいえ、違うの。考え事をしていただけよ。これからの事とか色々…………」

 「これからの事?」


 この世界の事、ジークにどうやって説明をすればいいんだろう。ここはゲームの世界で魔王を倒さないと世界が危ない……なんて伝えたらさすがに頭がおかしい人間に思われるわね。

 私は、言いたくても言えないもどかしさに苦笑するしかなかった。


 「………………そうやって言ってくれないなら……こうするしかないな」

 「え?」


 彼が何を言っているのか分からなくて聞き返すと、ジークの瞳が怪しく光り出し――――思い切り脇をくすぐられてしまうのだった。


 「な、何を!あははっやめて~~あはっうふふ、ふ、くすぐったいっ!」

 「言う気になったか?君が抱えているものを私と半分こしようと話したばかりではないか」


 くすぐりながらも真剣な表情で伝えてくるので、私は観念して自分が感じている事を話そうと決意した。どの道言わなければならない時はやってくるだろうし、ゲームの世界であるという事は言えないけど、これから起こるだろう事案は伝える事ができるかもしれない。

 
 「わ、分かったわ!話すからっ」

 「よろしい」
 

 そう言ってすぐにくすぐるのを止めたジークは、私の言葉に満足気だった…………なんだかいいように流された感じがしなくもない。

 満足気な彼の顔を見ながら若干私があきれ顔をしていると、突然彼の腕にすっぽりと収められてしまう。

 そして腕の力が強くなり、息苦しいくらいに抱きすくめられてしまったのだった。


 「私を置いて君がいなくなりそうな気がしてならない……」

 「…………………………」
 

 私は心底驚いていた。何も伝えていないのに私の頭の中が筒抜けなのではと思ってしまう……ジークに隠し事は出来なさそうね。

 いつも何気ない事でも気付いてくれる、それがたまらなく嬉しいのだ。


 「ジーク、あなたに話さなければならない事があるの。聞いてくれる?」


 私がそう言うと、彼の腕の力が弱まったので顔を上げて頷く。私の表情を見て察してくれたのかジークも頷いてくれたのだった。


 ――――コンコン――――

 
 私が意を決して話そうとした時、突然理事長室のドアがノックされ、思わず二人で顔を見合わせてしまう。


 「誰かしら?」

 「……………………」


 不機嫌なのか何か嫌な予感だったのかは分からないけど、ジークはとても難しい表情でドアを見つめていた。
 

 「何事だ?」

 「クラウディア先生がここにいませんか?四年生の者です」


 え、四年生の生徒?これは開けなければとジークの方を見ると頷いてくれたので、私は理事長室のドアを静かに開けた。

 すると本当に見覚えのある生徒たちが数人立っていて、私を呼びに来てくれたようだ。


 皆急いでいるような様子で、必死に私を捜していた事がうかがえる。


 「ど、どうしたの、あなたたち……何かあった?」

 「風クラスの何人かがクラウディア先生が来ないので森に遊びに行ってしまって……入口付近で遊び始めて教室に戻る気配がないんです。担任の先生が来ないとダメかなと思って……来てもらってもいいですか?」

 「ええ?!庭園の奥の森よね?あそこは立ち入り禁止のはず。ほとんど誰も近づかないのに……分かったわ、すぐに行きます」

 
 ジークの方に向き直ると「申し訳ございません、理事長。生徒たちを教室に戻さなくてはならないので行ってきます」と伝えた。


 「あ、ああ、私も行こうか?」

 「いえ、さすがに理事長の手を煩わせるわけにはいきませんわ。生徒たちに声をかけて、そのまま教室に戻ります。報告はまた後程いたしますので」


 そう言って目配せの意味でウィンクをすると、少し顔が赤くなったジークが「頼んだ」とだけポツリと言ったのが聞こえる。

 
 私は少し頭を下げて、足早に理事長室を後にしたのだった。

 大切な話をしようと思っていたけど、今は生徒たちを教室に連れて行く事の方が大事だわ。公私混同し過ぎね、しっかりしなきゃ。


 それにしてもどうして堂々と立ち入り禁止の森に入るなんて事をしたのかしら……そんな事をしたらすぐに連れ戻されるって分かるだろうし、第一そんな事をするような生徒たちではない。


 「呼びに来てくれてありがとう。あなたたちはその場にいたの?」

 「はい、止めても全然聞く耳を持ってくれなかったので、長引くと何が起こるか分かりませんし、先生を捜す事にしたのです」


 あの森は迷いの森にもなっていて、入口付近なら大丈夫だけど、少し奥に入ると同じ道をたどって出てくるのは困難になる非常に厄介な森だった。

 ずっと昔に一年生の生徒が迷いの森で行方不明になってから、絶対に入らないようにしようと立ち入り禁止区域に指定されたのである。


 その一年生は無事に発見されたから良かったものの……四年生と言えども奥に入ってしまったら危険だわ。

 
 「ごめんなさい、私がクラスに戻るのが遅かったから……」


 個人的な話は仕事が終わってからにすれば良かった。担任の先生としての自覚が足りないわね……この時、大いに反省しきりだった私は、何の疑いもなく生徒たちにうながされるまま森へ駆けて行った。

 
 
 
 
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